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針指す時の終末日  作者: 鳥路
夏樹編序章「明治からの客人と時間旅行」
9/83

2ー8:未来に来た理由を求めて

数十分後、私たちの頭も落ち着いてきた

正座をし直し、再び幸司さんの話を聞けるように背筋を伸ばす


「話を続けてもいいですか?」

「・・・今日だけで色々と頭に詰め込んで思考が追い付かないが・・・続けてくれ」


「はい。もう一つは、桜彦さんが「幸雪が未来へ行ったのは何らかの意味があるだろう」と言っていたことです」

「・・・俺が未来に来た理由?」

「物事には、何らかの理由が必ずあるものですから・・・きっと、兄さんがここに来た理由もあります。過去に戻る方法を探すついでに、それを探してみるというのはどうでしょう」


幸司さんの提案に幸雪君は考え込む


「もしかしたら、ここに来た「理由」を見つけて・・・何かを成し遂げられれば、明治に帰れる可能性もあるのか」

「私も目的探し手伝います。なんだか面白そうですし!」

「はは。兄さん、よかったですね」

「ありがとう、新橋さん」

「そうだ。兄さん・・・雪季も連れて行ってくれませんか?」

「え」


雪季君が自分に話が来るなんて思ってなかったようで、目に見えて動揺していた

なんだかんだで席を外すタイミングを失った雪季君は、相良さんと幸司さんの話を最後まで聞いていた

事情を把握している人手が増えるのはいいことだと思うが、どうするかは相良さんと雪季君が決めることだ


「俺は別に構わないが・・・なぜなんだ?厄介ごとに曾孫を巻き込んでいいのか?」

「実のところ、この子に色々とさせてあげたくて・・・学力は問題ないし、あと動物と話せます」

「動物と話せる・・・?」


今、とんでもない言葉が飛び出てきたような・・・

けど、時を操るとかそういうのに比べたら凄く些細なことのように感じてしまう

とても凄いことなのに


「力になってくれるね、雪季」

「・・・曾お爺様の頼みなら、聞かない理由はありません」

「ありがとう雪季。それと新橋さん、一つお願いが」

「何でしょうか」

「兄さんをこれからも新橋神社に置いておいてほしい。私はともかく、家の者は時を超えた明治時代の兄さん・・・しかも当時の姿のままなど信じられないだろうから」

「た、確かに・・・」


普通は明治時代からタイムスリップしてきましたなんて信じないだろう

しかもここに居れば幸司さんのお兄さんという嘘のような話を信じさせなければならないのだ


「それに、新橋神社は様々な人が集まる。この家にいるよりは人と接する機会も多いし何らかの情報が集まるかと思ってね」

「わかりました。お兄ちゃんにも伝えます」

「そう言ってくれると助かるよ」


相良さんは安堵したように息を吐く


「・・・それじゃあ、名残惜しいがそろそろ俺たちはお暇するよ。話も一通り済んだし」

「ああ、そうですか。また何かあれば気軽に訪ねてください」

「ありがとうございます」


幸司さんの提案にお礼を言いながら私たちは立ち上がる


「兄さん」


部屋を出ようとしたときに、幸司さんが相良さんを引き止める


「・・・頑張ってください。微力ながら応援しています」

「ああ。たまに世間話でもしに来るよ。元気に生きろよ、幸司」

「ええ。後十年は生きるつもりなので」


相良さんは自分より歳を重ねた弟の頭をそっと撫でる


「長生きしてくれよ」

「十分長生きしてますよ。それでは兄さん、ご武運を」

「ああ」


二人の兄弟の再会が終わり、相良さんが本当に明治時代から来た人間だと証明されたことを実感する

再び長い廊下を歩きながら、私は今後、何をするべきか考えていた


「・・・あの、夏樹さん」


後ろから声をかけられる

幸司さんの提案で私たちに協力することになった雪季君だ


「何でしょうか、雪季君」

「・・・さりげなく巻き込まれたのですが、協力は惜しみません。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。雪季君。協力してくれてありがとうね」

「いえ。曾お爺様の頼みですので。それと・・・夏樹さんは高校一年生ですよね」

「そうだけど、なんで?」

「僕、中学三年生なので・・・敬語とかいらないので」

「そう?じゃあお言葉に甘えるね」


年下の友達は初めてだから、少し嬉しい

いつも年上の・・・お兄ちゃんと同い年ぐらいの友達と同級生ぐらいしか関りがなかったし


「永海中かな?」

「え、聖華ですけど・・・」


名門私立の中学生なようだ

頭いいんだろうなあ・・・成績バレたら鼻で笑われそうだなあ・・・


「・・・反応が怪しくなりましたね」

「・・・聖華って頭いいイメージしかないから」

「幼稚舎からエレベーターに乗って楽して生きてきた頭も性格も意地汚い金持ち連中しかいませんよ。通うだけ無駄です」


在校生からボロクソに言われてる・・・


「高等部は「ふるい」にかけられるので、馬鹿は除去されます。とても楽しみです」

「じゃあ、高等部は内部受験ってことになるの?」

「はい。なんだかんだで高等部だけは名門進学校の看板がありますのでその矜持を保つ気なのでしょう。中等部までは金持ち学校みたいなレッテルですから」

「な、なるほど・・・」


「中学までは普通の中学に通って、高校から聖華に来る人は珍しくありません。二年前の生徒会長さんとか、貴方のお兄さんとか」

「言われてみれば・・・お兄ちゃんも高等部だけだったね。二年前の生徒会長さんも凄かったんだろうな・・・」

「・・・超怖かったですよ。目だけで人を殺しそうな勢いでしたし。あの人が亡くならなければ、あんなことにはならなかったんでしょうけど」

「・・・?やばい目つきの人もいるんだね?」


よく和辛いけれど、怖いのはできる限り避けたいから、会う機会がなくても会いたくないな


「そうですね・・・いい人だったんですが、何かと目つきで誤解を生んでいましたね」


気が付けは玄関前に辿り着いていた


「・・・何か調べ物とかあれば、連絡をしてくれたら来ますので」

「わかった。それじゃあ、連絡先教えてくれる?」

「はい」


彼は腕につけていた多機能通信デバイス「A‐LIFE」を起動させる

私も電源を切っていた耳に着けていた「A‐LIFE」を起動させて、仮想デスクに表示された承認ボタンをタップした

そして、私の「A‐LIFE」に、雪季君の連絡先が登録される


「A‐LIFE」は身に着ける携帯をコンセプトにして作られたデバイスだ

その機能性から教育や仕事はもちろん、一般的な生活サポートまで普及した

今や99%の普及率を誇っているそうだ


「登録できました。今後はこちらで連絡します」

「うん。よろしくね、雪季君」

「・・・ええっと、幸雪さん?でしたっけ。貴方への連絡も夏樹さんにするので、逐一確認をお願いします。大丈夫とは思いますが・・・」

「ああ」

「お二人はこれからどうするのですか?」

「商店街に行こうかなって。ほら、相良さん物入りだし」

「確かに・・・」

「雪季君も行く?」

「いえ・・・今日は一応学校を休んだ手前、外出は避けたいんです」

「体調悪いの?」


彼の顔色を覗いてみるが、いたって普通で・・・言っては悪そうだが凄く健康そうだ

それに、同級生へのボロクソっぷりを見たら不登校なのでは・・・


「今朝は。薬飲んだら落ち着いたので・・・家で歩く分には問題ないです」


あ、本当に体調悪かったんだ・・・なんだか申し訳ないな


「そっか。無理しないようにね」

「お気遣いありがとうございます。気を付けて」


彼の見送りを後ろに、私たちは相良家を後にする

カタン、と何かが進む音がした気がした


・・


相良家の訪問の後、私たちはそのまま永海商店街へと向かった

普通にショッピングモールまで足を延ばしてもいいのだが、せっかくだし商店街みたいな人の距離が近めの場所がいいかもしれないと思ったのだ

相良さんはこういう感じの方が身近だろうし、それにお店の人から耳寄りな情報が聞けるかもしれない


「相良さん、ここが商店街ですよ」

「・・・ここが。なんか、懐かしさを感じるな」

「雰囲気とか似てますか?」

「とても似ている」


昔ながらといった町並みは、彼にとっては当たり前に近い光景なのかもしれない

しかもここはまだ地域に根付いているおかげで、お客さんも多いし賑やかな方だ


「まずは靴を買いに行って、それから、それから・・・」

「ゆっくり、ゆっくり考えような・・・夏樹さん」

「そうですね!とりあえず、靴屋さんに行きましょう!」

「わかった」


私たちは早速靴屋に向かい、丁度いい靴を見繕う

やはりちょうどいいサイズで見栄えがいいのは子供用の礼装に合わせる靴・・・

しかし、ぎりぎり中学生向けの通学用革靴があった

サンキュー聖華。サンキュー金持ち学校

履きやすいと店主さんが語ってくれたので、一つはそれに

もう一つは普通の運動靴を購入した

それから、その他諸々の生活必需品を購入していく


全ての買い物が終わり、いざ神社に帰ろうとした時だった

商店街の中心を抜けて帰る道が一番近道なので、そのルートで帰ろうと私たちは商店街の中心へ向かっていた

そこへ向かうと、なんだかとても賑わっている


「冬夜君!帰ってきてたんなら連絡ぐらい寄こせって!」

「ごめん。この二年間忙しくて・・・なかなか」


「冬夜ちゃん!うちの子生まれたんだ!抱いてくれ!」

「本当?・・・可愛いらしいですね。名前は?」


「冬夜ちゃん!うちの大根持っていきな!」

「こんなに?今度、切り干し大根を作っておすそ分けするから待っていて」


「冬夜!うちの新作メニュー試食してくれ!」

「口に運んでくれると。ふむ・・・下味もばっちりで美味しい」


・・・商店街のお店の人たちが、お店をほっぽってそこに集合していた

確かに今の時間は人が少ないけれど・・・いいのかな、これ


「冬夜ちゃん。最近肩が凝ってねえ・・・マッサージしてくれるかい?」

「もちろん。柴田さん、凛子ちゃん抱いてあげて。お腹空いているみたい。ほら、大島のおばあちゃん、ベンチに座って」


「冬夜さん!俺、黒帯になったんだ!見て!」

「おめでとう、智哉。凄いじゃないか」


「冬夜、うちの新作の包丁だ!持っていけ!」

「切れ味ばっちり?ありがたく使わせてもらうね」


「・・・冬夜って」

「この商店街で、お店の人に慕われる「冬夜」といえば、私の知る限りでは一人だけだよ」


相良さんはその名前を聞いて、私の顔を見る

頭に思い描いている人物は同じだろう


この商店街の名物だった「お手伝いの少年」

ボランティアからアルバイトまでこなす青年は、この商店街の人々によく慕われていた

私たちは中心へ足を進めていく


「冬夜ちゃん、ありがとうね。肩の凝りが落ち着いたよ」

「それはよかった。また凝ったらいつでも」

「冬夜ちゃんみたいな孫が欲しいねえ・・・」

「お孫さん確か今年で高校生でしたよね。今後に期待しておきましょう」


「・・・冬夜ちゃん」

「なんですか?」

「・・・もう、五年なんだね」

「・・・はい」


大島と呼ばれたおばあちゃんが、青年に向かって声をかける

何かを切り替えるように、おっとりした声から真剣な声に変わっていた


「最近ね・・・回峰がこの町に戻ってきたって聞くよ」

「・・・聞いています」

「冬夜ちゃんがこの町に戻ってきたのも・・・あの男を追ってなんだよね?」

「・・・うん」

「あいつにはちゃんと罪を償わせるんだ。一生、塀の中で・・・同じところに堕ちたらだめだからね。彼方ちゃんは、そんなこと望んでないよ」

「わかってる・・・あんなのと同類になんかなりたくないから」

「わかっているならそれでいいんだ。真面目な話は終わり。今日はこれからどうするんだい?時間があるなら、うちにおいで。お菓子をあげるよ」

「・・・嬉しい提案だけど、そろそろ戻るよ。荷ほどきしないと」

「おう!また明日来いよ!」

「はーい」

「明日は、お手伝いを頼んでもいいかな?」

「ええ。もちろんです。詳細は明日、お願いします」


青年は人々に別れを惜しむように手を振りながら歩き出した


男の人にしては長めの黒髪を、白いリボンで結んだ青年

青年にかつての面影はほぼない

しかし、そのリボンには見覚えがある

だから確信できる。間違いなく、あの人だと

彼は私たちの隣を通り過ぎていこうとする


「冬夜君」


その名前を口にすると、青年の暗い青目がこちらに向けられる


「その声は・・・夏樹か?」

「うん!夏樹だよ!戻ってきてたの?」

「ああ。戻ってきた。全然変わってないな・・・お前は」

「二年間で身長は伸びたよ!」

「相変わらずチビだけどな」

「うるさい!」


あれ、冬夜君ってこんなこと言うっけ?

二年前は・・・お前とかチビとか言わなかったのに

少しの違和感を覚えつつ、彼を見上げた


青色の瞳が私を覗く

その瞳は以前のように、澄んでおらず

果てしない闇が、広がっているような気がするほど暗かった

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