最後の記憶
暗い部屋の中、一人の青年が寝ている。部屋は服、カップ麺のゴミ、漫画、ラノベ、フィギュア、ティッシュ……などといったものが散らかっている。パソコン環境は充実していて、整理されている。パソコン周り以外は、物が乱雑に置かれ、足の踏み場がない。
本人曰く、『この配置は全てが計算されたものであり、散らかっているわけではない』と言う。
───テロンッ、テロンッ、テロンッ……
メールの着信音が鳴る。次から次へと鳴り止まない。
鬱陶しい。さっさと、ブロックして寝よう。
俺は、脳を無理やり覚醒させる。寝相が悪いせいで右手が痺れている。ああ、だるい。もう、こんな世界やだ。
俺は、重い身体を起こす。倦怠感がありながらも、フラフラしながらパソコンに向かう。
青年はボサボサの黒髪に黒い瞳、よれよれのTシャツを着ている。目の下にくまを作り、見るからに不健康な生活をしている。その青年の名は新斗である。
───バキッ
何か固い物を踏んだ乾いた音がする。今はどうでもいい。早く二度寝したい。
俺は、何もなかったかのように通り過ぎる。
───カチッ
マウスを一回クリックする。すると、カーソルがいきなり動き出した。
「はぁ、カーソルが勝手に……。まさか、ウイルスにかかったのか。嘘だろ、対策ソフトが入ってるだろう。あれ結構高かったんだぞ。どうしてくれるんだ。たく、つかえねぇな。クソが。もうどうすれば良いんだよ」
マウスを動かしても反応がない。俺の顔は、見る見るうちに青ざめていく。口調は荒立ち、マウスを握る手は強くなる。
終わった。フルスペックにしたパソコンと何百万と課金してきたゲームが一瞬にしておじゃんになった。
そうだ、バックアップがあったはずだ。これでパソコンを初期化してバックアップのデータを入れれば良いんじゃないか。
確かあそこら辺にバックアップのデータが入ったUSBがあった気が……、
「アアアァァァ!ま、まじか」
そこにあるのは、粉々になっているUSBであった。俺は、膝から崩れ落ちた。
まじで今日、運ねぇ。最悪だ。
パソコンの画面を見るとメール作成のメニューが開かれる。白紙のメールに文字が打ち込まれていく。やがて、一つのメールが出来上がる。
From
To niito2110@○○○○○○
件名 招待状
ようこそ、アースガルスの世界へ
そして、メールは送信された。
ここまでが、地球での最後の記憶である。