特別編 神崎凜の胸の内 ②
特別編 神崎凜の胸の内 ②
・・・田中野さんは、馬鹿だと思う。
友愛高校に来てしばらく経った。
秋月よりも・・・なんというか『ゆるい』雰囲気の避難所だと思った。
これは、運営しているのが自衛隊か警察かの違いもあるのだろう。
避難民も、自衛隊よりは警察の方が話しやすいのか・・・結構な無理難題を言う人もいる。
秋月では、叔父の考えで避難民とは意図的に距離を取っているお陰でそのようなことはないのだが・・・
気に入らないなら避難所から出て行けばいいのに、それもしないで文句ばかり・・・
少しは、あの人を見習ってほしい。
だけど、私はそこまで気にしていなかった。
前とは違って、その、『楽しみ』もあるからだ。
田中野さんは、いつもふらりと1人でやってくる。
その時に、少し立ち話や・・・場合によっては一服しながら長目に話すこともある。
その時間が、何より楽しく思えた。
・・・何なのだろう、この気持ちは。
田中野さんと話していると、胸が高鳴ることがある。
こんな気持ちは、初めてだ。
今まで周りにいないタイプの人間だったから、物珍しさでそう思っているのだろうか。
・・・はっきりしない事柄は、前は苦手だった。
でも、今はそんなに嫌でもない。
日々を過ごしながら、私はそんな思いを抱いていた。
そんなある日のことだった。
何やら正門が騒がしい。
また、満員にもかかわらず入れてくれと騒ぐ避難民だろうか。
もう何人追い払ったか、わからない。
ウンザリした気持ちを抱えつつ正門まで行くと、見覚えのある軽トラックが丁度入場してくるところだった。
田中野さんだ。
少し、高揚した気分でいる私に、運転席の彼の姿が飛び込んできた。
いつもとは違って、ひどく慌てた様子の森山巡査に誘導されるその運転席には。
顔中を鮮血で染めた田中野さんが、息も絶え絶えの様子で座っていた。
それを見た瞬間に、私は走り出した。
震える手でドアを開ける仕草をしている田中野さんを引きずり出し、細心の注意を払って地面に寝かせる。
「田中野さん!しっかり!田中野さん!!」
目が虚ろな彼に、必死で呼びかける。
その口が、僅かに動いた。
「びじんって、すげぇえ・・・」
そう呟く田中野さん。
・・・いけない!出血のショック症状で意識が混濁している!!
「ここで応急処置をします!森山巡査!救急箱を早く!!」
「っは!はいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
森山巡査が校舎内へ駆けこんでいくのを横目で見つつ、常備している綺麗なタオルを取り出す。
まずは、傷の確認だ。
とうとう意識を失った田中野さんの顔に、タオルを押し付ける。
・・・みるみる白のタオルが深紅に染まっていく。
顔面は派手に出血する部位だが、それを差し引いてもこの出血量は・・・
押し当てていたタオルを一瞬取る。
傷口を、確認しなければ。
「・・・あぁ」
思わず声が出てしまった。
かなりの重傷だ、これは。
鋭利な刃物で切られたような傷が、彼の左頬から額の右側まで走っている。
特に左頬が酷い。
傷は深く、その奥には白いものが見えた。
・・・骨まで到達している。
一刻も早く、消毒と縫合を急がねば。
「持ってきましたぁあああああああああ!!!」
「神崎さん!!」
救急箱を持った森山巡査と、小脇に担架を抱えた宮田巡査部長が戻ってくる。
よかった、巡査部長がいれば・・・すぐにも保健室へ運べる。
「止血しながら保健室へ運びます!巡査部長!よろしくお願いします!!」
まるで明日を夢見る子供のような顔で失神している田中野さんの顔を、私は全く逆の心境で見ていた。
「・・・これで、なんとか・・・」
「お疲れ様です、神崎さん」
縫合処置を終えた瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。
・・・この避難所には医療従事者がいない上に、薬品も少ない。
それでも、なんとか治療をすることができた。
「・・・彼はどうです?」
宮田巡査部長が、心配そうに聞いてきた。
亡くなった先輩の拳銃を田中野さんが届けてくれたらしく、かなり恩義に感じているようだ。
なお、森山巡査は施術中の血を見て気分が悪くなったようで・・・外で休憩している。
・・・情けない。
彼は本当に警察官なのだろうか。
性根がいいのはわかるが・・・あまりに荒事に向いていない。
「・・・平時なら死ぬような傷ではありません。消毒も徹底的にやりました」
「そうですか!それは・・・よかった」
「秋月なら輸血用の設備があるのですが・・・後は、田中野さんの体力次第です」
寝台の上で眠る田中野さんを見る。
・・・大規模な縫い跡が残ってしまった。
この傷跡は、恐らく死ぬまで残るだろう。
勿論、命あっての物種だけれど・・・それでも、もう少し縫う練習をしておけばよかった。
「・・・相手はゾンビではないようですね」
軽トラックから運んできた、彼の愛刀を持つ。
鞘から引き抜いた刀身には、薄く血の跡が残り・・・隠しきれぬ血の臭いがする。
かなりの人数を斬ったのだろう。
「・・・この状況で、他人を襲う人間がいるとは」
巡査部長は、深く溜息をついた。
彼が『襲う側』でないと確信している。
信用されていますね、田中野さん。
「ゾンビ程度で、彼がどうこうされるはずはありませんし」
「・・・随分と、信頼なさっているのですね神崎さん。確かに、普段の立ち居振る舞いを見れば・・・彼がかなりの使い手だということはわかりますが」
巡査部長は、その特徴的な耳の形状から柔道家だとすぐわかる。
普段の姿を見ているだけで、ある程度の予測はできるのだろう。
「私は、実際に彼の戦うところを見ましたから」
いつかの情景を思い返す。
あの、舞うような動きを。
「・・・へくちっ」
と、田中野さんが可愛いくしゃみをした。
そのギャップに、思わず口元がほころんでしまう。
「おっと・・・何か服を着せてあげないといけませんね」
他の傷の有無を確かめるために、今の田中野さんは上半身裸だ。
脱がせた服は、血と汗でドロドロだったので着せることはできない。
今の今まで必死だったので、意識する暇もなかった。
「そういえば・・・軽トラの荷台に服が積まれていました、取ってきましょう」
「私が・・・」
「治療でお疲れでしょう、これくらいはお任せください」
そう言うと、巡査部長はすぐに保健室を出て行った。
・・・改めて、眠る田中野さんを見る。
「あなたはいったい・・・どんな人生を歩んできたのですか」
思わずそう口から出るほど、彼の体は特異なものだった。
凄まじく鍛え上げられた肉体だ。
見せることを目的としたものではなく、実際に戦うための筋肉。
・・・子供のころに、叔父と風呂に入った時に見たような肉体。
もっとも、叔父はもっと分厚い体だったけれど・・・
だが、問題はそこではない。
服で隠れる場所に、かなりの古傷がある。
虐待や一方的な暴力でついたものではない。
まるで、訓練や・・・それこそ殺し合いで付いたような傷ばかりだ。
南雲流の、訓練の結果だろうか。
「不思議な人・・・まるで戦国時代から来たみたい、ですね」
胸板に刻まれた、まるで槍で突かれたような傷。
それに、思わず手が伸びる。
指が、そうっとそこに触れた。
・・・暖かい。
「戻りました・・・おや、どうされました神崎さん。座っていてもよろしいのに」
「・・・彼が、呻き声を出したので心配で」
・・・危なかった。
巡査部長にはすんでの所で気付かれずに済んだ。
・・・まったく、何をしているのだ私は。
こ、これでは・・・まるで痴女、じゃないか。
「お疲れの様子ですね、休んでいただいてけっこうですよ?後は我々が・・・」
巡査部長がそう言うのを、私は少し火照った顔を意識しながら聞いていた。
保健室の外にいた坂下さんの娘さんに、涙目で病状を聞かれた。
どうやら、彼が運び込まれるのを見ていたらしい。
その後ろには、彼に助けられたという小動物のような雰囲気の女子高生まで。
彼女に至っては、泣きに泣いたようで目が腫れてしまっている。
・・・随分と、好かれているようですね、田中野さん。
「さーて、まずは一か所目ですねえ」
「はい、頑張りましょう」
車から降り、大きく伸びをする田中野さんに返す。
その姿には何の気負いもなく・・・あらためて、彼の異常さを身をもって痛感する。
あれから、田中野さんは驚くべき回復力を見せた。
いくら死ぬような怪我ではないとしても・・あれだけ出血したというのに。
治って・・・というか、血が止まってすぐに動こうとしたので、無理やり休養させたが。
どうやら彼は、借りを作ることを極端に嫌うらしい。
治るや否や、宮田巡査部長に直談判し・・・壊滅した避難所の偵察任務を捥ぎ取ってきた。
それで、恩を返すつもりらしい。
誰も彼も、自分のことで手一杯だというのに・・・本当に、変な人だ。
私も無理やり同行することにした。
いくら治ったからといって、あの状態の彼に1人で行動させるわけにはいかない。
事前に話を通さなかったので、巡査部長にまで驚かれてしまった。
しかし、彼の治療をしたのは私だ。
その予後を見守る義務がある。
・・・他意は、ない。
「・・・大丈夫かしら」
双眼鏡を覗きながら、思わず呟く。
視界の中の田中野さんは、体育館の屋根に丁度登った所だ。
嬉しそうにこちらへ手を振っているのが見える。
・・・まったく、もう。
避難所探索1件目。
北小学校の偵察をしていると、屋上に小学生が取り残されているのを発見した。
一刻も早く救助したいところだが、校舎も敷地内も多数のゾンビがいる。
私も田中野さんも今更ゾンビごときに後れを取ることはないが・・・とにかく数が多すぎるのだ。
かといって時間をかけ過ぎれば、要救助者の体力が持たない恐れがある。
「じゃ、俺行きますんで。援護よろしくお願いしますね~」
そう軽く言って、彼は単身で乗り込んでいった。
私も同行しようとしたが、援護してくれと止められてしまった。
『駄目だったら軽トラあげるんで、さっさと逃げてくださいね?はいこれ鍵』
そう言われて、柄にもなく怒ってしまった。
冗談だとは思うが・・・彼のそれは、冗談に聞こえない。
何度か見たが、田中野さんの戦い方は異質だ。
時々、まるで自分の命を危険にさらしているような戦い方をする。
祖父から聞いた、南雲流の昔話を思い出す。
恩義を受けた村人を守るために、野盗の群れに立ち向かって全身に傷を受けてなお引かなかった1人の浪人の話。
撤退する友軍の殿を務め、追跡隊の武将もろとも果てた足軽の話。
没落した武家の姫君を、その人生をかけて守り抜いた侍の話。
それら数々の使い手のように、誰かのために命をふいと投げ捨ててしまうように見えたのだ。
だから・・・冗談に聞こえなくて、酷く腹が立って、怒ってしまった。
田中野さんは、避難民を保護して帰還した。
途中いくつかひやりとする場面もあったが、どうやら杞憂だったようだ。
・・・空中で身を翻しながらフェンスにつかまった時は、また見とれてしまった。
保護した女の子を体に縛り付け、彼は息も絶え絶えといった感じで座り込んでいる。
抱えられた子供は、楽しそうにけらけらと笑っている。
・・・たった1人で生き残っていただけあって、彼女も中々強い精神力を持っているようだ。
ロープをほどかれたその子に自己紹介をする。
桜井美玖ちゃんという名前だった。
くりくりとした目が可愛らしい、利発そうな子供だった。
「ふわー・・・」
当の美玖ちゃんは、何やら目を輝かせて私を見つめている。
自衛官が珍しいのだろうか。
「どうしたの、美玖ちゃん?」
「いちろーおじさんが言ってたとーりだね!すっごくきれい!びじん!!」
「えっ」
思わず間抜けな声が出てしまった。
た、田中野さん・・・?
「あっ」
ばつが悪そうな声を出して、田中野さんは視線を逸らした。
自分でもわかるほど、顔が熱い。
心臓が、酷く脈打つのがわかる。
何故、だろうか。
田中野さんがこちらを見ないことをいいことに、撤退の準備をすると言って軽トラの方へ行ってもらった。
い、今は・・・彼の顔を見れそうもない。
綺麗・・・?
わた、私が・・・?
そ、そんなこと・・・男の人に初めて言われた。
駄目だ、考えがまとまらない。
私らしくもない。
「かんざきおねーさん、どうしたの?顏がまっかだよ?」
美玖ちゃんが不思議そうに問いかけてきた。
な、なんとか誤魔化さなければ・・・!
「あ・・・う、くしゃみが出そうなのを我慢してたのよ。ねえ、田中野のおじさん、ほんとにそんなこと言ってたの?」
それでも気になるので、少し欲張ってみた。
我ながら苦し紛れだが、大丈夫だろうか。
「うん!あとやさしくて強くてかっこいいって!!」
『かっこいい』・・・か。
今まで、同性からは幾度となく言われた言葉。
コンプレックスにもなっていた言葉。
「そう・・・そうなの?ふふ・・・」
でも、不思議と・・・その、嫌ではなかった。
彼に、言われたからだろうか。
不思議そうにこちらを見つめる美玖ちゃんの頭を撫でながら、私は胸の奥が温かくなるのを感じていた。
・・・これは、嫌ではない。
この鼓動の高鳴りも、好きになれそうだ。
美玖ちゃんを保護してから数日後。
私達は、最後に残った避難所である詩谷市民会館の偵察に出た。
そこで私は、人間の底知れぬ悪意に・・・初めて出会った。
離れた場所から偵察をしていて出会った偽物の警官。
少し話すとすぐに化けの皮が剥がれたので、即座に彼らを無力化して拘束した。
・・・その際に、田中野さんが私を心から信頼しているというようなことを言ってくれたのは・・・少し、いやかなり嬉しかった。
だが、尋問した結果、恐るべき事実が発覚したのだ。
彼らは警官の振りをして避難民を招き入れ、欲望のままに殺戮の限りを尽くした。
ゾンビではなく、同じ人間を。
自らの、身勝手な欲望で。
体の芯が、凍えるほど冷えるのが分かった。
助かるためなのか、捕縛した偽警官はペラペラと喋る。
自分たちがしてきた、恐ろしい行為を。
「・・・こ、の・・・」
それでもなお、そんなことをしてきてなお。
私達に命乞いをしてくる偽警官。
私は、初めて同じ人間に殺意を覚えた。
この口を、閉じさせなくてはならない。
これ以上、喋らせてはならない。
―――そう思って銃剣を突き立てようとした瞬間には、田中野さんの日本刀が偽警官の喉を真っ直ぐ貫いていた。
「おやぁ、死んでいる。オカシイナー、目を離したすきにゾンビにやられたみたいですねえ」
冗談めかして呟いた彼の言葉は、私以上に冷え込んでいるように感じた。
ただ・・・前髪の隙間から覗く目だけが、恐ろしいほどの熱を持っているように見えた。
なんということだ。
彼に手を汚させてしまった。
私が、やらないといけない事だったのに。
自衛官である、私が。
狼狽する私に、田中野さんは優しく肩に手を置いてくれた。
その温かい感触に、冷え切った体が溶けていくような錯覚を覚える。
・・・ああ、この人は、なんて・・・
なんて、優しいんだろう。
残りの1人は、私が『処理』した。
その胸を銃剣で貫いた時、『ああ、こんなものか』と感じたのを覚えている。
基地で殺した、古橋陸士長の時より軽く感じた。
人を、殺したというのに。
・・・そして、私は覚悟を決めた。
敵対するものは、ゾンビであろうと人間であろうと・・・『処理』する覚悟を。
どちらも、生かしておいてはいけないものだ。
自衛官としてはあるまじき考えだが、それもいいだろう。
この地獄のような現実を生き抜く。
そのためには・・・こうするしか、ない。
「目を離した隙にゾンビにやられたようです。まいりましたね」
「最近物騒ですねえ。コワイナー」
殺害現場から戻って田中野さんと軽口を叩き合い、お互いに笑う。
彼の目が、私を心配するのがわかって・・・それが、たまらなく嬉しかった。
市民会館へは、彼が突っ込んで私が遠距離から援護するという形になった。
ついて行きたかったが、戦略上我々が実行できる作戦において・・・これが最も効果的だと判断した。
いつもいつも、田中野さんばかり矢面に立たせてしまって、申し訳ない。
『適材適所ですよ適材適所』
今から敵の本拠地に乗り込むというのに、まるで散歩にでも行くような気軽さで田中野さんが笑った。
そして、何の気負いもないように歩き出した。
その背中から、尋常ではない殺気を迸らせながら。
手筈通りに私から射撃を始めた。
スコープに映る敵の頭を、機械的に次々と撃ち抜いた。
訓練と同じように・・・いや、訓練よりも調子がよかった。
素早く処理して、一刻も早く田中野さんと合流したかった。
表の敵を全て処理し、走って市民会館へ向かう。
数の上では私の受け持ちの方が多かったが、田中野さんは近接戦闘。
私よりも、被弾するリスクは高い。
何でもないように彼は言っていたが、刀で銃に立ち向かうのだ。
尋常な考えではない。
転がる死体を見もせずに、ひたすら走る。
全員、確実に頭を撃ち抜いた。
漏れは、ない。
必死に田中野さんを探す私の目に、それは飛び込んできた。
壁にもたれかかって床に座り、血だらけの体で力なく煙草を咥える田中野さんの姿。
傍らには、彼の愛刀が転がっている。
また、体が冷えた。
まさか、まさか・・・!!
「ああ!嘘、嘘ォ!?田中野さん!田中野さあん!!」
私の喉から出ているとは思えないほど、狼狽しきった悲鳴を上げてしまった。
嫌だ、そんなのは嫌だ!
私の前で、彼に死なれるのだけは嫌だ!
お願い・・・お願い!神様!!
「あの・・・も、申し訳ない・・・」
目の前で、田中野さんが土下座している。
「ゆ、許してください・・・」
・・・早とちりだった。
彼は、疲れて休んでいただけで・・・血も全て返り血だった。
何事か叫ぶ彼の声を聞き流し、上半身の衣服を剥ぎ取った時に気付いた。
「スミマセンスミマセンご勘弁くだしあ」
先程までの殺気が嘘のように、彼は困った顔でペコペコと頭を下げ続ける。
・・・ずるい。
・・・そんな顔をされたら、何も言えなくなってしまうではないか。
私よりも年上の癖に、そ、そんな・・・かわいい、顔をしないでください!
「・・・まったく、もうっ!もうっ!!田中野さんの馬鹿!!」
私にできることといえば、そんな子供じみた台詞を言うだけだった。
・
・
・
・
たぶん、この時だろう。
私が田中野さんを・・・はっきりと好きになったのは。
もっとも、その時の私は・・・これが恋だとは気付いていなかったが。
田中野さんは、馬鹿だと思う。
誰かを守るために、自分の命をポイと捨てようとしてしまう馬鹿だ。
・・・そしてどうやら私は、そんな馬鹿が、たまらなく愛おしいらしい。
私も、馬鹿なのだろうか。
でも、田中野さんと同じなら、別に、いい。
そう、思うのだ。




