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38話 さらば我が愛車のこと

さらば我が愛車のこと




「っし!!」


抜き放った剣閃が、朝の空気を斬り裂く。


「っは!!」


手首を返し反対側に斬り上げる。


「ぬんっ!!」


左手を添え、踏み込みながら真っ向から斬り下げた。


息を吐き、残心。

しかる後に、ゆっくりと納刀。

姿勢を楽にする。


・・・よし。

痛みはほとんどない。

痛みというか、引きつったような感触が若干あるだけである。



「復活!!田中野復活!!」



俺は、両手を天に掲げて叫んだ。


・・・いやあ、やっと治ったなあ左肩。

長く苦しい療養生活だった・・・

日がな一日楽な筋トレとストレッチをしつつ、璃子ちゃんたちと映画を見る日々。

・・・お?

全然辛くも苦しくもなかったな?

むしろ最高の日々だったんだが?


まあね、自衛隊からの依頼もあるしいつまでも遊んでいるわけにもいかん。

精神が拒否反応を示すが、し、仕事を・・・仕事をしないとなあ・・・


ちなみに俺の大怪我については秋月の花田さんは知っている。

神崎さんが無線で知らせてくれたのだ。

その際に少し会話する機会があった。

『男同士の話なので、田中野さんと2人にしてくれ』と言われた神崎さんは、おとなしく部屋を出ていった。


俺としては、もう頼りにならんからクビ!!なんて言われるかと身構えていたんだが・・・

『引き続きお願いしたいが、まずは怪我を治してから』と言われた。

加えて、『姪を助けてくれてありがとう』とも。

俺でいいのかと聞いたら、『あなた以外ではいない方がマシでしょう』とも。

・・・そうかなあ?歴戦の自衛官とかの方がいいんじゃないのか?

そう思わないでもなかったが、刀にかけて守ると約束した以上死ぬまで諦める気はない。

愛想をつかされない以上、やれることはやるだけだ。


『前にも言いましたが・・・あなたも、死んではいけませんよ。腕でも足でも犠牲に・・・などと言うのも、無しです』


・・・そう釘を刺されたが。

ううむ、できる限り気を付けよう・・・できるだけ。

でも遠距離狙撃はなあ・・・どう気を付ければいいのかなあ・・・?

自衛隊製ボディアーマーに期待するしかないのか・・・?

まあ・・・外を歩く時には神崎さんの言うことをよく聞こう、うん。



「おじさん!おめでとー!」「わぉん!わふ!」


稽古の様子を見ていた璃子ちゃんが、サクラと一緒に飛び掛かってきた。


「バッチコーイ!」


そのまま両手を広げて受け止め、両方まとめて抱え上げる。


「きゃーっ!汗臭ーい!!」


能動的に酷い!!!

じゃあなんでちょっと嬉しそうなんだよ!!

サクラもスンスンスンスン嗅がないの!!

・・・すぐ風呂に入らなければ!!


「サークラ!風呂入るぞ風呂ォ!!」


「わん!」


腕の中でピコピコ尻尾を振るサクラに言う。


「もーっ!冗談だってばぁおじさん!」


いやでも汗だくだし、風呂入りたいし・・・

動けるようになったのが嬉しすぎてちょいとやりすぎた。

そんなわけで風呂を沸かそうそうしよう。



朝から風呂に入れるとはいい身分であるなあ・・・

いつものようにサクラと一緒に入りつつ、天井に向けて息を吐く。

サクラは浮かんだ桶の中で目を細めて気持ちよさそうだ。


「わしも入るぞー」


「おおう!?」


ガラリと戸が開き、七塚原先輩が入ってきた。

・・・相変わらずでけえ!何もかも!!

ラ〇ウみたいだ!!

・・・せめて病んだ〇キくらいにはなりたいもんである、俺も。

病んでる癖にムッキムキだもんなあ、あの人。


「畑仕事したけえな」


「ああ、どうぞどうぞ」


ここの風呂場はそこそこ広い。

そりゃあおっちゃん宅とは比べ物にならないが、それでも普通の人間なら3人は楽に入室できる。

風呂桶はちょい広い1人用ってとこだが。

いくらでも湯は沸かせるがタイムラグがある。

限りある資源は有効に使わねばな。


「ふぅ~・・・稽古終わりに、よお銭湯行ったのう」


椅子に座り、かけ湯しながら懐かしそうに先輩は言う。


「懐かしいっすねえ・・・あそこの銭湯大丈夫かなあ・・・結構な老夫婦でしたよね、経営してたの」


「おう・・・まあ、近くに警察署があるけぇ、大丈夫じゃとは思うが・・・」


ああそうだったそうだった。

時間帯によっちゃ、風呂場が警官だらけになってたなあ。

先輩は見ての通りのスーパー超合金ボディだし、俺もそこそこ鍛えてる。

道場通いだとわかると、勧誘の嵐だったなあ。

俺は『卒業したら警察学校に来ないか!?』だし先輩は『まだ年齢は大丈夫だから試験を受けないか!?』なんて、けっこう強引だった。


まあ、どこの道場だと聞かれて名乗った瞬間に・・・


『南雲流・・・?た、田宮先生の門下生・・・!?』『す、すまない・・・強引に勧誘してしまって・・・!!』


なんて、急にトーンダウンした。

『お願いだから先生にはくれぐれもよろしくお伝えしていただきたい!!』などと、大の大人が・・・それも、屈強な機動隊員っぽい人たちが平謝りになったのは驚きを通り越して恐怖でしかなかったが。

師匠・・・一体過去に何をやらかしたというのか・・・

聞きたくないから聞かなかったけど。


「師匠、警察に恐れられすぎでしょ・・・」


「なんじゃあ、知らんかったんか?先生はつい最近まで警察署にも出稽古しよったんで?」


体と髪の毛を泡まみれにしながら先輩が言う。


「え?そうなんですか?」


「ほうよ、『爺じゃと舐めてかかる若造共を、足腰立たなくなるまで稽古するのは気分がいいわい』っちゅうて楽しそうじゃったぞ」


・・・容易に想像できるな、その光景。

それにしても師匠、出稽古行きすぎじゃない?

学校にもちょこちょこ行ってたろ、確か。


「南雲流の名前はさほど有名じゃなあけど、田宮先生はそこら中の警官には知られとるぞ・・・じゃけえ、あがあにわしらが暴れても何とかなったんじゃろうが」


・・・なるほど?

そう言われてみれば・・・正当防衛ではあるが過剰防衛になりそうな案件もあったな?

高校の時のアレとかアレとかアレとか。

そうかあ、それで警察がいっつもなんか優しかったのかあ。


「いかに相手が外道じゃとはいえ、毎度毎度半殺しにしよったけえなあ・・・わしら」


「でも体が勝手に動いちゃうんですよねえ・・・」


「わしもじゃ、特に子供の泣き声を聞くと、歯止めが利かんようになりよる」


・・・たしか俺が中学の時、先輩が近所の虐待親を半殺しにして大騒ぎになったことがあったな。


稽古の帰りに子供の悲鳴を聞きつけた先輩が、たまたまある家の方を見たら・・・

そこの家の子供が、庭で父親にゴルフクラブでボコボコにされてたらしい。

それも丸裸で。

それを見た先輩は塀を蹴破ってその家に突入。

父親から殴られるも意に介さず、素手でそいつをボッコボコにした挙句に投げ飛ばして玄関にめり込ませた。

例によって、近隣からの通報で駆け付けた警察に即行で取り押さえられたのは先輩の方であった。

だが、近所の方や当の子供本人からの証言で・・・なんやかやあって罪に問われることはなかったらしい。

日常的に殴る蹴るの虐待も受けてたようだし。

・・・児童相談所はもっとしっかりしてくれよな!


『助けてって言ったら、あのおにいさんが助けてくれた。あのおにいさんは悪くない』


ボロボロの状態の子供は、それでもキッパリそう言ったという。

俺にはわからんが、色々あったんだろう。

後で聞いたらその父親は実の父親ではなく・・・なんて、後ろ暗い事情もあったようだ。


「おっと、代わりますよ先輩」


流石に先輩と2人では狭すぎるので、湯船から出る。

髭でも剃るか・・・そんなに生えてないけど。

うお、先輩が入った途端に風呂が溢れた!

サクラの桶は大波に巻き込まれた漁船のように揺れている・・・が、本犬は楽しそうなので別にいいだろう。


「そう言えば・・・先輩が糞親父を半殺しにして助けた子供、どうなりました?」


さっき思い出したので聞いてみた。


「おう、あの後施設に入ってのう・・・気にせんでもええのに、毎年年賀状やら暑中見舞いやら届くわ」


「へえ、元気なんですねえ・・・よかったよかった」


どうやら、なんとか元気にしているみたいだな。


「この春に就職して龍宮に行くけえ、挨拶に来るっちゅうて手紙が来とったが・・・さて、無事ならええがのう・・・」


先輩は、サクラを撫でて心配そうに呟いた。

ああ・・・そりゃあ心配だなあ。

こればっかりはなあ・・・返す返すもゾンビが悪い。


「子供が辛い目にあうのはのう・・・わしには耐えられん」


「子供はねえ・・・そうっすよねえ」


大人ならある程度は自己責任だが・・・子供はな。

いつかの保育園を思い出した。

ああ、気が滅入るなあ。


暖かい風呂に入りながらも、俺達はしんみりとしていた。

サクラは不思議そうに、首を傾げながら俺たちを見ていた。




「・・・で、これだよ」


風呂から上がり、外へ出た。

サクラは先輩とお昼・・・朝寝していると思う。

懐いたものであるなあ。

・・・たぶんそのうちどこからともなく巴さんもやってきて、一緒に寝ることだろう。

俺もそうしてもよかったが、まだやる事がある。


目の前には・・・

変わり果てた愛車が鎮座している。


割れたフロントガラス。

千切れたサイドミラー。

車体のそこかしこに刻まれた小さな弾痕。

そしてなにより・・・


車体の下から地面にぶちまけられたオイル。


ヤクザの銃撃を受けた結果である。

ガラスやらなんやらは、正直なんとでもなる。

なんとでもなるが・・・車体下部はどうにもならん。

恐らくだが、エンジンブロックへの被弾によってどこかしらの大事な部分が破損。

エンジンオイルが流れ出した結果だろう。

もうエンジンもかからなくなってしまった。

よくあの時、ここまで帰ってこれたものだ。


これは直せない。

俺には本格的な修理技能はないし、たとえあったとしても銃弾による傷なんて直せない。

代えの部品なんてないし、この分では丸ごと交換しないと駄目だろう。


「お前にも色々世話になったなあ・・・」


ボンネットをぽこぽこ叩きながら呟く。

この騒動の前から、10年以上に渡って俺や親父の釣りの足となってくれた。

元から騙し騙し乗ってきたが・・・この前の銃撃とカーチェイスで、とうとう駄目になってしまった。


「ありがとうな、お前のお陰で生きて帰れたよ」


ボロボロだが、最高にかっこいい軽トラに別れを告げる。

ここの片隅にでも安置しておこう。

ガソリンは全部抜いておかんとな、発火したら危ないし。


「・・・駄目ですか、やはり」


いつの間にか背後に神崎さん。

もう慣れたから驚かんぞ。


「ええ、さすがにこれは・・・修理工場でもお手上げでしょうね」


「そうですか・・・残念です」


神崎さんと移動する時も、ほぼコイツだったからなあ。

感慨深いに違いない。


「田中も結構働いてるし、自衛隊からもらったら?戦車とか」


・・・驚かんぞ、後藤倫先輩!


「運転できないので無理でござる」


「ふうん・・・戦場ヶ原は?」


「神崎です・・・!私も、戦車は経験がありません・・・装甲車なら何とかなりますが・・・」


そんなんあっても小回りきかないから無理でしょ。

やたらデカいでしょ、あれ。


「戦車はともかく・・・通常の車両なら、貸与の形にすることはできると思いますが・・・余っていますし、田中野さんなら叔父も許可するかと」


「うーん・・・運転し慣れてないからパスで」


普通の車よりかなり頑丈なんだろうが・・・咄嗟の状況なんか、馴れてないとキツい。

それになにより、悪目立ちするしな。

この前みたいに変なのに見つかったら困る。


「じゃあ、どうするの?」


「・・・現地調達で!」


つまりまあ・・・そういうことだ。




「確かにね、田舎なら軽トラはいっぱいあるし」


「むしろ、田舎じゃけえようけあるわなあ」


「できるだけ状態のいいのを探しましょうか」


俺は、先輩方と連れ立って歩いている。

神崎さんは例によってお留守番だ。

なんとも、可愛らしいふくれっ面で見送ってくれた。

・・・殺さないでいただきたい。

あれだよ、動かないと先輩方不機嫌になるからさ・・・

神崎さんは遠征でがんばっていただこう。


現在位置は原野の東側集落・・・以前の廃校がある方の集落だ。

目的地は、その廃校からさらに奥にある。

高柳運送からは、歩いて30分くらいかな。


「ここ、学校なかった?」


廃校の焼け跡を見て、後藤倫先輩が言う。


「ええ、カス共が巣にしてたんで皆殺しにして燃やしました」


「でかした」


「どういたしまして」


もう骨も残っちゃいないだろう・・・カス共はともかく、犠牲者の方々は。


「こんな田舎にも、おったんじゃのう」


やるせない表情で、七塚原先輩が言う。


「ここは見晴らしもいいし、ゾンビ対策にはもってこいですから・・・変なのに目をつけられてもおかしくないですよ」


「ほうじゃのう・・・こがあな田舎に、のう・・・」


・・・子供の犠牲者がいたことは、やっぱり黙っとこう。

今更どうこうなる話じゃ、ないしな。



「あったね、軽トラ」


「あるのう、山ほど」


「さすがに、これは予想できなかった・・・」


廃校を通り過ぎ、さらに歩くこと10分少々。

目的地の建物、は田園地帯のど真ん中にポツンと建っていた。


色褪せた看板には、『原野ライスセンター』と書かれている。

種もみを精製して玄米にしたり、加工したりする農協の施設だ。

ここになら軽トラの1台くらいはあるだろうと、来てみたのだが・・・


ありすぎる、軽トラが。

ゾンビ騒動当日に、寄り合いか会議でもあったのだろうか・・・

ざっと見える範囲でも、広大な駐車場に10台以上の多種多様な軽トラが停まっている。


まあ、それ以上に予想できなかったのが・・・


「黒ゾンビ・・・なんでまた、こんな所に」


軽トラの停まっている駐車場の先。

米の搬入口と、巨大な機械・・・アレが脱穀機か。

まあ、その区画に・・・見え隠れする黒ゾンビ。

数は・・・ざっと5体。

ひょっとしたら暗いからノーマルゾンビが黒く見えるだけかもしれな・・・あ、光が当たっても黒いや。


「どうしましょう」


「気付かれとらんようじゃけ、退くこともできるが・・・」


小声で七塚原先輩と相談する。

正直、軽トラなんてどこにでもある。

なんならさっきの話はなかったことにして、神崎さんにジャンピング土下座して自衛隊の車を借りても・・・


「駄目、なんでか気付かれた。来る」


後藤倫先輩の声に、俺も七塚原先輩も即座に戦闘態勢へ移行する。

くっそ、こんなに離れてるのになんで気付かれるんだ。

音も立ててないというのに!


だが黒ゾンビの何体かは、確かにこちらを認識している。


「こっちゃあ、風上じゃな・・・匂いで判断しよるんか?」


「さて・・・来ますよ!このまま迎え撃ちますか?」


「ん、ここがいい」


先輩方が左右に散ったので、俺は真ん中に。

兜割を引き抜き、軽く八相に構える。


七塚原先輩は六尺棒を下段気味に、後藤倫先輩は長巻を脇構えに構えた。


「グウルウウウウウウウウウウ!!」「アアアアアアアアアアアアアガ!!!」「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


黒ゾンビたちが、まるで雪崩のように走ってくる。

先輩方は心配しても仕方ないので、せめて足手まといにはならんようにしなければな。

病み上がりにはちとハードだが、贅沢は言ってもおられん・・・か!!!



「しゃああっ!!!」


俺に飛び掛かる黒ゾンビの顔面を、カウンターでぶん殴る。


「アギッ」


首をへし折った!

重力に従って前に倒れるそいつを蹴り、横に倒す。

後ろから続いて来るのは・・・3体!


前に踏み込みながら、体を低く。


「しいいいあっ!!!!!」


地面すれすれの斬撃で、飛び上がりかけた黒ゾンビの足を払う。


「ぬんっ!!」


前のめりにすっ転んだ黒ゾンビの、その後頭部を砕く。


大きく痙攣した黒ゾンビの背中を蹴り、跳ぶ。


「じゃあああっ!!!」


空中で大上段から振り下ろし。

続く黒ゾンビの眉間に、兜割がめり込む。


両目を飛び出させるそいつの胸元を蹴り、後方に跳躍。

残るは、1体!!


「グルウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!」


地を這い、まるで獣のように疾走する黒ゾンビ。

姿勢が低すぎる・・・!

正面からでは、無理だ!

それなら・・・


こう・・・するっ!!


「ああああっ!!!!」


突撃にタイミングを合わせ、跳ぶ。

体を、前に巻き込みながら・・・!


「おおおっ!!!!」


前方宙返りの姿勢で、回転する勢いを乗せた一撃を―――そいつの後頭部に叩き込んだ。


南雲流剣術、『拝地』!!


そのまま冷静にバランスを取り、着地。

構えながら周囲を見る。

残敵・・・なし。

確認して、大きく息を吐いた。


・・・ふう、今度はちゃんと足から着地したぞ。

同じ失敗は二度としない・・・っていうか、この状況で失神したら情けなさすぎる。


「むう、遅れた」


後藤倫先輩がぼやく。

・・・その後ろで、黒ゾンビの首が悉く落とされているのが見える。

おっそろし・・・よく首ばっかり斬れるよなあ・・・


「今日は首の気分」


「どこの蛮族ですか、先輩」


どこに出しても恥ずかしくないドヤ顔ですこと・・・

褒めてないんだけどなあ・・・


「動きようなったのう・・・『拝地』なんざ先生以外にできる奴、初めて見たわ」


六尺棒をカラフルにした七塚原先輩もこっちに歩いてくる。

黒ゾンビは・・・挽肉の一種になってるなあ。

生肉料理っぽい見た目に・・・やめとこ、食欲なくなる。


「まあ、練習したんで・・・先輩こそ黒ゾンビをよくもまあ粉々に・・・」


「表面は硬いが、内部は普通の人間とそう変わらんで」


・・・まず人間も普通は挽肉にできないんですがそれは・・・


まあ、とにかくみんな無事でよかった。

さて、まずは周囲の確認だ。



ライスセンターの内部に踏み込むと、そこは控えめに言って地獄だった。

人間の手足や衣服の切れ端が、いたるところに転がっている。


「なんてこった・・・いや、これは・・・」


よくよく見るとおかしい所がある。

腕や足はあっても胴体や頭はない。

それに・・・


「残りの手足も腐っとらんのう・・・こりゃあ全部ゾンビじゃな」


七塚原先輩の言う通り、腐敗臭が全くない。

ここにはゾンビしかいなかったようだ。

言うなれば、黒ゾンビの『餌場』か・・・ここは。


「餌があると寄って来て増える・・・ゴキブリみたい、黒いし」


「じゃあアシダカ軍曹的な存在にも期待したいところ・・・いややっぱナシですわ、とんでもない化け物になりそう」


軽口で返しつつ、周囲を見回す。

米のシーズンじゃないから、当然の如く内部には何もない。

ゾンビの残骸ばっかりだな。


「残敵・・・ナシ!じゃあ軽トラ見繕って帰りましょっか」


俺達は手分けして、駐車場からよさげなのを物色することになった。



「田中田中!これにしようこれに!」


テンションの高い後藤倫先輩の声に行ってみると、そこには奇妙な軽トラがあった。

車体カラーは慣れ親しんだ色。

だが、今までの軽トラとはキャビンの形状が大分違う。


「おおー、これは一時期話題になったやつじゃないですか」


車高は若干高く、キャビンの部分は大きい。

大きいというか、後ろに長いというか。

前の軽トラと違い、背もたれを後ろに倒すことができる。

居住性と積載量を両立させたタイプだ。


「ええのう、中も広いし・・・新品同様じゃ」


確かに、買ってから1年そこそこって感じだな。

おまけに運転席にはキーが刺さったまんまときたもんだ。

田舎特有のガバガバセキュリティ、万歳!!

カーナビもクーラーも完備・・・タイヤの空気圧もばっちりだ!

こいつにしよう!キミに決めた!!!


「よろしくな、相棒!」


前よりもゴツいそいつに、俺は声をかけた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 田舎だと玄米にした米の状態で各家庭はコメを ストックしてるよ?その方が保存しやすいし 自宅に糠の脱穀機があるから各家庭は 玄米でパントリーに保存してるよ? パントリーに米・餅米・豆類乾燥茸や…
[一言] 軽トラも良いけど、所謂1tトラックで良いでね? ライトエーストラっクとかバネット・トラックと言われる1.5lの小型トラック。 税制の面で不利だけど、結構使ってる農家や商店が多い。
[良い点] タンボルギーニは伊達じゃない!ありがとう先代。 [一言] 夢で逢えた結果やはり一皮剥けたね。
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