15話 避難所からの帰還とアホとの遭遇のこと
避難所からの帰還とアホとの遭遇のこと
うーん・・・最高の目覚めだ!
いいソファーのおかげかなこれは。
・・・いや昨日死ぬほど疲れたからだわ。うん。
時刻は朝の7時半。
窓から外を見ると、昨日の雨がウソのように晴れ渡っている。
今日は暑くなりそうだ。
さーて、宮田さんあたりに挨拶してとっとと帰るかなあ。
雄鹿原さんも由紀子ちゃんもここなら安全そうだし。
改めて見るとフェンス高いなあ。
ゾンビには越えられないだろう。
・・・雄鹿原さんには釘を刺しまくったから大丈夫だろう。大丈夫なはずだ。きっと。
悪い娘じゃないことは確かなんだけど、なんかホントに危なっかしいんだよなあ・・・
周りの友達のみなさん、彼女の手綱をしっかり握っていてくださいね。
カロリーバーをもそもそ齧り、身支度を整え事務室から出た。
「あ、おはようございます宮田さん」
「ああ田中野さん、おはようございます」
廊下の向こうから歩いてくる宮田さんを見つけたので挨拶する。
朝から警察の制服をパリっと着こなしている。
この非常時に頭が下がるなあ。
「今からお帰りですか?随分と早いですね。」
「ええ、天気もいいので早めに動こうかと。」
そのまま校舎の正面玄関まで一緒に歩く。
「あの娘たちはまだ寝ているようですが、話していかなくていいんですか?」
「いやあ、今生の別れってわけじゃないし、いいですよ」
どっちかというと死ぬリスクは俺の方にあるような気がする。
いや確実にそうだ。
特に由紀子ちゃんはオッサンのことがあるのであまり話したくない。
彼女は一切悪くないけども。
「申し訳ないですけど、よろしく伝えておいてください。あとくれぐれも外に出るなとも。」
「わかりました。しかし寂しがると思いますよ?」
「いやあ、ハハハ・・・」
駐車場までついてきてくれた。
なんと面倒見のいい・・・あっ違うわ、校門の開閉のためだわこれ。
「外の状況も知りたいので、できればまた訪ねてきてくれるとありがたいのですが・・・」
「わかりました。情報交換は大事ですからね。」
「助かります、門番にはあなたの特徴と車のナンバーを伝えておきますので。」
住めというならゴメンだが、その程度ならいいか。
情報源は多いに越したことはないからなあ。
「あなたのような方には、できればここにいていただきたいのですが・・・特例を認めてしまうと収拾がつかなくなりますので。申し訳ありません。」
「お気になさらず、私は一人の方が気楽ですので。それではお世話になりました。」
かなり申し訳なさそうにしている宮田さんと握手を交わし、車に乗り込んだ。
そんな気にしなくてもいいのにー。
ゆっくりと開く校門から車を出す。
昨日感じていた肩の重さがなくなったような気がした。
やはり俺は一人の方が生きやすいようだ。
他人の命は重いなあ。
避難所も確認できたし、これからは付かず離れずの距離感で付き合っていけばいいな。
あの二人の様子もたまに見にこよう。
朝も早いので、帰る途中にある電気屋を覗いていこう。
ポータブルDVDプレイヤーを探すのだ。
ぐっすり眠れたので疲れも取れてるしな。
というわけで電気屋に着いた。
日本全国に展開するチェーン店。
それの中規模の店舗だ。
いつものように駐車場の端っこに車を停め、降りる。
確認すると、やはり店内は真っ暗だ。
だが今の俺には高性能ライトくんがいる!
店内には入らずに、入り口からライトで照らす。
・・・かなり荒らされている。
床には乾電池や商品の箱が所狭しと散らばっている。
これはハズレを引いたかな?
いや、生活必需品ならともかく、ポータブルプレーヤーなんてものを非常時に持ち出すとは考えにくい。
一応確認してみるか。
照らしながら店内を大まかに確認していく。
見える範囲にゾンビはいない。
試しに方々へ床に落ちていた乾電池を投げてみる。
これにも反応はない。
これならとりあえずは安心できるな。
ちらりと見たひげ剃りのコーナーは全滅だ。
サンプルすらも持っていかれている。
・・・俺もそろそろ剃った方がいいかな。
家に帰ったら剃ろう。
俺は手剃り派なのだ。
AV機器の棚の片隅に、お目当てのプレーヤーが何種類かあった。
この際なので一番性能のいいものをいただく。
モニターの大きい充電式のものだ。
おっこれリージョンフリーだ!これで北米版のアニメも見られるぞ。
・・・あの超大型通販サイトが生きていれば追加も注文できたのになあ。
ところで、アメリカは今どうなっているんだろう。
日本よりマシな状況かもしれないな。
ライフル協会が大活躍していることだろうから。
銃がそこらへんにあるのは強いなあ。
こっちだと警官から奪うとか、猟銃しか選択肢がないもんなあ。
そこまで労力をかけてまで欲しいとは思えない。
まあそのおかげでアホな暴徒が銃で武装するっていう最悪の事態は避けられたのだけど。
・・・そう考えるとアメリカはアメリカで結構えらいことになってるのかもしれない。
入り口に戻りながら、小規模なビデオコーナーで面白そうな映画を物色する。
いくつかのシリーズものをリュックサックに詰め込んだ。
これ丁度見たかったんだよな。
いやあ、今日の探索は平和だったなあ。
ほくほく気分で店から出る。
・・・俺の軽トラの周りに4人いる。
ゾンビじゃない、人間だ。
何というか、あまり関わり合いになりたくないタイプの奴らだ。
半袖の裾やタンクトップ、ハーフパンツからカラフルな塗り絵がチラチラ見える。
何が楽しいのか大声でゲラゲラ笑いながら話している。
しきりに扉をいじっている奴もいる。
オイオイオイオイなんだその針金みたいなのは!
盗むつもりかこの野郎!!
ゾンビさぁん!そこに餌がいますよお!!
俺は入り口でこっそり木刀をリュックの横にある水筒入れに固定すると、左腰の刀の位置を調整した。
いつでも抜けるように。
「おいお前ら、俺の車に何の用だ。」
「あぁ?なんだ・・・っ!?」
声をかけると、奴らは一斉にこちらへ振り向いた。
先頭にいる小汚い金髪の男が、ニヤけながら話そうとする。
が、視線が俺の左腰の刀に向いた途端、顔を引きつらせて黙った。
すでに鯉口は切り、左手は添えてある。
いつでも刀を抜ける状態だ。
奴らの動き次第では、即座に抜き打ちの体勢に入れる。
『刀は怖いぞ、かすっただけでも動揺する。銃と違って、痛みを容易に想像できるからのう。』
師匠の言葉だ。
こいつらはゾンビではない。
前にも言ったが、何も頭を狙う必要はないのだ。
手足に斬りつけさえすれば、容易に無力化できるだろう。
こいつらも軽トラ一台盗むのに何も命をかける必要はあるまい。
そこら中にごろごろしているのだから。
「家に帰りたいんだよ。そこをどいてくれ。」
「あ、あの・・・」
「ど い て く れ」
固まっている4人にもう一度声をかけると、奴らは後ずさりしながら車から離れていく。
こないだの金髪2匹よりは頭がいいらしいな。
いや、この日本刀のせいか。
こうかはばつぐんだ!ってやつだな。
「なあ!なあおい!!近くに避難所とかないか!?俺たちもう2日も食ってないんだ!!」
離れたところからさっきの小汚い奴が叫んでくる。
さっきから声がデカいんだよマヌケ!
鼓膜破れてんのかこいつらは。
2日も食ってない?絶対嘘だ。
腹ペコな人間があんなゲラゲラ談笑できるものか。
仮に本当だったとしても、こんな奴らをあの高校に行かせようとも思わない。
まあ宮田さんたちに追い返されるだろうが、不安要素はないほうがいい。
あっ。そうだ。
「少し遠いが、北小学校が避難所になってるはずだ!!」
そう言うと即座に軽トラに乗り込み、発車させる。
最後に見た奴らは、こちらを追うこともせずにニヤニヤと話し合っていた。
何をするつもりかよ~くわかる顔だな。
馬鹿め!北小学校は避難所『だった』場所だ。
昨日宮田さんの話の中で出てきたから覚えていた。
『そこら中がゾンビでいっぱいだ!』
という無線を最後に、2日前に連絡が取れなくなったとのことだった。
『元』避難所を教えてやったのだからあいつらも満足だろう。
俺の車を盗もうとしなければ、もう少し優しくしてやったのにな。
・・・いや、ないな。俺はどうも先日から汚い金髪が嫌いになったみたいだ。
奴らの末路を思いながら、俺は家路を急いだ。




