78話 顔がいいだけのアホのこと
顔がいいだけのアホのこと
「あのっ!さっき警察の人から聞いたんですけど・・・」
いつぞやのアホ・・・神森だっけか。
そいつが階段の上から話しかけてくる。
ここはちょうど3階と2階の間だ。
「行方不明者の捜索・・・してるんですよね?」
「・・・それが、何か?」
振り返らずに言う神崎さん。
ちなみに俺は少し先で止まっている。
「僕もそのお仕事、手伝わせてください!!」
「嫌です、お断りします」
「えっ」
神崎さんが俺の背中を押す。
このまま行けということだろう。
俺だって、こんな全自動世迷言量産機には興味がない。
「ちょっ!ちょっと待ってください!!」
「待ちません・・・行きましょう田中野さん」
はいはい、了解ですよっと。
俺たちはわめく神森を無視しながら階段を下りる。
「待って!待ってくださいよっ!」
2階を通過。
「僕は役に立ちますよ!?」
1階についたのでそのまま裏口へ向かう。
あ、戸締りがどうのとか鷹目さんが言ってたな、そういえば。
・・・まあいいか、俺に関係ないし。
裏庭っていうか空き地まで神森は付いてきた。
なんでこんなにしつっこいんだよ・・・
・・・ああ、そうか。
今神崎さんはヘルメットを左手で小脇に抱えている。
美人フェイスが丸見えなのだ。
ちらりと見れば神森の目はキラキラと輝き、頬も上気している。
・・・こいつの脳味噌は前立腺にでもついてるのかな?
「お願いですよ!僕も一緒に連れて行ってください・・・」
そんなことをほざきながら、神森が神崎さんの肩に手を伸ばす。
業を煮やして無理やり引き留めるつもりのようだ。
神崎さんの右腕がブレると同時に、ぱぁんという音。
「いっだ!?」
肩を一瞬掴んだ神森の手が、はじかれたように上に跳ね上がる。
・・・恐ろしい速度の裏拳、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「私に、触れるな」
・・・ヒエッ。
恐ろしい殺気だ。
俺のほうまで余波が来たぞ。
かなり頭にきているようだ。
まあ、俺も傍で聞いててだいぶ脳細胞死んだ気がするしな。
「なっ!なんなんですか!僕は本気なんですよ!?」
うっそだろお前!?
あんだけの殺気を浴びて、自分が心底嫌われているって何故気付かん!?
やっべえ・・・コイツ今まで会ったアホの中でもある意味最強だ!!
なんだこのメンタリティ!!
「・・・私には、この田中野さんという大事な相棒がいます。彼以外と組む気はありません」
なんと、ここまで言ってくれるとは・・・なんか感動するなあ。
信頼関係の大事さよ。
うわっ!急に俺を睨んできたぞ神森の野郎。
あ~・・・俺なんとなくこの後の展開わかるわ、うん。
「そっ・・・そんな奴より僕のほうが役に立ちますよ!!」
お前が一体俺の何を知ってるって言うんだよ。
ていうか姿が見えないけどお前には3人の付属パーツいたろ。
そいつらどうしたよ。
「おい!お前!!僕と勝負しろ!!僕が勝ったら潔く手を引け!!!」
・・・( ,,`・ω・´)ンンン?
えっとぉ・・・コイツが話してるのって俺と同じ言語だよな?
えっなにこれ一朗太こいつこわい。
「・・・この・・・!!!」
あっこれやばいわ。
神崎さんの目がやばい。
このままほっといたらコイツハンバーグみたいにされるわ。
さすがに神崎さんに手を汚させるわけにはいかない。
神崎さんの肩を掴んで止め、頷く。
背中からリュックを下ろし、神崎さんに預ける。
おっと、ベストも脱いでおかないとな。
脇差も神崎さんに預けておこう。
「田中野さん・・・?」
神崎さんにグッと親指を立てる。
そのまま神森に向かって右手を突き出し、くいくいと手招き。
気分はポニーテールの似合うアクション俳優だ。
「どうした!?来い!ホラ来いよ!!」ってやつ。
「なんだよ!やるっていうのか!?」
そうだよもう。
面倒くさいからかかって来いよ。
武器は持ってないぞ?
ちなみに声を出さないのは、こいつが俺を覚えていたらより面倒くさいからだ。
・・・今までのやり取りで、こいつの記憶容量は男に機能してないのはわかってるけども、まあ念のためだ。
「うおおおおおお!!!」
神森が突っ込んでくる。
コイツはアレだ。
原田と同じタイプの人間だ。
搦め手を使って勝ってもなんやかんや文句を言ってくるだろう。
知らないけどきっとそう。
なので。
正面から。
完膚なきまでに叩き潰す!!
「ああああ!!」
大振りの右拳。
まずはそれに右肘を叩き込む。
ごぎりという感触。
「ぎっ!?このォ!!」
お次は左か。
芸のないことだな。
じゃあ俺も左肘~!
またもやごぎり。
「ぐうう!?」
待ちの姿勢は終わりだ。
怯んだ神森の腹に鋭く前蹴り。
「がっは!?」
体を折る神森。
苦しいだろうからしばらく待ってやる。
ホラホラ早くしろよ~?
「こっのやrギュ!?」
呼吸を整え、顔を上げた顔面にすかさず正拳。
ぐらりと後ろへ揺れる神森。
それを見て一気に地面を蹴り、低空でタックル。
「なんっ!?はな・・・はなっせ!?」
手を胴体に回し、背後でロック。
よし、これでいい。
ぬくもりが欲しいんだろ?万年発情野郎!!
くれてやるよ!遠慮しないで受け取れ!!
息を吸い込み、力を入れる。
「ばっばなぜ!!ばなっ・・・!!」
全力で締め上げる。
コイツの胴体を上下で泣き別れさせるイメージで締め上げる。
「~!!ん~~~!?ぎゅ~!?!?」
背中をぽこぽこ殴ってくるが、そんな腰の入っていない打撃痛くもかゆくもないわ!
さらに力を込める。
頑張れ俺の筋肉!!
「やっめ・・・!?やべ・・・!?!?!?」
抵抗も弱まってきた。
そろそろだな!
うううおおおおおおおおおおお!!!!
田中野ブリーカー!!!!!!!!!!!!!!
死ねええええええええええええええええええええええええええぇ!!!
ダメ押しに思い切り締め上げると、神森の体からふっと力が抜ける。
手を離すとやつは仰向けに地面に倒れた。
ぐりゃりとしていて、見るからに失神していることがわかる。
白目を剥き、鼻と口からはなんだかよくわからない液体が出ている。
イケメンが台無しでござるな。
手加減したから一応死んでいない・・・と思う。
確認しとくか。
・・・自発呼吸、ヨシ!!
田中野ブリーカーの威力は絶大である。
ゾンビに使うわけにはいかないけどな。
やってる間に他のやつにガブリといかれちゃうからね。
まあ、しばらくほっとけば気が付くだろ。
おや、ズボンが濡れ・・・
おおう、やりすぎたかな?
・・・まああれだ!肥料になるだろ!ここ畑だし!無問題!!
「えげつないねえ・・・」
いつの間にか太田さんが近くにいた。
・・・気配がほとんどないぞこの人。
モンドのおっちゃんと同じタイプだな。
「武器なし!急所攻撃なし!・・・いたってクリーンな戦い方でしたが?」
「ふは、ダーティな方がこいつには楽だったかもね」
苦笑いをする太田さん。
「まあ、これでコイツも多少はおとなしくなるだろうよ。ここまで醜態を晒しちゃあ」
「俺の経験から言いますが、懲りないかもしれませんよ?」
原田とかもそうだったしな。
「それならそれでいいさ。・・・俺は宮田ほど優しくないからね」
にやりと笑う太田さん。
一瞬、吹き出るような殺気があった。
この人は、眉一つ動かさずに人を『処理』できる種類の人間だな。
敵に回さんようにしとこ。
「いろいろ迷惑かけたねえ。また遊びに来てよ」
「もしかしたら別のファイルに該当する避難民がいるかもしれませんしね、気が向いたらお邪魔しますよ」
見送ってくれる太田さんに言葉を返しながら、門をくぐる。
ちなみに神森はまだ大地に体を預けたままの状態である。
・・・体力なさすぎじゃない?
よくあれで探索に出たいとかほざけたもんだよ。
「あっそうだ。中村先生によろしく」
・・・え?
おっちゃんの知り合いなの?
でもなんで・・・?
「その脇差、中村先生のでしょ」
「あっはい、この前もらったんですよ・・・よくわかりましたね?」
「それ、中村先生のけっこうなお気に入りだよ。気に入られてるねえ、君」
嘘だろ、そんなにいいもんなのこれ!?
気軽に使えるかな・・・これ。
「そ、そうなんですか!?・・・あの、ちなみにどういったお知り合いで・・・?」
「同門の後輩だよ。随分と扱かれたもんだね」
ということはこの人は剣術系か・・・
言われてみれば、足運びや姿勢に似たものを感じるなあ。
世間は狭いというかなんというか・・・
ま、この環境で生き残ってるんだ。
それなりに強い人しか残ってないのもあるか。
・・・まだ伸びているあいつみたいなのを除いて。
「なんか、疲れましたねえ神崎さん」
「ええ、ああいうタイプは苦手・・・大嫌いです」
走る軽トラの中。
お互いに咥え煙草で話す。
大嫌いときたもんだ。
神崎さんには珍しく強い言葉だな。
「まあ、アレが大好きって人間とはあまり仲良くしたくありませんね・・・」
「アレが好きな人間の気が知れません!」
ぷんぷんと怒る神崎さんである。
そうしていると、由紀子ちゃんたちと同年代に見えるから不思議だ。
「・・・気分転換にちょっと散策にでも行きまs」
「是非行きましょう!!」
・・・随分フラストレーションが溜まっているようだ。
俺もそうだし、どこへ行こうかなあ。
その後、俺たちは適当なコンビニを見つけて入った。
何体かゾンビがいたが、ほぼ全てを神崎さんが成仏させた。
内部はほぼ手付かずだったので、煙草やお菓子をかなりの量確保することができた。
やったぜ。
なお、戦利品のチョコバーを齧る神崎さんは、とてもいい笑顔をしていたことをここに記しておく。




