68話 原野散歩日和のこと
『無職マン』書籍1巻、8月8日発売です!!
「……またか」
現在時刻、8時半。
朝起きると、熱と圧迫感。
横を見ると……いた。
「すひゃあ……すひゃあ……」
わが親戚、朝霞。
牙島出身のうら若きJKだ。
そのJKは……週に4回くらいのペースで、俺の布団に潜り込んで寝ている。
コイツは本当に……もう……
コイツ以外にもたまにアニーさんが潜り込んでいるが、今日はその気分ではないらしくていない。
助かった……あの人はなんか朝霞よりも大人だからより危険な気がするしな。
「おい朝霞、朝だぞ起きろ」
ギッチギチに絡みつきやがってからに……ワイヤーで縛り付けられてる気分だぜ、ホントに。
こいつの巻き付き、一体どういう理屈の技なんだよ……
「起きろって、おい」
「……んやぁ……あとろくじかんん……」
「馬鹿じゃねえの……」
二度寝の規模超えてるじゃねえかよ、昼過ぎまで寝る気か。
「ふぁふ……ふぁ」
足元でモゾモゾする気配。
「サクラ、サクラ~」
呼ぶと、しばし間があって軽い振動。
愛犬のサクラがやってきた。
今日は足の間で寝る気分だったらしい。
「わふ!わうっ!」
「あばばばばおはようあばばばば」
朝から元気いっぱいのサクラが、顔面をベロンベロン舐めてくる。
ドッグフードの匂いがする……!
「サクラ、朝霞ねーちゃんを起こすの手伝ってくれ」
「わう、ふぁふ……おんっ!」
ひとしきり顔を舐めて落ち着いたであろうサクラに声をかける。
彼女は俺と朝霞の状況を見て……了承するように吠えた。
子犬だってのに賢くていいねえ、ウチの愛犬は。
「わふ、わん!おーん!」
「んやぁあ……にいちゃんダイタン……♡」
サクラが耳元で吠え、首筋を舐め回している。
そして、それを……とんでもない勘違いする朝霞。
俺はどんな変態だと思われてるんだよ。
「んはぁ……もうシンボウたまらんし……イチヒメニタローするし……!!」
「ぎゃん!?ひゃん!?」
何をどう勘違いしたのか、朝霞は巻き付きを解除してサクラを抱きしめて頬ずり開始。
一瞬で動けなくなったサクラは、俺の方を見て助けを求めるように鳴いた。
一姫二太郎は動詞じゃねえよ……
「ヴァウ!ヴァウヴァウ!!」
どうしたもんかな……と、考えていると。
開いた扉からなーちゃんが猛然と駆け込んできた。
妹分のピンチだと思ったんだろう。
「きゅ~ん!きゅお~ん!!」
「……バフ!」
なーちゃんはベッドの上の惨状を見て、『またか』みたいな感じで鳴いた。
そして、俺に『どうにかしろよお前』的な視線を送ってくる。
……表情豊かだな、このボルゾイ。
「ふわぁ……朝から賑やかだね~……何この状況」
「俺が知りたい」
寝ぼけまなこをこすりながら部屋に入って来た璃子ちゃんに、俺はとりあえずそう言った。
・・☆・・
「朝霞おねーちゃんは毎朝元気だね~」
「女は元気が一番なんよ、璃子っち」
自家製パンを頬張る2人。
うーん、今日の朝ご飯もとっても美味い。
材料を集めてきたのは俺だが、作ったのは斑鳩さんとねえちゃんだ。
足を向けて寝られんな……なんという香ばしさだ、たまらんぜ。
「お前らも美味いか?」
足元で朝飯を貪っている二匹に聞く。
「はううう!ももふ!」「ウルル!ヴァウ!!」
大満足みたいだな。
お高いドッグフードはお気に召したようだ。
ゾンビまみれの状況でペットフードを回収する連中なんてほぼいないだろうし、店が開けるくらい回収した甲斐があったってもんだ。
「いっくん、ジャムいる?」
「ありがとう、もらうよ。見かけない色だなこれ」
ねえちゃんが差し出してきたのは、小瓶に入ったジャム。
なんだろうこれ、市販品じゃないよな。
「ヤマモモのジャムなの。この前無我ちゃんが取ってきてくれたのよ~」
「先輩もマメだな……ん、甘酸っぱくて美味い! こんなのが山に生えてるなんて……!」
酸味が強いが、爽やかな感じだ。
初めて食べるけど、子供たちも問題なく食べられそうだな。
「昔に誰かが植えたんでしょうね~。ヤマモモは保存がきくし、とってもいい所だわ、ここ! 他にも食べられる果実が多いし、素敵ね~ジェシカちゃん!」
「はい、冬でも問題なく生活できるように今から保存食を作りましょう」
ねえちゃんとジェシカさん、なんか仲いいな。
そして流石の主婦力である……頼もしい!
なお、食卓にいるのは4人だけ。
七塚原夫妻は子供と外で畑仕事、外人部隊3人はまだ寝ている。
後藤倫パイセンは……たぶんソラと倉庫で寝てるだろ。
神崎さんと式部さんは、定期連絡で朝一番に詩谷まで行ったらしい。
「ね、ね、おじさん。大木さんだいじょぶかな?」
口の端にジャムを付けた璃子ちゃんが心配そうだ。
「大丈夫っしょ~? あっこなら。お医者さんも薬もあるし……だいじょぶだよね?」
口の周りにジャムを爆撃された朝霞も、なんだかんだで心配そうである。
どんな喰い方したらそうなるんだよ、全く……
「もっときれいに食え女子高生……ああ、大丈夫大丈夫。大木くんは向こうでもむっちゃ重宝されてるみたいだからな、下手な扱いは受けないだろうよ」
「むわわわわ」
朝霞の口を拭いてやりつつ、そう言う。
これは言わないが、あそこで駄目だったら現状どこでも駄目だと思う。
あんなに薬品やらなんやらがそろっていて、医者もいる環境なんて他には中々ないからな……
「鉄パイプが貫通したって言っても臓器は無事なんだからさ、大したことないよ」
「大したことあるって私は思うな!」
「ソレはあーしもさすがにヨウゴできんし~」
何故揃って俺にジト目を向けるのか、コレガワカラナイ。
大丈夫だって、大丈夫。
「政宗ちゃんも大変ねえ。今まで色々作ってくれて大助かりだけど、長めの休暇だと思って養生して欲しいわ~」
「彼はとてもいい青年ですが、少し……いえかなりワーカーホリックの気配がありますからね。いい休みになるんじゃないでしょうか」
働きもののねえちゃんたちにとっても、大木くんは働きすぎらしい。
積極的に働きたくない無職の俺としては、もはや雲の上の存在だが。
「わふ……わん!」
「ヴァウッ!」
食事を終えた犬二匹が、嬉しそうに社屋玄関へ走って行く。
今からゾンちゃんも加えて恒例の無限鬼ごっこなんだろうか。
俺から見れば苦行だが、彼女たちにとっては無茶苦茶楽しい遊びらしいからな、アレ。
「今日は何すっかなあ……」
「おじさんはこの前までむっちゃ頑張ったから、お休みでいいと思うな」
「そーそー!たまにはホネヤスメしないとだし!」
そんなに頑張ったか?
別に死ぬほどの目には逢わなかったが……?
「急な用事がないならゆっくりしていなさい。あ、子供たちと遊んであげると喜ぶわよ~?」
「そうです。みんな田中野さんを心配していましたし」
むうん……じゃあ、今日はそうするかな。
別に急に何かがいるってわけでもないしなあ。
「あ!そーだにいちゃん、アレしよ、アレ!」
「どれだよ」
・・☆・・
「久しぶりの外はどうだ? かあちゃん」
「ブルル……フシュ」
俺の問いかけに、漆黒の馬体をしたヴィルヴァルゲが何事かを答える。
意味は分からんが、目は穏やかなのでリラックスしてそうだ。
「わふ!」「ウォン!」「ぷるる!」
サクラとなーちゃん、そしてゾンちゃん。
彼女らは、じゃれ合いながら少し先を走っている。
天気は快晴。
降り注ぐ日光もちょうどいい……最高のお散歩日和とはこのことだな。
「い―天気だね~、アガる~!」
「ねー!家も悪くないけど、やっぱお外って開放感すごいよね!」
散弾銃を持った朝霞と、ライフルを背負った璃子ちゃんもニコニコ。
持ってるものの戦闘力が高すぎるが、それはそれ。
のどかで穏やかな散歩だ、散歩。
朝霞の提案により、俺はヴィルヴァルゲ母娘を連れて原野をウォーキングしている。
ここが龍宮や詩谷なら危なくてしょうがないが……超の付く過疎地域だ。
それに、元から少なかった在来ゾンビは……七塚原先輩によってその殆どが成仏している。
間違いなく、近隣ではかなりの安全地帯だろう。
子供たちが安心して外に出られるように、こうして何回か見回りをしておくことにしよう。
ゾンビが出ても、動物勢は安全だし……いざとなれば朝霞と璃子ちゃんはヴィルヴァルゲに乗って逃げてもらうこともできる。
落馬を繰り返しても諦めなかった朝霞は、今ではそれなりの速度でヴィルヴァルゲに乗れるようになってるからな。
馬の方も超絶賢いので、背中の人間に注意を払う余裕もありそうだし。
「ブル」
引綱は持っておらず、鞍だけをしたヴィルヴァルゲ。
彼女は高柳運送を安全な場所だとわかっているので、逃げる気配もない。
逃げても他にこれくらい安全な場所は中々見つからないと思うからな。
ゾンビには狙われることはないが。いつぞやのヤクザみたいな連中に食肉目的で殺されるかもわからんし。
……返す返すも、あの連中は本当にクソだった。
絶滅させてよかったと心から思うよ、本当にな。
ヴィルヴァルゲははしゃぐゾンちゃんの方を観察しながら、たまに道草を文字通りモグモグ。
景色を楽しみながら軽快な蹄の音を響かせている。
「にいちゃん、どこまで行く~? 龍宮まで行っちゃう?」
「硲谷行っちゃう~?」
「行かないよ、最低でも5キロはあんだぞ……それはもう散歩じゃなくて遠足って言うんだよ」
歩けると言えば楽勝で歩けるが、さすがにそれだけの距離をこの布陣で行くにはロックすぎる。
「んじゃ、あっこの小学校まで行こうよ~! 校庭でのんびりしよ!」
「あ、それいいね! 子供たちが行く場所の下見になるし!」
……苦い記憶が残る、小学校跡地。
完膚なきまでに燃やしたお陰で、あそこのご遺体たちは揃って骨になっているだろう。
後で知ったが、燃え残りがないように神崎さんと式部さんが追加で色々やってくれたらしい。
子供たちが行っても、あの惨劇に気付かれることはないだろう。
……今なら重機も調達できるし、墓も作ってやれるんだがなあ。
あ? 根城にしてたカスども?
知らん、疫病の原因にならんなら一生野ざらしでいい。
成仏なんぞさせてやるものか。
化けて出たら『魂喰』でもう一度殺してやるわ。
「みんな~、あっこ行くよ~」
「わん!わおーん!!」
朝霞の掛け声に、『おさんぽ延長ですか?!?!』的な感じでサクラが嬉しそうに吠えた。
「まだ行けるか? いっで!?」
「フシュ!」
冗談のつもりでヴィルヴァルゲにそう言ったら、『舐めてんのか』とでも言うように軽くタックルされた。
そうだな!お前日本ダービーとか勝ってるもんな!
・・☆・・
「わふ……」
「なにが『いつか生け簀にしましょうよ!』だよ大木くん……もう既にいるじゃんか」
校舎が焼け跡となった小学校。
そこに残っている建造物は……年季が入った体育館と、使われなくなって久しいプール。
緑がかった水面を有するそこには……最近見慣れた魚影が見える。
ヘリに寝そべり、目をキラキラさせて見いるサクラの視線の先には……ブラックバスの群れ。
どうやら大木くん、水路から調達した奴らを一部ここへ移したらしい。
いったいいつのまに……退院したらここを釣り堀にでもする気なんだろうか?
そん時は俺も手伝うがな。
「いっぱいいるねえ。ホゾンショクには困らないね!」
璃子ちゃんも嬉しそうだ。
逞しくなっちゃってまあ……
朝霞となーちゃん、そして馬二頭はグラウンドでのんびりしている。
校門以外はフェンスに囲まれてるし、体育館もあるからここは緊急の避難場所によさそうだな。
高柳運送がどうこうなるとは考えにくいが……こっちの方が標高が高いし、未曽有の大洪水なんかが起きたら逃げてこようか。
「ワンちゃんもいて~、お馬さんもいて~、ご飯も食べられて、お風呂にも入れちゃう!」
「わふ?」
璃子ちゃんがサクラを抱え上げる。
「ほんと、ここに拾ってもらえてよかった! おじさんと凛おねーさんのオカゲだね!」
「わん、わふ!」
嬉しそうな璃子ちゃんに嬉しくなったのか、サクラがその頬を舐める。
基本的に人間大好きだからな、この子。
「大きくなったらオンガエシするからね、おじさん!」
「なーにが。気にすんなって、たまたま運がよかっただけさ」
詩谷で単独ウロチョロしてた頃から比べたら、知り合いも仲間も増えちまったな……ま、後悔はしていないが。
俺は、俺がやりたいことをやりたいようにやっただけさ。
その結果がこれなんだ、甘んじて享受しよう。
「アニーおねーさんくらい背が高くて、キャシーおねーさんよりもおっぱいが大きくなるから期待しててね、おじさん!」
「そこは……まあ、うん、その、頑張れ痛いッ!?」
脛を!的確に脛をこの子は!!
「かわいそうな子を見る目で見ないの! 絶対絶対、ハリウッド女優もドゲザするような美人になってやるんだからッ!!」
いくら美人になっても女優は土下座しないと思うが……この場で言うともう片方の脛もお亡くなりになりそうなのでお口チャックマンになるとする。
「わかったよ、そんじゃ……璃子ちゃんが超絶美人に成長するまで、おじさんがしっかり守ってやらんとなあ」
最近じゃ銃も使いこなして、若干護衛もいらなくなりつつあるが……それはまた別の問題だ。
この子はまだ中学生、子供だ。
せめて成人するくらいまでは、なんの苦労もなく成長させてやりたいところだなあ。
「ぷ、ぷぷぷプロポーズはまだ早いって思うな!?」
「は? 今のどこに求婚要素が存在し痛ァい!?」
もう片方の脛!もう片方の脛も!!
おのれ……恐るべき使い手に育ちよったわ!!
「斑鳩璃子って確かに超強そうな名前だもんな……ゆくゆくは蹴りでドラム缶を引き千切りそう……」
おおお……ごついブーツで蹴られた脛くんが地味に痛い……流石はアウトドア用のお高いブーツだ……!!
「何なのそのカンソー!? わた、私はそんなムキムキになりたくないからねーッ!」
璃子ちゃんの叫びに、腕の中のサクラは何故か哀れな生き物でも見るようにしていた。
なんだね娘よ、急にIQが上がったみたいな顔をしてからに!!
・・☆・・
「おう、どがいじゃった外は。子供らあも問題なく行けそうか?」
散歩から戻り、馬房に馬母娘を入れていると七塚原先輩が掃除をしていた。
「新手のゾンビは今の所無しですね。引率付きで小学校跡までなら問題なく行けるんじゃないスかね……途中の住宅街だけ気を付ければ、後は見晴らしのいい田んぼ区画ですんで」
「あらかた間引いたけえの。元々おったゾンビは後は家の中にしかおらんじゃろう……ゆくゆくは一軒一軒虱潰しにするんも考えとる」
なんてことないように言うけど、相変わらずこの人は子供の安全に関して手は抜かないな。
「外から来る分にはどうしようもないですけどね。でもここなら危険もすぐにわかりますし……初めは車で送った方がいいですかね」
「ほうじゃのう、今度天気のええ日に試そうか。子供らあも羽を伸ばさしてやらにゃあ可哀そうじゃけえのう……」
マジで子供たち、一生懸命働いてるもんなあ。
そんなに頑張らなくていいって言ってもみんな頑固なんだよなあ……働かないと捨てられるとでも思っているのか。
……不憫だ、不憫すぎる。
探索に出たらバンバン土産を持って帰って来てやろう。
「むーおじちゃん、おじちゃ~ん」
と、この話はここで終わり。
葵ちゃんが小走りでやって来た。
……俺はどうやら『おじちゃん』が固有名詞となっているらしい。
いやまあ、いいけどさあ……
「おう葵ちゃん、どがいした~?」
「わはー」
先輩が顔をほころばせ、軽々と抱え上げる。
迫力あるライオンフェイスは、笑っていても相変わらずコワイ。
コワイが、ここの子供たちはすっかり慣れっこである。
「あのね、おきゃくさんだよ~? アニーおねえちゃんがね、こっちにクルマがくるって~」
屋上で偵察をしてくれているアニーさんからの伝言か。
「んとね、『はいいろ』だって!」
「おう、わかった」「了解~」
それを聞き、先輩と一瞬アイコンタクト。
各種装備の点検をしつつ、正門へ向かう。
「わしが正面で対応する、おまーは水路経由で後方じゃ」
「了解でーす」
アニーさんと決めた接近者の合言葉。
安全そうなら『青』ヤバそうなら『黒』そして……微妙なら『灰色』
なので、今回は要警戒って感じかな?
水路に飛び降りると、驚いたブラックバスが盛大にジャンプした。
……ゾンビよりビックリしたぞ、オイ。
今日の装備は兜割に長脇差。
『魂喰』はお留守番だ。
ざぶざぶと水をかき分けて歩き、正門を通過。
橋の下まで来たので、ここで待機する。
しばらくすると、車の音がした。
軽……じゃないな、普通車か。
ええと……この感じじゃ、2台ってところかな。
その音は、真っ直ぐこちらへ向かって来て……橋の向こうで停止した。
アイドリングしたまま、ドアの開く音がして……
「(3人か)」
「(正解、田中にしてはよくやった)」
……危うく叫ぶところだった。
後藤倫先輩、いつの間に俺の後ろに。
「(チンピラだといいな。最近ゾンビしか殴ってないから腕が鈍る)」
「(……ノーコメント)」
南雲流で一番好戦的なのは師匠だが、この人はたぶん2位だな。
「――あの、すみません。龍宮から来たんですが……こちらは避難所ですか?」
初老っぽい男の声がする。
ふむ、物腰は合格だが……
「すいません、ここは私有地で」
仕事用っぽい七塚原先輩の声がそう返す。
「そ、そうですか……あの、できれば何か食料を分けていただけませんでしょうか? もう3日も食べてなくて……」
「申し訳ありません。ここにも余裕はありませんので……詩谷まで行けば避難所がありますので、そちらに行ってください」
その割には元気そうな声だがな?
ま、俺より他人を見る目のある先輩に一任する。
「避難所ですか!? あの、どこか教えていただいても……」
「詩谷なら中央図書館、友愛高校、水産センターが。秋月なら総合病院です。他にもあるかもしれませんが……把握しているのはそれだけです」
イントネーションは微妙に違うが、先輩の標準語ってなんか違和感あるな。
「(ななっちの標準語、めっさウケる。ともちんならカッコイイしか言わないだろうけど)」
……口に出さなくてよかった、本当に。
「ありがとうございます! そこまでならガソリンが持つと思いますので、行ってみます! 本当に、ありがとうございます!」
「いえ、お力になれず申し訳ない。お気を付けて」
足音が遠ざかり、ドアが閉まる音。
それからすぐに、車は走り去って行った。
……よかった、マトモな?避難民だったようだな。
平時は見向きもされない土地だったが、これからはああいった訪問者は増えそうだな。
「(マトモだった。つまんないね、田中)」
後藤倫先輩のあんまりにもあんまりな発言には、同意しなかった。
やっぱり血の気が多すぎるな、この人……!!