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77話 詩谷中央図書館のこと

詩谷中央図書館のこと




裏口に回れとのことなので、神崎さんを後方にかばいつつ歩く。

俺は前方を、神崎さんは上方向の警戒だ。


いつでも抜けるように、ベストの中に隠した脇差の位置を調節しておく。

左側のサスペンダーを改造して、脇の下に丁度吊り下げられるようにしてある。

十字手裏剣はベストの内側に6枚ほど張り付けてあるし、棒手裏剣はインナーの袖口にグルリと収納してある。

手りゅう弾はベストの後ろ側のポッケに入れてある。

ベスト自体のサイズが大きいので、あまり目立たないだろう。


側面に沿って回り込むと、図書館の裏側が見えてきた。

おお、こりゃすごい。

裏側の空き地に沿って、どこから調達したのかぐるっとフェンスが囲っている。

全て土嚢で補強済みだ。

これだけの作業量だと、友愛と同じくらいの人員がいるだろうな。

・・・しかし、このフェンスに沿って巻かれているワイヤーは何だ?


「(・・・恐らく獣除けの電気柵です。通常のものなら少し痺れるくらいですが、電圧を上げていれば人間も死にます)」


おおっと、それはおっかない。

ゾンビに電流が効くかは知らないが、人間には効果抜群だろうな。


フェンス壁の一部がドアのようになっていて、その向こうに警官が2人立っている。

1人はさっき声を掛けてきた婦警さんだろうか、息を切らしている。

3階から一気に駆け下りてきたのかな?

もう1人はこれといって特徴のない顔をしたおじさんの警官だ。

中肉中背、頭頂部は少し薄いがそれ以外に特徴はない。


「すっ・・・すいませっ・・・す、すぐ、あけ、開けま・・・」


「あの・・・落ち着いてからでいいですよ」


「すいっ・・・すいませっ・・・!」


思わず声を掛けてしまった。

いやだって、すっげえしんどそうなんだもん。

神崎さんを振り返ると、俺と同じように苦笑している。



婦警さんの呼吸が落ち着いたようで、中に入れてもらう。

思った通り、裏側の空き地は大きな畑になっていた。

避難民だろうか、働く人影が多く見える。


さて、これからは神崎さんに任せよう。

俺は警官2人に会釈すると、神崎さんの後ろに回った。


「先程はどうも、私は神崎陸士長です。友愛高等学校の避難所から来ました」


ライフルを横に抱え、敬礼する神崎さん。

うーんかっこいい、絵になるなあ。


「はっはい!私は鷹目(たかめ)巡査です!こちらが・・・」


「太田警部補です、よろしくね」


おお、警部補!今まで会った警官で一番階級が高いなあ。

・・・あんまり偉そうに見えないけども。


「あ、あのっ・・・そちらの方は?」


おっとと、自己紹介しないと。


「こんにちは、私は田中野と申します。神崎陸士長の護衛・・・」


「 護 衛 ?」


「・・・相棒、探索の相棒です!」


神崎さんのツッコミがこわい。


「えっと・・・民間人の方・・・なんですよね?」


「ええ、無職です」


事実なので胸を張って言う。


「そっ・・・そうですか・・・」


何とも言えないような表情の鷹目さん。

そりゃそうだよな。

ヘルメットに釣り装備、おまけにバンダナで覆面の上に無職。

怪しさ役満である。


「あのですね、田中野さんは、探索、避難民の救助、食料の調達、敵対者の殲滅等で友愛に多大な貢献をなさっています。現在も行方不明者の捜索を・・・」


「はっはいぃ・・・!」


「神崎さん神崎さん、スコシオサエテ・・・」


何が気に障ったのか知らないが、神崎さんが鷹目さんに詰め寄っているので止める。

鷹目さんは涙目である。

神崎さんは美人さんだけに圧が強いからなあ。


「まあ、立ち話もなんだ・・・入ってよ」


太田さんがこちらに向けて言い、先導するように歩き出す。

マイペースな人だなあ。

階級的に責任者なんだろうけど、ちょっと頼りない・・・

その時、太田さんを見てあることに気付いた。


歩く姿に上下左右のブレが極端に少ない。


足元が畑の土なのにも拘らずだ。

自然に見えるのが逆に不自然。

・・・何かやってるな、武術。

拳ダコはないし、耳は普通だ・・・合気道か、それとも剣道か・・・


神崎さんも気づいたようだ。

表情が引き締まった。

恐らく、わざと俺たちに見せているんだろう。

変な考えを起こすなよ、ってとこかな。


「どうぞどうぞ、入って」


裏口に立つ太田さんが、ドアを開けて俺たちを促す。

鷹目さん、神崎さん、そして俺の順番だ。


「抜かないでね、それ」


「・・・襲いかかってこなけりゃ、抜きませんよ」


「うん、ならいいんだ」


・・・やはり脇差に気付いている。

外見通りの人じゃないな、やっぱり。



窓という窓が封鎖された1階を通り過ぎ、2階へ。

避難民がこちらを凝視する中、さらに上へ。


4階まで上がり、『会議室』と書かれた部屋に入る。

どうやらここが警官隊の本部のようだ。

複数の警官が忙しく働いている。

ホワイトボードには大判の市内の地図が張られ、何事か書き込まれている。

・・・どうやら、ちゃんとした避難所のようだ。


彼等は、入ってきた自衛官となんかよくわからない存在に釘付けである。

・・・多分後者のほうだな、うん。


「さ、ここへどうぞ。鷹目くん、すまないけどお二人になにか飲み物を頼むよ」


「了解であります!」


鷹目さんはパタパタと会議室を飛び出していった。

勧められたソファーに2人で座る。

太田さんは反対側に腰掛けた。


「さて・・・お互いに情報交換といこうか。楽にしていいよ」


お言葉に甘えてヘルメットを脱ぎ、バンダナを外す。

ここにはあいつらはいないようだしな。

上がってくるときもざっと見たが発見できなかった。

・・・たどり着く前に死んだのかな?

神崎さんもヘルメットを外し、傍らに置く。


この先は神崎さんに任せようか。




「友愛は宮田くんが運営してるんだね、それは安心だ」


「・・・宮田巡査部長とお知り合いですか」


「何度か一緒に仕事したこともあるしね、相変わらず岩みたいかい?」


うーん、世間って狭いな。

まあ同じ市内で働いてる同業だし、有名なら知ってるだろうな。


神崎さんと太田さんは、お互いの情報や周辺の状況などを話している。

俺はといえば、鷹目さんが出してくれたコーヒーを啜っている。

うーん、うまい。

いい豆使ってるなあ・・・いや、そんなに詳しくないけども。

今度はインスタントコーヒーも回収しておこうかしら。


「あ、あの・・・田中野さん、でしたよね?」


「ん・・・?あ、はい」


不意に鷹目さんが話しかけてきた。

手持ち無沙汰なのかな?


「失礼ですが、その・・・先程言っていた捜索依頼のファイル、見せていただけませんか・・・?」


「ああ、どうぞ・・・あっ」


リュックからファイルを・・・おっと、車に置いてきたんだった。


「すいません、車に置いたままでした」


まだ神崎さんたちの話は長引きそうだし、別にいいだろう。


「神崎さん、捜索ファイル取ってきますね」


「はい、お気を付けて」


立ち上がってバンダナを巻き、ヘルメットをかぶる。


「あっ!出入りに施錠が必要なので、私もご一緒しますっ」


後ろからパタパタと鷹目さんがついてくる。



「あの・・・顔の傷、痛くないですか?」


「ああ、いいえ。もう塞がってますから・・・それにホラ、宇宙海賊みたいでハンサムでしょ?」


「え・・・えっと・・・は、はい」


くっそ!

軽口の間合いがわからん!

何だこの空気は!?

これだから初対面の善人は苦手なんだ!


会話も弾まないので、階段を下りながら各階の観察でもするか。

3階と2階は居住スペースで、1階は各種備蓄食料の保管場所になっているようだ。


「発電機なんかは地下にあるんですか?」


「は、はい!ボイラーもあるので、シャワーなんかも使えます!」


ほお、なかなか住み心地はよさそうだな。


食料はやはり中庭や裏の空き地での野菜や、備蓄保存食がメインらしい。

どこも事情は同じだな・・・


「ここら辺にはその・・・襲撃というか、略奪する人間って出ますか?」


「いえ・・・ゾンビばかりです。あ、あの・・・友愛の近所には出るんですか?」


「んー・・・まあ、出てたみたいですね」


ここらは平和?なんだろうな。

・・・果たしてゾンビと襲撃者、どっちがマシなんだろうか?


裏口を出て正面へ回り、軽トラからリュックごとファイルを回収する。

これでよし・・・さて戻ろうか。



「あっ!鷹目さん!お疲れ様です!!」


4階への階段を上る途中、後ろから声を掛けられた。

・・・なんかどっかで聞いた声だな。


「あら、神森くん」


「お仕事ですか?何か手伝いましょうか?」


「い、いいのよ、もう終わるところだから・・・」


そっと振り返ると、そこにはいつかのハーレム野郎がいた。

顔だけはハンサムだからよく覚えている。

うわ、ほんとにいたよここに。

しぶといガキだなあ・・・


鷹目さんもなんか引き気味だ。

なんだろう?イケメンが苦手なのかな。

とにかく、このままここにいても面倒になる予感がプンプンする。

鷹目さんには悪いが、とっとと4階の会議室へ逃げ込もう。


何事か話している鷹目さんをそのまま階段を上り、4階へ。

若干速足で会議室へ入った。


「おや?鷹目くんはどうしたんだい?」


「あー、なんかそこの階段で知り合いと話してます」


許せ鷹目さん、俺はそいつが本当に苦手なんだ。

もう脳細胞を死滅させられたくない。


「・・・何かありましたか?」


顔が見えないのに、よくお分かりになりますね神崎さん!


「今朝言ってた例の千手観音がいましてね・・・」


ソファーに座りながら神崎さんに話す。


「ああ、例のややこしい生存者ですか」


「ウチの避難民と何か、あったのかい?」


「あっ田中野さんすいません!遅れました!」


鷹目さんも帰ってきた。

丁度いいや、後でごたついても面倒だしついでに話しておこう。


「いや、実は・・・」



「・・・なるほどなあ、たしかにアイツならやりそうだ。鷹目くんもそう思うだろ?」


「は、はい・・・そうですね」


意外や意外、あっさりと話が通じたぞ。

部外者の俺の言葉があっさり信じられるとは思わなかった。


「人の話をとにかく聞かない、何故か自分は賢いと確信している、異性は全員自分に好意を持ってると思っている・・・」


っていう人間だな、と太田さんは苦笑いしながら話す。


うわあ、あの時はパニックでも起こしてああなったかと思っていたが・・・まさか素でもああいう人間だったとは。


「なんていうか・・・その、大変ですねあんなのがいて」


「はは、あれで自分では有能のつもりなんだから救えない人間だよ」


友愛の原田もそうだが、あんなのでも守らないといけないなんて警察は大変だな。

両方とも、ただただウザいけど大きな被害をもたらすタイプでもないのが始末に悪い。


「あ、そうだ・・・これがファイルです」


「あ、はい!ありがとうございます!確認しますね!」


忘れかけていたのでとりあえず渡す。


「まったく、度し難い人間が多いですね田中野さん」


神崎さんが腕組みをしながら眉間にしわを寄せる。

ああもう、美人が台無しだよ。


「まあねえ、世界がこうなっちゃったら大なり小なり人間は変わるものさ」


太田さんが苦笑いを崩さず言う。


「むしろ変わらない人間の方が珍しいねえ・・・田中野くんなんかはその口だろう?」


目だけが笑っていない。

心の底まで見透かされそうだ。


「ははは、元々俗にいう無職ですからね。これ以上下は無いでしょう」



が、こちとら見透かされて困ることなんざ微塵もないからな!

道義的には問題あるだろうが、悔いなどあんまりない!



「・・・敵に回したくないね、君は。特にそちらの神崎くんと組んでる時には」


「何をおっしゃる!神崎さんの戦闘力をもってすれば航空母艦も爆発四散余裕ですよ!俺なんかとてもとても・・・」


「田中野さんは私を何だと思ってらっしゃるんですか!」


がああああああああああ!?いったい!?

脇腹の肉が抉り取られそう!?

つねりの次元を超えたつねりだ!!!

お助け!!!!


「ふふふ・・・お二人はとっても仲良しなんですね」


ファイルに目を通していた鷹目さんがころころと笑う。


「む・・・無敵のコンビですよ、たぶん来年の今頃にはゴ〇ラも倒せます」


脇腹の痛みをこらえつつ言う。

神崎さんなら殺人光線戦車も動かせるだろうし。



確認したところ、今回のファイルにはここの避難民は載っていなかったようだ。


「では、今日の所はこれで失礼いたします。後日友愛から正式な使者がやってくると思われます」


敬礼する神崎さんの後ろで頭を下げる。

こっから先は警官の皆さんに丸投げしよう。

宮田さんも、知り合いの警官なら話を通し易かろう。


「うん、協力できるところが増えるのはありがたいし。今日はありがとう」


「お疲れさまでした!」


2人と室内の警官たちに別れを告げ、俺たちは会議室から出る。

さーて、あのアホに見つかる前にかーえろ。



「自衛隊のおねえさん!ちょっと待ってください!!」


・・・見つかっちゃったよ。

異世界おじいさんもよろしくお願いします!

不定期更新なのでこちらの更新に影響はありません。

ほんのちょっとこの物語とつながりがあります。



・異界血風録~若返ったので異世界でわしより強い奴に会いに行く~(https://ncode.syosetu.com/n9008hc/)

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― 新着の感想 ―
[一言] 太田警部補…… 太田なのにCV:大林隆介さんで脳内再生される不具合。 なお田中野はCV:三木眞一郎さんな模様。
[良い点] 全体的にサクサクとしたテンポで話が進み読者にストレスを与えるキャラクターが相応の退場の仕方をする 主人公の身体能力と精神が人間離れしているがほどほどに人間臭く距離を感じ過ぎない [気になる…
[気になる点] モかジかで難易度が大分変わる伏せ字ですな(笑) [一言] 次回は少年へのわからせかな?でも下手にわからせしてホレられると困るしなぁ。
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