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52話 美女と無職のドライブ再びのこと

美女と無職のドライブ再びのこと




「きゅうじゅうはちー・・・きゅうじゅうくー・・・ひゃーく!!おじさん、すごおい!」


「よ、よっしゃあ!グワーッ!もう無理ィ!!!」


「きゃん!あははははは!」


「おっちゃんすげー!」「次、次は俺乗せて!」「わたしもー!」


「おおう・・・休ませて!死んじゃうからおっちゃん!!」


現在俺は避難所の体育館の片隅で、美玖ちゃんを背中に乗せて腕立てをしている。

周囲には年齢が様々な他の子供たち。


体育館の半分は避難民が使っているが、もう半分は開放されている。

いつもなら柔道場で筋トレするんだが、美玖ちゃんと一緒に遊んだりしてたらこうなった。


え?じゃあなんで美玖ちゃんを乗せてるんだって?

・・・なんでだっけか。

あーそうそう、美玖ちゃんと運動してたらわらわらと子供たちがやって来て、中学生くらいの子に筋トレを教えてほしいって言われたんだった。

つきっきりで教えていると、美玖ちゃんが寂しそうな感じだったから、背中に乗ってみてと声をかけたんだよな。

うーん、俺最近美玖ちゃんにどんどん甘くなってる気がする。

・・・別に問題はないな。

親なら躾の問題とかあるだろうが、俺はホラ、親戚のおじちゃんくらいの立ち位置だから。


こう見えても俺は子供たちに好かれている・・・と思う。

以前からたまに美玖ちゃんも含めて遊んでやったり、回収したお菓子やDVDなんかを提供したりしてるしな。


なお、俺の呼び名は「サムライのおっちゃん」である。

・・・美玖ちゃんが言っちゃったので仕方ないのだ。

仕方ないのでござる!

・・・まあ、中学生の子たちはわかってくれていると思うが・・・


俺は避難所在住ではないがそこそこ訪問するため、働いたり子供と遊んだりすることで大人勢の評判もよくする必要もある。


だって考えてみろよ?俺の外見を。

帯刀はしてるわ顔は宇宙海賊だわたまに血塗れだわ。

完全に不審者一歩手前どころかK点越えですわこれ。

だからせめて、行動で不審者じゃないと示す必要があるのだ。


俺だけ悪く言われるなら別にいいが、俺とつながりのある美玖ちゃんや由紀子ちゃん達にまでなんか言われたら困るし。

日頃の働きのおかげかどうか知らないが、避難所での俺の評判は中々いいみたいだ。


原田なんかは未だに俺の悪口を度々言ってるみたいだが、アイツの評判はこの避難所で最下層だから気にしてない。

信じる奴もいないだろうし。


ちなみに、由紀子ちゃんにそれとなく原田の印象を聞いてみたところ、


「子供を邪険にするからあんまり好きじゃない。」


・・・だそうだ。


ご愁傷様である。

ざまあみろでござるよ。


まあ、そんなこんなで子供たちに囲まれていると、向こうから神崎さんが歩いてくるのが見えた。


「あ!りんおねーさーん!」


「あら、元気ね美玖ちゃん。」


美玖ちゃんが走って行って神崎さんに飛びつく。

神崎さんは飛んできた美玖ちゃんを器用に抱き留める。

・・・微動だにしてねえ、なんちゅう体幹の強さだ。


「ねえ美玖ちゃん、ちょっといちろーおじさんを借りてもいいかしら?」


「うん!どーぞ!!」


レンタルビデオ並みの軽さで決定された!?

まあいいけども。


「すみません田中野さん、よろしいですか?」


「ああ、構いませんよ。じゃあちょっと行ってくるよ美玖ちゃん。」


「いってらっしゃーい!」


「ういうい、みんなもまたなー。」


「サムライのおっちゃんとかんざきねーちゃん、デートすんの!?」「デートだ!デート!!」「お幸せにー!」


一部のませたガキ共が囃し立ててくる。

こいつら・・・まあ娯楽に飢えてるんだろうなあ。


「おう!リューグーパークまで行ってくるわ!じゃあなー!!」


「・・・っ!!」


こういう奴らは否定するとより喜ぶので、乗っかってやる。

ちなみにリューグーパークとはわが県唯一のテーマパークである。

国内最大のレッサーパンダ生息数で有名だ。


そのまま神崎さんを追いかけて体育館を後にした。

・・・なんか神崎さん歩くの速くなあい?

追いつこうとするとスピード上げるし、どうしたんだろ。

もっと遠くに行きたいんだろうか。


神崎さんはしばらく競歩並みの速度で歩き続け、止まった。

ここは運動場の端っこである。

つ、疲れた・・・!


「・・・田中野さん、お話があります。お話というか、お願いですが。」


「は・・・はい。」


やっと振り向いた神崎さんは若干顔が赤い。

そりゃあんだけのペースで歩けばなあ。

俺なんかさっきの筋トレのせいもあって足ががくがくだよ。

パイルダー美玖ちゃんでスクワットもしたし。


「一度、秋月町まで一緒に行っていただけませんか?」


「・・・花田さんのところまでですか?」


「はい、定期的に通信で報告は入れているんですが、そろそろ一度直に報告しておきたいのです。それに、各種弾薬の補充もしておきたいですし・・・」


あー、市民会館とか建設会社でバンバン撃ってもらったしなあ。

俺としてはもちろんいいけども。

消費したのは俺が頼んだからだし、なにより近いうちに秋月町には行くつもりだったしな。

役場で働いていた美沙姉さん・・・美玖ちゃんの母親の消息を探るために。


「民間人の田中野さんにお願いするのは、心苦しいのですが・・・」


「いやいやいや、全然気にしないでくださいよ。俺もあっちに行く用事がありましたし・・・神崎さんがいれば百人力ですし!」


「そ、そうですか!・・・よかった・・・」


ふと気になったので聞いてみる。


「あの、警察と自衛隊は連携することにしたんですよね?・・・ここから車出したりしてもらえないんですか?」


「・・・それは・・・ええ・・・」


「いや、俺の車で行くのは全然かまわないんですけど・・・なんでかなって。」


「・・・森山巡査が、その、運転手に名乗り出てくれたのですが・・・」


「あぁ・・・(納得)」


「彼では・・・その・・・、あまりに戦闘能力が低すぎて、不測の事態に対応できない可能性が・・・」


そりゃあそうだろうなあ。

彼、とち狂った高校生のプッシュで気絶するくらいだし。

あの体たらくでは確かに頼りなさすぎる。

それどころか足手まといになりそう、いやなるな。


・・・あいつ、どうやって警官になれたんだろうか。

剣道とか柔道がある程度できないと合格できないんじゃなかったのか?

う~む・・・謎は深まるばかりだ。



というわけで善は急げとも言うし、さっそく今日のうちに秋月町に行こう。

体育館に戻って美玖ちゃんたちに別れを告げ、宮田さんに一声かけてから出発することにした。

当たり前だが、もしも美沙姉さんが亡くなっていたりしたら美玖ちゃんが可哀そうなので、秋月町に行くことやお母さんを探すことは言っていない。


車の状態やガソリンの残量、各種装備を確認し、エンジンをかける。

さーて、久しぶりの長距離ドライブだ。

・・・やっぱり、隣が美女だと微妙に緊張するなあ。


校門を出ていくときに、門番の森山くんが俺のことを親の仇のように恨めしく見つめていたのは見なかったことにした。

・・・そういうとこやぞ森山ァ!!

そんなことしてる暇あったら体を鍛えろ!!

神崎さんには1ミリも伝わってないからなお前の想いは!!



「いーまはやーまなか、いーまははま~」


「・・・それ、汽車の歌では?」


「車輪がついてりゃ車も汽車みたいなもんですよ。」


「滅茶苦茶ですね、ふふ・・・」


開けた窓から車内に吹き込む風が心地いい。

そろそろ詩谷市を抜ける頃かな?


前回と同じく、川沿いに東へ行くルートを走る。

道は以前と変わりなく、横転した車や散乱したゾンビ、何かの腐って溶けかけた肉片などで彩られている。

・・・やっぱりゾンビだけ腐敗してない。

動物が喰った様子も見えないし、一体なんなんだ。


「・・・そういえば、映画みたいに動物がゾンビになるってのは確認されてるんですか?俺は今まで見たことないですけど。」


「私も見たことがありませんし、本部との通信でもそのような話は聞いていませんね・・・」


・・・人間だけゾンビになるのか。

謎が謎を呼ぶなあ。


「まあ、ゾンビ犬やらゾンビ鳥、ゾンビ熊やゾンビ鮫なんかが出たら大変ですからねえ。いなくてよかったですな。」


「さ、鮫・・・?別に地上では問題にならないのでは・・・?」


「神崎さん、最近の鮫は陸にも上がるし空も飛ぶんですよ・・・サメ映画の中ですけど。」


「・・・〇ョーズとディープ〇ルー以外にもサメ映画ってたくさんあるんですか?」


「ある意味ゾンビ映画より当たりハズレの激しいジャンルなんですよ・・・」


軽口を叩きながらも車は進む。

神崎さんとも知り合ってだいぶ長いし、死線?も潜り抜けてきたから少しは仲良くなれたかな。

すごい美人だけど、話しやすいから空気が重くならずにすむなあ。


「・・・忘れていました。田中野さん、建設会社で剣鉈を蹴飛ばした技ですが、あれは・・・」


よく覚えてるなあ神崎さん!!

さすが武術マニアだ・・・。


「あれはたまたま試したら上手くいっただけで、別に何の技ってわけでも・・・」


「・・・むぅ。」


冗談で返したら案の定無言の圧力!

運転してるからあんまり横見れないけどとてつもないプレッシャーを感じる・・・!


「・・・南雲流、奥伝が一『飛燕』でございます・・・本来は小柄や脇差を飛ばして機先を制したり、斬り込みの鏑矢として使います・・・」


「やはり・・・!アレが南雲流門外不出の殺し技・・・!!」


そんないいものじゃないよお!!

奥伝系は全部初見殺しのド汚い技で占められているから、門外不出というより危ないから隠しといたって方が近いよお!!


「・・・奥伝の『一』ということはやはりまだ・・・?」


「ハイ、イッパイイッパイひどい技があります・・・」


「ぜ、ぜひ他の奥伝m・・・いえ、やはり結構です。自分の目で確かめるのを楽しみにしております・・・!」


フンス!って感じで目をキラキラさせていらっしゃる・・・


ん?

自分の目?


それって俺が使う所を見たいってことぉ!?やだよお!!!

奥伝を使いまくる状況とか控えめに言っても地獄と同類項じゃんか!!


俺はコソコソカサカサ平和に生きていきたいの!!!


「あ、ちなみに田中野さんがよく使われる構えを切り替えながら切り付けるのもやはり何かの・・・?」


よく見てますね戦闘中に俺ばっか!

そんなチラチラ見ながら、普通に屑どもを成仏させる神崎さんの方がよっぽど強いんじゃない・・・?


「あー・・・えーと、あれは『千変』っていう超恥ずかしい名前が付いたフェイント技でして・・・」


「何故ですか!すごく格好いいじゃないですか!!」


「え、ええ・・・?」


とまあ、そんな会話をできるくらい道中は平和だった。

神崎さんやっぱりちょっとおもしろくなってるな・・・?



「あああああっ!?」


「どうしました田中野さん!?」


「俺の・・・俺のキャベツ畑が・・・キャベツ畑が枯れ果てている・・・」


「あなたのじゃないでしょうに・・・避難所で育てているものができたらおすそ分けしますから・・・かなり余裕を見て作る予定ですし・・・」


「天使って意外と近くにいるんだなあ・・・」


「なっなんですかいきなり!」


などと、悲しい事件を挟みつつ愛車は秋月町の病院近くまで到着した。

ここからはちょっと歩かないといけないな・・・



「あれだけあった車が一台もない!道路が見えますよ神崎さん!!」


「あ、そういえば言っていませんでしたね。この近所にある重機を使ってどかしたらしいです。」


はえーすっごい行動力・・・

あ!よく見れば路地に山のようなおびただしいゾンビの死体?が!!

障害物をどかして、重機の音に寄ってきたゾンビも一網打尽にしたのか・・・恐ろしや自衛隊。

なんちゅう殲滅力だよ・・・

仲良くしといてよかった・・・!!


道路がスカスカなので、問題なく道を走行できる。

以前は若干苦労した道も、車なら一瞬だ。

病院がみるみる近付いてくる。


見慣れない軽トラが来たからか、病院の正門で見張りをしていた自衛隊員の皆様が一斉に銃を構える。

ヒエッ!?恐ろしや・・・大迫力だわ。


「神崎陸士長です!報告と補給のために帰還いたしました!!」


窓から身を乗り出した神崎さんが叫ぶと構えは解かれ、門がゆっくりと開いていく。

ふう、緊張したあ・・・

冷や汗をかきながら、病院の駐車場に車を停める。


神崎さんと一緒に正面玄関まで行き、別れる。

付いてきてもいいと言われたんだが、自衛隊の皆さんがたくさんいらっしゃる空間は気づまりなので遠慮した。

灰皿が併設されている玄関脇のベンチに座り、煙草を咥えて火を点ける。

じゃあ、ゆっくり待とうか。


「一朗太くん!?来てたの!?」


・・・ゆっくりできそうにないなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「奥伝を使いまくる状況とか控えめに言っても地獄と同類項じゃんか!!俺はコソコソカサカサ平和に生きていきたいの!!!」 この頃は本当に平和だったなぁ… 今ではその奥伝を使いまくらなきゃならない…
[一言] 一服しようとするとおばちゃんに見つかる、喫煙者あるある。今度はなにを頼まれるのかしらん? ところで傍流好きとしてはマンドレイクが気になる…! ガラムかな?今コンビニで売ってるんだろか?
[一言] そういえば、この侍さん仕えてないから浪人ですな。それとも自宅を城と見立てて武将でも名乗ってみるか?(笑)
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