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針指す時の終末日  作者: 鳥路
拓実編「黄金色の銃弾と強運の怪盗」
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12:終末

「そうね、まずは今、夏樹さんが「終末」というものをどう思っているか聞かせてほしいわ」

「そうですね・・・やっぱり、事象、ですかね?終わりが来る事象的な」

「実はね、終末って「物体」なのよ」


ベッド横に置いてあった時計を持って、侑香里さんは小さく笑う


「大時計の形をしていると聞いているけれど、私達は見たことがない。ただ、言い伝えでそうとしか聞いていないわ」

「その大時計が、どう終末をもたらすんですか?」

「さあ・・・破壊光線とか出すんじゃない?それとか、ほら、この世界魔法も超能力もあるんだからそんな感じの超常的な力を起動させるのかもしれないわ。時計の形をしていることから終末本体の固有能力が「時間操作」であり、その能力で自然災害が起こる時間を早めて、終末時に同時にそれが始まるようにするのかもしれない。色々考えられるけど・・・全くわからないわ。ごめんなさいね」

「なんて適当な・・・」

「情報がないもの。ただ、その大時計がこの世界に終末をもたらすというぐらいしか私達には伝わっていないわ」


「結構、雑ですね」

「ええ。私もそう思うわ。本来記録を残すべき立場であったお祖父様って適当すぎる男だったもの。なんでも勘だより。なんでも直感。記録は必要なもの以外残さない、一言一句覚えるようなお馬鹿さんだった・・・本当に、迷惑ばかりかける人」

「つまり、冬月桜彦なら・・・終末のことを知っている可能性がある?」


一葉さんがそう言うと、侑香里さんは時計を置きながら小さく頷く


「ええ。お祖父様なら覚えているはずよ・・・でも、お祖父様は残念ながら既にぽっくり逝ってるし、晩年は認知症酷くて毎日昼夜問わず「こーせつー」って叫んでたの。うるさいったらありゃしないわ」


うんざりしながら頭を押さえる彼女の様子から察するに、晩年はなかなか手強かったらしい

・・・ご近所さんにもかなり苦戦している人は多い。大変だってよく聞く。お疲れ様としか言いようがない


「そういえば、冬月桜彦って死因が公開されていませんでしたが、やはり認知症で?」

「罹ったのは確かだけど、死因は衰弱死でも病死でもなく、ショック死なの。聞いておく?死ぬほど笑うわよ?」

「いや、人の死因で笑うなんてありえないでしょ。不謹慎な。聞きますけど」

「お祖父様ね、タンスの角に小指ぶつけて、その痛みのショックで亡くなったの。当時百歳だったわ。それを知った時、申し訳ないけど私は笑いそうになったわ。不謹慎だけどね」


なかなかにクレイジーな死に方だな・・・

でも、逆に凄いと思う。亡くなった当時、冬月桜彦は百歳近かったと聞いている

自力で歩ける人って、これぐらいの年齢の人だともう少ないほうだよね・・・歩けていたほうが凄いと思う


「まあ、晩年はそんな感じ。時渡りができるのなら、若かりし頃・・・それこそ明治大正時代のお祖父様を狙うべきだと思うわ。幼少期に終末関係の話を聞いたとお祖父様が行っていたと、お父様が言っていたから、青年期ならいつでも大丈夫と思うわ」

「な、なるほど」


そういえば幸雪君って・・・明治時代の出身か

忘れがちだけど、冬月さんのところで働いてたみたいだし・・・


「嫁の名前より部下の名前かよ・・・どれだけ好かれてたんだ、明治相良」

「あら、拓実君。「こーせつー」なる人物と面識があるの?」

「面識はあります。彼も時間旅行の参加者なので。今は、新橋さんのところに居候していますよ」

「会ってみたいわ!お祖父様お気に入りの男の子!」

「なんか別の意味に聞こえた気がしたんだが・・・」

「別の意味ってなんですか?どんな意味ですか?どんな意味なんです!?」

「一生知らなくていいんだよ、純粋高校生。この先の時間旅行と飯のことだけ考えてろ」

「えぇ・・・」


一葉さんにデコピンされた私は痛む額を抑えつつ、吐かれた暴言を復唱する

時間旅行はともかく、飯のことだけ考えてろって・・・


「私、ただのマスコット暴食魔とか思われています?役に立たない感じの?」

「そこまでは言ってないだろ」

「・・・思ってはいるんですね?」

「さあ、どうだろう」


適当にはぐらかされたけど、一葉さんの表情が少しだけ笑っている

・・・思ってるな、この人


「まあ、機会があれば・・・相良を連れてきますね」

「よろしくね。どんな子なのかしら・・・いまから楽しみだわ」


「・・・それじゃあ、俺達はそろそろ出ます。新橋神社に弟子が来ている頃でしょうからね」

「あ、そうよね。そろそろそんな時間ね・・・でも、本当にその子を連れて行くの?あの家に」

「・・・まあ、実際に入る時は庭に置いておきますよ。ご飯置いておけば一時間ぐらいは持つでしょうし」

「犬扱いしないでいただけますか?」


「まあ、そんな感じです。それではまた。アポ無しで来ても大丈夫です?」

「深夜に来たら確実にいるわよ。あ、でも水曜日はきちゃだめ」

「どうして」

「かほくんが拗ねちゃうの。私の義足、ばらして点検する日だから」


スカートをたくし上げて、その足を見せてくれる

太ももの真ん中辺りから下がすべて、真っ白な義足になっている

シルエットが綺麗になるようにか、普通の足と変わらない形状をしているのが特徴か

関節部分は球体式になっていて、この時代だとかなり最先端を走っているようなデザインと技術だと、素人の私でもなんとなく理解できた


「初めて見せていただきましたが・・・時代の最先端どころか数年先を行ってますね」

「そうなの。三時間程度なら自力で歩くこともできるし、一時間程度なら、戦うこともできるわ」


けれど、そういうことは絶対にするなってかほくんや寺岡師匠から言われているから、基本はずっと車椅子なんだけどね、と、侑香里さんは車椅子のフレームを撫でながら複雑な笑みを浮かべた


「別に侑香里さんがいなくてもよさそうなのですが・・・」

「話しながらじゃないとしたくないってかほくんが言うの。めったに我儘を言わない人だから私としても聞いてあげたくて」


「ところで、先程から気になっていたのですが、かほくんというのは・・・その」

「かほくんはかほくん。私の旦那さんで彼方のお父さん。隣にいたでしょう?あの大きいの」

「え、ええ・・・それはわかるのですが、あだ名なのかなって」

「そうね、他人から見たらそう見えるわね。かほくんね、弱い子なの。まだ私に一度も勝てない未熟者だから、嘉邦くんじゃなくて、一文字抜いたかほくんなの。ちゃんと呼ぶのは、かほくんが私に勝った時って決めてるんだけど・・・」

「けれど?」

「義足外した状態で襲撃されようが、かほくんに私、勝ったから・・・きっと、一生かほくんはかほくんのままね。死ぬまでかほくん」

「「死ぬまでかほくん・・・」」


むしろハンデありまくりな状態で侑香里さんに襲撃かけて勝とうとする嘉邦さんもどうなんだと思うけど・・・死ぬまで名前で呼ばれないのもかなり可哀相だと思う・・・


「ごめんなさい。変な話で引き止めちゃったわね。時間ロスもでちゃったし、お詫びに新橋神社まで送るわ。車、手配するから。待っていなさい」

「「は、はい・・・」」


先程の空気は何処へ

有無を言わせない声音で私達の行動を制限した後、侑香里さんは色々なところに指示を出していく


「・・・」

「・・・本当に色々とぶっ・・・サービス精神旺盛な家だな、ここ」


私達はその光景を遠い目で見つつ、使用人の方々から車に担ぎ込まれるまで意識を遠くに追いやって、心を虚無にしながらその光景を眺めることしかできなかった

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