はじめてのおつかい
───ゴンッ
馬車が石に当たり大きく跳ねる。最初はそれが楽しく思えたが、不規則に揺れる馬車にだんだん不快感を覚えた。また、代わり映えのしない景色が退屈や飽きといった感情を増幅させる。
今ここには、俺、カミル、御者と岩みたいにゴツゴツしている獣人の男と魔女っ子と呼ぶにはいささか年を年取り過ぎているエルフの女が乗っている。
岩男は何も喋らずただ手を組んで座っている。魔女っ子は、髪や爪をいじったり、馬車が揺れるたびに肘で胸のあたりいじっている。かと言う俺は、考え込んでいるようにこの数日を振り返った。
カミルの仲間になった日の昼、冒険者になるなら装備が必要だと言われ武器屋へ行った。防具はカミルのお下がりを貰うことになったが武器は自分にあったものを使えと言われた。金はカミルから借金という形で借りた。
「いらっしゃい」
ホコリっぽく薄暗い店内に、聞き覚えのある声。
「武器を買いに来たぞ、ケンジ」
ここは『黒龍の祠』である。今日は俺の貸し切りだろうか、客は誰もいない。
「ほぉ、金はあるのか」
「ここにある。この金で買える武器を教えてくれ」
俺は、金の入った袋を出す。ケンジは表情をくもらせ、鋭くこちらの顔をうかがう。自然とこっちも緊張がはしる。何か悪いことをしたのではないかと不安になるが、思い当たらない。
ケンジは袋から硬貨を一枚取り出しルーペみたいなものでのぞき込んでいる。
「ニート、お前、苦労してるたろ。でも、盗むのは良くないことだ。父さんが一緒に謝ってあげるから本当のことを言いなさい」
「俺はあんたの息子か。ていうか、この金は盗んだものじゃない。借りたものだ」
俺は、怒鳴り気味に言った。まったく、人を見た目で判断しすぎだ。目つきが悪くて、少し猫背になっていて全身黒ずくめの服装に根暗なだけだ。……お巡りさん、ここに怪しいやつがいますよ。
「そうか。そこで待ってろ。今、商品を持ってくるから」
何を期待していたかわからんが、ケンジの声は悲しい感じであった。もしかして、ヤンキーが更生する的な物語をしたかったのか。
俺は、そういう物語の良さがよく分からない。更生したヤンキーと今まで普通に生きていた人の違いはあるのか。結論から言おう、二人の違いはない。むしろ、更生したヤンキーの方が悪だ。
確かに、未成で飲酒や喫煙、集団暴走といった事をしてきた奴がまともな人間になることは感動するが、結局まともな人間止まりだ。なら、はじめからまともな人間は更生したヤンキーよりも善なのは言うまでもない。
こんな事を考えている間にケンジはカウンターに武器を並べる。
「弓なんてどうだ。一番危険が少なくてそれなりに威力はある」
「この黒いナイフは……」
「それか。地味なナイフだろう。そのせいで全然売れないんだよ。だけど品質は保証するぜ」
俺が手に取ったのはあの時ショーケースで見た不格好なナイフだった。
「このナイフにする」
「やめておけ。それは前衛用の武器だ。お前のようなヒョロもやしにはすぐに殺される。それにそのナイフは……」
「これにする」
「わかったよ。くれぐれも死ぬんじゃないぞ。死なれたら胸糞が悪いからな」