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針指す時の終末日  作者: 鳥路
拓実編「黄金色の銃弾と強運の怪盗」
78/83

9:街を巡る道中で

市街地に降りた後、とりあえず午前中は探索

駅前のコインロッカーの中に荷物を預けて、早速街の中へ繰り出した


「とりあえずコンビニで新聞を買ってみた。日付は間違いない。ちゃんと時間旅行は果たされている」


日付は確かに2015年9月29日

ちゃんと時間旅行をしたのは間違いないようだ


「今日は平日ですし、時間旅行の参加者のほとんどは学校か・・・または家でしょうね」

「十五年前になると、それこそ幼児だらけ。俺はギリギリ小学生。十一歳だが・・・」

「学校、ですよね。私は産まれたばかりの赤ちゃんですし・・・誰かに身近な話を聞くというのは難しいかもしれませんね」

「・・・年齢的には早瀬さんがギリギリ四歳か。「保護者」が側にいるのなら情報収集できるかもな」

「弘樹さん?」

「・・・そっちじゃない。あの食っちゃ寝神父にはあまり期待してないよ。冬月彼方の方だ」

「で、でも、お兄ちゃんと一歳差ってことは冬月さんも五歳ですよね?」

「冬月家の令嬢が、ただの子供な訳ないじゃないか」


・・・そういう超理論でいいのか?


「まあ、十五歳時点で財閥の実権を握っていたようなやり手だ。ガキの頃から頭はかなり回ってるはずだ。それに、時の一族の子供だから、時間旅行の事情も受け入れてくれるんじゃないかっていう考えもある」

「あ、そっか。時の一族。終刻の」

「ああ。この時代のこと、子供から聞くのはどうかと思うが、教会に行けば、人もいるだろう。そこそこの情報も集まる可能性もある。移動しよう」

「はい」


早速移動を開始するが、密かな疑問が出てくる

拓実さん、時の一族のことなんで知ってるんだろう

そういう家柄?でも、相談役は相良家だよね

それに彼女が亡くなったであろう十五歳時点の話もしている。面識があるのかも


「ところで、拓実さん」

「なんだ?」

「・・・永海チリンベルアイス食べたいです」


私が指し示したのは永海名物!永海チリンベルアイスクリーム!

しゃりしゃりしていて美味しいんだよなぁ。夏場になったら食べたくなるアイスだ


「お前は本当に緊張感がないな!?まあ、アイス程度なら出してやるよ」

「じゃあ、三十個・・・」

「三つでも多いなって思うのに、桁が一つ違ったぞ。どういうことだ」

「あ、あっちにはヨネダ。ホワイトノワールの特大なんて現代にはないですよ?食べなきゃ損じゃないですか?」

「待て暴食魔。さっき資金は限られている話をしただろうが。我慢しろ」

「お腹すいたー・・・」


お腹の音が盛大に響く

腹痛のようなぎゅるるるる音に、一葉さんは静かに頭を抱える


「夏樹さん」

「はい」

「お前、朝食に食パン五斤、フランスパン四つ、ポタージュ鍋一つ分、段ボール一箱分のキャベツを使用して用意された千切りキャベツサラダを丸呑みしてたよな?」

「そうですね」

「・・・お前の胃袋は宇宙にでも繋がっているのか?」

「よくお腹すいちゃって」


「それで済ませていい事象じゃないと思うが。食い過ぎじゃないのか?」

「昔から、なので。よくわかりません。多分生まれつきです。生まれつき、よく食べちゃうんです。食べるの大好きですし、運動していることもあるでしょうけど」

「・・・そうか」


理由はわからない

けれどお腹がすく。運動をしているからかもしれないけれど

それ以外にも、沢山食べてしまう

全然、わからない


「時間がない。だから今はアイスだけな。昼ご飯はがっつり食べよう」

「加減、しますね」

「そうだな。お前の暴食は最悪時間に影響を与えかねない。少しはセーブしてくれ」

「・・・はい」

「生まれつき、といっていたが・・・俺にはそれ、病気にしか思えないよ。後で吐いたりはしてないんだよな?」

「してませんよ。全部お腹の中に入ります」

「それはそれで心配だな。食後、全然お腹が膨れている様子もなかった。自分の限界以上食べ過ぎて、お腹、破裂させないようにな」

「そんなこと・・・確かに、あり得ない話ではないですよね。気をつけます」


確かに、あれほど食べたらお腹もふくれるだろうけど、全然その様子もなかった

言われるまで違和感を持つことがなかったが、私のお腹はどうなっているんだろう

この事象は、大丈夫なことなのだろうか

不安を抱えつつ、街の探索へと入っていく


・・


聖華学院初等部

その屋上で、密かに記憶の引き継ぎが行われる


「・・・無事に自分を取り戻せたんだね、彼方」

「ええ。心配かけたわね」

「しかし、今の彼方は四歳だよね?」

「ええ。四歳よ」

「なめ回してきていいかな・・・?」


早速とんでもないことを言い出したので間違いなく記憶は引き継がれている

十一歳の彼ならばこんなことは絶対に言わないが、二十六歳の一葉拓真はこんな男だ

絶対に言う。むしろ言わない方がおかしい

こんなことで記憶の引き継ぎを確認したくはなかったけど、彼に特徴的な奇行が実装されていたおかげで色々とスムーズに行くのは、皮肉な話だと思う


「まだ赤の他人でしょう?小学六年生が四歳の女の子をなめ回すなんて真似・・・」

「親戚の子供にするノリでさ・・・」

「親戚じゃないでしょう?やるなら雅文にしておきなさい」

「小学三年生のクソガキに?泥だらけのカスに?」


「この時期の雅文は素直な男の子だったはずよ?」

「クソガキでしょ。雅文はどんなに周回してもクソガキ。どんなに若返ってもね」

「むしろ貴方の方がクソガキじゃないの、拓真」

「・・・俺はいいんだよ」

「自分の奇行と悪行を棚に上げないでちょうだい。十分クソガキと言える行動を叩き出しているわ」


屋上をのんびり歩きながら、残暑の風を一身に受ける

彼がこうして、普通に立って歩いている姿を見たのは初めてだから少し新鮮だ


「・・・久々に歩いた感覚を覚えたよ」

「そう」

「でも、やっぱり浮いてる方が楽だな」

「横着者」

「いいじゃないか。で、三周目の彼方。行動を起こすのはいつがいい?」

「そうね。三時以降に一葉さんは貴方を狙って新橋神社に向かうんじゃないかしら。後は任せるわ」

「場を引っかき回すのも?」

「私の邪魔をしたいっていうなら、話は別よ?」

「そんな・・・まあ、彼方にお仕置きされるのは悪い話じゃないね。時流れが終わったら、沢山踏んでくれる?」

「一度もしたことないわよね?いつから貴方はそんな変態になったのかしら」

「君がそうしたんでしょ?あんなことやこんなこと・・・そんなことまで!はう!」


おかしいな、私が拓真を「はうー」っと言わせたイベントは車椅子が壊れて動けなくなった彼をお姫様抱っこで部屋に運んだり、締め切りに追われて死にそうになってた彼の面倒を見た時ぐらいだ

踏んだり蹴ったりなんて一切していない。どうしてそんな発想が出てくるのか全然意味がわからない


「はう・・・その侮蔑全開の眼差しが俺を狂わせる!」

「もうやだこの変態」

「ふへへ・・・もっと罵倒お願いします」

「もう次の時間に行かせて・・・」


話が通じない変態の相手をしているなんて、誰も想像していないだろう

もちろん、私以外の誰も知ることもない

・・・早く帰りたいという気持ちを強くさせながら、私はしばらく拓真の相手をすることになる


てかこの人、普通のノリで授業サボってない?

始業のチャイムが鳴る

・・・もう何も気にしない方が良さそうだ


・・


「んがっ!?」

「どうされました、拓実さん」


早瀬教会に向かう道のりの途中

拓実さんは変な反応をしてから、瞬時に物陰に隠れる

もちろん私も首根っこを掴まれる形でだ


「いや、早瀬さんらしき子供は見つけました。隣に冬月彼方らしき少女もいる。しかしなんで両親そろってるんだ・・・!」

「両親?」


物陰から見て、その先の光景を見てみる

位置的には緑内公園、だよね

将来的に、冬月彼方さんが亡くなられて、鹿野上さんがトラウマを抱いてしまう事件が起きる場所で、二人の子供が遊んでいた


「とうや、とうや。つぎはすべりだい!」

「うん、かなたちゃん」


公園ではしゃぐ二人の子供

一人は白銀の女の子、一人は漆黒の男の子

そんな二人を見守る、車椅子の女性とがっしりとした体格の男性

男性の方が時間を確認した後、二人に声をかけた


「彼方、冬夜、そろそろお昼時だし、家に帰ろうか」

「やだ、まだあそぶの。ね、とうや」

「ん。おじさま、おばさま。ぼく、もっとあそびたい」

「ご飯の後にまた遊びに来ましょう?時間は沢山あるからね」

「やった!おかあさま、ありがと!」

「ありがと」


おかあさま、と車椅子の女性は冬月さんからそう呼ばれた

じゃあ、男性の方は冬月さんのお父さんか


「・・・冬月侑香里と冬月嘉邦。まさかこんなところで会うなんて」

「さ、子供たちも保護できたし・・・そろそろ物陰で私たちの様子を見ているお二人さんは出てきて頂けないかしら」

「・・・バレていますよね」


抵抗の意思がないことを見せつつ、二人の前に姿を見せる

神秘的な長い銀髪の中から、血のような真っ赤な目をこちらに向ける

この状況を楽しんでいるような表情を浮かばせた彼女の横に控えていた子供を守るように、さらに強く抱きかかえる


「お母さん、この子たちは・・・」

「お父さん、動いちゃダメよ。この子たちは、情報が欲しいだけ。そうでしょう?」

「どこまで、わかっているんですか?」

「知っているわ。私も力が弱いとはいえ、時の一族だもの。貴方たちが未来から来たことぐらいなら簡単にわかるわ」

「そんなことまで・・・」

「時間はあるでしょう?お昼、食べさせてあげるからうちに来なさい。情報も提供するわ」

「そんな、流石に・・・」


「その代わり、貴方にはお父様の情報を提供して貰おうかしら、一葉拓実」

「・・・どうして、俺の名前を」

「顔、そっくりだもの。一葉真美さんに」

「・・・母さんに?」

「ええ。貴方のお母様の話もしてあげるわ。友達だったから」


全部、何もかも都合がいい

時の一族だからという理由で、ここまで手の内が知られているのは少し怖い

けれど、それに乗るべきだとも同時に思う

私たちが時間旅行者という前提で、情報を提供してくれる存在は大きい


「わかりました。覚えている範囲になりますが、構いませんか?」

「ええ。貴方にとっては思い出したくないことだろうけど、少しだけ協力して。それと」


冬月さんは男性と子供たちを先に行かせた後、拓実さんに小さく呟く


「ごめんなさいね。未来を、変えられなくて」

「いえ・・・仕方ないことですから。その代わり、情報はきちんと。それと・・・昼ご飯は沢山用意して頂けると」

「あら、よく食べる方なの?いいわ。沢山用意させるから。育ち盛りの女の子もいるし、いっぱい食べて頂戴ね」

「ありがとうございます。ほら、夏樹。先に言っておいてくれ」

「・・・ご馳走になります」

「・・・なんだろう。凄く嫌な予感がする」


女性は車椅子を自力で動かし、家族が待つ道をたどっていく


「ああ。そうそう。自己紹介がまだだったわね。私は冬月侑香里ふゆつきゆかり。一緒にいたでかいのは嘉邦かほう君。私の旦那さん。女の子が彼方。私の娘。一緒にいた男の子は冬夜。彼方のお友達」

「私は・・・」

「四季月の守護者。新橋の・・・年齢的に、この前産まれた女の子かしら。確か夏樹さん、だったわよね」

「あ、はい。そうです!」

「とっても可愛いお嬢さんね。秋奈、見たら驚きそう」


笑顔で語る冬月さんに「そうですね」とは言えなかった

この三ヶ月後、お母さんもお父さんも私の前からいなくなるのだから

むしろ私は・・・両親にどんな顔をして会えばいいのか、そんなことばかり考えていた

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