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22話 避難所プチ騒動のこと

避難所プチ騒動のこと




特に問題もなく、やってきました避難所の高校。

見たところ以前と変わりはないようだな。


「着きましたよ神崎さん、ここが警察がやってる避難所です。」


「かなり頑丈な建物ですね・・・」


「お堅い私立高校ですからねえ。」


ゆっくりと正面ゲートに車を進めていく。

こちらを視認したのか、門番役の警官が寄ってくる。

あっ宮田さんと一緒に煙草を吸った若い警官だ。

えーと、森山さんだったかな?


「こんにちは田中野さん!今日はどうされましたか?・・・そちらの方は?」


窓を開けて答える。


「こんにちは森山さん、自衛隊の方が宮田さんにお話があるとかで、お連れしたんですよ。」


「神崎陸士長です。よろしくお願いします。」


助手席から頭を下げる神崎さんを見て、森山さんが動きを止めた。

自衛隊員が軽トラに乗ってたらそりゃびっくりするもんな。


「あ・・・う・・・も、森山巡査であります!!!」


うん知ってるよく知ってる。

どうしたいきなり。

神崎さんもきょとんとしている。


あっ、顔が真っ赤だ。


あ~・・・なるほどぉ、そういうことかあ、神崎さん美人さんだもんね!

若いねえ森山くん!

これからは森山くんと脳内で呼ぼう。



とりあえず挙動不審になった森山くんをなんとか動かして門を開けてもらい、駐車場に停める。


むっちゃダッシュでついてくるな彼。

俺の時とは態度が違いすぎるぞオイ。

まあ気持ちはわからんでもない。


「あのォ!こちらへ!ご案内いたします!!どうぞ!!!」


やる気が空回りしすぎて面白いことになってる森山くんに先導され、校内へ。


「元気な方ですね・・・?」


「やる気に満ちたいい警官ですよ、ええ」


後ろでコソコソ話しながら付いていった。


へえ、職員室が警官の本部になってるのかあ・・・


「おや、こんにちは田中野さん。・・・そちらは?」


「こんにちは宮田さん、こちらh」


「自衛隊の神崎陸士長さんです!!ご用があるとのことでお連れしました!!!!!」


うるっせえ!

鼓膜が死ぬゥ!!


森山くんはちょっと落ち着けよもう!!

逆効果だぞそれぇ!!


「・・・ということですので、あとはおまかせします。神崎さん、俺はこれで失礼します。」


「え?あ、大変お世話になりました田中野さん、いずれまた・・・」


めんどくさいので丸投げしてかーえろ!

由紀子ちゃんを探さないといけないし。

俺は宮田さんと、テンションが上がりすぎて若干、いや大分気持ち悪くなってる森山くんに会釈をして部屋を出た。

男子中学生かお前は。



さーて、由紀子ちゃんはどこかしら。

他校の生徒だから、民間人と同じ区画にいるとは聞いてたんだけど・・・

そこらにいる警察官に場所を聞きつつ進んでいく。

腰の日本刀については宮田さんから話が通っているらしく、特に止められるようなことはなかった。

避難民の方には遠巻きにされたが。仕方ないな。


校舎の外れまでやってきた。

ここに由紀子ちゃんがいるらしい。

えーと、多目的ホール・・・おっここだ。


「すいませーん、坂下由紀子さんはいますかー?」


入り口を開けて声をかけると、ちょうど正面にお目当ての人物がいた。


「あっ!田中野のおにいさん!」


「やあ由紀子ちゃん、こんにちは。」


ラフな格好の由紀子ちゃんがこちらへ走ってくる。

室内には20名程度の人がいた。

老若男女様々だ。

俺は軽く頭を下げて入室する。


「ママのこと、何かわかったの!?」


「ああ、おばさんはやっぱり隣町の病院にいたよ。元気そうだった。」


「ほんとっ!・・・よかったあ・・・」


涙ぐむ由紀子ちゃんに、おばさんの手紙を渡す。


「ただ、どうしても離れられないから今はここに来れないって言われてね。代わりにこの手紙を預かってきたんだ。」


本当は連れて来たかったのだがあの状況では仕方ない。

自衛隊がカバーしてくれてるからここより安全かもしれないし。


「ありがとう!・・・ママの字だ!よかった・・・ほんとによかった・・・」


手紙を読むなり、由紀子ちゃんはポロポロと涙をこぼして座り込んだ。

緊張がほぐれたんだろうな。

似た者親子だなあ。


「坂下に何やってんだおっさん!!!」


泣いてる由紀子ちゃんの肩でもさすってあげようかと近付いたその時、入り口から大声で叫ばれた。

振り向くと、由紀子ちゃんと同じくらいの年齢の男子生徒が立っている。

坊主頭の野球部っぽい子だ。

日焼けしてるし。


「何ってその、慰めようかと思って。知り合いの子だk」


「坂下から離れろ!!」


ずかずかと近付いてくる。

なんか俺の会う若い男性って基本人の話聞かないよな。


「ちがっちがうの原田君!この人は・・・」


由紀子ちゃんが説明しようとするが、涙声でなかなか喋れないようだ。

それをどう勘違いしたのか、野球部くんはいきなり拳を振り上げる。


「てめえ!!!」


いきなり殴りかかるか普通!?

なんて沸点が低いんだ最近の子は。


俺はその向かってくる拳に――――


かぶっていたヘルメットで咄嗟に頭突きを合わせた。


「あがっ!!??」


うわあ痛そう。

両方スピード乗ってたから手首グギってなったわ。

ホントに野球部だったらごめんね。

いや、よく考えたらいきなり他人に殴りかかるやつの手首の心配は無用だわ。


「あのさあ、人の話は最後まで聞けって幼稚園で習わなかったの?」


誤解だろうが何だろうが黙って殴られてやる趣味はない。

手首を押さえてこちらを睨む野球部に言ってやる。


「俺はね、この子の知り合い。で、隣町の病院からお母さんの書いた手紙を届けに来たのよ。」


「そ、そうなんだよ原田君!私、手紙読んだら泣いちゃって・・・おにーさんにいきなり殴りかかるなんてひどいよ!!」


しっかり説明した上に、落ち着いてきた由紀子ちゃんからの抗議。

さらに、いきさつを知っている室内の皆々様からの冷たい視線。


「・・・っ!?」


それらに晒された原田くんは、顔を真っ赤にして部屋から走って出ていった。


「おぉい!!ごめんなさいって言葉、お母さんあたりから習ってないのかぁ!?」


思わず言ってしまったが、それに対する彼の行動はさらなる加速だった。

・・・ひょっとしたら陸上部かもしれんな。


「まったく・・・なんだってんだ。」


「ごめんねおにーさん、ヘルメット大丈夫?」


「まあアイツの手首よりは丈夫だからねえ。」


ピントが若干ズレた心配の言葉に苦笑しながら返す。


「ほんとにひどいよ原田君・・・でも、いつもはああじゃないのになあ。」


「ほう?」


「炊事とか洗濯、畑仕事なんかすぐに代わってくれようとするの。私そんなに体力ないわけじゃないのにね・・・変なの。」


あっそれは・・・

ああなるほどそれであの態度か・・・

おお・・・なんというか・・・不器用・・・

しかも微塵も伝わってない・・・哀れ・・・

思春期特有の哀れ・・・


「そ、そうなんだ。あっそうだ由紀子ちゃん、今度からここに自衛隊の人が常駐することになったんだよ。」


急速に原田くんが可哀そうになってきたので話を逸らす。


「自衛隊?ひょっとしてママの病院の人?」


「あーそうそう、連携を取れるようにね。無線機もあるから、警察の人に聞けばおばさんの様子もわかるようになるかもしれないよ?」


「うわぁ、それ本当!?」


「たぶんね、俺から警察の人にも伝えておくよ。結構手伝ったしそれくらいのお願いは聞いてくれると思いたいし。」


「何から何まで・・・ありがとうおにいさん!」


「いいのいいの、よくしてもらってたからさ。恩返し恩返し。」


君たち母子にはオッサンというクソデカ負い目があるのだし。


その後、少し話をして由紀子ちゃんとは別れた。

由紀子ちゃんは「また来てね!」と手を振ってくれた。

うーん本当に母子揃っていい人だ。

オッサンの遺伝子ホントに入ってるのかな・・・?


思わずまたこっそりチョコバーを差し入れてしまった。

同室の子供の視線が痛かったので、その子たちにも。

こんなこともあろうかと、今日の俺はポケットというポケットにチョコバーをねじ込んでいる。

・・・アリにたかられそう。


さーて、これで宮田さんあたりに由紀子ちゃんのことを伝えれば当面のミッションは終わりだな。

早くおうちに帰って寝たい。

今回で食料もダメ押しで手に入ったし、しばらくは籠って映画でも見ようかなあ。


中古DVDとか、レンタルビデオ店あたりから調達してこようかしら。

ゆくゆくはホームシアターでも作りたいなあ。


そんなことを考えながら、職員室へと急ぐ。

と、廊下の向こうから見覚えのある人影が。

雄鹿原さんだ。



「あっ!たっ田中野さぁん!!助けてくださあい!!」



半泣きで走る彼女の後ろにはゾンビが1体。



ちくしょオ!!今度は何だよォ!?









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― 新着の感想 ―
[一言] 内側ゾンビは破滅への序曲!
[一言] 神崎さんは主人公のヒロインに……主人公次第だな。
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