028_交わる想い
「なっ!?」
予想だにしない出来事に、動揺を隠せないあたし。
逆にスサノオは冷静で、
「クシナ」
再度あたしの名を口にした。
その目はあたしに向けられた後、直ぐに壺へと向けられる。
言いたいことは山程あるけど、スサノオの行為を無駄にする訳にはいかない。
流れ出る血を壺で受け、満たされるのを確認してから直ぐにスサノオの手当てをした。
「馬鹿、なんであんな真似をっ!!」
手を止めず、大声で叱り付ける。
対して、スサノオは静かに告げた。
「つらそうだったから」
馬鹿なのは、あたしだった。
感情を隠せず、逆にスサノオに気遣われるなんて。
これじゃ世話役失格だ……。
「ねえ クシナ」
「……なによ」
愛想の無いあたしだけど、今はより酷くなっている自覚がある。
目から溢れそうな雫や、歪む表情を懸命に堪え……。
けど、そんなあたしにスサノオが言う。
「わらって」
その一言に、ぎりぎりで保っていた感情が決壊した。
込み上げるままに嗚咽するあたしの頭を、スサノオが撫でる。
何も言わず、ただただ優しく……。
それから、どのくらい経ったのか。
いつしか厚い雲は風に流され、雲間から幾筋の光が降りていた。
その一つが、離れへと届く。
秋の肌寒さを忘れさせる暖かな光が、あたし達を包み込み。
まるで慈しむかのように……。
記憶の片隅に残る、母の抱擁のように…………。
今週もお付き合い頂き、ありがとうございました。
次週は、夏季休暇に入られる方もいらっしゃるかと。
心身が休まる一時となりますよう。




