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針指す時の終末日  作者: 鳥路
拓実編「黄金色の銃弾と強運の怪盗」
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13:二人の兄弟子

「・・・一葉さん」

「なんだ?」

「・・・神社の駐車場まで送迎されなくて本当に良かったですね」

「全くだよ。そこまであの車で送迎されたら頭がおかしくなりそうだ」

「・・・一葉さんも生まれて初めてのリムジンでしたか?」

「ああ。生まれて初めてだ」


あの後、私達は新橋神社まで送迎をしてもらった

しかし残念ながら・・・いや、ここは「流石冬月家」というべきだろうか

私達は、あのリムジンに載せられてここにやってきてしまったのだ

目立ちたくなかったけど、凄く目立つ羽目になってしまったのだ


「執事に世話されるドライブも、シャンパン用意されるのも初めてだよ。酒なんて休日でもこんな真っ昼間から飲んだことないんだが・・・」

「ジュースは苦手だって言ったら、颯爽と緑茶淹れられてマジビビりました。しかも玉露でですよ。オール玉露。贅沢!」

「いいなぁ、緑茶。俺もそっちが良かった」

「でも味わかりませんでした」

「あの環境じゃ何食ってもわかんないって」

「ですねぇ」


「あの環境は流石にもう体験することはないよな・・・」

「庶民には縁遠い世界ですよね、あれ。もう少し堪能しておくべきでしたかね」

「人んちの車で?」

「一生の一回あるかどうかの経験ですよ」

「そう言われると、もう少し味わっておけばよかったかもって思ってしまうのはなぜなんだ・・・」


リムジン内の感想を言い合いつつ、階段を登り・・・新橋神社へと到着する

ここは、現代から何一つ変わっていない

けれど、自宅スペースの方は若干真新しいように思える

変わらないのに、どうして?


「・・・ちょうど十五年ほど前、新橋家はリフォームをしたそうだ。その直後だから、新しく見えるんじゃないか?」

「初耳です。どうして一葉さんはそれを?」


私でも知らないことを、なぜ一葉さんが知っているのだろうか

誰かから聞いた?

でも、リフォームをしたなんて、お兄ちゃんも知らなさそうだったのに


「・・・答えは道場にあるよ。後をつけるためにも・・・今はまだ、あいつに俺の存在をバレるわけにはいかない。手を借りるぞ」

「え」


一葉さんは私の手を掴んで、新橋神社の敷地内へと進んでいく


「ちょいちょい一葉さん。流石にバレますよ。こんなに堂々と侵入したら」

「では師匠。今日もありがとうございました」

「ありがとうございました!さようなら!」

「おう。またな」


道場から、二人の子供とおじいちゃんが出てくる

まだ元気だった頃のおじいちゃんを懐かしむように見ていると、一葉さんが私の手を引いて子供たちの後をつけていく

あれ?この子たち、私達の正面を通り過ぎたはずなのに・・・なんで無反応なんだろう

これが、一葉さんの能力なのだろうか


「あの、一葉さん」

「ん?」

「私達、存在を認識されていませんよね?これが能力なんですか?」

「ああ。そうなる」

「なるほど。では、この能力で一体誰を追いかけるんですか?」

「目の前にいるあの二人の内、一人を追いかける」


先程稽古を終えたあの二人の少年こそ、突如来なくなった兄弟子たちなのだろう

小さい少年は道着だけだ・・・だから弓術のお弟子さん

彼より一回り大きい少年は竹刀を持ち歩いているようだ。剣術のお弟子さんかな

これから、どちらを追いかけるのだろうか


「小さい方は岸間雅文。聞いたことはあるだろう」

「いえ知りません」

「・・・永海バスハイジャック事件で出た唯一の行方不明者だよ。現市長の息子でもある」

「なるほど。では、もう一人は?」

「・・・もう一人こそ、俺達がついていく人間だ」

「へぇ、彼を」

「彼が一葉拓真。俺の、双子の兄だ」


彼が一葉さんのお兄さんなんだ

結構しっかりしていそうなイメージだけど・・・この人、すでに亡くなっているんだよね

でも、なんでだろう

どこか、違和感があるのはなんでだろう


外見は、一葉さんをそのまま幼くしたような感じだけど、お兄さんはなんとなく、顔つきがキリッとしている

そしてなぜか、付き合いを拒絶しているような空気・・・・話しかけにくい空気が漂っているのだ

これはあくまで感覚だから、口には出さないけど・・・


けど、今浮かんだ事情は違和感の答えではないようだ

頭の中で、何かが欠けたまま

その欠けているものは、全然わからない


「んん・・・お兄さんと一葉さんって、印象違いますよね」

「ああ。それは先程、冬月さんも言っていただろう?」


先程・・・ああ、あの時のかな

侑香里さんは、出会った時にこう言っていたよね

一葉さんを見ながら、確かに『顔、そっくりだもの。一葉真美さんに』・・・と言っていた


「一葉さんは、お母さんにそっくりなんですね。で、お兄さんはお父さんにそっくりなんですかね?」

「ああ。一卵性双生児なのに、不思議な話だろう?」

「顔は一緒でも、雰囲気が似させているのでは?」

「雰囲気ねぇ・・・俺が、ほわほわ病弱みたいな顔してるって?」


・・・そんな顔は流石にしていない

けど、そうなんだ。一葉さんのお母さんは、病弱な人だったんだ

それでいてほわほわ・・・ほわほわってよくわからないけれど

多分、そうだな・・・


「いや、なんというか・・・お兄さんが教師をやっても、話しかけにくいし、話しかけられても萎縮しちゃう気がします」

「・・・確かに。あのまま成長していれば、人を人と思わない畜生が完成していたと思う」

「そこまでお兄さんの性格は酷いんですね・・・ま、まあそれは置いておいて。一葉さんは、雰囲気が優しい人なんです。扱いは酷い時ありますけど!」

「・・・変わらないな、君は」


顔を反らして、小さく何かを呟く

変わらない・・・ってどういうことだろう

美術館の道中。そこでぶつかったのが、一葉さんと私の初対面なんだよね?

忘れているのかな。一葉さんと昔、どこかで出会った記憶を


「一葉さん」

「なんだ」

「私達、どこかで出会ったことあったりします?」

「・・・さあ、どうだろう」

「変わってないって言ったじゃないですか。会ったことないとそんな台詞飛び出てきませんよ」

「・・・お前が小学四年生の時だよ。ほら、言ったぞ。後は自力で」

「思い出しておきます!」

「・・・流石に、それだけじゃ思い出さないか」


お兄さんの後をつけつつ、私は密かに考える

四年生の時・・・一葉さんは、ざっくり二十一歳か二十二歳、だよね?

大学四年生の彼が、小学生の私に関われる機会なんて・・・あるのかな

単純に覚えていない。覚えている一葉さんには申し訳ないけれど・・・思い出せない


「でもまあ、昔を思い出すのは程々に。今はあいつだ」

「ああ、お兄さん。そういえばつけていましたね」

「そう言えばって・・・忘れるなよ。ほら、あそこだ」


一葉さんが指で示した先には、青い屋根と真っ白な壁が特徴的な一軒家があった

お兄さんもその家の門を開けて敷地に入ったし、あそこが一葉家なのだろう


「入るぞ」

「え、流石にバレません?」

「ベランダから入れば問題ないだろう。拓真は昔から戸締まりがガバガバだ」


なるほどなるほど。あの家に入るんですね

玄関からではなく、ベランダから

確かに、一葉さんはあの家に住んでいる存在だから問題ないかもしれないけれど

もしもバレたとして・・・未来の一葉拓実だから、合法なんて言い訳は通用しないと思う


「・・・これ、不法侵入では?」

「住んでいる人間の成長版が玄関から家に入らず、ベランダから女連れて家に入るだけだ。何の問題があるんだ」

「ベランダから入る行為のことはノーコメントとして、強いて言うなら語弊ですかね。もう少し小学校教師らしい言葉遣いをしていただきたいです」

「善処はしよう」

「あ、これダメなやつだ」


これ以上は何を言っても無駄だろう

今は、この先に進むしか・・・ないとおもうから


お兄さんが家に入った後、ベランダの鍵を開けて・・・しばらく様子を見守る

彼が二階に行ったのを見計らって、私達は一葉家へと足を踏み入れた

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