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021_朝霧の中で


 翌朝、あたしはいつもの習慣で日の出と共に目が覚めた。


 青都に来るまでは殆どが野宿で、屋根の下で眠れたのは久しぶりだ。


 ぐっと伸びをすると、体に張りを感じるもこともない。


 筵を退けて立ち上がり、軽く埃を払ってから鈴を手に外へ出る。


 先ず感じたのは、濃密な水の匂い。


 辺り一面に、白く冷たい朝霧(あさぎり)が立ち込めていた。


 長く居ると、それだけでじっとり濡れそうだ。


「こんな朝早くに鳴らしても、いいのかな?」


 かといってこれから話す内容は、少年に聞かれると少々障りがある。


 迷ったのは、一瞬。


 仮に気付かれずとも、今直ぐ相談しなければ不味い訳でもない。


 そう考え鈴を鳴らすと、澄んだ音色が響いた。


 秋の夜長に聞けば、虫の音と言われても違和感がない程控えめだ。


「本当に伝わるのかな……」


 疑問に思いながら、待ったのはほんの少しの間。


 霧の中から、影がぬるりと現れた。


「何用だ」

 

 目の前で、影が侍従頭の形となる。


 離れは屋敷から結構離れていた気がするけど、この僅かな間にどうやって来たのだろう。


 侍従頭は汗一つかかず、息も切らせていない。


 ただ、それにも増して手にぶら下げた剥き身の太刀に目が行く。


 何用と問いながら、始末する気満々なのでは……。


 改めて物騒な所へ来たことを実感しつつ、あたしは尋ねた。


「まず食事なんですが……」


 そう切り出すと、すらすらと答えが返ってきた。


 

 一、あの方の食事を疎かにしなければ、世話役も食べて構わない


 二、食材が足りなくなれば追加で用意される、なお特に制限はない


 三、世話役も湯を使い、身を清めることは構わない



 思っていた以上に待遇が良く、内心小躍りするあたし。


 そこで、この際追加で聞いてみることにした。


 数日後に控える、()()について。


「どうして、傷付け血を採る必要があるんですか?」


 離れに閉じ込められているような形だけど、里の生活を知るあたしからすれば、暮らしぶりだけ見れば大事にされているとも感じる。


 唯一、血を採られるという決め事を除いて。


 渡された短刀の鋭い刃先が脳裏を過り、気持ちが沈む。


「……ツルギ家に、御国のために必要なことだ」


 そう言った瞬間、苦悩を表すように眉間に小さな皺が寄った。


「でも……っ!?」


 垣間見えた情に訴えようとした瞬間、いつの間にか首筋に太刀が触れていた。


(わきま)えろ」


 冷たい視線が、これ以上何か口にしたら即座に首を掻っ切ると告げている。


 その一言と静かな威圧に、あたしはただ頷くことしかできなかった……。


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