【超健全】〇ックスしないと出られない部屋 ~幼馴染の男女ver.~
文化の日にこれを投稿するという狂気
「ねぇ! ねぇってば!」
「ん……」
「起きてよ、ルイ!」
身体を揺さぶられる感覚で、ルイは目を覚ました。
上半身を起こすと、幼馴染で腐れ縁のユキが泣きそうな顔をしていた。
「ユキか……。どうしたんだ、そんなに慌てて……」
「周りを見てよ! 私たちどこかに閉じ込められちゃったみたいなの!」
ルイが周囲を見渡すと、そこは扉のない真っ白の部屋だった。
ポツンとテーブルだけが置かれているようだが、かなり広い空間なので、探せば他にも何かありそうに思えた。
「なっ、なんで俺らは閉じ込められてるんだ!?」
「分かんないわよ! 分かってたらこんなに焦ってないから!!」
「まずは落ち着こう。何か外に出られるヒントみたいなのは……。おい、ユキ! こっちに来てみろよ! 何か書いてあるぞ!」
ルイはテーブルの上に手紙を発見した。
「ほんとだ!! なんて書いてあるの!?」
「なになに……」
そこには、「〇ックスしないと出られない部屋」と書かれていた。
「おい、ユキ……」
「これって……」
二人は、その手紙から視線を離せなかった。
「〇ックス」と言われて、脳裏に浮かんでくるものは一つしかなかった。
「やる……?」
ユキは生唾を飲み込むと、意を決してルイにそう尋ねた。
ただ、彼は明後日の方向を見ていた。
「ユキ!! あれ見てみろよ!!」
「何よ……」
ユキが渋々ルイの指差すところを見てみると、紙とペン、そしてファックスが露骨に置いてあった。
「ファックスだ!! 取り敢えずあれを試してみよう!!」
「そそそそそそ、そうね!! ファックス!!」
しまった、早計だった!! と、ユキは自分の早とちりを大いに恥じた。
「よし、書けた! 『ルイとユキは無事ですが、どこかに閉じ込められています。助けを呼んでください』って、こんな感じでどうだろうか」
「いいわね。早速、送ってみましょう!」
「よし、送信っと!!」
ルイとユキは、ファックスが作動する機械音を聞きながら、どこかで扉らしきものが開かないかとキョロキョロした。
しかし――
「ダメか……」
ルイは、静寂の中でそう呟いた。
「じゃあ……。やる……?」
ユキが、頬を薄紅色に染めつつ、諦めたようにそう尋ねる。
「お~い、ユキ!! こっちに来てみろよ!」
「へっ!?」
ユキが我に返ると、少し離れた場所でルイがしゃがみこんでいた。
「何よ、ルイ」
「ほらっ!! これ見て!!」
近付いてみると、床に二本の金色の管楽器が交差した状態で置かれていた。
「ちょっとサックスをエックスにしてみた!!」
「あんた、バカじゃないの?」
ウッキウキ顔のルイに向かって、冷静に言い放つユキ。
彼女はもう、先程の自分の覚悟を返して欲しかった。
当然のように、うんともすんとも言わない部屋。
呆れ果てているユキのそばで、ルイがブピピッと下手糞なサックスを吹いたが、依然として部屋の沈黙は続く。
「ふ~っ……」
ユキは大きく息を吐き、目を伏せる。
そして、しっかりと気持ちを保ち、もう一度、覚悟を決め――
「じゃあ、やりましょうか……」
そう誘いながら、目を開くと、ルイが靴下を振り回して遊んでいた。
「ちょっとあんた!! 何してんのよ!!」
ムードもへったくれもないルイの異常な行動に、怒鳴り声を上げるユキ。
「何って、ソックスでフィジックスを……」
「フィジックスって何よ!!」
「いや、物理学だけど……」
「やっぱりあんたバカ!!」
乙女心を踏みにじられすぎたユキは、テーブルの前に置かれた椅子に座り、すっかりへそを曲げてしまった。
そんな彼女に、ルイは優しく声を掛ける。
「おい……。ユキ……」
「ふんっ! あっちに行きなさいよ!」
「ごめんって、ユキ……」
「もう放っておいて!!」
「放っておけないコン……」
「あんた今、フォックスしようとしたでしょ」
どさくさに紛れて狐のモノマネをしようとし、即バレするルイ。
彼はついに、ユキから強烈な肩パンを喰らうことになった。
「そんなに怒るなよ、ユキ。もっとリラックスして、笑おうぜ! 笑ってデトックスしたら、この部屋から出られるかもしれないぜ?」
「そんなわけないでしょ、バカ!!」
「うっ……、じゃあ、今からこの部屋は、ユキ女王が統治する国にしよう!」
「私が女王だったら、今頃あんたは死刑よ」
「いいね、その政治」
「もう英語はいいから。次は何の冗談よ、それは」
「今から俺は、ユキ女王にこれを納める」
ルイはそう言うと、財布の中から一円玉を六枚取り出して、ユキの手のひらに乗せた。
「ユキにタックスとして、このシックスイェンを納めるぜ!」
無駄に円の発音が良いルイは、もう当然のように六枚の一円玉をぶつけられるはめになった。それもマックスのパワーで。
「もういいでしょ!! あっち行って!!」
テーブルに突っ伏してしまったユキ。
「ごめんな、ユキ……。俺だって不安なんだよ……」
「分かってるわよ、あんたのことぐらい……」
ユキとルイは長い付き合いだった。
なので、彼が不安で暴走してしまっていることくらい、ユキはとっくに気付いていた。
「本当にごめん……。俺、ちょっと向こうで頭冷やしてくる……」
「そうしなさい……」
「ついでに、フェニックスもしてくるね……」
「はいはい……」
フェニックスをするってどういうこと?
と、ユキは少しだけ疑問に思ったが、やがて後ろの方から、「ピョーーーッ!」という不死鳥の声真似が聞こえてきたので、もう何も考えないことにした。
それからしばらく二人別々の時間が過ぎた。
ユキの背後からは、偶にブシュブシュと完成度の低いヒューマンビートボックスの音が聞こえてきた。
Tレックス風の奇声や、〇ツコ・デラックスの偽物のようなオネエ声も響いてきた。
そして、最終的には、今までの全てをミックスしたかのような汚らわしい何かが轟いた。
そんな中――
「よし。俺、決めたよ。ユキ……」
「何……?」
「やろう」
「え……?」
ユキが顔を上げて振り返ると、ルイがいつになく男の顔になっていた。
非常に残念ながら、彼の髪の毛はワックスでモヒカン状に固められていたが、彼自身はとても真剣な表情だったので、ユキは笑わなかった。
「やろう、ユキ」
「やるの……?」
「もうそれしかないと思う」
「うっ、うん……」
「ついにクライマックスだ」
「ちょっとそれ、今は冷めるから止めて」
いよいよのところで他の〇ックスが顔を出したので、ユキは厳しくそれを咎めた。
「すっ、すまん……。緊張してしまって……」
「いいの……。私も緊張してるから……」
二人ともルックスは良いものの、互いにこういうことには縁のない人生だった。
うっすらと紅潮する頬。
少しだけ荒くなる息遣い。
二人が向かい合い、互いの肌に触れようとしたその瞬間――
「あっ!」
ルイが素っ頓狂な声を上げた。
「ユキ、ちょっとタンマ!!」
「何よ……?」
ユキを置いて、壁際に走って行くルイ。
「まだこれを試してなかった!」
彼の手には、硬そうな金属製のアックスが握られていた。
「どりゃあ!!」
大きくアックスを振りかぶり、壁を叩きつける。
すると、壁が崩れ、人が通れそうな程の穴が開いた。
穴の外には細い通路が伸びており、その通路の向こう側には太陽の光が見えた。
「開いた……。開いたぞ、ユキ!! やったぁ!!」
「うるさいっ!!」
「えっ!? これで外に出られるんだぞ!?」
「ルイ!! いいから、ちょっとこっちに来なさい!!」
「何だよ、ユキ……」
こうして思春期真っ只中のルイとユキは、アックスして部屋から出られるようになった後――
「うわっ、ユキ!? どうしたの急に!? えっ!? えっ!? んっ……!?」
結局、することはちゃんとして、脱出することに成功したのだった。
めでたし、めでたし。
お読みいただき、誠にありがとうございました。
「〇ックスをしないと出られない部屋」というn番煎じのネタだったのですが、いかがだったでしょうか。
笑っていただけていたら幸いに存じます。
最後になりますが、小説ページ下部に、現在連載中の異世界コメディー(健全)のリンクを貼っております。
もしよろしければ、そちらもご一読いただけると嬉しく存じます。