012_道中問答
本当に見回りの最中だったらしく、あたしは店を出た男の後ろを付いて歩くことになった。
……いや、買われた以上、声に出さずとも男呼びはまずいか。
そう言えばツルギ家の御当主様だと、ブンブクさんが言ってたな。
ならツルギ様、もしくは御当主様?
どちらが正しいのか分からないけど、ひとまず御当主様にしておこう。
方針を定めよしよしと頷いていたら、男……御当主様がこちらを上から下へ無遠慮に眺めていた。
「こうして陽の下で見ると、本当に白いな。それだけ白いのは忌子でも珍しい。髪だけでなく、鬼の証たる角までとなれば尚更だ。もっとも、目は紅いようだが」
その視線には、嫌悪を感じない。
あたしにはそれが不思議だった。
「ごっ、御当主様は気味悪く思わないのですか、あたしのような忌子を」
思い切って尋ねてみると、
「魔物よりはましであろう」
という身も蓋もない答えが返された。
旅の途中で遭遇した猪の魔物に比べれば確かにそうかもしれないけど、よりにもよって比較対象があれか……。
釈然としないあたしを置いて、言葉が続く。
「それに驚きの方が勝っておる。都の外で、忌子がここまで育つことは滅多にない。殆どは生まれ落ちて直ぐ、黄泉へと還されると聞いているが?」
問い掛けに、心へ鈍い痛みが走るのを感じながら答える。
「……母が病弱で、女手が足りなかったからだと思います」
実際には男手も足りず、妖力の無いあたしはそっちもやらされたのだけど、そこまで言う必要はないか。
ただ、御当主様は興味深そうに聞いていた。
「なるほど……しかし解せぬな。クシナといったか? そのように育ったにしては、学があるような喋りをするではないか」
「母が、忌子ならせめて学を身に付けておけと……」
母が生きていた頃は、朝から晩まで働いた後に読み書きを叩き込まれた。
半ば、文字通りの意味で。
当時は、そんなことより早く寝させて欲しかったものだ。
けど生きていれば、何がどこで活きるか分からない。
実際、それを聞いた御当主様は『思わぬ拾い物やもしれん』と、どこか機嫌良さそうに口にしていたのだから。




