43話 思春期特有の青臭さのこと
思春期特有の青臭さのこと
「そうなの・・・大変だったわねえ、苦労したでしょう・・・?」
「ううん、大丈夫よ」
御神楽高校の・・・なんだっけ?
ああ、『相談室』だ。
平時はスクールカウンセラーが詰めているこじんまりした教室・・・
そこで、神崎さんとそのお祖母さんが向き合って話している。
俺はといえば、壁際の椅子に腰かけてその団欒を眺めている。
・・・なんでさ!?
あの後、感極まった2人は抱き合ったまま泣き始めてしまったのだ。
流石に廊下でそのままいうわけにはいかないので、近くにいた警官に事情を話して教えてもらったのだ。
神崎さんはともかく、お祖母さんは興奮しすぎると困るしな・・・ご高齢だし。
2人で話す空間を確保したというわけだ。
俺は『では後はお2人でごゆっくり』と言ってクールに去ろうとしたが、
『あの・・・祖母に紹介したいですから』
という神崎さんの言葉によって脱出に失敗し、今に至る。
「そうなの・・・おじいちゃんは家にいるのね」
「そうなのよぉ!シンパチとサノスケの面倒も見なきゃいけないって・・・由香子さんと亮介はこっちにいるのにねえ・・・」
「2匹とも無事なのね?」
「ええ、うちのほうにはあんまりその、『ぞんび』っていうのかしら?いなくてね・・・だからお父さんもなんとかやっていけてるみたい、週に一度は顔を見せてくれるわ」
・・・話から推測するに、神崎さんのお祖父さんは家に1人で残っているようだ。
1人かあ・・・んんん!?
ちょっと待てよ神崎さんのお祖父さんって・・・たしか卒寿(90歳)のお祝いがとか言ってたよな!?
何ちゅう元気な爺さんだよおい・・・師匠より年上なのに、まあ。
面倒・・・たしか花田さんが実家でウルフドッグを飼ってるって言ってたからそれのことか?
しかし『シンパチ』に『サノスケ』ね・・・十中八九幕末に大暴れしたあの剣客集団から取ったな、名前。
「じゃあ、お義姉さんたちも元気なのね・・・よかった」
「由香子さんは元教師だからかしら、毎日小学生の面倒を見てるわ。亮介は大人に交じって畑仕事しているわね・・・私はご近所さんとお話したり、手慰みで編み物を教えたり・・・お荷物みたいでちょっと気が引けるわ」
そう言ってお祖母さんは上品に微笑むが・・・この人何歳なんだろう。
とても90代には見えないし・・・わからん、お婆ちゃんではあるんだがな。
そうか・・・花田さんの一家は無事なのか。
心の隅にひっかかってた心配が一つ減ったぞ。
家に残っているお祖父さんは心配ではあるが・・・こうして消息がわかった以上、神崎さんも秋月へ連絡するだろうし。
「それより凛ちゃん、あなた耳が・・・!」
お祖母さんが神崎さんの少し欠けた耳に気付き、目の色を変えた。
話すことで冷静さを取り戻して気付いたんだろう。
「だ、大丈夫よこれくらい、かすり傷だから・・・」
「女の顔の傷のどこが大丈夫なもんですか!ああ、痛そうね・・・可哀そうに・・・」
そうですよお祖母さんもっと言ってあげてください。
神崎さんはあの時俺の方が~なんて言ってたけど、俺の傷なんかじゃとっても釣り合わないんだよなあ・・・心苦しい。
「詩谷からここまで来て、無茶ばっかりして・・・会えたのは嬉しいけど、おばあちゃんは心配で心臓が停まりそうよぉ・・・」
・・・ちょっと洒落にならんなその冗談は年齢的に。
しかしなあ・・・その傷の原因、俺なんだよなあ。
いたたまれなさすぎる、全く。
俺がもっとちゃんとしていれば・・・
なんてことを考えていたら、急に神崎さんが俺の方を見た。
うおっ、ビックリした。
心を読まれ・・・俺はついに考えまで外に飛び出すようになってしまったのか!?
「―――大丈夫よ、おばあちゃん。田中野さんが私を守ってここまで連れて来てくれたんだから」
・・・守って?
アレーオカシイナー?
どっちかというと俺が守られていたような気がするんだけどな~?
神崎さんの目が鋭くなった。
ヒエッ・・・コワイ!!!
「あ、あのご挨拶が遅れましてどうも申し訳ありません、私、田中野一朗太と申します・・・花田一等陸尉や神崎さんにはいつもお世話になっています」
慌てて立ち上がり、お祖母さんに頭を下げる。
「あら、私こそすみませんねえ・・・花田香枝と申します。孫や息子がお世話になったようで・・・」
背中に一本筋が通ったような綺麗な姿勢で、お祖母さん・・・香枝さんは立ち上がって深々とお辞儀をしてくれた。
姿勢がすごく綺麗だ。
日本舞踊とか作法の経験があるのかもしれない。
「いえいえそんな、お2人がいなければ私なんかもうそこらへんで野垂れ死にしてますって、ははは」
事実なので謙遜ではないハズだが・・・やはりじろりと睨む神崎さん。
ナンデ!?
「おばあちゃん、田中野さんはすごいのよ?叔父さんを負かせた流派の使い手で、凄く強くて優しくて・・・」
やめてくれないかそんなに褒めるのは。
恥ずかしすぎても人は死ぬんでござるよ!?
俺の必死の視線もむなしく、しばらく(多分に誇張された)俺の武勇伝は話され続けた。
やめて・・・やめてクレメンス・・・
香枝さんはニコニコしながらそんな武勇伝を聞き続けた後、ポンと両手を打った。
「あらまあ、十兵衛くんの所の門下生だったのねえ。それなら安心だわあ」
・・・十兵衛『くん』!?
師匠の知り合いってだけでビックリなのに十兵衛くん!?
え、じゃあ師匠より年上なのこの人!?
見えねえ・・・どう見ても60代くらいにしか見えんぞ・・・?
「し、師匠とお知り合い・・・です、か?」
「ふふ、昔ご近所さんでね・・・お父さんとも仲がいいわよ、十兵衛くん。最近見ないけど・・・まあ、元気でしょうね」
そう言って笑った目元は、神崎さんによく似ていた。
「はは、まあね、師匠ですから」
俺はいつものようにそう答えた。
そういえば師匠の知り合いって、安否に関しては一切心配しないよなあ・・・
心配する要素ないもんな。
師匠の話がよかったのか。
それからしばらく俺も入って3人で話した。
無職時代当初から、近所のご老人とよく話していた俺には何の苦もない。
じいちゃんばあちゃんの話って結構面白いし、ゆっくりとしたペースなのでなんというかこう、まったりできて好きなんだ。
「あらまあ、凛ちゃんがそんなことを・・・」
「そうなんですよぉ、いえね、ウチの先輩も悪いんですけどまさか蜂蜜をあいだだだだだだだだ!!??」
「お口チャックですよ田中野さん!!」
「お口チャックじゃなくて太腿パージですよこれはあだだだだだだだ!!!」
・・・まったりできて好きなんだ、うん。
とまあ、そんなこんなで短い時間だが打ち解けられたと思う。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去るもので、そろそろお暇しようということになった。
今回得た情報を持ち帰って、これからの計画を練らねばならん。
神崎さんが聞いたであろう情報はまだ俺は聞いてないし。
「じゃあおばあちゃん、責任者には話をしておくから、秋月の叔父さんとも連絡が取れるようになるわよ」
「ありがとうねえ、凛ちゃん。由香子さんも亮介も丁度今いないけれど、伝えておくからねえ」
「ええ、また寄るからね、おばあちゃん」
神崎さんと香枝さんは、相談室を出てもう一度ハグした。
俺は邪魔にならないように少し離れた所にいた。
・・・よかったなあ、神崎さん。
職員室へ行き、帰る連絡をするという神崎さんを見送る。
さて俺も軽トラへ戻るか・・・と歩き出すと。
「田中野さん」
後ろから香枝さんに呼び止められた。
「はい、なんでしょう?」
振り返ると、香枝さんは俺をじっと見つめている。
先程までの和らかな雰囲気とは違い、まるで心の奥底まで見透かすような強い視線だ。
「首、頭、左鎖骨、それに足・・・」
いきなりなんだ?
いや・・・まさか。
「・・・あの子を庇ってできた傷ね、それは」
・・・なんでわかるの?
「凛ちゃんがね、あなたのことを褒めながらちらちら見てたから。負い目・・・のようなものも感じたわ」
・・・なんという観察力。
あの短い時間でよくもまあ・・・
「・・・負い目なんて。俺の方こそ神崎さんの・・・顔と耳に、傷を」
忸怩たる思いでそう言うと、
「・・・ふふ、似てる」
「へ?」
香枝さんがふわりと笑った。
「十兵衛くんとソックリ・・・師弟だから似るのかしらね?」
「は、はあ・・・」
「ねえ、田中野さん」
「はい!」
穏やかだが、芯のこもった声に思わず大きな声で返事をしてしまう。
「十兵衛くんもそうだったわ、優しいけれど・・・優しすぎるけれど、自分のことにはとんと無頓着なんだから」
ぽん、と頭に手を置かれた。
「そうねえ、他人のことを10回考えたら、1回は自分のことを考えなさい。あなたを心配する人は、きっとあなたが考えるよりずうっと多いわ」
そのまま頭を撫でられる。
優しく、ゆっくりと。
今はもういない、ばあちゃんを思い出した。
「ふふ、十兵衛くんにもむかぁしね、おんなじことを言ったのよ?・・・おばあちゃんとの約束よ?」
「・・・善処しますよ」
「まぁ!十兵衛くんより素直だわぁ」
香枝さんは本当に嬉しそうに笑った。
「それと・・・凜ちゃんのこと、お願いねえ。あの子、しっかりしているようで少し・・・いえ大分おっちょこちょいだから」
・・・そうかあ?
「・・・花田さんにも同じことを言われました。・・・俺の、刀にかけても守りますよ」
「あらまあ、素敵なナイトさんだこと」
・・・どっちかと言うとサムライなんだけどな。
香枝さんは嬉しそうに手を振り、去って行った。
いい人だなあ・・・ああいう人ばかりなら、世界は平和なのになあ。
さて、今度こそ車で待機していよう。
おっと、その前に璃子ちゃんの同級生から手紙を預からないとな。
来た時と同じように、生徒さんたちに奇異の目で見られながら歩く。
職員室に戻る途中で、例の3人にバッタリ会ったので手紙を受け取った。
くれぐれもよろしくお願いします!と頼み込まれてしまった。
このミッションはなんとしてもやり遂げなければな。
『おじさん、初めは怖かったけどいい人なんですね!』と1人に言われてしまった。
悪い人かもよ~?と返したら爆笑された、解せぬ。
まあいいか。
校舎を抜け、駐車場へ到着した。
まだ神崎さんは来ていないようだ。
一服しながら待つとしよう。
2本目の煙草へ火を点けていると、近付く足音が聞こえた。
神崎さんかと思って振り返ると、違う。
真っ黒に日焼けした高校生くらいの男の子だ。
ジャージには県内有数のスポーツ強豪校の名前が印字されている。
彼は真っ直ぐこちらへ歩いてくる。
・・・この後ろには何もない。
ってことは、俺に用事か。
顔に見覚えはないが・・・
その表情には、わずかに俺への敵意めいたものが見え隠れしている。
・・・なんで?
原田の関係者・・・なわけないか。
「アンタが田中野ってのか」
彼は俺の前まで歩いてくると、真っ直ぐ俺を睨みつけてそう言った。
身長は俺より少し高い。
・・・随分喧嘩腰だな。
「ああ、そうだけど・・・どこかで会ったかな?」
横を向いていた俺も彼に振り向き、目を合わせる。
俺の顔面を横断する傷を見て、わずかに怯んだような彼。
・・・大迫力だろう?
「いいや、初対面だ。俺は花田、花田亮介」
・・・ああ、さっき香枝さんが言ってた孫・・・つまり花田さんの息子か。
神崎さんから言えば従弟だな。
「ああ、神崎さんの・・・田中野一朗太です、花田さんや神崎さんにはいつもお世話になっています」
それを聞いて、敵意の原因が分かった気がした。
火を点けたばかりの煙草を携帯灰皿へ。
勿体ないがしかたがない。
「神崎さんの傷のことだね?」
十中八九、そうだろう。
それしか考えつかない。
「ああそうだ、凛姉の顔に傷なんか付けやがって・・・何が相棒だよ、笑わせんな!」
亮介くんは目を見開いて叫んだ。
かなり怒っている。
「・・・ああ、返す言葉もない。俺のせいだ、あの傷は」
身内からすれば当然の意見である。
香枝さんが優しかっただけで、実際の所はこういう反応が普通だろう。
「どう責任取るつもりだよ!」
「・・・同じことは繰り返さない・・・とは言えない」
言った瞬間、顔面を殴られた。
起こりも見えていたが、ここは甘んじて受けるべきだろう。
が、インパクトの瞬間に思わず首受けを使って衝撃を逃がしてしまった。
申し訳ないが全然痛くない。
「なんだと!?無責任だぞアンタ!!」
ああわかっている。
わかっているとも。
「相手はゾンビやら銃を持ったキ〇ガイ共だ、神崎さんの任務上、危険は避けられない」
「・・・っ!」
神崎さんにも似たようなことを言われたんだろう。
亮介君は顔を紅潮させた。
「だがね」
俺は続ける。
「神崎さんは必ず生きて帰す・・・必ずだ」
花田さんが言うように俺が死んだら神崎さんも死ぬ・・・のなら、瀕死になっても花田さんの所まで神崎さんを連れて行く。
これは、俺の決意だ。
俺も神崎さんも生きて帰る。
絶対にだ。
「・・・っ!いい加減なこと言ってんじゃねえ!!」
お、振りかぶった。
また顔面かあ・・・しゃーない、首受けはやめとこう。
鼻とか折れないといいなあ。
「なっ!なにすんだよ凛姉!!」
俺の顔中心部を狙って放たれた拳は、横合いから伸びてきた神崎さんの手によってがっしり掴まれている。
「やめなさい、亮介」
「なんでだよ!?離せよ!!」
亮介君は必死に拳を引こうとするが、神崎さんの手がそれを許さない。
「田中野さんが避けないのをいいことに・・・恥を知りなさい!」
ぎちぎちと掴んだ場所から音が聞こえる。
神崎さん、かなり本気で掴んでいるな。
亮介君の顔が青くなってきた。
気付いたんだろう、神崎さんが本気で怒っているってことに。
「お、俺はただ、姉ちゃんが心配で・・・!そんな傷も付いちゃってさあ・・・!コイツがもっとしっかり守っていれば・・・!!」
必死で主張する亮介くん。
口調からも本気で神崎さんを心配している様子がわかる。
だが、それに対する神崎さんの返答は冷え切ったものだった。
「―――馬鹿にしているの、私を」
まるで敵に対している時のように、神崎さんの目が鋭くなる。
冷え切った口調とは逆に、その目は燃えるような意思を宿していた。
「民間人の田中野さんが、自衛官である私を『しっかり守る』?・・・ふざけないで」
「で、でも・・・」
「私たちは『相棒』よ。どっちかが守られるばかりの関係じゃないわ」
神崎さんは、不意に何かをこらえるような表情になった。
「―――4発よ」
「・・・へ?」
「田中野さんが私を庇って撃たれた数、私が、守られた数」
亮介君が目を見開き、俺を見つめる。
信じられない物を見る表情で。
「うち1発は出血多量で死に至る可能性もあったわ・・・それでも不足なの!?」
「っが!?」
ぎぢり、と音が鳴る。
握力の段階が一段増したようだ。
・・・っていうか俺の傷そんなにヤバかったの!?
「神崎さん神崎さん、もうやめてください」
流石にこれ以上はヤバい。
穏やかに声をかけた。
「ですが田中野さん―――」
「いい従弟くんじゃないですか、こんなに怒るってことはそれだけ心配してくれてるんですよ」
「・・・」
「俺は気にしてませんから、ね?」
俺は、亮介君の手を掴む神崎さんの手を軽く叩く。
神崎さんの手から少しずつ力が抜け、亮介君は腕を抱え込んで尻もちをつく。
「・・・田中野さんが、そう言うなら・・・そう、します」
「はい、そうしましょう」
ふう、やっと重苦しい空気がなくなったぞ。
「・・・わかった?亮介。私たちは対等なの」
「・・・う」
よっぽど痛かったんだろう。
手をさすりながら立ち上がった亮介くんは、まだ顔が青い。
「まあまあ、これでチャラにしましょうよ神崎さん、俺も1発殴られたん・・・で・・・?」
言う途中から再び神崎さんの顔が険しくなっていく。
「・・・亮、介。殴ったの?田中野さんを・・・?」
「あ、う・・・」
え、見てたんじゃないの!?
うわ、藪蛇だこれ。
言うんじゃなかった。
「だ、大丈夫ですよ神崎さん!ホラ見て見て、『首受け』したからほぼノーダメですって!ね?」
「殴ったのね、亮介」
駄目だ聞いちゃいねえこの人。
「う、うん・・・で、でもねえちゃn」
どごん、という重々しい音と共に、亮介君の鳩尾に神崎さんのボディブローがめり込んだ。
うっわ。
意識の間隙を突いて緊張が緩んだ腹筋に突き刺さってる・・・痛そう。
「―――問答、無用」
コワイ。
白目を剥いた亮介君は、口の端から涎を零しつつくたりと神崎さんにもたれかかった。
「・・・田中野さん」
「はひ」
「この子を運んで、少しお説教してきます。もう少しお持ちいただいても?」
「どうぞどうぞごゆっくりどうぞ」
まるで米俵のように雑に亮介君を担ぎ、神崎さんが校舎へ再び消えていった。
門番の方々が、怪物でも見るようにしていたのが印象的だった。
「・・・なんか、すごいですねえ」
「そうっすねえ」
軽トラの荷台に腰かけ、通りがかった森山さんと煙草を喫っている。
先程の騒ぎを見ていたのか、神崎さんが去って恐る恐る寄ってきたのだ。
「ま、身内の話なんで部外者があまり口を挟むのはアレですし」
「あー・・・それはそうですねえ」
弟とは違って、落ち着いてるな森山さん。
神崎さんを見ても反応しなかったし。
いや、この人は鷹目さんにゾッコンだからか。
「あ、田中野さん・・・弟なんですけどしっかりやれてましたか?アイツのことだからやる気ばっかり空回りしてそうで・・・」
さすが兄弟。
鋭いなあ。
「・・・いや、避難民の方々にも慕われていて、いい警官ぶりでしたねぇ」
嘘は言っていないぞ嘘は。
サクラや神崎さんが絡むか、戦闘では無能になるだけで普段は好青年だからな。
・・・自分で言っててこれは美点か心配になってくるな。
「そ!そうですか!・・・いやあ、人間って成長するもんなんですねえ」
「ソウデスヨ」
俺は優しいので黙っておくことにした。
森山さんが、聞いてもいないのに鷹目さんの好きなところを並べ始めるという突発的な苦行に耐えることおよそ15分。
若干スッキリとした顔で神崎さんが戻ってきた。
・・・亮介君は大丈夫だろうか。
「あの・・・」
「帰りましょうか田中野さん」
「ハイ」
俺は臆病者なので聞かないことにした。




