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特別編 大木政宗は可及的速やかにお家へ帰りたい。

お久しぶりの短編です、よろしくお願いします!

「あふぅ……」


 ついついため息が出ちゃう、だって男の子だもん。

……現実逃避をしても、天井は若干見慣れてきた景色。

右を向いてみれば、遺憾ながらこっちも見慣れた景色が見える。

たぶん左も。

ああ、一面のクソ保健室。

いや別にクソではないな、うん。


「やあ大木くん、具合はどうだい?」


 ドアがスライドして、石平先生が入ってくる。

外にはゾンビがウジャウジャしていて、ヤバめなヒューマンもウロウロしてるのにいつでも自然体だ。

いつ見てもナイスミドルですねえ、子供たちにも人気だし……この避難所はこの人がいるだけでかなり恵まれておりますよ。


「いつも通り地味~に痛いです。我ながら回復が遅くて嫌になりますよ」


 僕こと未来の大人気配信者(予定は未定)、大木政宗。

不幸にも黒塗りの鉄パイプに激突した僕は……現在、色々あって御神楽高等学校に入院? なうです。

田中野さんの伝手もあって、こんな世界でも面倒を見てもらえるのは本当にありがたい……


「いや、予後は良好だよ……キミが想像している人たちがおかしいだけだね」


 田中野さんとか、七塚原さんのことですな。


「……南雲流に入るとバケモンになるんですかね?」


 体力回復(大)とか気力回復(極大)とかが生えてくるんだろうか。


「ははは、むしろ逆じゃないかな? 南雲流に入るような人たちは、たぶん元々凄いんだと思うよ」


 納得しかない……

どっかの田中野さんはよく『一般人』を自称してるけど、あんなのが一般ピープルだったらゾンビはもう絶滅してると思うの。

あとチンピラも。


「では、患部を確認しようか」


「はーい……それにしても独り占めさせてもらって悪いですね、ここ」


 シャツをまくる……巻かれた包帯を見るだけでも痛い気がする!


「他は女性患者……というか妊婦しかいないからね。まさかキミもあっちに行きたいかい?」


「気苦労で傷が開いて死ぬので嫌ですね~」


 自衛隊や軍隊は別の専用保健室があるし……感謝感謝。


「あでで」


 包帯がひきつれて痛い! これは気のせいじゃない!


「ふむ……化膿の兆候は無し、抗生物質の備蓄があってよかったよ。縫合後も順調だ……この分なら、予定通りに退院できると思うよ? 退院というか……ここでは卒業か、ははは」


「HAHAHA! ……ちなみに予定ってどれくらいでしたっけ?」


 明日とかにならんかな?

まあ、そうなったら衰弱死すると思うけど僕は。

どっかのサムライじゃないので。


「キミがここに来て2週間だから……この分なら最低でもあと2週間かな。一応、開腹手術をしたんだからね」


「んんん長い! 申し訳ないですね! あだだだ……!」


 正味一か月か……こんな状況でなんと太っ腹なことよ。


「薬とか大丈夫ですか? その、備蓄とか」


 石平先生は苦笑いだ。


「遺憾ながら……『患者』が通常に比べて少なすぎるからね。自衛隊や警察からの提供品で十二分にあるよ。壊滅した病院からも回収が始まっているし……」


「おお、乱世乱世……」


 だよねえ。

詩谷市、どれくらいの生存者が残ってるんだろうか。

探索で見かけるのはチンピラばっかりだし……善良な一般市民isどこかな~?


「だから気にしなくていい。大木くんはこれまでに貢献もしているし、文句を言う人なんかいないよ」


「陰口むっちゃ叩かれてそうっすけど」


 当たり前と言えば当たり前なんだけど、この避難所にいる人には仕事が割り振られている。

畑仕事とか、掃除洗濯とか……日曜大工要員とか?

最近は外へ探索に行く人も増えてるみたい。


 古保利さんはそういうとこしっかりしてるからね……

あ、もちろんご老人や子供、妊婦や病人なんていう方々にそういうのの強制はない、絶対ない。

むしろそれに文句を言った人はスス~っと隔離されて、反省していないといつの間にか消えているという寸法だ。

ゾンビなんてもんが出るんだから、神隠しくらい発生するでしょ(すっとぼけ)


「古保利さんはむしろ手ぐすね引いて待っていそうだけどね。八尺鏡野さんやオブライエンさんがいなかったら、隔離もせずにそういう手合いは放り出していそうだよ」


「すごくよくわかるのがコワイ、コワイすぎる」


 まあ、現在その古保利さんは自衛隊基地奪還作戦でお留守なんですけどね!

どっこい、ちゃんとしっかりした後任の部下さんが問題なく避難所を運営してるけど。

っていうか、不在にしてる間にそういう連中をあぶり出して……なんて考えていても全く不思議ではない、ないのだ。

僕が言えたことじゃないけど、あの人って超いい性格(褒めてはいない)してるしな……


「はい、消毒完了。今日も問題ないよ……ふむ、部屋の中とトイレくらいならゆっくり歩いても大丈夫だと思う」


「やったあ……体が固まっちゃって困ってたんですよ」


 お腹を気にしながらのストレッチくらいしかできんかったからね。


「やらないとは思うけど……筋トレや激しい運動は禁止だよ?」


「あ、そういうのは田中野さんに言ってあげてください」


 腹筋なんかしたら鍛えられるより先に腸が飛び出ると思う。


「田中野くんは意外と聞き分けがいいからね、きちんと言えば守るよ」


「怖くて綺麗なお目付け役もいますしね? 具体的には神崎さんとか」


 あと式部さんとか。


「ははは、彼は本当に人気者だねえ。まあ、やってることがやってることだからねえ、当然か」


「主演で映画になるくらいは活躍してますよ、マジで」


 自己評価がありえないくらい低いからね……あの人も色々あるんだろうけど、このままだと辛抱たまらん! ってなった女性陣に押し倒される未来しか見えない。

そして特にかわいそうだとも思わない。

式部さんを助けた時の話とか、いたいけな女子高生の情緒ぶっ壊してるじゃん。

責任は取りましょうね、友人としてはそれしか言えません!


「さて、回診に行くかな。お大事にね」


「はーい、お世話になりました」


 石平先生は本来の業務である妊婦さんたちの回診に行った。


 現在この避難所には、結構妊婦さんが多い。

これは、避難所全体の方針みたい。

子供がいないと国が滅んじゃうからねえ、古保利さん達はそう考えるでしょうね。

僕? 賛成賛成!

だって……未来に子供がいないと! 僕の未来の視聴者がいないとねえ! ねえ!

目指せ、登録者100万……否! 1000万人!



・・☆・・



「失礼しまーす!」


「むにゃあ!?」


 スヤスヤしてたら、扉が開く音で目が覚めた!

うごごご……動画編集が永遠に終わらない悪夢見てたからいいけど……!


「あ、大木さん寝てました?」


「今起きたとこ、僕は良いけどご老人とかにやるとショック死するから気を付けようね~?」


「ご、ごめんなさい!」


 ドアをスパーン! して入ってきたのは、高山あきらさん。

田中野さん経由で知り合った、ボーイッシュ系の女子高生さんです。

お外での仕事とかも頑張っているのか、健康的に日焼けしていますねえ。

そういうのが好きな人にはたまらない美少女なんじゃないかな。

僕? あ、今そういうのホントいらないんで……未来永劫とも言える。


「そんでどしたん? ゾンビが攻めて来たならミスキャストだね。この病室に爆発物の類はないよ?」


「あはは! 他の場所にはあるみたいに言わないでくださいよ~……あるんですか?」


「ミンナニハナイショダヨ?」


 僕の愛車とか、おうちとかにはね!

璃子ちゃんが定期的にパスコードを入力してくれてるから、まだ吹き飛んではいないハズ!


「えっと、その……仕事が終わったんで遊びに来ちゃいました!」


 高山さんは椅子に腰かけて、困ったように笑った。


「あーそうなんだ。今日は何の仕事?」


「洗濯と掃除、それと動物の餌やりですね! あ、あと収穫の手伝いもしました!」


 めっちゃ働いてる……この表情からして、嫌々な感じじゃないけど……頑張り屋さんなんじゃね~?

すごいなあ、この若さで……僕には真似ができませんねえ。

働くのも苦労するのも、徹頭徹尾自分の為な男大木政宗です! 清き一票は別にいりません!


「いい子ですねえ……はいこれあげる。田中野さんが持ってきたお菓子詰め合わせ」


「わあ! い、いいんですか?」

 

 この避難所は最高ランクに恵まれてるけど、それでも嗜好品は中々手に入らない。

外が滅茶苦茶だからしょうがないね、お菓子工場が再稼働するのはまだまだ先だと思うし。

っていうかある程度社会がマトモにならんとまず流通が復活しないからね。

一体いつになることやら……ネットはあと5年くらいで復活して欲しいなあ。


「いいのいいの、食べても問題ないけどそもそも僕お菓子あんまり食べないし」


 探索中にチョコバー齧ったりはするけど、この状況なら別にいらない。

あれは緊急のエネルギー回復要因だし。


 高山さんはもう見るからによく動くタイプだろうから、カロリーは僕よりも必要だろう。

高校生なら成長期真っ盛りだしね。


「ありがとうございます~!」


 高山さんは喜んでチョコバーを齧り始めた。

よきよき……この子はとってもいい子だからいくらでも幸せになっていい。

悪い子は別にどうでもいいけど、襲ってきたら吹き飛ばします。


「ももも……大木さん、もう歩いて大丈夫なんですか?」


「うん、さっき石平先生に許可してもらえたよ。この中とトイレくらいまではいいってさ」


 寝る前にちょっと歩いたけど、宇宙遊泳でもしてる気分だったよ。

足に力が入らなさすぎるから、杖がないとちょっと厳しいね、まだ。

いっそのこと歩行補助機能の付いたアシストアーマーとか作れんものかな?

義手義足のデータを回収した中にそういうのが混ざってるといいな。


「わー! おめでとうございます!」


 ぱちぱち、と拍手してくれる高山さん。


「ありがとう、口の端にチョコをつけた少女よ」


「わ、わわっ……取れました?」


 顔をごしごしした高山さんに、サムズアップ。

田中野さんはこういう時に何も考えずにフキフキしてあげるだろうが、この大木政宗は違う!

……あの人、そういうことを何も考えずにやっちゃうから大変なことになるんだと思うな。

特に外人さんたちに……知りませんよ襲われても。


「あ、そうだ。最近映画とかの上映会が始まったんですよ! 子供用のアニメ映画が多いですけど、見てみるととっても面白いですね!」


「『子供騙しでは子供は騙せない』っていう名言があってね……むしろ子供向け映画の方がエンタメに妥協していない場合があるんだよ。ホラ、世界的に大ヒットしたあの有名な神隠し映画だって――」


 ……とまあ、小粋な会話を楽しんでいるわけですが。

この状況が、怪我以外で最も大きな目下の悩みなのです。



 僕は――高山さんに、懐かれている!



「大木さんのおススメ映画ってあります? ボク、今まで部活部活であんまり見たことなくって……」


「ふむん~、まずは好きなジャンルを教えてもらおうか?」


 当初は、田中野さんの知り合い+詩谷から来た男だっていうのもあってちょいちょいお話しする程度だった。

僕としては『親戚の子』的な立ち位置で相手をしていたんだよね。

それ以上でもそれ以下でもないし。

いい子だとは思うけど、まあそれだけ。


「邦画はたまーに見てたんですけど、ジャンルとかは……あ! ホラーとか好きかもです!」


 そうだったんだけど……逆に、その立ち位置がよかったのか、悪かったのか。

彼女は空き時間にちょいちょい顔を出すようになって……今に至る。

今では結構な頻度で、こうして遊びにやってくるのだ。

あ、璃子ちゃんの同級生3人娘も来ることがあるけどね。


「ほう……なら、呪いのビデオが出てくる映画あるでしょ? あの監督が別に撮った映画に超怖いのがあってね……」


「えーっ! そうなんですか!」


 この前お見舞いに来た田中野さんに聞けばこの子、外のチンピラがここに潜入した時に人質にされたことがあったらしい。

その時は田中野さんが大活躍して無事だったけど……たぶんこの子って、それから男性が怖くなったんじゃないかな。

元々美少女だったから、それまでもそうだったんだろうけど……今はより一層男性の視線が気になるんだと思う。

だから僕に懐いたんじゃないかな。


 何故かって……僕はね、他人に対するカテゴライズが『男女』ではなく……『僕とそれ以外』なのだ!

今だって、高山さんのことは『美少女』だってのはわかるけど……それはただの『情報』と認識しているだけだ。


「田中野さんも『人生で一番怖い映画』だって言ってたしね。この前璃子ちゃんが見たがるから一緒に見たら、夜一緒に寝る羽目になったって困ってたよ」


「あはは! 璃子ちゃんったらもう~!」


 この距離感が心地いいってのはわかるんだけどね……これ、ヤバくない?

今はまだライク寄りだと思うけど、ラブ寄りになったら大変ですよ?

僕としては節度を持って過度な接触をしないように心がけてるんだけど……その態度がより一層懐きを加速させている気がし過ぎる!


 じゃあ突き放したらどうか……と、一瞬考えたんだけど。

内面焼け野原で基本的に情緒が死んでる僕ですが! ですがぁ!

さすがに精神的に不安定な面のある女の子にひどいことはできませんのよ……のよ……

この子は何も悪くないしねえ……


 嗚呼、元気になったら誰かに相談しよう。

田中野さんは……こういう方面では僕よりも役に立たないので……斑鳩さんとか荒川さんかな?

その他の女性陣は……うん……母親世代以外は無理だ、そんな気がする。


「大木さんはどんな映画が好きなんですか?」


「うむ~ん……面白いものはなんでも見るよ。でも特に好きなのはSFとかミステリーとか?」


 一応ここにもポータブル端末は持ち込めてるから、暇な時に見てはいる。

お気に入りストックもあるからね。

HDDは家にあるけど……録画データだけでかなり暇は潰せるなあ。


「よっこいせ、あだだ……」


 確かここらへんに……傷がひきつっていたーい!


「あ、大丈夫ですか!? ボク、手伝いますよ!」


「だいじょぶだいじょうぶ……ホラホラ、ここらへんね」


 荷物をゴソゴソして、ディスク入れを取り出す。

ポータブル端末はソーラー充電器があるから、半日充電すれば映画2本くらいは余裕で見れる。


「これなんか長いけどとっても面白いよ。ヒューマンドラマ要素もあるし……」


 お父さんがブラックホールに落下したりする映画だ。

ストーリーがとってもいいんだよね……


「こっちは火星でジャガイモ育てたりするやつ。こっちもおススメ、超おススメ」


 このネバーギブアップ精神は僕も見習いたい。

自分なら初期のアンテナグサー! で死んでいる自信があるけどね。


「へえ~! どっちも見たことないです!」


「そうなんだ。充電満タンだからこれも貸してあげるよ……暇つぶしにはピッタリだよ~?」


 そう言うと、高山さんは嬉しそうに端末を受け取って……


「じゃあじゃあ、一緒に見ましょうよ! 大木さん!」


 ……そうきたかァ~……!!

だが、ダイヤモンドも大木政宗も砕けない!


「いいねいいね! あ! それじゃあ璃子ちゃんフレンド3人衆も呼んでプチ映画観賞会と洒落こもう! ホラみて! 封を切ってない炭酸飲料もあるし! お菓子もまだまだあるし!」


「わ~! やりましょやりましょ! 後で皆呼んできますね!」


 よーし! この反応はやっぱりまだライク判定! まだ引き返せるぞいぞい!

なんとか退院まで、このライク関係を維持するのだ……!

こんな人間性のトラッシュボックスに惚れでもしたら、この子がかわいそうなのでね!


「あ、他には何があるんですか?」


「むーん、持ち込めたのはそんなに多くな――」



 ――ガララ! とドアが開いた。

そこには……高校生くらいの男が1人いた。

見たことない顔だな……部屋でも間違えたんかね?



「――ッ」


 高山さんがちょっと体を強張らせた……大木わかっちゃった!


「やー、ここには僕しかいないから部屋間違えてるよ」


 ベッドに体を起こして、男に言う。

そいつは……ひゃあ! 怖い顔! ゾンビの十分の一くらいこわーい。


「高山さん、話があんだけど」


 そして僕のことは無視であります、ここ便宜的に僕の病室なんだけど?


「……ボクはないよ。ヤマギシさんと話すことなんか、ない」


 高山さんは顔を青くして、椅子を引いて僕の後ろへ。

その男の視線を、大木政宗でガードするという戦法に出た。

効果的なシールドですねえ。


「待ってよ。それってひどくない? 俺なんかした?」


「もう話しかけないでって言ったよ、ボク」


 すいません、怪我人を挟んで喧嘩すんのやめてくれませんか?

……って、知らん奴ならそう言うけどね。


「だから、なんでだよ!」


 おお、この男の子はモラハラDV亭主になる素質がありますなあ。

急に叫ぶのって怖いからやめてくれませんか?


「そ、そういうところ! 言葉遣いも乱暴だし、下の子達とか子供に横柄だし! 仕事適当だし無駄話ばっかりしてるし! 警察のヒトと喧嘩してるし! あと、何回断っても告白してくるのがキモいし!!」


「う、ぐ……!」


 すげー! 高山さんの攻撃力が高すぎる!

ピストル向けたら戦車が突撃してきた感じ! オーバーキル!!


「うげえ、っていうか何回も告白するのキショいね~?」


「そ、そうなんです! 気持ち悪いんです!」


 この大木政宗、援護射撃には乗る男!

弱った敵は死ぬまで叩けの精神です!


「今ザーッと聞いても好かれる要素皆無じゃんキミ? それであんなドヤ顔で『俺なんかした?』はちょっとメンタルが強すぎるよ~? 『なんでだよ!』じゃないでしょ~?」


 おお、プルプルして顔が真っ赤だ。

ここが勝機だ! 叩け叩け~!


「お前関係ないだろォ!!」


「ありますううううう! ここ僕の病室でええええ! この子は僕のお友達ですうううううううう!」


 あ、大声出したら傷痛い!

おごごご……でも大声にはそれを超える大声で叩き潰すぅう……!


「高山!」


 あ! 口では勝てないから実力行使に出た! わかりやっす!


「ヘイファッキンガイズ! フリーズ!!」


 布団に隠していた銃を突き付ける、僕!

なんで英語かはよくわかんない!


 ヤマギシは銃を見て怯んだけど、ドヤ顔で笑った。


「そんなの偽物だろ! 撃てるんなら撃ってみろよ!!」


「あ、いいの? はいはーい」


 バスバスバスン! うーんブローバックがいい感じ!


「あぎゃぎぃい!? あああ! ああああああ!!」


 発射された弾丸はヤマギシくんの男性の象徴的なポジションに全弾命中。

彼は、間抜けなドヤ顔を一瞬で崩壊させて床に倒れ込んだ。

そーれ追い発射! 追い発射~! バスバスっとな~♪


「うぐぅうううう! ううぐ、いぎいいい! があああああッ!」


「高山さ~ん、僕のバッグに入ってるマガジン取って~、細長いの」


「へあ? は、はい」


 あっけに取られているけど、高山さんはすぐに動いてバッグから予備マガジンを取ってくれた。

チャキンと装填! コッキングして~……バスンバスン~♪


「おごぃおお……あ……」


 おお、拡張ロングマガジンの威力ときたらどうだ。

しめて60発分の弾丸を浴びせたヤマギシは、床でグネグネ動くだけのキショい物体と化している。


「あ、あの……それって玩具の鉄砲ですよね?」


「そだよ~? co2ガスガンって言うんだ。18歳以上指定の高級なオモチャです」


 龍宮のトイガンショップから回収した逸品です。

税込み5万8700円!


「オモチャでもこれだけ撃たれれば痛いよねえ。ま、彼にもいい薬になったんじゃなーい?」


「そ、そうなんだ……うわぁ……」


 ……まあ、護身用として出力を弄る改造はしてるし、装填されているのは自然に還るBB弾じゃなくて小さな鉄球ですけどね! 害鳥をアレする用途で使うやーつ!

かつての世界で使ったら警察案件だけど、この世紀末世界なら優しい部類の武器になりまーす。

なんたってモノホンを持ったチンピラが闊歩してると思うし~?


 あ、走る足音だ。


「大木さん! どうされましたか……これは!?」


 息せき切って走り込んできた警官が、床でグネっているヤマギシに目を丸くしている。

実は、ヤマギシがヒートアップした時に布団の中でスイッチ入れてたんだよね、本部への無線ナースコール的なやーつを。


「この男がこの子にゲスい行為をしようとしてたので、護身用のオモチャで撃ちました。あ、このスマホで録画してますんでどうぞ~」


 そして、枕元のスマホはしれっと録画モードになっておりまぁす。

僕っては腕っぷしは弱いけど、喧嘩はそこそこ自信があるのよね。

避難所でイキってるチンピラなんて、外にいるゾンビと比べたら雑魚も雑魚よ、フハハ!


「そうですか……お怪我は?」


「超元気です。あ、それと婦警さん呼んでくれます? ちょいとお話が」


「わかりました!」


 警官はスマホを受け取って……遅れてやってきた自衛官と一緒に去って行った。

もちろん、ヤマギシも一緒に回収してね。


「あ、あの男なんとかしろってぇ! 襲われたんだぞ、お、俺は被害者――」


「はいはい、話は後で聞くから」「そうか、大変だったな」


 1ミリも話を聞いてもらえてない……アワレ!


「ぷぷぷ……見て高山さん! アイツ内股で連れてかれてるよ! 間抜け! 近年まれに見る間抜け!」


「あ、あはは……」


 高山さんはドン引きしている。

まあね、ここで爆笑するような子じゃないからね。

朝霞ちゃんは手を叩いて笑いそうな気がする、とてもする。


 喚くヤマギシの声が遠ざかり、また静寂が戻ってきた。


「とまあ、これで万事解決かな。婦警さんに今まで何されたか言ってね~? たぶん隔離されると思うけど、一応ね」

 

「は、はい……ありがとうございます! 大木さん!」


 ……これ、ライク要素が更に強化された気がする……!

でも、あの場で『あ、僕無関係なんでゲヒヒ! ご自由にどうぞ! フィヒヒ!』とは言えないもんな~……


「気にしない気にしなーい。アホな男が全部悪いの、全部ね~……」


 本当にね! あの野郎! 畜生!

やっぱり恋愛にうつつを抜かして周りが見えなくなるようなアホは駄目だな!


「あきら先輩~! あ、やっぱりここにいた~!」


「なんかあったんですか?」


「あれ、なんだろこの球~?」


 あ! 璃子ちゃんフレンズが来た!

やったあ! これで有耶無耶になるぞ~!


「やあいらっしゃい皆! これからちょっとしたら映画鑑賞とかしな~い? お菓子もジュースもアルヨ!」


「「「わ~い!」」」


 ふふふ……田中野さんがくれたお菓子の在庫は無限……じゃないけど、いっぱいあるからねえ!


「あ、鉄球拾わんとあだだだ」


 傷がいたーい! 全部ヤマギシのせいだ!


「ボクがやりますよ、ボクが~!」


 こ、これ以上好感度を稼がないようにせねば……!

嗚呼、早くおうちに帰りたいよ~!!



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― 新着の感想 ―
大木くんの話にハズレなし! とりあえずろくに動けなくても話になる男、やるわぁ… にしても珍しく田中野さんではなく大木くんにいったか…まぁ懐いている分には彼は人畜無害だからね。
とある物に使われてる鉄球が丁度BB弾の代わりに使えたりするんですよねー
あきらさんが大木君の女性恐怖症的なトラウマを溶かしてくれることを祈っています、
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