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27話 先の計画のこと

先の計画のこと




「オーライ、オーライ、そこ!そこでいいよぉ!」


「うーい、ここね」


璃子ちゃんの声に答えつつ、電動ドリルを回転させる。

よし、これだけビス止めすればたぶん大丈夫だろう。


門から飛び降りて、成果を見る。

うむ、我ながら大したもんだ。



黒ゾンビ(仮称)襲来の翌日。

俺は璃子ちゃんと正門を改修していた。

今までの正門の上に、倉庫や周辺から探してきた鉄板やらを取り付けたのだ。

以前は2メートルちょいだった正門は、4メートルほどの高さになっている。

勿論土台となる門の部分にも補強を施し、分厚く頑丈なものができた。


昨日の黒ゾンビは2メートルの門にジャンプで乗った。

さすがにこれくらいの高さでは、手も足も出ないだろう。

・・・出ないと思いたい。


高柳運送は四方を水路で囲まれているので、ここを塞いでおけば一応は大丈夫なはずだ。

なお裏門は、七塚原先輩と後藤倫先輩が作業している。

あっちは完全に封鎖するので、もっと頑丈になるはずだ。

こっちの門は車を出すから、どうしても開けられるようにしておかないとな。


あと、探索に出たら発電機を調達しよう。

大木くんがやっていたように、電気柵でも作れればさらに防御が万全になるし。

残念ながらこの地区にはホームセンターがない。

硲谷あたりで探してみるかな。

燃料のガソリンならまだまだ余裕はある。

車程燃料使わないしな、発電機。


そうそう、黒ゾンビはあの後出没していない。

屋上から全員でくまなく偵察したが、見える範囲にいるのはノーマルゾンビだけだった。

あんなのがワラワラいなくて助かったよ、本当に。

レアキャラってわけだ。


あの後、神崎さんが様々な角度から銃弾を撃ち込んで強度を検証した結果。

黒ゾンビの殻みたいな瘡蓋部分以外は銃弾が通ることが判明した。

そう、恐ろしいことにあの殻は拳銃弾を弾くのだ。


「持ってきた支援機関銃なら貫通できるでしょうが、それでも従来よりかなり接近しないといけませんね」


とは神崎さんの談である。


なお、七塚原先輩が六尺棒で思い切り殴ると殻は砕けた。

俺でも、場所さえしっかり殴れていれば破損させることは可能である。

が、戦闘中にそこまで気を回せない。

黒ゾンビは動きも速いしな。

やはり装甲のない所を狙うべきだろうな・・・



「ゾンビが進化かあ・・・こりゃあいよいよ大変なことになってきたなあ」


アルファ米のおにぎりをパクつきつつぼやく。

ここは敷地内の倉庫。

全員で車座になって食事中だ。


今までは特に苦戦しなかったゾンビだが、ここへ来てあんなのが飛び出すとは。

正面から1体ずつお行儀よく来てくれれば対処も楽だが、まさかそんなことはあるまい。

ゲームじゃあるまいし。

複数で出てきた場合、位置取りを見極める必要があるな。

一斉に襲い掛かられたら、流石に死ぬかもしれんなあ。

まあ、黒ゾンビも連携を取れるほど賢いとは思えんが。

やはりゾンビが頭までゾンビで助かったでござるなあ。


「・・・行方不明の自衛隊員も、もしかしたらアレにやられたんかもしれんのう」


おにぎりを一口で頬張った七塚原先輩が、ゴクリと飲み込んで言う。

デカい口だなあ。

それでもしっかり飲み込んでから話すんだもんなあ、お行儀がいい。


「銃で武装した自衛隊員が、ですか?うーん・・・考えにくいなあ」


怪訝に思って言い返す。

たしかに俺も面食らったが、落ち着けばそれほど脅威だとも思えないんだが・・・


「あのですね田中野さん、確かに先行した偵察隊は能力の高いものが選抜されましたが・・・あなた方と比べるのは酷と言うものですよ?」


苦笑いしながら神崎さんが言う。

・・・そうかなあ?


「あのゾンビに対しては、銃よりむしろ近接戦闘の方が効果が高いように思われます。南雲流の方々に比べれば、我々のそれは決して高いものではありませんから」


「ん、一理ある。田中は弱っちいけど」


後藤倫先輩が、食後のお茶をふうふう冷ましつつ付け加える。

うるせいやい猫舌。

そんなこと俺が一番よくわかってんだよ・・・

一応『南雲流』ってくくりには俺も入ってるだろうが、その中では俺は一番弱いだろう。

もっとも『剣術単体では』って注意書きを入れておきたいけどな。

俺以外は全員それぞれの部門の免許皆伝者だけど、俺はまだまだだ。

しかし、小賢しい戦法を駆使すれば俺も先輩方と十分戦える・・・いやいや、最近物騒だな考え方が。


「ま、俺も死なない程度に頑張りますよ、先輩」


「・・・むぅ、張り合いがない・・・腹立つ」


何故か不満そうな顔である。

・・・後藤倫先輩は一体俺に何を求めているんだ。

ウォーモンガーにでもなれってことか?

嫌だね、そういう称号は今もどっかで暴れているであろう師匠に進呈する。



「とりあえず、この先のことなんですけども・・・」


食事が済んだので、口を開く。

いい機会なので、伝えておくことにしよう。


「俺と神崎さんは今まで通り龍宮市街に向かってじわじわ偵察します、これはいいですよね?」


「はい、これからもよろしくお願いします」


かしこまって頭を下げる神崎さん。

いや、むしろ俺の方がよろしくお願いしますなんだが・・・


「七塚原先輩には、主にここの防御をお願いしたいんですが・・・」


ナチュラルに膝の上に巴さんを乗せている七塚原先輩に言う。

しかしいつの間に乗せたんだ。


「そりゃあええが・・・加勢はいらんか?」


怪訝な顔で返してくる七塚原先輩。

巴さんは・・・うん、目が輝いているな。

『むーさんといつでも一緒にいられます!』って感じだ。


「魅力的な提案ですけど・・・また黒ゾンビが出た場合、斑鳩さん母娘と巴さんでは対処が遅れるでしょう?なので、どうしても必要な時以外は先輩にはここにいてほしいんです」


斑鳩さんの狙撃の腕は大したものだが、残る璃子ちゃんも巴さんもジャンル的には非戦闘員だ。

最近は璃子ちゃんは銃の扱いも上手くなってきたようだし、巴さんの身体能力は元々高い。

しかし、それでも近接戦に対応できる人がいないんだ。

黒ゾンビが侵入してきた場合、最も役に立つのは圧倒的な近接戦闘能力を有する七塚原先輩だ。

3人は援護するだけで大丈夫だろう。

・・・ま、ぶっちゃけ援護は不要だろうが。


「それに、敵はゾンビだけじゃない。襲撃者なんかが来た場合は大変です」


以前から何度も遭遇した、他人を殺したり奪ったりすることに一切の躊躇がない人間もどきども。

ああいう手合いがここを見つけたら、大変なことになる。

特にここは美人揃いだしな。

・・・考えるだけで胸糞が悪くなる。


「・・・ほうじゃな、それならわしはここら辺の掃除でもしよこうかのう。あの黒いん以外は何体でも問題にならんけぇ」


さらりととんでもないことを言う人である。

老人ゾンビなんかは軽く小突いたくらいで爆発しそうだけどさあ。


「最後に、後藤倫先輩ですけど・・・」


「ん、私はどっちでもいい。特にやりたいこともないし」


水を向けると、食後のお茶をふうふう冷ましながら言う後藤倫先輩であった。

・・・もうそれ湯気も出てないんだけど。

どんだけ猫舌なんだ。


「散策もしたいから基本的に田中についてく。いい?」


ううむ、戦闘力に裏打ちされた確かな自信が見て取れる。

こっちとしては、戦闘メンバーが増えるから願ったりかなったりではあるんだが・・・


「俺はいいですけど、神崎さん・・・どうです?」


「後藤倫さんの力量があれば、大いに助かります。こちらからお願いしたいくらいです」


神崎さんは大きく頷いた。

ふむ、神崎さんがいいなら俺としては特に問題はないかな。


「ん、弱っちい田中を守ってあげる」


「・・・留守番しててもいいんですよぉ?」


「・・・最近田中が生意気、不満」


まるで子供のように頬を膨らませる後藤倫先輩である。

強さでいつも失念しそうになるが、後藤倫先輩は神崎さんよりも年下なのだ。

年相応・・・ではないが、童顔なので高校生にも見える。

まったく、色々面倒臭い先輩である。


「俺も修羅場をいくつも経験しましたからね、いつかは神崎さんも後藤倫先輩もまとめて守って見せますよ、ははは」


いつまでも年下の女性陣に守られてばかりってのも情けない。

ここはひとつ、男の根性を見せてやろうではないか。

いつだったか璃子ちゃんにも言ったが、俺は前時代の人間なのだ。

なけなしのプライドくらい、ある。

いつまでも弱い田中野ではいられなあだだだだだだだ!?


「ん~!おっとこのこぉ!!」


満面の笑みを浮かべた巴さんが俺の背中をバンバン叩いている。

やめてくださいよ元バレーボールオリンピック候補ォ!!

肋骨スパイクは洒落になりませんよォ!!!


「言うようになったのぉ、田中野」


何故か七塚原先輩も嬉しそうだ。

まずは奥さんの蛮行を止めてはいかがかな!?


「きゃん!わぅん!!」


膝の上にいたサクラが、巴さんに抗議するように吠えた。

さっきまでスヤスヤしてたからな、『ビックリした!!』って感じかなこれは。

怒ってもかわいいなあサクラあだだだだだ!!!!!


「・・・生意気」


えげつないほどの捻りを加えて太腿を抓られた。

やめてください後藤倫先輩!!

俺の太腿は紙粘土ではないんですけどォ!?


助けて神崎さ・・・いない!?

どこ行ったのォ!?


「綾おねーさん!ストップストップ!おじさんの顔が真っ青だよォ!」


「・・・根性なし」


おおう・・・ありがとう璃子ちゃん。

激痛から解放された・・・

大丈夫?俺の太腿欠けてない?

あ、大丈夫だわ。


「ま、まあとりあえずそんな感じでいきますか・・・具体的には何日か休みつつ、周辺の変化を見極めた後で動きましょう」


「そうですね、しばらくは休養も必要でしょう」


・・・いつの間に戻って来たの神崎さん。

気配がまるでなかったぞ・・・この人、隠密技術では俺を明らかに上回っているな。


「サクラ、しばらくはゆっくりできるからいっぱい遊ぼうな」


「わふ!わふ!!」


満面の笑み(俺からの推測)で、胸に体当たりしてくるサクラを撫でる。

最近あっち行ったりこっち行ったりしてたからなあ。

寂しくさせた分、可愛がってやらなきゃな。




『そなたは、美しい』


『っ!?』


瀕死の若者の言葉に、少女は飛び下がって狼狽えた。


いいよなあ、このシーン。

ちらりと周囲を確認すると、目を輝かせながら七塚原先輩に抱き着く巴さんが見えた。

うん、こういうの好きそうだもんな。

神崎さんも目をキラキラさせている。

その他の女性陣にもなかなか好評のようだ。

・・・後藤倫先輩はよくわからんが。



ここは社屋2階の会議室。

俺たちは、スクリーンに映った映画をみんなで見ている。


最近は探索とか戦闘ばっかりで、息抜きがほとんどできていなかった。

俺もすっかり映画鑑賞を忘れてたし。

というわけで、どうせなら会議室のでっかいスクリーンで映画でも見ようということになったわけだ。


『甘いラブストーリーがいいですっ!』と巴さんが主張したが・・・すいません、俺の在庫にはそれ系がないんですよ・・・

苦肉の策でコイツを選んだというわけだ。

たぶんラブストーリーだし、これも。


森の神と人間の争いを描いた名作アニメ映画である。

驚くべきことに、七塚原先輩以外は見たことがないそうだ。

嘘だろ・・・この国に住んでてコレを見ていないとか、人生の半分くらいは損してるぞ。

璃子ちゃんは、森の中に住んでいる不思議な妖精のアレは見たことがあるらしいが。

ううむ・・・世代が違うと見ていないもんなのかねえ。

金曜日のロードショーでも何回も流れているというのに。

まあ、アニメ映画って見ない人は見ないもんなあ・・・

それならこれを機に知ってもらおう、うん。



『あの子を解き放て!あの子は人間だぞ!!』


『黙れ小僧!!』


おお、最高の名シーン・・・いいんだよなあここ。

山犬さんの切ない心情が伝わって来て・・・

そしてこの後に流れる主題歌がまた心に沁み込むんだよ!

はまり役ばっかりだよなあ・・・この映画。


全員、食い入るように画面を見つめているな。

よしよし。

なんていうか、自分が好きな映画を好きになってくれると嬉しいよなあ。



全てが終わり、主人公とヒロインが一端の別れを告げる。

この後も2人は幸せに生きていくんだろうなあ・・・いや、ぜひ生きていってほしい。

この、ちょいと切ない締め方が最高なんだよな・・・


若木の側に妖精が現れ、映画は終わった。



「おっもしろかった!途中ちょっと怖い所もあったけど!」


早速璃子ちゃんが興奮している。

うんうん、いいぞお。

喜んでもらえて何よりだ。


「いい映画でしたね・・・強いメッセージ性を感じました」


斑鳩さんも楽しかったようだ。

今更ながら、字幕がなくても理解できるのはすごいなあ。

さすが翻訳家。


「素敵なお話でしたね、むーさん!」


「わしゃあ2回目じゃけど、それでもおもしろいのう・・・田中野は何回目じゃ?」


七塚原先輩が俺に聞いてくる。

頬を紅潮させた巴さんは、かなり楽しめたようだ。


「えーっと・・・50回から先は数えてませんねえ」


「そ、そんなにですか?確かにいい映画でしたが・・・」


目をぱちくりさせながら神崎さんが驚いている。


「いい映画は何回見てもいいんですよ。ちなみに今回ここに持ち込んでいる映画は、全部10回以上見てます」


吟味に吟味を重ねたラインナップだしな。

以前神崎さんと見た殺し屋の映画も勿論持ってきている。

・・・このスクリーンの迫力で絶対号泣するから見る勇気がないが。


「ん、映画もたまにはいい・・・田中がおススメするのはどれも面白い、なんか悔しいけど」


・・・なんだその感想は。

ちなみに後藤倫先輩、俺の勧めたカンフー映画シリーズにドはまりして自分でもシリーズを揃えていたなあ。

夭折した世界的アクションスターの師匠を取り扱った映画だ。

アレもいいよなあ、特に2作目がいい。

同じ徒手の技を使うからか、後藤倫先輩はそれ系の映画が大好きなのだ。


「ね、ね、おじさん。晩御飯食べたらまた見たい!他にもあるんでしょ?」


「ふふふ・・・これを見るのだ璃子ちゃん」


「わ、わぁ~!」


持ち込んだDVD専用収納ナップザックを展開する。

こいつは横のファスナーを開けて中身を屏風のように引き出せる優れものだ。

ズロズロと引き出される収納スペースには、ディスクのみの状態で映画がずらりと収納されている。


「すっごぉい!お店みたい!」


「はっはっは、だいたい50枚は入ってるからねえ。邦画も洋画もなんでもござれだよ」


「うわぁ・・・いっぱいあるぅ・・・」


璃子ちゃんは目をキラキラさせて見入っている。

好きなのを選ばせてあげようかな。

最年少だし。


「田中、ちなみにジャンルは?」


「アクションとアクションとアクションですね」


「なぜ分ける」


ジト目で後藤倫先輩が見つめてくる。

なんだよぉ、バンバン人が死んで爆発して最後にハッピーエンドが一番なんだぞ(個人の感想)

疲れている時もスパッと見れてしかも見終わると元気が出るんだ!


「恋愛ものは・・・なさそうですねぇ」


ちょいと残念そうな巴さんである。


「・・・でもほら巴さん、洋画アクションはだいたい濃厚なキスシーンで終わるんで・・・アレも恋愛映画みたいなもんじゃないです?」


「ぜんっぜん違いますぅ!・・・あ、でもこれは好きですね!」


巴さんは例の殺し屋と少女の映画を指差した。

・・・ああ、これは最高だもんな。

神崎さんもコクコクと頷いている。


「最後が悲しすぎて大泣きしちゃうから、なかなか見れないんですけどねぇ」


「おうおう、初めて見た時にゃあずぅっとわしにしがみついて泣きよったのう・・・」


「は、恥ずかしいですむーさん!」


はいはい、夕飯前にご馳走様。

この夫婦はどんな映画見ても最終的にイチャイチャしてそう。


「璃子ちゃん、これが目録だからこれ見て決めたらいいよ」


悩む璃子ちゃんに手帳を渡す。

今回持ち込んだ映画のタイトルと、一行程度のあらすじをまとめたものだ。

いかんせん手持ちの映画が膨大だからな、こうやって通し番号を振って整理しているというわけだ。


「ふわ~、おじさんすごいね!」


「趣味だからね、こういうのも含めて・・・ゾンビ騒動が落ち着いたらレンタルビデオ屋でもやろうかな・・・あ、やっぱ面倒臭いわ」


「身に沁みついた無職の業?」


恐ろしいことを言ってくる後藤倫先輩である。

やめてくれよ・・・一生働きたくなくなっちゃう。


サクラを抱えながらふむふむと手帳を覗き込む璃子ちゃんを見る。

・・・この子や美玖ちゃんが大人になる頃には、新作映画がバンバン世に出るようになってればいいなあ。

頑張ってくれよ、世界のどこかにいるであろう救世主ジャンルの方々。

俺は自分の手の届く範囲で精一杯だよ。



夕食はカレーだった。

七塚原先輩がスーパーから大量にインスタントを回収してくれたお陰だな。

モンドのおっちゃん宅のカレーも最高だが、インスタントも普通に美味い。

しかもこれ、パッケージを確認したら高級なやつだったし。

アルファ米も大量にあるし、この国の保存食技術が発達していて本当に良かった。

大部分の外国だとこうはいかないだろうな・・・あ、でも農業が盛んな国は意外と問題ないかもしれんな。


・・・人口が多い発展途上国は大変なことになってんだろうなあ。

銃が流通していなければより一層大惨事になってそう・・・いや、流通しすぎてるとそれはそれで大変か。

変な生存者が大暴れしているのも困るしなあ。

そんなことを考えながら、俺は残った飯をかっこんだ。


「田中、よく噛まないとダメ」


「はいはいわかったよママ」


「キッモ」


ボケに鋭すぎる突っ込みが返ってきた。

いやもうこれ悪口だな?



夕食後は璃子ちゃんのリクエスト通り映画を見ることになった。


南極の基地を舞台にした、人間に化ける謎生物が出てくる名作ホラーSFである。

・・・璃子ちゃん渋い、チョイスが渋いよ。

いやこれは名作だけどさあ、俺も好きだけどさあ。

かなりグロいよと注意したが、返ってきたのは『大丈夫!私こういうの結構好き!』という頼もし過ぎる答えだった。


「ギュってして!もっとギュってして!!」


「はいはいお姫様」


当の本人は俺の膝の上でサクラを抱えているわけだけど。

内容は気になるが、それでもちょっと・・・いやかなり怖いらしい。

ちなみにサクラは画面に映るワンちゃんに釘付けである。

・・・大丈夫かなあ、その犬もうちょっとしたらゴバーってなるけど。


「ひっ、ひぅう」


巴さんは体ごと七塚原先輩に抱き着いている。

こういう映画は苦手なのかな・・・いやでもしっかり見てるしな。


後藤倫先輩は・・・いつも通りだな。

結構好きっぽい感じは伝わってくる。


神崎さんもそうだ。

どうやら攻撃して倒せるクリーチャーは大丈夫らしい。

幽霊系が駄目だとはいつか聞いたな。

ビデオ見たら死ぬやつとか。


斑鳩さんは元々この映画に出てくる俳優のファンらしく、何度も見たことがあるそうだ。

娘の様子に苦笑いしながらも、楽しそうに映画を見ている。


映画はちょうど採取した血液に熱した針金を突っ込むあたり。


「ひぅ!」


「ひゃん!」


璃子ちゃんは体を固くしながら、器用に頭だけを預けてくる。

サクラがビックリしているな。

自分を抱っこしている璃子ちゃんの様子が気になるのか、しきりに頭を後ろに倒している。


「この火炎放射器・・・ゾンビに効くかな」


「焼けるだけではどうにも・・・それよりグレネードランチャーの方が効果的では?」


神崎さんと後藤倫先輩は何やら物騒な話をしている。

・・・そういえばゾンビって呼吸するのだろうか。

脳を破壊すれば無力化できるが、窒息死とかはしなさそうだなあ。

首を斬れば活動停止するのは、やはり脳が司令塔だからなのか。

心臓を破壊しても効果はあるのだろうか・・・

うーむ、謎だ。



「おもしろかった!また見よ、おじさん!!」


さっきまでの様子はどこへやら、上映が終われば璃子ちゃんはケロッとしたもんである。


「おう、まだまだ面白い映画は山ほどあるからな~」


「わーい!じゃあね、幽霊モノってある?」


「あるある、数は少ないけど夜中トイレに行けなくなるようなのもあるぞ~」


どうやら璃子ちゃん、ホラー系が好きなようだ。

・・・多分見る時はさっきみたいな体勢になるんだっろうけども。


「の、望むところです!」


何故か顔を青くしながら意気込む神崎さんである。

嫌なら別に見なくてもいいんですけど・・・修行じゃあるまいし。


「〇子がテレビから出てくる瞬間に踵落とししたら、どうなるかな田中」


・・・それは俺もやってみたい、ちょっと。

物理的に干渉できるなら、戦いようはあるしな。


次は仄暗いどっかの底から的な映画を見ようかな。

女優の幽霊が出るやつと、俺の中で最恐ホラーのトップ争いをしている映画だ。

ただなあ・・・神崎さんが流石に可愛そうなので考えものである。



そんなことを考えながら、その日は更けていった。

明日からはぼちぼち動くかなあ。

遠征はまだ先にしても、この地区くらいは歩いておきたい。

手つかずのスーパーもあるし。

南雲流の先輩方という俺が知る限り最強の近接能力持ちがいるからな、今は。



「ね、ね、おじさぁん・・・」


そろそろ寝ようかな、という頃になって璃子ちゃんが資料室にやって来た。

おやおや毛布なんか持っちゃって・・・どうやら怖くなったらしい。

・・・アレ?斑鳩さんがいるのになんで俺の所へ?


「ナイショだよ?・・・ママ、無茶苦茶寝相悪いからいっつも離れて寝てるの」


へえ、意外な事実だなあ。

完璧そうな斑鳩さんにそんな弱点があったとは・・・


「でも神崎さんとかがいるけど・・・」


「いいの!帯に短したすきに長しなのっ!!」


使い方を完全に間違えた諺を呟きながら、するりとベッドに潜り込む璃子ちゃんである。


「きゅん!」


「サクラちゃ~ん!えへ、一緒に寝よ!」


「わふ!」


嬉しそうに鳴くサクラを大事そうに抱え込みながら、璃子ちゃんはすぐに眠った。


・・・しまったな、寝る前に屋上で一服する予定が駄目になった。

・・・まあ、いいか。


嬉しそうに眠る璃子ちゃんを見ながら、俺は目を閉じた。












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― 新着の感想 ―
[一言] 秋津さん大体原野の様などん詰りの集落には 重機のヤードがありますよ?理由は 田舎の災害は大雨による崖崩れが多いので地元に 重機がないと困るからだそうです!だから 重機のヤードを誘致するそうで…
[一言] この後持護坊の戦いの動き見てつい田中野が あ,倫先輩そっくりとの発言を聞いた先輩に脇腹抓られて 田中野が暫く再起不能になったそうな! 雉も鳴かずば撃たれまいと無我先輩に言われたとか?
[良い点] 他の読者からのブクマで気になって読んでました…(一気読み) [気になる点] なろうゾンビもの少ないから逆に新鮮という罠。 [一言] 楽しみにしてますね!
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