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針指す時の終末日  作者: 鳥路
拓実編「黄金色の銃弾と強運の怪盗」
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14:一葉家の隠し事

一方、僕は二階に行ったと見せかけて、押入れから様子を伺っていた

彼方の話だと、これから拓実が来る

あいつのことだ。玄関から来ることはしないだろう

能力使用状態で目立つことはしない

玄関から入るなんて真似は絶対にしない


だからベランダの鍵をご丁寧に開けておいてあげたのだが・・・

僕が二階に向かったと判断したあいつは、ゆっくりとドアを開けてくれる

横に徐々に・・・というわけではなく、普通に、さも当然のように開けてくるものだから、声を上げて笑いそうになってしまった


「っ〜!」


こんなところでバレるわけにはいかない

落ち着け、落ち着くんだ。一葉拓真

今のお前はなんだ

外見こそ今は小学生だが、意識だけは彼方しゅじんに人生を捧げてきた立派な成人男性だろう?

こんなところで、彼方の期待を裏切るような真似をするんじゃない

立派に務めを果たしてみろ・・・!


「勝手に開いたってことは、拓実はそこにいる。一人で来たのか?」


いや、流石にあの姿を誰かに見せるマネはしないだろう

流石に一人で来たと思う

けれど、自分からあの場所に行きたがるかな


・・・彼方に頼まれたから鍵は、分かる場所に置いておいた

これで、僕の任務はおしまいだ

この時間軸でできることは、あと一つだけ


「後は、この時間軸の予定通り・・・僕が拓実の代わりに死ぬだけか」


死ぬのは怖くない

ここで死んでも、僕は彼方の元に帰るだけだから

けれど、オリジナルの僕はどうだったんだろう

・・・怖かったかな

それとも、恨んでいたかな

あの日、入れ替わろうと言った自分を

自分を迎えに来てくれなかった拓実を


「・・・これからどんな感情を抱くのか」


その答えは誰にもわからない

今、僕が意識を乗っ取っているオリジナルの僕にも

その運命から抜け出した今の満ち足りた僕にも

彼方にも、拓実にも、四季宮君にも、その答えを出すことなんてできやしない


・・


一葉家に入り込んだ後、一葉さんはリビングにあった鍵を一瞥する

何か意味があるものなのかな、これ


そういえば、彼方ちゃんが地下室に行けって言っていたよね

一葉さんのトラウマを引き出す為にと言われてはいるけれど、そこに何があるのだろうか

この鍵は、使えるかもしれないし持っていっておこう

ポケットの中に鍵を入れ込んで、一葉さんと家の探索をしていく


少し裕福なお家のリビングといった感じだ

装飾品はシンプルで、シックなカラーでまとめられている


特殊なのは、小さな仏壇だろうか

木製の、温かな雰囲気を感じさせる小さな仏壇には、一葉さんそっくりな女性の写真が飾られている

この人が、一葉さんのお母さん・・・一葉真実さんか

あの絵本を書いた鈴原真実先生でもあるんだよね

ほわほわで病弱という言葉がしっくり来る雰囲気をまとう女性は、写真の中で微笑んでいた


「あの、一葉さん。この家に何をしに来たんですか?」

「家探し」

「何をしに来ているんですか・・・」

「探したいものがあってな・・・。二階にあるだろうから見てくるよ」

「その間、私はどうしたら」

「押し入れにでも隠れていたらどうだ」

「何が楽しくて人の家の押し入れに隠れていないといけないんですか!見つかったらもしもしポリスメンされちゃうんですけど!?」

「見つからないように頑張ってくれ。一時間で戻る」

「絶対バレるんですけど!もう家探し手伝ったほうがマシなので、一緒に連れて行ってください・・・」

「いや、バレたら困るやつだから。連れていけない」


必死の抵抗虚しく、押し入れに押し込まれて一葉さんを待つことになる

能力は一葉さんだけにしか効いていないだろう

私は今、他所様のお家の押し入れで帰ってくるかどうかわからない一葉さんの帰りを待つ


「・・・一緒だった」

「・・・先住者いるじゃん」


押入れの中で半泣き状態になっていると、そこで私を見て驚いている少年と遭遇してしまう

一葉拓真さん。今、一番見つかってはいけない存在に、見つかってしまった


「・・・警察は勘弁していただけると」

「う、うん。呼ばないから安心してよ。まさか夏樹さんと一緒だったとはね」

「え、なんで私の名前を」

「彼方から聞いていないかい?事情は長くなるし、今は解説の必要がないから話さないけれど、ざっくりいえば今の僕は、君にこの家の地下室を見るように促した彼方とグル。この時間旅行を円滑に進めるためのサポーターだと思ってくれたらいい」

「は、はあ・・・」


二十歳の意識な彼方ちゃんと、目の前の彼は協力関係にあるらしい

それだけわかれば、後はどうにかなるだろう


「拓実はしばらく戻ってこないから、地下室に行ってみたら?」

「・・・いいんですかね?」

「何を心配することが」

「そこには、一葉さんのトラウマがあるんですよね。それを、勝手に知っていいのかなって」

「別にいいよ。兄の僕が許可する。個人の問題だと言うのなら、僕は君に頼むよ」


性格が酷いとは聞いていたが、そんな様子を感じさせない雰囲気で、私の手を取った拓真さんは、真剣な顔つきで語りかけてくれる


「過去を知ることは、あの子を幸せにする手段なんだ。家の事情で、あの子は色々と欠けてしまった。本来得るべきものを得られないまま大人になってしまった。その責任の全ては僕と父にあるけれど・・・僕らにはどうにもならない」

「・・・」

「夏樹さん。どうか、あの子から欠けてしまったものを君の手で埋めてあげて欲しい」

「・・・私に、できますか?」

「君にしか、できないことだよ。だって君は、拓実にとって唯一無二の女の子なんだから」


背中を押され、押し入れから追い出される


「拓真さん」

「あまり大きな声を出さないの。拓実にバレちゃうよ?」

「・・・」

「聞きたいことは色々あると思う。けれど、僕からはあまり多くのことは言えない。それに時間がないからね。説明している暇は、ないんだよ」

「・・・らしいですね」

「苦労はさせる。けれど今も必要な過程なんだ。だから・・・」

「わかっています。知ることに徹しろ。それだけですよね」

「ああ。さあ、行って。鍵はもう君は手に入れている。入り口はこのリビングを出て、右の廊下を行き止まりまで進んで」

「はい」

「行き止まりの床下に、その鍵が使える床扉がある。その先に、今の君が会わないといけない人物がいる」

「わかりました・・・」


先程さりげなく手に入れた鍵が、地下室の鍵らしい

後はそのまま廊下を進んで、目的地に進むだけだ


「気をつけて」

「ありがとうございます。何から何まで」

「いいんだよ。これを上手くやれば、彼方にご褒美が貰えるからね・・・ふへへ」

「・・・それは、なによりです?」


なぜか変な笑いをしている拓真さんを置いて、私はリビングから廊下へ、拓真さんが指示したとおりに廊下を進んでいく


廊下の突き当りには、確かに床扉が存在していた

ここが地下室の入り口か


鍵を使って、その先に進もうとする

・・・なんだろう。これから先、私はとんでもないことを知ることになるんじゃないかな

嫌な予感が身体中に走る

けれど、私は知らないといけない

この先に、何があるのか

鍵を開けて、その先を確認してみる


「階段・・・」


その先は真っ暗

明かりはないから、ここを開けた状態で進まないといけないだろう

慎重に、手探りで階段を降りていくと・・・


「・・・拓真?」


か細い声が、かけられた

慣れない視界をこらし、その先にいる誰かを注視する


目の前にいる子供の性別はわからない

髪はぼさぼさ、好き放題に伸びたそれは、手入れなんて全然されていない

ボロボロの着衣に、擦り傷だらけの皮膚

虚ろな目は、先程私の背を押してくれた少年と同じもの

私をここにつれてきてくれた彼と、同じものだった


「たくみさん?」

「・・・?」

「なんで、こんなにボロボロで。しかも鍵がかかった地下室なんか」


傷はよく見たら今日昨日でついた傷以外にもたくさんある

状況がうまく理解できない中、目の前の彼は小さく呟いた


「拓真でも、あの方でもない。貴方は、だあれ?」・・・と

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