019_就寝
食器を下げてから戻ると、少年は食べた時と同じ姿勢で座っていた。
今日はもう、縁側で外を眺める気はないようだね。
「休みますか?」
問い掛けに、少年が小さく首を縦に振る。
本当は房楊枝で歯を手入れした方がいいのだけど、眠たげな空気を感じ見送った。
「ならその前に体を拭いて、包帯も取り替えましょう」
湯が沸く間に布団を敷き、替えの包帯と傷に効くという軟膏を用意する。
沸いた湯は盥へ移し、水を加えぬるま湯に。
戻ると、少年は布団の上に座っていた。
「では失礼して」
断りを入れながら、ふと少年の名前を聞かされていないことに気付いた。
けど御当主様の名前も知らないし、今更かと思い直す。
浴衣をはだけさせる時、凄くいけないことをしている気になったのは内緒。
……顔、赤くなっていないよね?
そんな心配をしながら少年を半裸の状態にし、包帯を解く。
解き終わり、あたしは思わず顔を顰めた。
包帯が見えたのは浴衣から覗く手足だったけど、傷は体中にあったからだ。
血を採るためなら、特に背中なんて傷付ける必要はないのに……。
そちらは既に古傷となっているが、見ているうちに傷付けられた理由に思い至った。
咎者だからか……。
あたしは物心付いた頃から、よく父親に殴られた。
『この使えない忌子がっ!』と罵声を浴びて。
日々の仕事もあり、その意味で加減はされていたんだと思う。
情があったとは、欠片も思っていないけど。
でも傷痕で埋め尽くされた少年の背中は、そうじゃない。
罪人を罰するかのように、無感情に傷付けられた気がする。
少年は、侍従頭が『あの方』と言うくらいだ。
御当主様と同様、身分は高いはず。
だからこそ、咎者として生まれたことが許されなかったのだろう。
そのこと自体が、罪のように……。
強く唇を引き結び、あたしはぬるま湯に浸けて絞った手拭いで、丁寧に少年の体を拭った。
痛まぬよう、痛みを思い出さぬよう慎重に、心を込めて……。
通勤通学の一時、日常を忘れるものになったら幸いです。
今週もまた、平日は毎日この時間にて。




