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75話 武術稽古とドライブのこと

武術稽古とドライブのこと




「ぴぃ」


「・・・わふ」


「ちゅん」


「・・・きゅん」


「ぴよ」


「・・・わうぅ」


「サクラ、どうだヒヨコちゃんたちは・・・かわいかろ?」


「はふ!」


軽トラの荷台に積まれた、飼育ケージ。

その中には、もこもこのヒヨコちゃんたちがひしめいている。

おそらくその犬生で初めてヒヨコを目にしたであろうサクラは、周囲の匂いをフンフン嗅ぎながらも目を離さない。

ヒヨコちゃんたちも、なんかでっかい生き物(当社比)に興味があるようで・・・お互いに見つめ合っている。


「ふふ、両方ともかわいいですね」


ごとり、と。

荷台の空きスペースに何やら重そうな箱を置きながら、神崎さんが笑いかけてくる。


「いやあ、かわいいとかわいいが対消滅を起こして新しい宇宙が誕生しそうですなあ」


「ふふ、なんですかそれ」


神崎さんは笑いながらも作業の手は緩めない。

今も、置いた木箱の中身を入念にチェックしているようだ。

・・・多いなあ、弾薬。

っていうか今チラッと拳銃も見えたぞ!

これ以上武器を増やしてどうする気なのだ・・・いや、大変ありがたいが。


「そうそう、田中野さん・・・叔父が呼んでいましたよ」


「へ?そうですか、そいじゃ一段落したし、ちょっと行ってきますね」


「はい、いってらっしゃい」


いまだに視線を外さないサクラをチラ見し、俺は秋月総合病院に向けて歩き出した。




釣りを大いに楽しんだ翌日。

俺たちは朝から秋月に来ている。

前から聞いていた、ヒヨコちゃんを受領するためだ。


結局昨日はおっちゃんたちと別れた後も、なんかあの空気が恥ずかしくって釣りまくってしまった。

結果、ちょっとした魚屋が開けそうなくらいの量を持ち帰ることになった。

美玖ちゃんが大喜びしてくれたのでまあ、いいけど。


そして、お返しに中村家特製の燻製肉と干し肉をしこたまもらって俺たちは出発した。

・・・今度来るときは、美玖ちゃんも釣りに連れて行ってあげたいなあ。

たしかあの場所の近くに、非合法釣り人が非合法ブラックバスを放ちまくった溜池があったハズ。

深い山中の開けた場所にあるので、ゾンビの危険性はないだろうと思われる。

むしろ猪とかが出そう。

暇ができたら偵察しておこうかな。



サクラを神崎さんに任せ、病院へ入る。


何度かの行き来で顔見知りになった自衛官さんたちが、俺とすれ違う度に軽く頭を下げたり敬礼をしてくる。

ふう、友愛と違ってここでは嫌われていないようだ・・・よかった。

坂下のおばさんと仲良くしていたお陰かな。

・・・いや、友愛でも子供と警官には嫌われていないだろう・・・多分。


「一朗太くん!」


階段を上っていると、下からおばさんに声をかけられた。

噂をすればなんとやらシステム!


「こんちは、おばさん。今日は美玖ちゃんたちは連れてこれませんでした」


主に荷台の面積的な問題で。


「いいのよ、そんなに気を遣わなくっても・・・あら?」


にこやかに返したおばさんが、怪訝な顔をしている。

そのまま階段を上って近付いてきたおばさんは、俺の顔を見るなり悲しそうな顔をした。


「まあ!また傷が増えてるじゃない!」


「え?ああ、いやあ・・・ハハハ」


乾いた笑いを返すことしか俺にはできない。

仕方ないんですよおばさん・・・なんか最近ヤバいのとよくかち合うんで・・・

悪いのは俺じゃない。

龍宮という地域がヤバいんだ!俺は悪くねェ!!


「龍宮は大変なのね・・・でも、本当に気を付けなきゃ駄目よ?もし怪我したらすぐに消毒して・・・」


「アッハイ」


毎度毎度心配ばかりかけて、本当に申し訳なくなってくるなあ・・・


「もう、男の子は本当に・・・神崎さんにしっかりお願いしておきましょうね」


30過ぎの男の子・・・なんかもう響きが駄目そう。

神崎さんは俺のかあちゃんじゃないっつーの!


「あ、そう言えば今回はサクラちゃん・・・来てるの?」


「ええ、はい。軽トラの所にいますよ、ヒヨコちゃんに興味津々です」


「まあまあ!じゃあ私は行くわね~!」


それを聞くや否や、おばさんは軽やかな足取りで階段を下りていった。

・・・助かった。

ありがとうサクラ、後を頼んだぞ。



「お久しぶりです、随分と貫禄が付きましたね・・・どうされましたか?」


花田さんの部屋に入ると、相変わらず強そうな彼がそう問いかけてきた。

どうにも、さっきので疲れた顔でもしていたんだろう。


「はは・・・坂下さんにお説教されまして・・・」


「ああ、なるほど・・・私もたまに怒られてしまいますよ」


嘘だろ!?

こんなに完璧っぽいのに!?


「もう少し体に気を付けなさいとか、たまには休みなさい・・・などと言われましてね。いやああ、同年代のはずですがまるで母親に言われているような気がしまして・・・」


あ、なるほどそう言う関係か。

俺の理由とは全然違うなあ。


すすめられたので席に着くと、即座にテーブルに置かれる灰皿。

わかっていらっしゃる!

お互いにまずは火を点け、一服。


「そう言えば花田さん、葉巻って在庫とか大丈夫なんですか?俺は煙草だからなんとでもなりますけど・・・」


コンビニとかで売ってるの見たことないし。


「ああ、大量にまとめ買いした在庫がありますので・・・なくなった時が辞め時ですよ、はは」


潔いなあ。

俺の場合はずるずると長引きそう。


たっぷりと時間をかけて煙を楽しんだ頃、花田さんが口を開く。


「友愛では六郷が大変お世話になったようで」


「いやいやいや、アレは不可抗力ですよ。それにチェイスくんのほうが大活躍でしたし・・・凄いですねえ、軍用犬って」


爆発に巻き込まれてあの程度ですんでよかった。

宮田さんは・・・うん、防御力が段違いだから・・・


「いざとなれば即座に敵を無力化する訓練をしていますので。彼らはこの状況においてかなり有能ですよ、ゾンビの標的になることもないですし」


「ほんと、それには同意です。ゾンビ犬なんて出てきた日には・・・人間相手より手こずりそうですよ」


「ぞっとしませんなあ」


ゾンビが人間だけでよかった。

動物ゾンビはヤバすぎる。

戦うチェイスくんを見ていて改めてそう思った。

姿勢が低すぎる上に、人間以上の反射神経と瞬発力。

遠距離から手裏剣で無力化するしか俺には考えつかない。

至近距離では・・・腕に噛みつかせてなんとかするしかないかな・・・


「そうそう、『ヨロズヤ』の件ですが・・・」


犬との戦い方を夢想していると、思い出したように花田さんが呟く。

そうか、そりゃあ通信で伝わっているよな。


「こちらでも十分に警戒します、ですが・・・どうやら龍宮はどんどんきな臭くなりそうですな」


たぶん龍宮にいるだろうしなあ。

ああもう、なんでこう次から次へと面倒ごとが持ち上がるんだ。


「今回あなたを呼んだのもそこに関係があります」


む?

俺に・・・?


「万象千手流について、お詳しいですか?」


・・・鍛冶屋敷の使う流派か。


「え?うう~ん・・・正直、師匠に聞いた限りのことくらいしか・・・」


至近距離での手数が多い上に変幻自在・・・だったかな?

ええと、あとなんだったっけかな・・・?


「それはよかった、いくつか教えておきたいことがあります」


そう言って、花田さんは上着を脱いで立ち上がった。

う、うおお・・・なんちゅう筋肉じゃ。

まるで鍛えた鋼だぜ、おい。

首の太さである程度予想はついていたが・・・


俺もつられて立ち上がると、部屋の中央へ誘導された。


「私もそう詳しいわけではありませんが・・・それでも知っているだけでマシでしょう」


花田さんは俺の前で軽く足を開き、両腕をだらりと下げる。


「当てませんので、楽にしてください・・・これが基本の構えです」


花田さんがそう言った瞬間、軽く上体がブレる。

ぼ、という音が俺の右耳に届く。

視線を動かせば、右拳がそこにあった。


・・・いつ打った?

視界の外から急に打撃が来たぞ!?


「『瞬撃』という技らしいです。腕のしなりを使い、胴の力で加速させて急所を打つ・・・得意技です、鍛治屋敷の」


「・・・お知り合い、ですか?」


「一度、立ち合いました・・・はるか昔のことですが」


・・・花田さんもかなりヤンチャしていた時期があったんだなあ。


「勿論あの爆発事件の前どころか、彼が学生だった頃ですがね」


そりゃ、そうだろうさ。

現役自衛官時代だったら大事件だ。

まず逮捕しないといかんしな。


「へえ・・・勝ったんですか?」


「私は肋骨と片腕を折られ、大腿骨にヒビが入りました。彼の両肩を外し、鼻と足首を折りましたが・・・痛み分け、ですかね」


想像したくねえ・・・恐ろしい戦いだ。

柔術全盛期の野試合じゃねえんだからさ・・・


「忠告しておきます。私と立ち合った時よりも、奴はかなり腕を上げています・・・決して超至近距離で戦ってはいけませんよ」


「まず戦いたくないんですがそれは・・・」


「無理でしょう、アイツは心の底から南雲流を憎んでいる上に・・・暴力が何より好きな人間です」


バッサリ切られてしまった。

・・・ですよね~。

この上は、出会いたくないなあ・・・


「私もあの時の技しか知りませんが、知らないよりはマシでしょう。さ、次に行きますよ」


言い終わるよりも早く、無数の拳撃が飛んでくる。

意識してやっと初動が分かる程度の動きで、凄まじい回転数だ。


「うお!?」


その攻撃に交じって、体表面の急所にも打撃が加えられる。

指の関節で、穿つように。


「瞬撃に気を取られていると、これが来ます」


恐ろしい・・・

一撃の威力は刀に遠く及ばないが、この間合いでは満足に斬れない。

何度もやられていると、無視できないダメージを喰らいそうだ。


「言ってみれば、万象千手流は総合格闘技です。打撃、関節、投げ技なんでもあり・・・そしてその全てに、現代の格闘技ではとても使えない殺し技が無数に存在します」


南雲流と同じようなもんか。


「田宮先生なら、どう対処したのでしょうか」


「えーと・・・確かほぼゼロ距離での抜刀と斬撃方法がありまして、そいつを使ったのかな・・・いや、師匠なら組打も使えるか」


「そんなものが・・・」


俺はまだ満足に扱えないけどな。

記憶があるうちに、復習しておく方がいいかもしれんな。

怠ったら即、死につながってしまう。


「とにかく目を慣らしておくことです、他にも私が覚えている限りの技を再現します」


「何から何まで、申し訳ありません・・・」


「なあに、可愛い姪のためですよ・・・では、行きます」


そして、俺たちはまた稽古を再開した。



「お帰りなさい田中野さん・・・?何故そんなに汗だくなんですか?」


見ているだけなのに何故かへとへとになった俺は、軽トラまでひいこら戻ってきた。

サクラはおばさんに抱っこされてスピスピ夢の中である。

かわいい。


「すまんな陸士長、少し彼に稽古を付き合ってもらっていてな」


俺の後ろにいた花田さんが言う。


「稽古・・・で、ありますか!?」


素早く敬礼したが、途端にお目目がキラキラし出す神崎さんである。

お仕事フィルターはまだ辛うじて機能しているようだ。


「後で聞くといい・・・田中野さん、お疲れ様でした」


「いえ、こちらこそいい勉強になりました。ありがとうございます」


鍛治屋敷が同じ技を使うとは限らないが、何にせよ心構えはできた。

何も知らない状態で襲われるよりかは百倍マシである。


「ともあれ、詩谷周辺はこちらにお任せください。より一層警察との連携を進めていきますので」


俺にそう言って敬礼した花田さんは、颯爽と去って行った。


「励めよ、神崎陸士長」


そう、少しだけ優しく呟きながら。



「またね~サクラちゃーん!」


「わふ!わおーん!!」


手を振るおばちゃんに窓から吠え返すサクラを横目で見つつ、病院のゲートを出る。

以前の謎シートを敷いているから安全だろうが、ヒヨコちゃんたちは一刻も早く連れて帰らんとな。

今回は結構バタバタしたから、次こそはゆっくりしたいものだ・・・


・・・詩谷に帰れるのは一体いつになるんだろう。


そう考えながら、俺はアクセルをぐいと踏み込んだ。


「田中野さん!田中野さん!!叔父との稽古というのは・・・!!」


「きゃうん!?」


お仕事フィルターをそこらへんにポイ捨てした神崎さんに、サクラがビックリしている。

ブレないなあ・・・



神崎さんに説明をしながらも、車は何事もないように走る。


「ふふ・・・」


「わふ、きゅん」


俺から根ほり葉ほり話を聞き出して満足げにしている神崎さんが、サクラを抱っこしている。

サクラは、神崎さんがいつもの優しいお姉さんに戻ったのでホッとした様子だ。

うーん、平和だなあ。

説明すんの大分疲れたけど。


「私も頑張って援護しますので!」


「まず出会いたくないんですよなあ・・・お?」


謎のやる気を出す神崎さんに脱力していると、前方からこちらへ来る車に気が付いた。

ここは秋月から原野への途中である。

山に入る前なので、まだ一応秋月町だ。


「久しぶりに普通の車見たなあ・・・」


パトカーやら軍用ジープやらはたまーに見かけるようにはなってきたけど。

それだけみんなが慣れ始めてきたのだろうか、この状況に。


車が近付いてくる。

どこにでもある灰色の普通乗用車だ。


運転席と助手席に1人ずつと・・・後部座席にたぶん1人乗っているのが見える。

探索に行ったのか、それとも帰りか。


「・・・」


神崎さんがサクラを椅子の後ろのスペースへ避難させ、無言で拳銃を抜く。

当のサクラはおとなしくてふてふとスペースの奥へ歩いて行った。

・・・賢いな!


神崎さんがスライドを引くのと同時くらいに、車とすれ違った。

俺はバックミラー、神崎さんはサイドミラーで後ろを確認。


「・・・あーもう」


すれ違ってしばらく走った車が、急ブレーキをかけるのが見えた。

そのまま、ドリフト気味にUターン。

あの反応・・・荷台を見たな。

一応幌はかぶせてあるが・・・荷物が満載しているのを見つけたんだろう。

久しぶりに一般車を見たと思ったらこれだ。

人の心のすさむこと」、麻の如しとはよく言ったもんである。


「まったく、嫌になるなあ・・・」


「ええ、本当に」


言いつつ、アクセルを踏み込む。

ぐん、と座席に体が押し付けられる。

メーターの針が動き、あまり燃費的にはよろしくない急加速が始まった。


「サクラ!そこでおとなしくしてろよォ!」


「わん!」


いいお返事ィ!


ミラーで確認しながら走る。

やはり車種の差はいかんともしがたいもので、じりじりと距離が詰まってくる。

さあて、こっからどうすっかな・・・

先制攻撃はこの段階ではあまりやりたくない。

相手が銃でも持っていたら別だが。

だが、ぶつけられでもしてヒヨコちゃんに悪影響が出ても困る。


「神崎さん、ちょいと荒っぽい運転になりますよ!」


「了解です!!」


このままではいずれ追いつかれるし、そうならなくても高柳運送までついてこられても困る。

ここらで一勝負・・・するか!


本道から、カーブしつつ側道へ入る。


ここいらは渓流釣りなんかで親父の付き合いでよく来ていたからな!

裏道回り道近道、大体は知っている。

ここで振り切れるかどうか、試してみよう!

荷台はヒヨコちゃんたち含めてしっかり固定してある。

多少のことなら、大丈夫だろう!

毛布的なものも飼育ケージに敷いてあるし!


舗装の甘い道路を走っていると、案の定後ろの車もついてくる。

やっぱり俺たち目当てか!


えーと、今旧道の38号に入ったから・・・このまま道なりに行けばあそこに出るな。

地元民しか知らないクソ道にご案内してやろう!!


カーブばかりだから思うように加速できないのか、距離はどんどん離れていく。

しかも道幅は狭く、所々にでっかい穴も空いている。

慣れていないとさぞきつかろう!


「このまま北上すると竜僧温泉だから行き止まりか・・・んじゃ手前を・・・」


「お詳しいですね、田中野さん!」


「へへ、ここらは俺の庭・・・まではいかないですけど、よく来ていましたからね!」


神崎さんと話しているうちに、バックミラーから車が消えた。

だが一本道、油断はできない。

この状態で突き放しておきたい!


しばらく走り続け、ぶち当たった道を左折。

大回りしてさっきの道に戻るルートだ。

ここは3方向へ枝分かれする交差点だから、後から来れば俺たちがどこへ行ったか分かりにくい。


「うおっと・・・!惜しい!!」


奴らの視界から消えたかったが、ギリギリで追いついてきた。

これじゃあ曲がった方向が分かっちまうな。


ふふ、だが甘い。


この先も田舎道田舎道&田舎道だ!

わかりにくい上に狭くてカーブが多いルートを通りまくってやる!

以前の龍宮でのカーチェイスと違い、ここは俺の独擅場だ!


「おもしれえ、俺のドライビングテクを見せ・・・て・・・ええ?」


ノリノリでどこかの峠レースアニメみたいな台詞を吐こうとしたら、奴らの車が盛大に横転した。


「・・・早く曲がろうとし過ぎて、ガードレールに引っかかったようですね・・・」


どれほどのスピードを出していたのか。

さっきまで綺麗だったその車は、2回3回とゴンゴン横転するうちにボロッボロになった。

あ、今1人窓から飛び出して・・・うげ、頭から落ちた。


「・・・あれでは到底走行は無理でしょうね」


「今タイヤ飛んでいきませんでした?」


スピードを緩め、徐行しながら観察。


何度も回転する中でどこかがイカれたんだろう。

エンジンブロックから白煙を撒き散らしながら、車は路肩に突っ込んでやっと止まった。

フロントガラスは粉々、ドアは内側に酷く歪んでいる。


「うわすげえ、まだ生きてる」


シートベルトのお陰か、運転手がのろのろと這い出そうとしている。

が、運命の悪戯か。

漏れ出た何かが引火し、廃車寸前の車は一気に炎に包まれた。

これでめでたく廃車だな。


「帰りましょっか・・・大丈夫かサクラ」


「きゅ~ん・・・」


ぽてりぽてりと、サクラがフラフラ出てきた。

カーチェイス初体験だから、三半規管がもうパニックなんだろう。


「ふふ、いらっしゃい」


神崎さんが優しく抱き上げ、ぽんぽんと背中を撫でている。

もふもふの尻尾が元気になってきたから、まあ大丈夫だろう。


後ろのヒヨコちゃんは大丈夫だろうか?


「ちょいと寄り道になったが・・・ま、想定内か」


炎に包まれてのたうち回る運転手を見ながら、俺はアクセルを踏み込んだ。




その後は何も問題なく走り続け、懐かしの高柳運送に帰ってきた。

葵ちゃんや子供たちが嬉しそうに出迎えてくれた。

よかった、ここでは何も起こっていないようだな。

巴さんとの通信で聞いていたから、まあわかってはいたが。


「おっかえりおじさーん!お土産はー!?」


駆け寄ってきた璃子ちゃんの目の前で、幌を勢いよく外す。


「ヒヨコちゃんだああああああああああ!!お肉もあるぞおおおおおおおお!!!」


「「「わあああああい!!」」」


俺が抱え上げたケージを見て、子供たちは大喜びだ。

あのカーチェイスでも元気だったヒヨコちゃんたちは、ぴよぴよ鳴きながらそんな俺たちを不思議そうに見つめていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、田舎の林道で地元の軽トラは田舎のポルシェで ミットシップと車高の関係で大排気量のSUVも 敵じゃないよ?下手するとOFFロードバイクの XLRも千切る強者だよ?農道に誘い込まれたら 腹…
[良い点] 爆発オチw
[一言] 田舎の軽トラと喧嘩したらポルシェやランクルでも 負けるわ!特に林道の覇者は軽トラの4躯だよ!ランエボも負けるわ!幾らラリー仕様でも田舎の軽トラは車高を 弄ってて飛んでもない道に入っても走破す…
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