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針指す時の終末日  作者: 鳥路
夏樹編序章「明治からの客人と時間旅行」
8/83

2ー7:時を超えた証明

午後一時五十分

のんびり歩きつつ、メモに書かれている住所へ到着した


「ここでいいんだよな?」

「ここですね。間違いありません」

「大きい家だな・・・」

「そうですね・・・」


目の前には、とんでもないぐらい高い塀と屋根が広がっていた

永海市新橋町の端にある大きな家

お兄ちゃんから教えてもらった通り、その家の表札は「相良」だ

お兄ちゃんの話では、隣にいる相良さんの弟さんがいるらしいが・・・


「・・・夏樹さん。ここで俺は、明治時代から来た証明ができるのか?」

「らしいです。とりあえず、行きましょうか」


彼の困惑を無視して立派な門の横に設置されたインターフォンを鳴らす


『はい。どちら様で?』

「新橋と申します。兄の冬樹から連絡があったと思うのですが・・・」

『ああ。冬樹君の妹さんね。少し待っててね』


「なななな夏樹さん、これどういう原理なんだ!?小さな箱に人が住んでるのか?」

「これからたくさん驚くことはあると思うので、全部後で説明しますね」

「了解だ・・・。未来は凄いな・・・本当に。箱の中で人が動いたり、喋ったり・・・」


相良さんが若干興奮する中、門がゆっくりと開かれる

そこにいたのは、着物姿の少年だった

目線は私と同じくらい

お兄ちゃんが言っていた通りなら・・・


「・・・あれ、冬樹さんじゃない」

「君、もしかして・・・雪季君?」

「なぜ僕の名前を?貴方はどちら様でしょうか・・・・?」


本人のようだった

良かった、すぐ会えた


「お兄ちゃんから聞いたんです。新橋冬樹は私のお兄ちゃんですので」

「お兄ちゃん・・・じゃあ貴方が、妹さんなのですね」

「はい。新橋夏樹といいます」

「夏樹さんですね。冬樹さんからお話は伺っています。例の物を持って来てくれたそうで」

「あ、これの事ですか?」


吉文堂の茶封筒を見せると、雪季君の目が若干輝いた


「はい!」

「これ、お兄ちゃんに渡しておいてほしいって頼まれました」


茶封筒を渡すと、それを大事そうに抱えた後、雪季君の表情が凄く緩んだ

猫好きなのかな・・・


「ありがとうございます!」

「どういたしまして。それと・・・」

「わかっています。曾お爺様に会いに来られたんですよね?案内しますので、どうぞお入りください」


そう言って雪季君は私たちを相良家の中に向かえてくれる

門の先には豪華な日本庭園が広がっていた


「どうしましたか?」

「いや、凄いな・・・と」

「・・・そうですか?」


毎日この光景を見ている彼にとっては普通の光景らしい

玄関に向かい、脱いだ靴を揃える

そして長い廊下を歩いていく

そこからも庭が一望出来て、その美しさに息を飲んだ


「そういえば、その隣の方は?」

「俺は相良幸雪・・・君の曾お爺さんに会いに行くよう、冬樹さんから言われて来た」

「そうですか。僕は相良雪季。以後、よろしくお願いします。・・・目的の部屋にはもうすぐ着きますよ」


長い廊下を歩き続けた先の、端の部屋

そこで雪季君は立ち止まった


「曾お爺様、お客様を連れてまいりました」

「入りなさい」


襖の先から老いた男性の声が聞こえる

雪季君は襖をゆっくり開き、私たちは彼と対面した

お兄ちゃんの言う通り、百二十歳を超えているとは思えない外見をしたその男性は私に向かって小さく微笑んだ


「はじめまして。新橋夏樹と申します。兄がお世話になっております」

「はじめまして、夏樹さん。君のお兄さんの将棋友達だよ」


この人が、相良幸司・・・百二十年以上生きる相良さんの弟かもしれない人

彼は名前を名乗らなかった

名乗らないでほしいと、お兄ちゃんから言われているかもしれない

なんせここに来たのは、相良さんが目の前にいる幸司さんのお兄さんか確かめるためなのだから


「今日は私に会いたいと言う人を連れてきたそうだね・・・?」

「はい。私と言うよりは、彼ですけど・・・」


相良さんを手招いて、幸司さんから見える場所に彼は立つ


「あ・・・・」


その瞬間、幸司さんの様子が変わった

それを雪季君も察したようで、彼も相良さんを見ていた


「・・・初めまして、相良幸雪です」

「本当かい?偽名では、ないのかい?」

「ええ。本名です」

「・・・もっと、近くで・・・顔を見せてほしい。こちらへ来てくれないか?」

「・・・・はい?」


相良さんはその反応に驚きながらも、ゆっくりと幸司さんの元へ近づいた

幸司さんは老眼鏡をかけて、相良さんの顔を見る

そして皺だらけの手をゆっくりと持ち上げ、彼の頬に触れた


「・・・写真と全く変わらない。ああ、この額の傷も・・・」

「・・・あまり見ないでもらえるか。これは」

「これは、父親からつけられた傷でしたね。帝都へ奉公に出ると言ったら父は怒りだし、貴方の額に包丁で傷を付けました」

「なぜそれを・・・!」


相良さんは幸司さんと距離をとる

その額の左側には確かに、切り傷が存在していた

まさか、先ほど幸司さんが言った話は真実なのだろうか・・・

別の意味で恐ろしい・・・


「書店開業祝にあの方と撮った一枚の写真のことを、貴方は覚えていらっしゃいますか?」


幸司さんは懐から一枚の写真を取り出す

私と雪季君も幸司さんから手招きされて、彼の部屋に入り写真を覗き込んだ

相良さんは警戒しつつも、その写真を見るために幸司さんに近づいた


大事に、大事にケースに入れられたその写真には、相良さんと背の高い男性が映っている

その後ろの看板には「冬月書店」と大きく書かれていた


「桜彦さん?しかし、なぜ貴方がこの写真を・・・!?」

「この写真は、手掛かりとして冬月桜彦さんからお預かりしました。兄さんの顔がわかる、最後の手がかりだからと」


兄さんという単語に、相良さんも反応を示した

信じられないものを見たような表情で、相良さんは幸司さんを見つめる

そして震えた声でその名前を呼んだ


「・・・お前、幸司、なのか?」

「はい。兄さん・・・!」


幸司さんは涙を浮かばせた瞳を拭いながら、相良さんのことを抱きしめる

この瞬間

相良さんが、明治時代からタイムスリップしてきたと言う事実は証明された

これが真実

嘘のような、真実だ


「どういうこと、ですか。この方が、曾お爺様の、お兄さん・・・!?」


隣の雪季君は何も知らなかったため、凄く驚いている


「色々と話を聞きたいのですが・・・今、口を挟むのは・・・その」

「・・・今はやめておこう」


百年以上先の過去で別れた二人の兄弟

何の奇跡か、この時代で再び巡り会えた兄弟の再会を私たちは静かに祝った


・・


しばらくした後

相良さんも幸司さんも落ち着いて、互いに向き合うように座る

私と雪季君は幸雪君の隣に座って二人の話を聞いていた


「改めて、お会いできて嬉しいです。死ぬ前に・・・会えてよかった」

「俺も・・・まさか百年以上経った未来で、もう一度会えるとは思わなかった」

「しかし、兄さんはなぜあの日と変わらないお姿で?」


幸司さんの疑問に相良さんは一つ一つ答えていく

あの日、夜ノ森さんという人物の店で触った懐中時計の事

目の前が眩しくて目を開けられなくなった後、気が付けばこの時代の永海川に倒れていたこと

そしてそれを私に助けてもらい、新橋神社でこの時代のことを教えてもらったと言う事

全てを説明し終え、彼は話に一区切りをつけた


「つまりだ・・・時を超えたと言えば、信じてくれるか?」

「非常に信じられませんが、事実なのでしょうね」


幸司さんの飲み込みは非常に早かった

しかし動揺も何もなく、幸司さんは話を進めていく


「兄さん、この時代で困っていることはありませんか?」

「そうだな。この時代は未知で楽しいのだが・・・やはり、元の時代に帰りたい」

「そう、ですよね」

「その方法に関して、桜彦さんは何か言っていなかったか?」

「申し訳ないですが・・・」


期待していたものとは真逆の言葉に、相良さんは肩を落とす


「ただ、桜彦さんから二つほど伝言を預かっています」

「桜彦さんから?」

「はい」

「なぜ・・・伝言なんか」

「桜彦さんは確信されていましたから。兄さんが、この時代に来ることを。その理由を今からお教えします。それが、伝言の内容ですから」

「わかった。頼む」

「はい。一つは、時間を操る術は確かに存在していること・・・私も兄さんを見るまで半信半疑でしたが」


信用できるかと言えば信用できない話だ

幸司さんは後ろの棚から小さな紙束を取り出す

それを畳の上に一枚一枚丁寧に広げていった


「一つ目のお話はもう役に立ちません」

「そうなのか?」

「はい。そんな情報でも、もしかしたら必要になる時が来るかもしれませんからお話しておきます」

「頼む」


幸司さんはゆっくり深呼吸をする

そして、伝言の内容を話し始めていった


「まず桜彦さんの家・・・つまりは「冬月家」なのですが、元々そういう時間を操る術を持つ家系なのだそうです。桜彦さんもまた「能力者」でした」


能力者・・・じゃあ、冬月桜彦さんは時間を操る術を使えたということだろうか

けれど、彼は二十世紀が終わる前に亡くなっている

そんなことができるなら、相良さんを迎えに来てもいいのでは?

同時に、連れ帰る事も可能だろう

でも彼はそれをしなかった

一体、なぜ?


「兄さんが未来に移動した現象は、冬月というより、同じように時を操る術を持った家の間では「時渡り」と呼んでいるそうです」

「冬月だけではなく、他にも時を操る家が?」


相良さんの問いに幸司さんは頷き、広げていた一枚の紙を私たちに見えるよう前へ出す


「こちらは、桜彦さんから複写で頂いたものです」

「・・・これは、その時を操る家の名か?」

「はい。「観測の四季宮」「停滞の夏野」「安寧の秋生」「創始の春岡」・・・そして「終焉の冬月」が、時を操る術を持つ家。通称「時の一族」です」

「桜彦さんは冬月だから、終焉ということか?」

「はい。現に桜彦さんは「モノの終わりを早める力」を持っていました」


終焉っていうのは、置き換えれば物の時間を進めるってことと同義なのかも・・・?

能力者の存在が公になったのはここ最近のことだ

私は一般人だし、生まれて初めて能力者関係の話題に触れた

少し、理解が追いつかない

でも、でも・・・わからないのは皆同じだ

ちゃんと話に食らいついていこう・・・!わからないところはわからないとちゃんと聞こう


「しかし、そんな特異的な能力を持つ彼らでさえも「時渡り」を行うのは相当難しいと聞いています」

「条件みたいなものがあるのだろうか?」

「はい。一つは時を操る媒体に認められなければならないということ」

「あの、媒体っていうのは・・・?」

「そうですね。例えばですが、冬月が時を操るのに使う道具は時計の針だと聞いています。それで能力を行使し、時を操るそうです」


幸司さんは時の一族に関する記述がある紙を片付け、今度は別の紙を前に出す

そこには、時計の針と手に持つ鐘のような物の写真がそれぞれ二つずつ載せられていた

同じように見えて、微妙に色が異なるようだ


「冬月と春岡が時計の針を模した媒体ですね。それぞれ「終刻ノ指針」と「創始ノ指針」と呼ばれています」


幸司さんは写真を指さしながら解説してくれる

終刻と呼ばれた針は、漆黒に輝く時計の針だ

創始と呼ばれた針は対称的に白銀に輝く時計の針だった

その二つに共通するところは、時計の針を模しているところと、周囲に蔦らしいものが浮いていることだろうか


「夏野と秋生が鐘を模した媒体です。それぞれ「停滞ノ鐘」と「安寧ノ鐘」と呼ばれています」


停滞は金色に輝く鐘、安寧は銀色に輝く鐘だった

その二つに共通するのは、鐘という部分しかないが、そういう物なのかもしれない


「媒体に選ばれた者だけが、時を操れるようになると聞いています」

「なるほど・・・」


「もう一つは冬月と春岡、秋生と夏野の能力者が「魂の番」として生まれなければならないそうです」

「・・・「魂の番」?」

「魂の番は・・・出会った時から惹かれあう存在だそうです。魂の片割れとも言われます」

「へえ・・・まるで御伽噺ですね」

「正解です、雪季。兄さんはご存じでしょうか。魂に関する神話を」

「どんな神話なんだ?」

「我々が持っている魂は、すでに神から半分に割られたものという話です」


幸司さんは引き出しから巻物を取り出し、それを床に広げる


「魂の番というのは、半分に分けた魂を持つ者同士の事です」

「番を見つけた二人は、二人で一つの存在のように、互いが互いの欠点を補い、互いを強くする存在と言われています」


なんだか・・・現実的ではないのはわかっていたが本当に御伽噺みたいだ


「これは時の一族だけではなく、すべての人に当てはまる物語です」


巻物を巻きなおしつつ幸司さんは話を続ける


「桜彦さんの場合は、当時の春岡の能力者が男ということもありましたし「魂の番」の関係ではありませんでした」


想い人もいましたしね、と補足を加える幸司さん


「ただ、今代は間違いなく「魂の番」でした」

「本当か!?」

「はい。彼らならば、時渡りも使えたでしょう・・・ただ」


ふと、幸司さんが最初に告げたことを思い出す

役に立たない情報だと・・・まさか


「冬月の能力者は五年前に亡くなっています。春岡の方は行方不明です。死んでいる可能性の方が高いので・・・彼らに頼ることはできないでしょう」

「・・・そうか」


「秋生の子息は身体が弱く、夏野のお嬢さんも幼い。番である可能性は低いということなので、こちらもまた難しいでしょう」

「・・・・」


相良さんは見てわかるほど落胆していた

明治に帰れるかと思う手段が見つかったと思えば・・・すでに断ち切られていたのだから


「私の方から修君・・・四季宮の跡取り息子へ手紙を送ってみます。兄さんに協力してもらえるように・・・。彼ならば何か力になれることがあるかもしれません」

「すまない。助かる」


「いえいえ。一つ目の話はこれくらいですね。特に役に立ちそうではない情報ばかりで申し訳ない」

「いや・・・時の一族っていう存在がいるって分かっただけでも十分だよ。ありがとうな、幸司。それに、桜彦さんがここに来れなかった理由もわかったし・・・」

「・・・兄さんは本当に桜彦さんを信じているのですね」


幸司さんが不思議そうに相良さんに問う

確かに、相良さんは桜彦さんのことを凄く信頼していると思う

聞く限りだと従業員と店主の関係・・・みたいだけど

それだけじゃ、ないのかな


「前の職場で明け方まで働かせられた後、路上でぶっ倒れてた俺に衣食住を与えてくれた恩人なんだ・・・無条件で信じるさ」

「そんなことが・・・。私も兄さんがいなくなってからは桜彦さんに支えていただいて・・・お世話になりました」

「今度お礼を言いに行かないとな。墓の場所はわかるのか?」

「はい。永海共同墓地という場所に。三ヶ月先まで私の予定が埋まっているので・・・七月以降に予定を作ります。その時に行きましょう」

「わかった。また日が近くなったら相談しよう」

「もちろんです。兄さん」


幸司さんは嬉しそうに返事を返した

そして私たちの表情を一通り眺めて、一言


「一度、休憩にしましょうか」


その言葉を聞いた瞬間、三人揃って身体から力が抜けた


「あ、頭が回りそうだ・・・」

「み、右に同じかな・・・!」

「うう、出るタイミングを失ったばかりに・・・!」


三者三様の一言を言いつつ、互いにもたれ掛かって頭を休め始める

幸司さんはその様子を見守りつつ、私たちが落ち着いて再び話が聞けるようになる時を静かに待ってくれていた

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