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針指す時の終末日  作者: 鳥路
拓実編「黄金色の銃弾と強運の怪盗」
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11:冬月侑香里の矜持

絵本を読み聞かせてしばらく

眠ってしまった二人に毛布を被せた私はもう一度その絵本を読み返していた


「・・・これ、一葉さんだよね?」


なかよしふたごの名前は拓真君と拓実君

性格は異なるけれど、髪の色を含めた外見情報が全て一致している

鈴原真実さんってもしかして・・・


「夏樹さん、二人の相手をしてくれてありがとう」

「あ、噂をしたら」


彼方ちゃんの部屋に入ってきたのは、一葉さんと侑香里さん

彼女が先導して部屋に入り、本棚の方へ向かう

しかし、何もなかったのか周囲を見渡し・・・私が持っている絵本を注視した


「今、夏樹さんが持っている絵本よ」

「これが・・・」

「あ、やっぱり一葉さんに何か関係が?」

「読んだのか?」

「はい。さっきまで読み聞かせを」

「そうか」


手作り絵本を一葉さんに手渡して、彼は数ページそれをめくって無言で眺める

何かを懐かしむように、目を細めて


「やっぱり、その絵本の男の子は・・・」

「まだ想像の域を出ていなかっただろうけど、俺と拓真だろうな」

「どういうことです?」

「母さんは、俺を産んだ後に死んだから」

「言葉が足りないのは拓也さんにそっくりね・・・。あのね。元々、真実は丈夫な人ではなかったの。結婚前から入退院を繰り返していたほど」

「じゃあ、出産もかなりリスクが」

「ええ。周囲からは止められた。死ぬ可能性の方が高かったから。私も止めたわ。「死ぬわよ」って。でも、彼女は何て返したと思う?」

「・・・それでも、と押し通したのはわかりますが。流石に言葉までは」


一葉さんが今、産まれている

その事実から考えるに、彼女が周囲の反対を押し切ったことまではわかる


「・・・何も残せないまま、死にたくない。彼女はそう言ったわ。後から聞けば、持病の関係で彼女自身あまり長くはなかったみたいなの」

「子供を産まなくても、その数年後には・・・」

「ええ。亡くなっていたと思う。運がよければ双子を産んだ後も、数年は生きられたと思うわ。でも、二人が小学生になる頃にはどの時間軸でも亡くなっていたと四季宮の観測でわかっているし・・・彼女の死は、残念ながら「確定された事象」なのよ」

「どんな要因があっても、変えられないということなんですか?」

「ええ。悲しいことにね」


侑香里さんは車椅子を器用に動かして、彼方ちゃんと冬夜君を抱き上げ、ベッドの上に寝かせる

のんびりと寝息をたてる二人は、全く起きる素振りを見せない


「事故死や殺人とか・・・そんな外的要因ならば、運命はかなり変化を見せる。けれどね、病死は、そう簡単に変わらないの。奇跡みたいな確率で、分岐ができる場合もあるのだけれど・・・」


残念ながら、その大半が一直線の運命を保持している・・・と侑香里さんは告げた


「残酷よね。超能力も、魔法もあるのに、真実みたいな人には何一つ奇跡が与えられないのだから」

「・・・」

「私も同じ。この子を置いて確実に死ぬ未来が待っている。変えられないの」

「・・・俺たちから見たら十年前。ここから、五年後。冬月侑香里は亡くなっている」


どういうことがわからなくて、視線を一葉さんに向けると彼がこれから先の未来で起こる話をしてくれる

ああ、侑香里さんも未来にはもう・・・いないのか


「悲しそうな表情をしないで」

「でも、侑香里さんはその・・・未来を知って、悔しくはないんですか?」

「悔しいわよ。変えられるものならねじ曲げてやりたい。けれどね、私が生き残ったら、代わりに彼方と冬夜が死んでしまうの」

「どうしようも、ないんですか?」

「ええ。どうしようもない。二つに一つ。そんなの聞かされたら、答えは一つでしょう?私が死んで、彼方たちが生き残る。それ以外に答えがあると思う?」


四季宮さんの観測は、それ以外の答えを導き出さなかったのだろう

だからこそ、侑香里さんは覚悟をもう既に決めているのだと思う

決まった未来、来るべき最期に、備えて心を固めている

・・・とてもじゃないが、真似できる所業ではない


「確かに、この子たちの成長を見守れないのは心苦しいわ。かほくんも置いて逝っちゃうし。まだまだやりたいことがある。でもね、大事なこの子たちを代償に生き残るなんて絶対にしたくない」

「・・・」

「だから、覚悟を決められる。大事な二人の為だから。何だってできるわ」


眠る彼方ちゃんの前髪を払い、寝やすいように整えて、彼女は静かにその寝顔を見守る

どうして、この人たちなんだろう。普通に生きているだけなのに、残酷な運命をなぜ享受しなければならないのか、私には理解できなかった


「・・・終末が彼方を消そうとする。だからこそ、私は彼方と冬夜を未来に繋げなければいけない義務がある」

「侑香里さんは終末をご存じなんですか?」

「ええ。彼から、貴方たちの時間旅行の目的の中に終末の脱却があることも聞いたわ。だからこそ、私が持つ情報の全ては伝えておきたい」

「全て、いいんですか?」

「ええ。未来に彼方がいないことも既に聞いているわ。だから、この時間軸はどうやっても終末に辿り着いてしまう。いわば「捨て周回」に突入している感じね」

「・・・けれど、侑香里さんはそれを何の意味もない「繰り返し」の一つにしたくない」

「ええ。無駄なことなんてあってはいけないの。だからこそ、私はもう終わりが確定している時間で、救済に辿り着くための情報を貴方たちに授ける。いつか、きちんと終末を打破できる時間へ辿り着く為に。それが、時の一族の役割よ」


彼方ちゃんと冬夜君が布団を蹴り上げる

それを素早く直した侑香里さんは、近くのテーブルに移動して、私たちときちんと向き合ってくれた


「・・・なんでも、いいんですね」

「ええ。かほくんの嫌いな食べ物から、私が打ち込まれた銃弾の数まで、全部答えてあげるわ」

「!?」

「では、俺が今持つ疑問を何点か」


一葉さんスルーしちゃうんだ。銃弾の数、スルーしちゃうんだ・・・

そんな私を横目で見て、呆れたようにため息を吐く一葉さんは侑香里さんへ問いかけを初めていく


「まず一つ。終末は冬月彼方が二十一歳の三月に訪れる・・・それを打破するのは、貴方でもいいような気がしますが」

「理論上はね。でも、私はかなり力が弱い能力者。それに、太一もいないから。終末を消すなんて不可能よ。できるのは、彼方ぐらい強い子じゃないと」

「太一って・・・」

「春岡太一。終末を打破するもう一つの針・・・時の一族の一つ「創始の春岡」の子息といえば、わかりやすいかしら」

「ええ。それはわかります。けれど、その、終末を打破するためには冬月と春岡が必要と言うことなんでしょうか?」

「ええ。正しく終末を全ての時間軸から消し去るには、春岡と冬月の能力者が力を合わせないといけない」


春岡太一さんは既に亡くなっているんだよね。その息子さんの夜さんが行方不明になったタイミング

だから、この時間からしたら大体、四年前ぐらいになるのかな


「糸と平行して春岡夜も探さないといけないのか・・・」

「夜は正体を隠しているから、そう簡単に出てこないわよ」

「証拠を見つければ、自白してくれますかね。自分が春岡夜ですって!」

「・・・無理ね。確証を得られても自白は絶対にしてはいけない。彼方から名前を呼ばれない限りは、表舞台に出てきてはいけないと教え込んだから」


教え込んだってことは、侑香里さんは春岡夜と面識があるってことだよね

それには一葉さんも気がついたらしい


「教えてください。春岡夜は今、何という名前で生きているんですか?」

「そうくるわよねぇ・・・まあ、答えると言ったから教えるけれど、貴方たち二人の中で留めておいてね」


この終末には、裏がある

本来訪れるはずではなかった終末はおそらく「人為的に発生させられている」と、彼女は睨んでいることを前置きしてくれた

だからこそ、誰が裏切ってくるかわからない

終末を引き起こしている黒幕は「記憶を引き継いでいる可能性がある」

名前を口外し、黒幕にそれがバレたときが一番厄介

彼が生きる時間が、消されるだろうからと

だからこそ、彼女はその名前を慎重に口に出し・・・私たちに他言無用と言い聞かせた


「いや、マジか・・・そんな」

「・・・」

「絶対に口にしてはいけないわよ。誰があの子を狙っているか、現段階では何もわからないのだから」


侑香里さんの懸念もわかる。隠さないといけない理由だって理解はできる

けれど、その名前は・・・


「失いたくないの。大事な子であり、親友の忘れ形見だから」

「じゃあ、なぜ冬月家で保護していないのですか?そちらの方が確実では?」

「それではダメなの。これは色々と理由があるの。冬月の仕事にも関わるから、その理由を述べることすら叶わない。ごめんなさいね。でも、夜と彼方を一緒にいさせるわけにはいかないの。幼く、能力の操作も自分の意思でできない今は特にね」

「ふうん・・・」


数ある理由の一つだろうけど、それが一番大きい事情のような気がした

侑香里さんは静かに息を吐いて、彼方ちゃんの方を見る

純粋な心配、側に入れない申し訳なさ

色々な感情が交ざった視線を、一人娘に向けていた


「・・・侑香里さん。時間がないのでもう一つだけ、お伺いしたいことがあります」

「なにかしら」

「終末のこと、詳しく教えて頂けませんか?」

「勿論。まずは、どこから話しましょうか・・・」


侑香里さんは思案するように目を閉じ、どこから話すか考える

そして、しばらくした頃に彼女は語り出した

終末に関すること。彼女が知っている情報を・・・

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