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農村の孤児

 時は明け方。突然の頭痛にオレは目を覚ました。

 堅い木の板で作られた簡素な─ベッドとも呼べない何かから身を起し、痛む頭を片手で押さえつつ水場へと向かう。


「ふぅ……」


 井戸から水を汲み上げ、その水を頭から被る。

 冷えた頭はスッキリしたと同時に頭痛もスッと引いていった。


「……最近毎日だよ」


 最近は夜明けに近付くとズキリと刺すような痛みが頭に奔り、その都度目を覚ましては水浴びをするのが最近では日課になってきてしまっている。


 悪い何かが頭に取り憑いているのでは?

 もうオレは死ぬんじゃなかろうか?


 オレはそんな不安を抱えつつ今日も仕事に精を出す。

 仕事と言っても、オレの仕事は精々村の手伝い。

 まだ10才になったばかりの子供であるオレが出来る事など高が知れているのだ。


「おはよう御座いますジドさん」

「今日も早いなアレン」


 村共有の畑の世話をしている老人ジドに声を掛けると、ジドは笑顔でオレの名前を呼んでくれた。


「今日は何をすればいいですか?」

「そうだな……そろそろ薪を集め始めたいが……村の外は危ないからなぁ」

「薪ですね。村の柵の近くで集めるので大丈夫です」

「あ、いや、しかし──」

「行ってきます!」


 悩む素振りを見せるジドに笑顔を向け、オレは一気に駆け出しその場を離れる。


「オレのような孤児を心配してくれるのは嬉しいけどね」


 オレの親は父は村の開拓途中で死に、その後母は病気で死んでしまった。

 現在のオレは村の孤児を集めた施設で同じ境遇の子供らと寝起きを共にしている。

 中でも一番の年長のオレが働く事で村への恩返しと、少しでも施設の子供たちが食える量が増えるといいなと思っている。


「薪になりそうな……薪に〜……」


 村の柵を出たオレは、さっそく薪になりそうな枯れ枝を探して歩く。

 村の木こりが切り倒し、斧で割った薪も村にはあるがそれだけでは村の分は賄えない。

 ましてやオレたちの施設にまでそういった薪は中々回って来ないという事情もあり、オレはかなり必死に薪になりそうな枝を探して歩く。


「あ、やば!」


 気が付けば村の柵は遠い彼方。

 地面に落ちた枝を必死に拾っていたオレは、気が付けば開拓途中の森の中に入っていた。


 ここは魔の物が住まう森で、オレたちの村の大人たちが開拓で度々犠牲になっている森でもある。

 オレの父もそうだ。


「急いで引き返さないと」


 オレは枝が入って少し重くなっている背負ったカゴを揺らしながら急いで来たであろう道なき道を戻ろうとするが……


『グルルルル』


 時すでに遅し


 威嚇の唸りを上げてオレの前に立ち塞がったのは一匹の四足獣。


「ッ──グレイウルフ」


 灰色の四足獣、グレイウルフは大人数人がかりでようやく一匹を狩る。子供が一人でどうこう出来る相手ではない。


 そんな強敵は大きな顎を上下に割り、鋭い牙からヨダレをダラダラと垂らし、真っ赤な眼でオレを見ていた。

 その凶暴な容姿にオレの足は止まってしまう。

 もし、仮に一気に駆け抜けていれば逃げ切れた可能性もゼロでは無かったかもしれないが、恐怖に止まってしまった足は動かす事もできず、カタカタと震えるばかり。


『グル──アアアア!』

「うわああああああ!」


 恐怖に震え、怯えたオレに一足飛びで噛み殺さんとグレイウルフが地を蹴り、その牙が迫る。

 とっさに動いた足は条件反射のように背を向けての逃走を選択した。

 グレイウルフはオレが背負ったカゴを噛み砕いた!


『ギャンッ!』

「!?」


 悲鳴のような鳴き声にオレは恐る恐る後ろを向くと、どうやらカゴの中に入れていた枝が奇跡的にグレイウルフの口内を刺し貫いたのか、突き刺さった枝が大きな顎から飛び出ていて痛いのか、地面をビタン!ビタン!と転がりまわっている。


 その様子に息を飲む。

 グレイウルフの動きは徐々に鈍くなっていく。

 どうやら枝が良いところに刺さったのか、ヤツの命は燃え尽きようとしている。


 ビクン!ビクン!と痙攣を始めたグレイウルフ。

 オレは一本の枝を握りしめ、勇気を絞り、振り下ろす!


「このおおおお!」


 その勇気はグレイウルフの赤く輝く目玉を狙い違わず貫くとビクッと体を跳ね、グレイウルフはぐったりとその身を横たえた。

 オレは勝ったのだ。


「はぁ……はぁ……」


 未だに離せない、目を突き刺した枝を握る手は震えている。それはいかに魔物とはいえ、初めて命を奪った罪悪感からか、あるいはその行為に興奮しているのか……オレには分からなかった。


「ッ!?」


 突然ズキリと痛む頭、寝ている時と同じ刺すような痛み。

 しかし、その強さは寝ている時の比ではなく猛烈な頭痛に目が霞む。


「ぁアア゛アァ!」


 痛みにのたうち回るオレの頭の中でプツリと何かが切れたような音がした。同時にスッと痛みが引く。


 正確に意識を覚醒させたオレは自分の手のひらを見て一言。


「どうしてこうなった?」

 


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