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88話 惨状の報告と一服のこと

惨状の報告と一服のこと




『いやあ、まいったまいった・・・大損害だよ、これは』


いつもの調子で、通信機越しにそうぼやく古保利さん。

俺と神崎さんは、それを神妙な面持ちで聞いている。


『重体8、重傷34、軽症5・・・死者が出なかったのが奇跡だね』


古保利さんの声はいつも通りのようで・・・若干固い。

部下がそれだけの被害を受けたんだから、当然だろう。


俺が白黒ゾンビとの戦いで両肩を負傷してから3日後。

昨日『みらいの家』に自衛隊がカチ込んだ報告を聞いている。


何故俺がいるのかといえば・・・なんでじゃろ?

成り行きというやつかな?


後で神崎さんから聞いてもいいけど、聞けるなら今でも同じことだし・・・まあいいか。


「やっぱり、白黒のせいですか?その被害は」


『んー、それプラス向こうの人員かな。重火器が結構渡っててねえ・・・龍宮、銃器流通しすぎ問題』


・・・そんなにか。


『っていうかあの組織、多分何年も前から準備してたんじゃないかなあ・・・と思ってるよ。いつかこんな時が来るって見越してね』


「予言ですか?たまげたなあ・・・」


どちらかと言うと嘘から出たまことってやつかな。

それっぽーい予言をしておいて、後だしジャンケン的な感じで運用するんだろう。

ややこしい宗教なんざ、だいたいそんなもんじゃないかなあ。


『そんなにいいものじゃないでしょ。たまたまだと思う、ゾンビ騒動が無けりゃ・・・その内クーデターでも起こす気だったんじゃないの?』


古保利さんも同じような見解みたいだな。

数撃ちゃ当たる戦法だな。


『あ、そうそう。こっちの白黒はね・・・なんと鎧着てた、鎧』


「マジすか」


『マジマジ・・・全身がっちり固めててねえ。アレ多分車の外装使ってたんじゃないかな?〇ランスフォーマーみたいな感じ』


すっごくわかりやすいたとえ話だ。

横の神崎さんは『?』って顔だけど・・・今度映画見ましょうね。


『んで、武器はでっかいハンマー。冗談みたいな大きさだったよ・・・それをブンブン振り回すもんだからもうね、歩く災害』


聞けば、全長2メートルを超える無骨なハンマーを持っていたようだ。

うげえ・・・前のチェーンソーとは別ベクトルで面倒くさそうだな。

掠っただけでも刀が折れそうだ。

その上アーマーまで・・・俺たちが戦っても苦戦は必至だろうなあ。


「聞く限りではかなりの強敵に思えますが・・・一体どうやって対処したのですか?」


神崎さんの質問ももっともだ。

俺には皆目見当がつかん。


『前衛に特化を配置、ライオットシールドで即死を避けつつ・・・後方からとにかくつるべ撃ちで装甲を破壊したって感じかな』


すげえ、まるで映画だ。

想像するだに恐ろしいや。


『生身が剥き出しになった後も同じだよ。まさか対物ライフルを胸に3発喰らって動くとは思わなかったけどねえ・・・しかも身軽になってビュンビュン動き回るもんだから・・・』


「うわあ・・・」


『ぶっちゃけ今回の被害、ほとんどその段階で発生したからね』


俊敏になったゾンビが大ハンマー振り回して大暴れ・・・か。

ひええ、おっかねえな。


「三等陸佐、それでお怪我はありませんか?」


『ははは、一発避けそこなってね・・・左腕がグシャグシャになっちゃった』


なんだと!?


「ええ・・・大丈夫なんですかそれ!?」


思わず口を挟んでしまう。


『いやー、死ぬほど痛いけど死ぬような傷じゃないねえ・・・今は麻酔も効いてるけど、ちょーっとしばらく無茶はできそうにないや』


相変わらずの口調だ。

この精神力・・・恐ろしい。


『なあに、上腕が折れて肩が外れて関節が逆に曲がっただけだから・・・うん、まあ重傷だよね』


「・・・それ、早く休んだ方がいいんじゃ・・・」


どこに出しても恥ずかしくないとんでもない大怪我だぞ。


『うん、この通信が終わったら絶対安静だってみんなに言われてるよ。いやあ、痛くはないんだけど汗が止まらないや』


「一刻も早く休んデ!!!!」


指揮官が欠けたら避難所の危機なんだぞ!!!

勿論古保利さん自体も心配なんだが!!


「報告、ありがとうございました。とにかくご静養なさってください」


神崎さんも心配そうに返している。


『うん、そうするよ~。あ、あとね・・・』


その後、しばらく話をしてから通信は終了した。

元気そうだったけど・・・しばらく古保利さんは動けないってことか。

中々ヘビーな状況だぜ。




「ほうかほうか、そりゃあ大事じゃな」


七塚原先輩が深刻そうに呟いた。


通信の結果を、先輩方にも共有している。

子供たちには聞かれないように、俺がいつも寝ている資料室に集まってもらった。


「鎧付きのハンマーゾンビ・・・戦ったら前より苦戦したかも」


後藤倫先輩も、少し顔を曇らせている。

重装甲はなあ・・・

俺や後藤倫先輩は武器種の点でどうしても不利だ。

『鎧貫き』なんていうトンデモ技を使える先輩はまだいいとして・・・俺の方は兜割くらいしか対抗手段はない。


「あの古保利さんが大怪我するなんて、田中なら5回くらい死んでるかも」


「すいません命は一つしかないんですけどォ?・・・っていうか『あの』古保利さんって」


・・・後藤倫パイセンが人の名前を覚えているだと!?

それだけで古保利さんがなんらかの達人だってわかるな。

以前の野営地で戦っている所を見たのだろうか。

俺も七塚原先輩もスヤってたから知らないんだよな。


「ん、幽霊みたいな人だった」


・・・といいますと?


「俗に言う『サイレントキリング』・・・隠密行動に特化した動きでした」


見かねた神崎さんが補足してくれたのでやっとわかった。

先輩は言葉が足りなすぎるんだよ・・・

つまり、気付かれないように動き、一撃で仕留める・・・そういう戦闘スタイルってわけか。


「妙な形のナイフで、ゆるゆる変な歩き方してた。正直、殺気の消し方は私よりも上手・・・悔しいけど」


・・・後藤倫先輩にそうまで言わせるとは。

古保利さんは現代に生き残ったニンジャの末裔か何かかもしれん。


「えと、たしかこんなん」


手元のメモ用紙に、後藤倫先輩がサラサラと絵を描いて見せてきた。

相変わらず上手いなあ、絵。

メモ用紙には、なんというか・・・持ち手のついた三日月のような形状のナイフが。

ふむ、コイツを逆手で持って使ってたんだな・・・んん?


「ちょっと待って下さい、この形状どっかで・・・?」


どこだったっけか。

・・・あ、そうか!

ベッドの上に放り投げてあった本を開く。


『忍術大全』


そう書かれた分厚い図鑑。

昨日読みながら寝ちゃったんだよな。

いつだったか忘れたが詩谷の本屋から失敬したものだ。

写真もいっぱいあって結構面白いんだよ、これ。

あんまり夢中になって読んでたもんだから、サクラに『早く寝ろ!』みたいな感じで怒られちゃった。


パラパラとめくると、お目当てのモノを見つけた。

苦無のジャンルの片隅に、同じような形状のナイフが載っている。


「『半月大苦無』・・・これだ」


「見せて見せて・・・うん、こんな感じだった」


「マジすか・・・嘘だろ、まだいたのかよ伝承者」


後藤倫先輩もそう言うのであれば・・・


「私!気になります!田中野さん!!」


ハイ消えた!神崎さんのお仕事モード消えた!!

そ、そんなににじり寄ってこなくてもちゃんと教えますから・・・


「たぶんですけどね・・・『月隠流』っていう忍術の流派ですよ、古保利さん」


いつだったかオブライエンさんが俺の流派候補に挙げてたヤツだ。

灯台下暗しとはよく言ったものである。

オブライエンさん、お目当てのニンジャは意外とすぐ近くにいましたよ。

ニンジャで自衛隊・・・これは設定盛りすぎな主人公だな。


「なるほどのう・・・忍術か。わしを気絶させられるんも納得じゃ・・・今思い出しても、全く反応ができんかったけえな」


あ、そうか。

古保利さん、暴れ回る先輩に鎮静剤使ったんだよな。

ニンジャなら納得である。


生き残り組、返す返すも達人が多いこと。

まあ、前にも言ったが達人だからこそ生き残ってるんだろうけどな。

八尺鏡野さんの剣術もかなりのもんだし、オブライエンさんもあんな体しといて弱いわけがないしな。

筋肉の化身みたいだし。

まんま〇ュワちゃんだよ。


「ああそれと、『みらいの家』に関しての情報なんですが・・・」


俺が口を開くと、一斉にみんなが静かになる。

そうだよな、みんな知りたいよな。


「古保利さんからの連絡で、本拠地が割れました」


『幹部10人くらいに熱烈なインタビューを施してね。恐らく間違いないと思う』


そう言っていたな、古保利さん。

なお、インタビューした幹部は謎の発作によって全員帰らぬ人になったという。

ウワーカナシイナーツライナー。


「俺は行ったことないんですが・・・誰か『龍宮コミュニティセンター』ってご存じですか?」


「・・・あそこか」


俺の問いに、七塚原先輩が答えた。


「龍宮の・・・聖鱗地区にあるのう。仕事の関係で何度か行ったわ」


そっか、先輩警備員さんだったよな。


「12階建てのでかいビルじゃ。目の前に広い公園と駐車場があってのう」


ふむ聖鱗地区というと・・・龍宮の中心部にほど近いな。

市役所とか県庁とかが密集してる区域だ。

・・・すごく行きたくない。


「向かいにホテルがある。田中野も知っとるんじゃなーか?1階から3階までがでっかい本屋になっとる・・・」


「あーあー!あそこですか!言われてみればなんかそんなのもあったような気が・・・」


あそこ、品揃え凄いもんな。

県内で一番だと思う。

ゾンビ騒動が起こる前はよく行ってたぞ。

しかし・・・あそこかぁ。


「・・・ゾンビ、多そうですね」


「ほうじゃろうなあ・・・」


詩谷の中心部なんか目じゃないくらい発展している。

まず間違いなく、この県で一番。

となると・・・ゾンビやらなんやらが多いだろうなあ。


「それに、ゾンビが多いとなると・・・」


神崎さんが呟く。


「ええ、黒や白黒なんてのもいそうですな」


中々にヘビーな状況が想像できる。

『みらいの家』と戦ってる時に横槍を入れられると・・・面倒そうだ。


「とりあえず自衛隊の斥候が偵察し、状況を把握した後に・・・可能な限りの混成部隊で同時攻撃を仕掛けるとのことです」


神崎さんが説明する。


「時期はいつ?神薙」


「神崎です!・・・まだわかりませんが、今日明日というわけにはいかないでしょう。ですが今までと違って、奴らは本拠地をそうやすやすと手放すことはないでしょうから・・・逃げられる心配もありませんし」


どっしり腰を据えている場所を、すぐに捨てられるはずもないしな。


「恐らく、かなりの数の戦闘員が配置されているはずです」


そりゃあなあ、『教主』様のお膝元だし。

今までで一番の厳重さだろう。


「あーあと、補足なんですけどね」


あまり気は進まないが、言う。



「幹部連中の話によると・・・『主席』以外にも複数の白黒が配備されてるらしいですよ、そこ」



ああもう、嫌だ嫌だ。

そんなに世界が嫌なんだったらとっとと自殺でもしといてくれよなあ・・・自分たちだけの天国へ早く行けっての。


なお、俺の発言に対し。


「・・・そりゃあおもしろい、のう」


七塚原先輩は凄絶な笑みを浮かべ。


「腕が鳴る、望むところ」


後藤倫先輩はぼきぼきと拳を鳴らしたのだった。

・・・我が先輩たちながら、頼もしい限りである。


「作戦決行の日取りが決まれば、龍宮から連絡が来るはずです。参加、されますかみなさん」


神崎さんの問いに対する俺たちの答えは・・・言うまでもないだろう。


完膚なきまでに、叩き潰してやる。

今までにやらかしたことのツケを、キッチリ取り立ててやるさ。

そうしなけりゃ、俺は一歩も前に進めそうにないからな。


情報の共有を終え、俺たちは一旦解散した。




「へえ~・・・ビックイベント間近ですねえ・・・激熱だよサクラちゃん」


「わふふ」


大木くんがサクラの頬をむにむにしながら言った。

ここは屋上である。

今日も今日とて、いい天気だ。


大木くんは昼過ぎくらいにひょっこり顔を出したので、世間話ついでにさっきの顛末を教えたのだ。

彼に話しても何の問題もあるまい。


「すまんけど、その時はここに詰めといてくれないか?」


「シーサーより役に立たないでしょうけど、まあいるくらいなら」


・・・どこの世界に爆弾放り投げるシーサーがいるんだよ。

無茶苦茶役に立つわい。


「っていうか田中野さんも行くんですか?その怪我で?」


「なんとか決行日までには本調子に戻す予定だよ・・・そんなに早くもなさそうだしな」


「両肩チェーンソーで抉られた人間が言う言葉ですか・・・気合で傷は治らないんですよ・・・いや田中野さんはワンチャン治るか・・・」


大木くんは屋上の床に体を投げ出し、ブツブツ言いながら大の字になった。

サクラが嬉々として胸の上に飛び乗り、小粋なステップを刻んでいる。

どういう行動なんだそれ?


「ま、子供たちがいますしね・・・できるだけ頑張りますよ」


「頼む。その時には六郷さんとチェイスくんも来るはずだからさ」


神崎さんが花田さんに要請したらしい。

すっかり留守番要員になってしまった感あるが、彼らの戦闘力は侮れない。


花田さんも作戦に参加したい様子だったが、施設の運営があるので無理だ・・・と神崎さんが言っていた。

だからなんで指揮官が最前線に行こうとしてるんですか・・・いや、結構いるな身近にそんな指揮官たち。

指揮官の法則が乱れる!!


「そいつらが片付いたら、龍宮も少しは静かになりますねえ」


「ああそうだな。あと残ってるのは刑務所の脱獄犯とテロリスト夫婦と各種ゾンビだけだしな」


「・・・あれぇ?おかしいぞぉ?あまり状況に変化が見られない不具合」


・・・言われてみれば。


「いやまあ、アレだ。小さなことからコツコツと・・・って言うし」


「ライフハック感覚で片付く問題ではないんですがそれは・・・」


大木くんの胸の上から俺の膝に飛び乗ったサクラを抱っこする。

うん、今日もふわふわだ。


「お前もいろんな所に連れて行ってやりたいしなあ」


「わふ!」


サクラは嬉しそうに俺の手をあぐあぐと甘噛みしている。

なんかいい出汁でも出てるのだろうか。

そんな様子を、大木くんが横目で見ている。


「僕も何か飼おうかなあ・・・いやでも面倒臭いなあ。田中野さん、放置してもOKな可愛い生き物とかいないですかねえ」


「・・・マリモ?」


「いやそれは生き物じゃ・・・いや、生き物だなあ」


サクラを高い高いしながら俺も屋上へ寝っ転がる。

キラキラした目に腑抜けた俺の顔が写っている。

うーん、ずっと見ていられるなあ。


「きゅん・・・わふふ!」


ぐうたらな男2人に見切りをつけたのか、サクラは地面に降りるとサッとどこかへ走り去った。

璃子ちゃんの所へでも行くのだろうか。

視界の隅で、ドアをくぐる可愛い尻尾が見えた。


「あ、そうだ大木くんよ」


「はいはいなんざんしょ」


「こう・・・なんかスタンガン的な棒作れない?」


前から言おうと思っていた。

ノーマルや黒ゾンビはともかく、白黒・・・特に前回のような硬いやつには効果的かもしれない。

電気が効くことは実証済みだし、サブで持っておける武器は重要だ。


「おや丁度いい、今度作ろうと思ってた所ですよ・・・何かデザインとか注文あります?」


渡りに船だな。

『こんなこともあろうかと』を地で行く男だよ、ほんとに。


「・・・硬くて重くて頑丈」


「わかりやすいっすねえ。了解です・・・そんな難しい構造じゃないんで、早速作ってみますよ・・・でも効かなくても怒んないでくださいよ?」


「その時はもう死んでると思う」


「確かにフハハハ」


「こやつめガハハ」


お互い大の字に寝転がって青空に向かって笑い合う。

何かツボに入ったのか、大木くんはしばらくゲラゲラと笑い続けた。

俺もだけど。


それを聞きつけてやってきた璃子ちゃんに、とても可哀そうな生き物を見る目で見られた。


「ママが言ってた通り・・・男の子って大人になってもあんまり変わらないんだ・・・」


というセリフが俺たちに突き刺さった。

違うの・・・俺たちが特殊なだけなの・・・たぶんそうなの・・・



「ヒリヒリする・・・」


「昼間中屋上で寝てるからだよー!紫外線はお肌に有害なんだからねー?」


結局あの後夕方まで屋上で寝てしまった。

まだ夏前だというのに、意外と強い日差しで日焼けまでしてしまった。

いかんいかん、手伝いもせずに・・・

謝ったら神崎さんたちに、怪我人なのでゆっくりしていてくれていいと言われたが・・・心苦しい。


なお、大木くんはヒヨコちゃんの動画を撮りまくった後帰って行ったそうだ。

葵ちゃんに、


『田中野さんを起こさないでくれ、死ぬほど疲れている』


と言い残して。


・・・おかげでこんがり焼けちまいましたよ!


「はいおじさん、手出してー」


璃子ちゃんに言われるままに手を出すと、何やら軟膏のようなものがピュッと出された。


「これ塗るとね、ヒリヒリ軽くなるんだよ。水泳の練習の後にいっつも使ってたの!」


「ほえー・・・そんなに便利なものが・・・」


「はふ!はふ!」


うわちょっと待ちなさいサクラ舐めたら駄目!

おいしくないから!!


塗ってみると・・・たしかに軽くなった気がする。

スースーして気持ちがいい・・・柑橘系の香りがするなあ。

いかん、ミカンが食べたくなってきた。


「ありがとうね、璃子ちゃん」


「ふふーん!お礼は・・・もう怪我しないこと!」


「・・・それはちょっと約束できないなあ」


「ぬーん・・・じゃあ甘いもの1年分!!」


大きく出たなあ。

今度探してこなきゃ。

・・・一度じゃなくてもいいよな。


「さらにドン、2年分」


乗るんじゃない後藤倫先輩!下がれ!!


「キリキリ皿を運べ田中、今晩は冷製シチュー」


「はいはい・・・またハイカラなものを・・・」


斑鳩さんの料理がどんどん進化していくな。


「ハイカラ―?」


「はいからー?」


璃子ちゃんや葵ちゃんの無垢な視線が痛い!!

これがジェネレーションギャップか!!


「何それ知らない・・・外国語?」


先輩まで!?

いや嘘だろアンタは知ってんだろ!?

ハイカラって、そう言えば何語なんじゃろ・・・

そんなことを考えながら、俺は皿を運ぶことにした。


「ほいほいほい・・・ほい!」


「やめろ積むな!俺は雑技団じゃねえ!!」


落ちちゃうだろォ!?



夕食の後、俺はまた屋上に来ていた。

なんかここ最近ずっと屋上にいる気がする。

居心地いいし。


「・・・・ふううううううううぅうううう~~~~~~~~」


吐き出した煙が、夜空に溶けていく。


「うぐわああああああ・・・」


体から力が抜け、手すりに従ってずるずると座り込む。


「う、うめえ~~~~・・・」


実に3日ぶりの煙草である。

古保利さんに言われ、律儀に禁煙していたのだ。


うあ、クラクラするう・・・

この騒動が始まって以来じゃないか?こんなに吸わなかったのって。

まるで初めて喫った時のような酩酊感。

おおう・・・しばらくこの感覚を楽しもう。


「やはりここでしたね」


神崎さんがあらわれた!

田中野は逃げられない!


「うあ・・・あの、もう3日経ったんで・・・その・・・」


「ふふ、怒りませんよ」


神崎さんはそう言って俺の横に座った。


「いります?」


「いただきます」


俺の差し出したマンドレイクを一本取り、神崎さんは火を点ける。

すっかりマンドレイク好きになったな、神崎さんも。


「ふぅ・・・これからしばらくすれば、また騒がしくなりそうですね」


「ですなあ・・・ま、やらなきゃならんでしょうし」


二人そろって煙を吐き出す。


「知っちゃいましたし、首も突っ込んじゃいましたし・・・それに、お仕事ですから」


「ふふ、そうでした」


顔を見合わせ、クスクス笑いながら俺たちは煙草を楽しんだ。


空に浮かぶ月だけが、いつもと変わらない夜だった。


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