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ベーコンエッグトースト

 「おい、いつまで寝るつもりだ。いい加減起きろ」

 目がぼやけながらも目をこすり声の発生源を見る。そこには、褐色の肌で古代の奴隷を彷彿とさせるようなガタイのいいヒューマンの男がいる。上半身はインナーだけなのではっきりとわかる。

 「誰だ、うるさいな」

 かすれた声で気怠そうに言った。

 「誰だとは何だ。命の恩人に対して」

 ああ、そうだった。俺、助けられたんだ。

 「アンタが俺のことを助けてくれたのか」

 「ああ、そうだ。お前が広場で倒れていたからここへ運んだんだ。感謝しろよ」

 「あ、ありがとう」

 「おうよ」

 『ありがとう』と言うのが異常に恥ずかしい。これは、引きこもり生活をしていた代償だろうか、それとも現代人が感謝の言葉を言えないだけだろうか。

 「ところでお前さん、名前は何だ」

 「ニートだ」

 「俺は、カミルだ。よろしく」

 ベッドの横に立って言った。見た目とは裏腹にカミルはフレンドリーに接してくる。対して、俺はどぎまぎしている。

 「体調はどうだ。悪くないか。昨日はひどい熱があったが、大丈夫か」

 「もう熱はない。少し体が怠いだけだ」

 「それは良かった。もうすぐ朝飯にするから、下のテーブルに座ってろ」

 俺は、小さく頷いく。カミルはそれを見て下へと降りていった。その後を追うように俺はついて行った。


 この家は、リビングとダイニングが独立されていないリビングダイニングの形を採っている。部屋はリビングとダイニングをカウンターによって仕切られおり広々としている。

 俺は、カウンターに背を向ける形でダイニングテーブルの椅子に腰を下ろす。

 カミルはというとキッチンへと向かった。

 キッチンからリズミカルな音がする。水が流される音、野菜が切られる音、フライパンで油を熱する音、カミルの鼻歌の音が一つの曲として聞こえる。世界でここにしか無い唯一の曲だ。


 油をひき熱したフライパンにベーコンをしき、殻を破って出て来た卵を2つ落とす。透明な白身は、雪のように白く色づく。部屋中にスモークされたベーコンと目玉焼きの匂い、パチパチと油がはねる音がひろがる。それを宝箱にしまうかのように蓋をする。

 ───チンッ

 トースターから焼き上がりをしらせる音がする。パンの香ばしい香りとバターの匂いが俺のところまで届く。

 出来上がったベーコンエッグは黄身のところが恥ずかしがり屋のほっぺたのように紅くなっている。それをプルンッとゆらしながらトーストの上へ置かれる。ケチャップを流れるようにかける。

 カミルの動きに一切無駄がない。これは、日頃から料理をしている人の動きだ。

 最後に切ってあった野菜をサラダボウルに入れ持ってくる。


 俺の前には『早く俺のことを食べろよ』と言わんばかりに俺を誘ってくるベーコンエッグトーストと取り分けられた野菜がある。

 口の堤防が決壊してよだれがいまにでもでてきそうだ。お腹もなきやまない。俺は、今かと今かとあの言葉をまっていた。

 「さぁ、()()()()()

 「いただきます」

 俺は、熱々のトーストを手に持ち、大きく一口がぶりつく。口の中が至福で包まれる。小麦とバターの香りが鼻を抜ける。それはアルプスの草原を彷彿とさせる。たまごとベーコンの塩気やスモーキーさが口全体へと広がり、ケチャップのトマトの酸味が全ての調和をとってくれる。

 二口目、トーストの中心部へと届いた歯が黄身を破る。とろりと溢れ出す黄身。止まらない。皿へと黄身が落ちるが構わない。そう思わせるほどに黄身が入ったこのトーストの破壊力は凄まじいものだった。

 「野菜も食えよ」

 カミルは言った。俺は、トーストを黄身のついた皿へ置いた。

 指についた黄身をなめ、フォークを持つ。サラダには赤紫のプチトマトみたいなものやレタス、ケールに似たものが入っている。

 俺は、フォークで野菜をとり食べる。マイルドな酸味の効いたドレッシングと野菜との相性が抜群だ。

 野菜ってこんなに美味しいものだったけ。俺が昔食った野菜は青臭くて味が酸っぱかったり苦かった。この野菜たちにはそういった不快感がない、うまい。

 俺は、その後も何も話すことなく食べ続けた。

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