最弱の冒険者
「紅茶とコーヒーどっちがいい」
「じゃあ、コーヒーで」
カミルは、テーブルの上を片付けキッチンへと向かう。
手際よくカップにコーヒーを注ぐ。これでイケメンだったらカミルはモテるだろう。
「ほら、コーヒーだ。そこに砂糖とミルクがあるから使いな」
コーヒーと一緒に砂糖とミルクの入った容器を置く。
俺は、ブラックコーヒーをズズズと一口飲んだ。
「苦っ」
「ハハ、無理するな。砂糖とミルクを使え」
俺は、耳を赤くし涙目になる。
格好をつけようとして失敗するとかダサすぎるだろ。今どきの小学生でも、もう少し上手く隠せるだろう。
コーヒーに砂糖とミルクを入れまた一口飲む。今度は俺でもギリ飲めるものだ。
まったく誰が最初にこんなに苦いものを飲もうとしたのか。顔を見てみたい。俺は、そいつのせいで恥をかいた、一遍会って俺に謝ってもらおう。
「ニート、この世界についてどのくらい知っている」
カミルは神妙に面持ちで言ってくる。
俺は、知っていることを隠さず全て言った。1000年ダンジョンのこと、ヒューマンが最弱であることなど。
「なるほどな、で、これからどうするつもりなんだ」
「まだ決めてない」
「じゃあ、俺たちの仲間になってみないか。冒険者をやっているんだが今、荷物持ちを探しているんだ」
「……は?」
「心配しなくても大丈夫だ。ニートは戦わなくていい。俺たちがおまえを守る、そしてニートはモンスターの素材を回収するそれだけでいい。報酬も公平に分配する。どうだ、悪い話じゃないだろう」
確かに、今の俺にとって手に職を得られるのはありがたい。それに助けてくれた恩もあるしそれにカミルは悪い人ではなさそうだ。でも……
「悪いが俺には無理だ。他をあたってくれ」
……俺には無理だ。絶対に足手まといになる。最悪の場合俺のせいでカミルが死ぬかもしれない。
「もし今、自分が足手まといになるって考えているんならその考えは捨てておけ。俺はお前が必要だから仲間になってほしい。ただそれだけだ」
数秒の間、黙って考えた。正確には、考えるフリをしていた。俺の中でもう答えは決まっている。ただ、口に出して言うのが怖いだけだ。これまでずっと逃げてきた。やりたい事があってもどうせ自分には無理だと言い聞かせてきた。もし、俺のわがままを聞いてくれるなら
「俺は、荷物持ちじゃなくて冒険者になりたい」
「ほぉ、冒険者か。言っておくが冒険者は危険だ。お前みたいにヒョロヒョロした奴はすぐに死ぬ。それでもいいのか」
カミルは、頬を上げ笑うような顔をした。なんだか喜んでいるように見える。
「ああ、したいことをするって決めた。死んでも構わない」
「死んでもらっちゃあ困るがな」
今ここに、この世界の運命を変える冒険者が誕生したことはまだ誰も知らないのだった。