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018_夕餉


 夕餉は居間に戻ってからになるかと思いきや、少年は縁側で伸ばしていた足を上げ座り直した。


 どうやらその場で食べるらしい。


 右手でぎこちなく箸を取り、最初に手を付けたのはむかご飯。

 

 一口分というには少量な飯を箸に乗せ、口元へ運ぶ。

 

 しかし口へ入る前に殆どが溢れ落ち、数粒の米が辛うじて食された。


 その中に、むかごは一粒も含まれていない。

 

 手に力が入らない?


 そう思ったものの、左手は茶碗をしっかり持っている。


 首を傾げ眺めている間も淡々と繰り返される、少年の食べる行為。


 ただ、床に食わす量の方が圧倒的に多かった。

 

 おまけに茸の味噌汁や山女魚に至っては、一度も箸が伸びていない。


 そろそろ茶碗の底が見え始めようかという、その時。


 浴衣の袖がずり落ち、少年の肘の辺りまで(あらわ)になった。


 そこに見えたのは、赤黒く変色した包帯。


「っ!」


 食べ難いはずだ。


 傷のためだろうけど、包帯の一部が肘まで覆っている。


 そんな状態で食べ続けようとしてくれたのだと思ったら、体が勝手に動いていた。


 土間へ向かい、新しい茶碗に釜から飯を装い味噌汁を掛け、箸と匙を持ち少年の許へ戻る。


「ちょっとすいません」


 そして一言謝り、あたしは返事も待たずに山女魚の身をほぐし茶碗に乗せた。


 軽く混ぜ、匙で掬い少年の口元へ運ぶ。


 さっきまでのあたしなら、間近で見る少年の端正な顔立ちに赤面していたかもしれない。


 けど今は痛ましい姿に何とかしてあげたい気持ちが強く、少年の容姿は二の次になっていた。


 放っておけないという、その想いで……。


 少年は差し出された匙をしばらく眺めた後、ゆっくりと口にした。


 微かに、咀嚼(そしゃく)する音が辺りへ響く。


 良かった、ちゃんと食べてくれた。


 密かに胸を撫で下ろしながら、嚥下(えんげ)したのを見計らい、更に掬って差し出す。


 それが五回を超え、十回になろうかというところで、少年の口が開かなくなった。


 どうやら、お腹がいっぱいになったらしい。


 年齢を考えればもっと食べて欲しいけど、無理しても腹には良くないようだしね。


 曖昧な言い方で終えたのは、あたしが腹一杯食べた記憶が無いためだ。


 自分で言って、別に悲しくなったりはしていない、と思いたい……。


連休あけの平日、お疲れ様です。

休めだったからこそ、日常がより辛かったかもいらっしゃるかと。

次週の平日もまた、この時間にお届けできればと思います。

お読み頂いている皆様の心身より大事なことは、私にとってありません。

ご無理はなさりませんよう。

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