001_白き別れ
深々と降る雪が、柔らかく地を覆う。
この世を白で塗り潰すべく、ただひたすらに。
あたしは、雪が嫌いだった。
自分の髪や肌と、同じ色だから。
白く生まれた子供は、この世で無能と見做される。
皆が持つ妖力を、全く持っていないからだ。
一方、目の前でこちらを見詰めているのは、種族こそあたしと同じ鬼だけど、強い妖力を持ち、黒髪と黒い角を持って生まれた少年。
酷い境遇から、これまで滅多に感情を露にしない子だったけど、今は泣きそうな顔をしている。
何度もあたしの名を、『クシナ クシナ!』と呼びながら。
その顔を見られただけでも、心を動かせただけでも、文字通り体を張った甲斐がある。
もっとも、少々張り過ぎてしまったのは否めない。
叶うのなら、この子の……いや、彼の色んな表情を見たかった…………。
血に塗れた腕を必死に伸ばし、彼の頬に触れる。
涙を拭ってあげたかったけど、そこまでの力は残されておらず。
ぎゅっとあたしの手を握る彼へ、もはや声にならぬのを承知で、命を振り絞り何とか口を動かす。
あたしの想いを伝えるために。
あたしの願いを伝えるために。
“生きて、スサノオ”
驚いたような、その表情。
ああ、また新しい表情を見れた。
最期に、最高の……手向けだった…………よ……………………。
お読み頂き、ありがとうございます。
和の世界を基にした恋奇譚、お楽しみ頂けたら幸いです。
本日は16時に2話目を投稿致します。