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食べちゃいました

初めての投稿です。色々と抜けや突っ込みどころがあると思いますが、生暖かい目で見ていただけると嬉しいです。

 それを食べて好きな人を目にしたら、

 3日以内にそいつとキスしないと死ぬ!?


 え、あいつ知らずに食べて、逃げ出した!

 猶予は3日間。それまでに捕まえて、説明して、

 キス!?


 どんな高難度クエストだよ、それ!?

 待ちやがれ、こんちくしょう!


 自分の恋心に気付いてない女の子と

 自分の事を好きだと知っちゃった男の

 追いかけっこが始まる


◆◆◆


 首都ハイレンシアから馬車で5日程離れた所にある街、エルサレア。

 ナラル大森林の近くに位置しており、周辺の町村とのアクセスも良いため、駆け出しから熟練まで幅広い層の冒険者が集う街である。


 ナラル大森林には、獣人族やエルフ族、妖精に魔物など様々な種族が暮らしている。

 その広大な土地にはいくつもの集落があると言われているが、エルサレアへ時折交易に来る獣人族以外はめったにお目にかかることはなく、エルサレアの住民の約9割りは人族である。



 カラランッ


 ドアベルの音を響かせながら、一人の青年が扉をくぐって入ってきた。

 ここはエルサレアにある冒険者ギルド。

 本部は首都だが、エルサレアの支部は規模が大きく、小さい支部の取りまとめてをしている中間管理職的な役割も担っており、近所の雑用などの簡単な依頼から遠方の町村からの魔物討伐依頼など毎日様々な依頼が飛び交っている。


 1階の半分は酒場が併設されており、依頼が終わった後に食事をしながら一杯飲むことが多いため、昼をだいぶ過ぎた時間だが賑わいを見せていた。


 青年は人より頭ひとつ分高い身長を生かし、混雑したギルド内でも容易に目的地を見つけると、真っ直ぐにギルドの受付へ向かった。


「お、アデューじゃねぇか。最近見ねぇからとうとうと思ってたが、生きてたか!」


 バシン!


 背中に強烈な張り手をくらい、聞き覚えのある声に苛立ちながら振り返ると、銀髪を短く刈り込み、銀色のアーマープレートを着込んだ男が、青年を見下ろしながらその灰色の瞳が見えないくらいに目を細めてニヤニヤしていた。


「勝手に殺すな、クソジジイ!」


(くそっ、気配が全く分からなかった!)


「おいおい、ジジイはねぇだろ?まだまだ男盛りの42だぜ?お前だって見た目は俺とそんなに違わねぇだろうが?」


「俺はまだ23だ!」


 焦げ茶色の鋭い瞳に、肩まで伸びた黒髪は無造作にひとつに結ばれ、すらりと長い手足に程よく引き締まった体には、その背中の長剣を扱うに相応しく鍛え抜かれた筋肉がついていた。

 黙っていれば美形な部類に入るであろう整った顔立ちなのだが、やや老け顔なため30代に間違われることが多くコンプレックスとなっていた。


「くくくっ、そりゃ悪かったな。お詫びにこのギリアム()()()()が一杯奢ってやろうじゃないか」


 ギリアムはそう言うと、アデューの返事も待たずに酒場のウェイターに注文し、報告終わったら来いよと席に戻っていく。

 アデューはため息をひとつつき、ギルドへ依頼達成の報告をするとギリアムの待つテーブルへと足を運んだ。


「んで?今回は長かったがどんな依頼だったんだ?」


 ギリアムはアデューの前に酒のジョッキを置くと、肉串をかじり、酒をグッとあおった。

 アデューもお礼を言って酒を一口飲み、口を湿らせた。


「害獣駆除。難しい依頼じゃなかったんだが、場所が少し遠かったんだ。おっさん、ティロールって知ってるか?」


 ギリアムは最後の肉串をアデューにすすめ、ウェイターへ同じものを注文する。


「プアルス山脈じゃねーか。片道2週間くらいか?なんでんなとこ行ったんだ?」


「雑貨屋のばあちゃんに頼まれたんだよ。息子夫婦が住んでる村に、羊を狙いに時々オオカミが現れて困ってるから助けてくれって。

 報酬少ないし遠いってことで、なかなか受けてもらえないからって泣きつかれちまって。」


 そりゃ災難だったな、とギリアムは笑い、追加の肉串に手をつける。


「あ、そうだ。おっさん、これ何か分かるか?報酬少ない代わりにって貰ったんだ」


 アデューは2㎝程の干した赤い木の実のようなものを、袋から空いた肉串の皿にあけた。

 ギリアムは1つ摘まむと、口許に反対の手を当てて考え込んだ。


「これは‥プルの実だな。

 甘酸っぱくて旨いんだが、栽培条件が難しくてティロールぐらいでしか育たないうえ、取れる量も少ないもんだから流通してねぇんだ。」


「へー。さすがベテラン冒険者さま、伊達に年くってないね」


 皿の上には20個ほどのプルの実。

 アデューは1つ摘まんで食べようとすると、ギリアムに手を叩かれて皿に落としてしまった。


「おっと、そのまま食うなよ。」

「いって!なんでだよ。毒でもあんの?」

「あぁ、人によってはかなり厄介なのがな。」


 ギリアムはアデューの後ろに目線を移すと、またウェイターを呼ぶためなのか片手をあげた。

 アデューも追加の酒を頼もうと、残っている酒をあおった。


「食って、自分が惚れた相手を見たが最後、3日以内にそいつとキスしないと死んじまうのさ」


ぶっ!!


 突拍子もない内容に、アデューは盛大に噴いた。

 ギリアムは汚ねぇなぁといいつつ、しっかりと空いた皿でガードしていた。


「なっ、んな!」


 咳き込みながら顔を赤くするアデューを見て、ギリアムはにやにやしている。


「おーおー、顔がプルの実になってるぞ。まぁ、加熱すれば効果は無くなるから、ジャムにして食べるのが一般的だな」


 俺の嫁さんがジャム作り上手くてな~!それをクラッカーに塗って食うと絶品!!と、のろけるギリアムを睨み付け、ようやく咳が落ち着いたアデューはギリアムの酒を奪って飲んだ。


(なんだよ、そのふざけた効果は!き、キスしないと死ぬ!?しかも好きな相手にって‥)


 アデューの脳裏に、誰かの顔が思い浮かんだところで背後から声が聞こえてきた。


「こんにちは!ギリアムさん」


ぐっほっ!!


 吹き出すのを寸前で我慢し、無理やり飲み込んだので盛大にむせる。


「お~、リーリアちゃん。だいじょーぶかー、アデュー?」

「ちょっ、アデュー!?大丈夫??変なとこ入っちゃった?」


 リーリアはポケットからハンカチを取り出すと、アデューへ差し出した。アデューは片手を上げて大丈夫と示す。


(なんてタイミングで現れるんだ!つか、おっさん絶対にリーリアに気付いてやがったな!)


 睨みつけるも、ギリアムは素知らぬ顔でリーリアに椅子と肉串を勧めている。

 リーリアはアデューを気にしながらも、遠慮がちに座るとウェイターに果実水を注文した。


「リーリアちゃんも依頼受けに来たのかい?」

「あ、はい。雑貨屋のおばあさんから指名依頼を貰ったので、受注しに来たんです。」


 リーリアはウェイターから果実水を受け取り、肉串に小さく噛りついた。


「あのばあちゃん、気に入った奴にしか依頼ださねぇもんなぁ。リーリアちゃんも毎回大変だなぁ」


「そんな!まだまだひよっこな私を心配してくれてるからで‥依頼もお店のお留守番とかですし。

 森への採取依頼とかまかせて貰えるように、もっと頑張らないと!」


 意気込んで、果実水をあおるリーリア。ペロッと唇を舐める仕種に、アデューの目は釘付けになる。


 リーリアは、人懐っこくて誰とでもすぐ仲良くなってしまうタイプで、屈託のない笑顔やくるくるまわる表情が魅力的だと、隠れファンが多い‥らしい。

 身長はアデューの肩ぐらいまでしかなく、線が細いが、胸はそこそこ、腰はくびれて、お尻は普通。

 はちみつ色の前下がりのショートボブは、お手製の香油を使っているらしく艶があり、俯くとさらりと零れる髪を耳にかけて押さえながら、肉串を噛っていた。


(髪を耳にかける姿がまた色っぽい‥って、何考えてるんだ!)

  

 無意識にリーリアを観察してしまい、慌てて目を背けると、ギリアムがニヤニヤとこちらを見ていてイラッとする。


(たしか、俺より4つ下だったよな。)


 両親は幼い頃にすでに他界し、身寄りのなかったリーリアを薬屋の婆さんが引き取って育ててくれたらしい。

 婆さんを師匠と呼び、今は別々に暮らしてはいるが、弟子として薬師の修行をしながら生活費を稼ぐために冒険者として簡単な依頼もこなしている頑張り屋である。


(雑貨屋のばあちゃんからの依頼で行ったときに初めて会って、その後も時々一緒の指名依頼があったりして、気付いたら‥って、だから何考えてんだ!)


 長旅の疲れからか、盛大にむせたからか、いつもより早く酔いが回ってきたようだ。

 ぼーっとリーリアを見ていると、ギリアムと話しながら皿に手を伸ばし、赤い実を1つ食べるところだった。


「あ!」

「え?」


 咄嗟に手を伸ばして止めようとしたが、酔った体は反応が鈍く思うように動かない。間に合わず、リーリアは口に含み、声を上げたアデューを見ながら飲み込んでしまった。


(間に合わなかった!)


「おっさん!見てたなら止めろよ!」

「ん?あ~、すまん。話に夢中になってて気付かんかった。食っちまったな~」


 ふらっとリーリアが立ち上がる。なんだか、いつもと様子が違う気がする。


「リーリア、大丈夫か!?」


 リーリアと目線を合わせるように屈むと、アデューの頬に暖かくて柔らかい感触がして、チュッと軽い音を1つ立ててすぐに離れていった。


「「え?」」


 アデューとリーリアの声が重なった。


 おっさんの笑い声が聞こえた気がするが、それどころじゃない。いま。なにが起こった?


 二人は至近距離で数秒見つめ合う。

 我に帰ったリーリアは顔を真っ赤にし、声にならない悲鳴を上げながら、固まるアデューを置いて走り去ってしまった。

 アデューは呆然とそれを見送っていた。


「あ~、言い忘れてたがもう1つ効能があってな。

 惚れた相手を見ると、色々と我慢できなくなるらしい」

「なっ、えっ、はっ!?」

「まぁ、つまり‥そうゆうことじゃねぇか?」


 ギリアムはニヤニヤしながら、ゆでダコ状態のアデューをうりうりと肉串で突っつく。


(そうゆうことってつまり‥リーリアは俺を!?)


 ギリアムは、未だ固まったままのアデューの頭を叩き、真剣な顔つきで声を荒げた。


「なにぼさっと突っ立ってるんだ、早く追え!嬢ちゃんは自分が何食ったかも分かってねぇんだぞ!」


 ようやく我に返り、3日以内にキスしないと死ぬことを思い出して顔色が真っ青になる。


「え、それ俺が説明して俺がするのかよ!?」

「てめぇ以外に誰がいるんだよ!とっとと行きやがれ!」


 ギリアムに物理的に背中を押され(蹴られ)て、ギルドから追い出された。


(リーリアが俺を好き?!マジかよ、、異性として見られてないと思ってたのに)


 もし告白してフラれたら、この心地好い関係が崩れてしまう。彼女の屈託のない笑顔が見られるのなら、このままで良いんだ。

 そう思おうとして気持ちに蓋をしていた。けれど、その必要がもうないとしたら?


(って、そうじゃねぇだろ!3日以内にキスしないとリーリアが死んじまう!)


 しかし。

 彼女いない歴=年齢。恋愛経験0。


 どうしろってんだ!と心の中で嘆くアデューであった。



 一方、アデューが去った冒険者ギルドでは、ウェイターのバルドがギリアムにジト目を向けていた。


「聞こえてましたよ、全部。なんですか、あれ。」

「や~、やっぱり犬獣人族は耳がいいねぇ。うらやましぃっ!」

「ふざけないでください」


 バルドはぴしゃりと言い放つ。


「まぁまぁ、でもその方が面白れぇだろ?」


 ギリアムは、お盆の角で頭を叩かれてうずくまった。

書き始めは、前後編で考えていましたが、気が付いたら全6話となっていました(o゜Д゜ノ)ノ

最後まで一気に投稿する予定(うまく手続きできれば。。)ですので、引き続きよろしくお願いしますm(_ _)m

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