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針指す時の終末日  作者: 鳥路
拓実編「黄金色の銃弾と強運の怪盗」
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6:相談役のひとりごと

部屋の隅でふと、黒い影が動く

監視を任せていた個体が帰ってきたらしい


船の中にネズミが住み着いていることは、前の周で把握していた

三池さんが退治して回っていたのだから、今はまだ、いるはずだと思い能力で使役し、様々な場所に情報網として張り巡らせた

もちろん、夏樹さんの側にも。情報を期待して他の人にもネズミさんを派遣していますが、今のところ大きな動きがあったのは夏樹さんと一葉さんのお二人だけのようです


後は、あまり大きな動きはありませんでした

・・・正二さんが筋金入りのブラコンなんて情報は多分使いません。多分

しかし、彼の部屋に連れて行かれた幸雪さんが何かに気がついていたことが引っかかりますね

レコードに反応していた気がする。明日、確認してみないとな


まあ、今は幸雪さんより夏樹さんのこと。彼女たちが何を話していたか、知らなければいけません


「お疲れ様です、夏樹さん、部屋に戻られましたか?」

「ちゅ」


ネズミさんから夏樹さんと一葉さんの話し合いの情報を受け取る

一葉さんの時間を選んだ。そして夏樹さんはあのメモのことを最初に一葉さんに相談、か

確かに年長者で教師・・・頼りがいはありますが

少し、彼の行動には引っかかりを覚えるんだよな


夏樹さんとの相談だってそうだ。重要な情報は伏せて、当たり障りのない情報だけを提示する

それから、夏樹さんから情報を基本的に吸い上げている

僕の能力がばれたのは痛手か・・・いや、隷属はまだばれていない。手の内は完全にばれていないのだ。だから、まだどうにかやれる


「しかし、問題は糸ですよね。候補は六人」


正直、糸に関しては答えを出したくない

だって、糸は夏樹さんの「魂の片割れ」

その存在が見つかれば、僕の時間は否定される

僕を好きだと言ってくれた夏樹さんの感情が、一時の気迷いになってしまう


「でも、答えを出さないとその先へは行けない」


僕にできることはただ一つ

夏樹さんを「先」に向かわせる情報を集めること

記憶を引き継いで、彼女の、そして周囲の為にできることをしていくだけだ


「正直、一番怪しいのは筧さん。夏樹さんが抱いた彼への反応が周囲と違うのが気になる」


他が酷いのも理由にあがるだろうけど、筧さんへの反応がわからないというのが気になる

彼女は未知に対して「わからない」という

答えを出せないような、不思議な感情を抱いたのは間違いないはずだ

それに前の周に彼がいなかったことも気になる


「しかし、食事の内容は前の周と同じだった」


フルコース、遅れてきた夜ノ森さんは和食御膳

一緒だった。何もかも


「でも、作ったのは筧さんだと、正二さんが言っていましたね」


・・・彼はいなかったんじゃなくて、途中でいなくなったんじゃないのか?

記憶にないのは、忘れられたから

忘れるように、補正がかかったから

糸というものがどういう能力なのかは僕にはわからない

だからこそ、彼の消失と糸の関係性はまだはっきりしない

能力を使われたから消えた可能性もある

同時に、能力を使ったから消えた可能性もある

まだ、可能性の域を出ない話ばかりで正直頭が痛い


「諦めるな、僕。僕は相談役だ。その役目を全うするんだ」


頬を叩いて再び情報整理の時間に戻る

もしも彼女が疑問に思ったことを僕に聞いてきた時にすんなり答えられるように

周回のことを聞いてきた時は、たった一度の経験でも役に立てるように

ここではきっと、僕にできることは少ないだろう

だからこそ、できることで最大限に活躍できるように・・・

もう二度と、死なないように手を尽くすだけだ


「それに、まだ引っかかることがある」


殺される前、岸間さんが言っていた三周目の存在

それに、繰り返す条件だ


『俺は正直初めてだからあえて聞いとくわ。本当にトリガーになるんだよな』

『ええ。新橋夏樹と早瀬冬夜が死んだ後、自動的に時が巻き戻りますよ。何度もやった私がその事実を証言しましょう』


冬夜さんと夏樹さんを殺すことで時間が時間旅行開始日の朝に巻き戻るのは間違いないだろう

冬夜さんの死は確認してはいないけれど、夏樹さんの死は目の前で見たわけですし

しかしどうして二人がトリガー扱いなのだろうか


「彼方さんが介入しているのは間違いない。しかし、それは僕が知っている彼方さんではなく「三周目の彼方さん」とかいう謎の存在」

『あー・・・お前が殺し得意そうなのは見てわかるわ。そういう問題じゃなくて、お前はいわゆる最初から2000周目の時間旅行とやらでもこいつらと一緒に旅をしたんだろう?情とか』


ふと、ここで気になってくるのは時間旅行の回数

どうやらこれが初めてではないらしい

それに、時間は僕が思っている以上に周回・・・繰り返しているのではないだろうか

少しずつ、形を変えてだと思うけど


一周目、二周目、三周目と言うのは単位ではないと思う

四桁の数を毎回言うのが面倒くさくって、2000周目以降の時間旅行を二周目として統合しているのではないだろうか

2000周目以降の時間旅行が二周目

そして、3000周目以降の時間旅行が、三周目


「岸間さんは、星月さんを二周目の悠翔と表現しましたよね」


そうなれば、今は2000周目以降、3000周目以内の時間旅行

正確な数はわからないけれど、少なくとも2000回は時間旅行を繰り返していると考えていいのではないだろうか


「その表現を当てはめるのならば、僕も「二周目の相良雪季」になりますよね」


では、三周目の彼方さんというのは、三周目の岸間さんというのは・・・僕から見たら未来の存在ではないだろうか

なぜ、以前の周回に未来の周回の先にいる彼らがいるのかは現時点ではわからない


「しかし、十年後の岸間さんはきちんと十年後の岸間さんだったと思う。これだけの情報量を抱えて、十年後の自分を演じるなんて真似は難しいはず」


まだ仮定の話だけど、十年後の岸間さんにも僕のように何らかの方法で記憶の引き継ぎが行われた可能性がある

夏樹さんが眠っていた一ヶ月の間のどこかで、引き継ぐタイミングがあったはずだ

僕も自分がなぜ記憶を引き継げているのか全くわからない

何か条件があるのだろうか


「その条件さえ満たせれば、さらに記憶を引き継げている方が増える」


それは協力者が増えて、さらに動きやすくなることはいいことだ

条件さえわかればなぁ・・・

それも探していかないと行けませんね

やることが多い。しかし、こなさなければいけない

この時間軸では夏樹さんとゆっくり話し合いなんて真似はできなさそうです

裏工作の方が大変ですからね・・・うう・・・


「ふわぁ・・・」


あくびを一回。ふと、時計を確認してみた

考え事をしていたら、時刻はもう十一時。僕にしてはずいぶん長く起きていた


「そろそろ寝ましょうか・・・」


手帳を静かに閉じて、眠る準備を整える

明日は十五年前。何が起こるかわかりませんが・・・幸雪さんを連れ回して情報収集にでもしゃれ込みましょうかね


「しかし、夏樹さんのご両親、永海バスハイジャック事件の被害者だったとは・・・」


いないとは思っていたけれど、お亡くなりになられていたなんて

じゃあ、今は冬樹さんと兄妹二人で暮らしているのだろうか

遠縁の親戚とか、いるとは思うけど・・・


「夏樹さん、寂しい思いとかたくさんしたんだろうなぁ・・・」


両親がそろっている僕には到底理解できない話

想像するのも怖いような出来事に、彼女や一葉さんは遭遇している

今まで、嫌なこととかなかっただろうか

・・・悲しいことに対面したりしなかっただろうか


「なんて、今の僕が考えたところで何も変わりはしませんけど」


それに、これは僕が知らないはずの事実だ

夏樹さんにご両親のことを聞くなんて真似はできない。もちろん、一葉さんにも


「しかし、一葉さんは市長秘書だった一葉拓也の息子さんか。世間は狭いですね」


そういえば、永海市長の名前は岸間平文・・・岸間さんと同じ苗字だ

・・・偶然ですよね?


「まあいいや。考え事はまた明日。そろそろ寝ましょう」


目を閉じて、まどろみの中へ

目が覚めたら、時間旅行が本格的に始まる

何事もないことを祈りながら、僕らは今日を終えていった

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