わたし
カミルの一撃がミノタウロスの頭をかち割ろうとするとき、ミノタウロスは斧を捨てる。そして、カミルの腹部に強烈なパンチをいれる。
防具の破片が飛び散り、カミルは壁に叩きつけられた。
───オ゙オ゙オ゙ォ゙ォ゙ォ゙
高々と咆哮をする。自分の勝利を示すかのように。
カルミアとゲンブは敗北を悟り立ち尽くしていた。陣形は崩壊しリーダーを失った彼らに闘う気力は残っていなかった。逃げることもできたが彼らにその意志はなかった。
俺は、高揚していた。勝ちというモンスターにとって最高の果実がすぐそこにある。強さこそがこのダンジョンで必要なことだ。
もう、終わらしてしまおう。そして、強さを証明しよう。
無慈悲に斧を振るう。
何かがおかしい。
振るった斧は途中で止まり、片目が見えなくなっていた。
訳もわからずただ咆哮するしかなかった。
そのとき、果実が手からこぼれ落ちるような感覚があった。
斧の直撃は免れない。私は、ここが自分の死に場所だと悟った。
私は、優秀であった。この世界でのことではない。地球にいたときのことである。
私は、小さい頃から人並み以上に何でもできた。両親はそれを喜び私を可愛がった。
私は何者にもなれると思った。なぜなら私は特別な存在だから。私は周りの人とは違う力を持っているから。
ピアノを始めれば、すぐに上達して発表会で賞をとった。
水泳を始めれば、誰よりも速く泳げた。
勉強では、常に成績は上位であった。
私は、クラスの中心であった。私に出来ないことはなかった。
中学にあがり周りは小学校からの同級生がほとんどであった。やはり、そこでも私はクラスの中心であった。毎日が楽しかった。
私はいつから変わったのだろうか。おそらく、中学二年の時からだろうか。はっきり線引きして変わったのではなく徐々に変わっていった。
中学二年生になり、クラス替えがあった。そこでも私はスクールカーストの上位であるはずだった。だが、それを邪魔する女がいた。
彼女は中学になり、イギリスから戻ってきた帰国子女である。性格が良くおまけにスラッとしたモデル体型で顔も整っていた。
帰国子女で美人、彼女が学校で人気になるのにそう時間はかからなかった。
私はわたし以外に人気がある彼女が許せなかった。
最初は、彼女の悪口を仲のいい友人に言うだけであった。友人も彼女のことは嫌いと言っていた。お互いに愚痴を言い合った。
しばらくすると、私の行動は過激になっていた。仲のいい友人たちに彼女のことを無視するように言いったり、邪険に扱うように求めた。
気分が良かった。明日、彼女が一人になっているのを考えると笑えてくる。私は彼女に勝ったのだった。
次の日、一人になったのは私であった。木が一本も生えていない周りが海で囲まれた孤島のように私の机は孤独であった。それとは真逆に彼女の机は昼間の渋谷のように人があふれ喧騒に包まれていた。
誰もが私から距離をおき避けていた。
周りの話し声が私の悪口でも言っているのではないかと気になり不安になる。
あっちでもこっちでも私の悪口を言っている……許さない。
不安が消え怒りへと変わる。