戦闘、そして目的地へ
「出番だぞ。準備はいいか、いくぞ」
カミルは勢いよく飛び出す。後に俺と岩男と魔女っ子が続く。
そこには、鋭い大きな牙にミサイルのように膨れ上がった体躯のイノシシがいた。
「ファングボアだ。突進してくる、避けろ」
カミルが叫ぶ。それに合わせて腰を上げ避ける体勢をとる。
ファングボアが一直線に突っ込んでくる。ファングボアが通った道はバリカンで刈り上げたかのようにはげている。
───避けなくちゃ
そう思う頃には牙は俺の目の前にあった。刺されたら痛いのだろうか、熱いのだろうか、苦しいのだろうか。死んだら一体どこへ行くのか。
───怖い、怖い、怖い、怖い、怖い
激痛がはしる。血液を全身へ送ろうと鼓動が早くなる。傷口を手でおさえる。ない、脇腹がない。えぐられている。
「そのヒューマンを治療してくれ。ファングボアは俺が引きつける」
「分かったわ。そこの岩男、この子を馬車の裏へ運んで」
岩男は頷き、俺を運んだ。
「ここはあたしが何とかする。君はあの男のところへ」
「傷が深い。ポーションを掛けるわよ。痛むけど我慢しなさい」
口で栓を開け傷口に掛ける。
「あ゙あ゙あ゙あ゙」
痛い、熱い、息ができない。もう無理、死ぬ、死ぬ。
傷口から蒸気をあがっている。
「意識をしっかり保ちなさい。死ぬわよ。あともう少しで楽になるから耐えなさい」
「我慢することにはなれている。ぼっちを舐めんなよ」
俺は、慣れている。どんなに辛いことがあっても、苦しくても、誰かに助けてほしいと思っても、全て一人でやって来た。一人で乗り越えてきた。今度も大丈夫だ。
「応急処置は、済んだからそこで寝てなさい」
疲れた。寝ていいのだろうか。みんなはまだ戦っている、俺も戦わなくちゃいけな……。
「あら、起きたの」
「ここは?何をしている」
「夜営よ。あなたは昼からずっと寝てたのよ」
「ファングボアは」
「私とカミルとゲンブで倒したんだけど、自己紹介がまだだったわね。私は、カルミア。こっちがゲンブ」
「俺は、ニートだ」
疲弊しきっている体を労ってくれるかのように暖かい焚火の火。ファングボアの脂が注がれさらに熱く燃える。
ファングボアの肉は、野性味があるものの上質の脂に引き締まった肉は絶品であった。臭み消しの香料がより食欲をそそらせる。
「傷の方は大丈夫?まだ完全に治ってないから安静にしていて」
「あ、その……、助けてくれてありがとう」
カルミアは、微笑みカミルとゲンブを見た。
「礼ならカミルとゲンブにも言っておきなさい。あの二人がいなかったらあなたを助けることなんてできなかったわ」
「二人ともありがとう……」
カミルは、にっこりと笑顔をつくる。ゲンブは相変わらず腕を組んで何も話さない。本当に岩男だな。
それと一つ、カルミアの胸が昼よりも小さくなっているのはどうしてだろうか。本人に聞かないであげよう。
あれから2日後の朝、馬車はついに目的の場所へと着いた。
真っ先に中央にそびえ立つ塔に目が奪われる。様々な装飾がされた純白の塔。形を変えずに1000年もの間ダンジョンの上に君臨しているこの世界の存在意義と言っていいものだ。
そう、ここが1000年ダンジョンを要する都市『グラズヘイム』