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針指す時の終末日  作者: 鳥路
拓実編「黄金色の銃弾と強運の怪盗」
74/83

5:失われた兄と糸の片割れ

「理想の時間旅行に参加するのは十六人。終末を避けるためには、それだけの人間が必要なのでしょう」

「沢山ある部屋も、その人数をこの船で運ぶため・・・」

「・・・終末のその先へ、向かうため。終末というものがどういうものなのかまだわからない。ですが、少なくとも三月十五日。ここで終末が来る」


メモの通りであればの話だけど、四季宮さんが関わっているのなら間違いはないと思う

彼の観測はかなりの精度みたいだし・・・


「糸と終末の関係性が見えませんが、ここはまだ置いておきましょう。部屋割りを見つつ、誰が「糸」なのか考えながら、私の話を進めさせてください」

「お願いします」


そういって彼は私に紙を手渡してくれる

同じく手書きのメモは確かに三階フロアの間取りが書かれ、各部屋の枠内には名前が書かれていた

「一号室・一ノ瀬朔也」「二号室・新橋夏樹」「三号室・四季宮修」「四号室・星月悠翔」

「五号室・朝比奈巴衛」「六号室・筧正太郎」「七号室・一葉拓実」「八号室・相良幸雪」

「九号室・夜ノ森小影」「十号室・一葉拓真」「十一号室・鹿野上蛍」「十二号室・早瀬冬夜」

「十三号室・冬月彼方」「十四号室・筧正二」「十五号室・相良雪季」「十六号室・岸間雅文」


「一応、証拠と言っては何ですが、新橋さんのメモに書かせて頂いた文字と比較してください」


メモの中にある一葉さんの文字と見取り図を比較する

この文字は私でも、一葉さんのものでもない・・・ついでに言えば、私が持っているメモの文字でもない

また、誰が書いたかわからないメモが増えたようだ


「まあ、このメモを誰が書いたかというのは置いておいて、この十六人の存在の話をしましょう」

「そう、ですね。でも、私、最初の人物からさっぱりなのですが・・・」

「・・・一ノ瀬朔也。鬼神と言われる戦いぶりで陸軍の間では有名な存在だったと、まあ、その手の話題に詳しい方に聞きました。昭和時代の出身になるんでしょうね」

「そんな人が・・・」

「逆に言えば、星月さんに素で対抗できる存在でもあるとは思います」


あの戦闘力を超える人間がいるなんて想像できないし、味方の保証なんてない

けれど、いないよりは・・・なのかな


「新橋さんは、見覚えのある名前はありますか?」

「私が一番驚いているのは、鹿野上蛍さんです。彼は時間旅行に参加したがっていたけど、招待状は来ていませんでしたよ?なんで参加者の中に・・・」

「招待状が来ていなかった・・・という事実は引っかかりますね。破棄した可能性は?」

「ないです。彼は冬夜君と一緒に暮らしているので・・・冬夜君が鹿野上さん宛ての手紙を捨てるなんてあり得ません」


「・・・これで十六人全員。鹿野上さんも必要な存在なはずです」

「今じゃない、とか?」

「・・・今以外に招待状を送るタイミングがあると?」

「よくわからないんですけど、その時間軸という話を聞いた上で考えたんです。鹿野上さんも、ある時間軸で特定の条件を満たし、記憶の引き継ぎを行ったら、招待状を貰えるとか・・・」


「あり得ない話ではなさそうですね。他には?」

「他の方の名前には・・・全然」

「そうですか」

「一葉さんは、見覚えのあるお名前は?」

「そうですね。私は残りの名前にも心当たりがあります。しかし、知らない人の話を一気にするのは大変でしょう。ここは糸の話に絞って進めていきましょうか」


そう言いながら、まず指で示した名前は冬月さんだ

冬月といえば、あの家の人だよね・・・まさか


「後はこの方だけなんですよ。冬月彼方さん。この中にいるもう一人の女性です」

「冬月、ということは」

「はい。時の一族のことはご存じですか?その能力を持っている彼女の片割れは春岡である。つまり、糸の片割れに位置するのは新橋さんしかあり得ません」


改めて、運命の相手がこの中にいると聞かされているようなものだ

なんで私なんだろう。なんでぇ・・・


「糸の能力者と終末の関係性はわかりませんが、とにかく新橋さんには糸を見つけて頂くというのが先の目標ですかね。探す必要があるのなら、探すべきでしょう」

「ひゃい・・・」

「私も一応能力者ですが、糸ではありません。詳しい話はできませんが、少なくとも私は論外で進めてください」

「あ、はい。わかりました」


「他に能力者だとわかっているのは?」

「四季宮さんですかね。観測の能力者ですし・・・あ、雪季君も能力であれば動物と会話できる能力なので糸ではないですね」

「じゃあ、残りは十一人ですね。それに、メモのことを考えると、新橋さんがいるなら片割れも勿論いるはずなんです。だから・・・それで三人は可能性から除外できますね」


そう言いながら見取り図の名前の横に印をつけていく

候補は残り七人か・・・


「こういう展開があり得るかわからないのですが、なんとなくこの人いいなって思う人いませんでした?」


直感でびびっと!とかいうやつ・・・?少女漫画とかでよくある展開なのかな

私、そういうのは苦手だからなぁ・・・


「んー・・・少なくとも冬夜君は「もどして」または「かえして」ですね。昔はあんな生物じゃなかったんですよ。笑顔が眩しい癒やし系です」

「冬月さんに死なないでくださいって懇願したらいけるかもですよ」

「え」

「知らないんです?冬月さんって早瀬さんのご主人様ですよ。黄昏執事の早瀬冬夜。要危険人物として有名ですよ、あの人」

「冬月さんってもしかしなくても超ロングの白銀美少女・・・!?」

「はい。知ってるじゃないですか」


写真のあの子の名前がわかったのはいいことだけど、そうか、冬夜君は今や危険人物扱いなのか・・・

小学校教師の界隈で・・・?どの界隈で要危険人物扱いされてるのかな

まあいいや。とりあえず他の人の印象を・・・


「幸雪君は浅い川に溺れていた、正二さんは鼻血・・・朝比奈さんはいい人だけど技術が怖い。星月さんは関わりたくない。夜ノ森さんは心の底から疑わしい」

「貴方がどんな印象を皆さんに持っているかわかりました。酷いですね、印象」


「筧さんは・・・よくわかりません」

「よくわからない?」

「よくわからないので、ちょっとここはノーコメントで」

「・・・わかりました」

「それより、見取り図を見ていて思ったのですが、この人。一葉さんと同じ苗字ですよね」


何気なく、十号室の一葉拓真さんを指し示しながら聞いてみた

まあ、一葉はさほど珍しい苗字でもないし、きっと同姓かなってぐらいのノリだった

彼の反応を見るまでは


「・・・おそらく兄です」

「お名前も、一緒なんですか?」

「はい。一葉拓真。兄と同じ名前なんです。同姓同名の別人である可能性は現時点では否定できませんが・・・私は、兄ではないかと思っています」


一葉さんはお兄さんの名前を静かになぞる

その表情は寂しそうだったが・・・同時に少し、申し訳なさそうな感じで印象深く私の中に刻まれた


「この先、兄が生き残って参加する時間があるかもですね。他の方も同様。今は参加していないけれど、周回を繰り返した先で、追加されるとかあり得る話かと」

「そうですね。あの、一葉さん」

「何でしょうか」

「お兄さんに、会いたくないのですか?」

「どうして、そんなことを」

「・・・嬉しそうじゃなかったから」


一葉さんは私の問いを聞いて、一瞬だけ目を丸くする

当然と言えば当然か。出会って数日の小娘にこんな疑問を投げかけられるなんて予想外だっただろうし


「あ、いえ。すみません。聞かなかったことに」

「いや・・・そうですね。新橋さんの言うとおりです」

「そう、なんですか?」

「はい。私は、兄のおかげで今を生きることができています。言い換えれば、兄は私のせいで死にました」


顔を手で覆い、その手で額を露出させてくれる

長い前髪に隠されていた深い傷は、そう簡単にできるものではないだろう


「兄は私が十一の時に亡くなりました。今から行く、十五年前の時間で、十二歳になれないまま、死にました」

「事故、だったのですか?」

「・・・いえ。私が殺したようなものです。私が、あの日入れ替わろうなんて言わなければ」

「入れ替わった先で何かがあったということでしょうか」

「そういう感じですね」


「それが起きたのが十五年前、か」

「はい。私は、けじめとして最期の兄の恨み言を聞きに行こうと思います。それと、父が亡くなった事件のこと」

「・・・十五年前の事件って、永海バスハイジャック事件の」


十五年前の大きな事件といえばあれしかない

沢山の人の犠牲を生んだ、ハイジャック事件

私の両親も巻き込まれている、事件

・・・一緒に行かせて貰えないだろうか


「はい。父はその事故の犠牲者です。あの日、何があったのか私は知り」

「あの!それ私も連れて行って頂けませんか!?」

「構いませんが、どうして、そんな・・・」

「両親が、どんな人だったか知りたいんです。私の両親も、その事件に巻き込まれて亡くなったと、お爺ちゃんから聞いていまして・・・」


「・・・なるほど。そういう事情が。わかりました。では、この三ヶ月、私と一緒に十五年前を見て回りましょう」

「いいんですか?」

「ええ。相良君たちも一緒で構いませんよ」

「・・・いえ。これは幸雪君にも雪季君にも話していません。一葉さんだけに話しました」

「どうして私に?」

「同じ、だから。それに、事件で両親を亡くしてるなんて、あまり」

「言いたくはないですよね。気持ちはわかります。私もそうでしたから」


見るからに落ち込んでいたのだろうか

一葉さんは先ほどまでの思考を巡らせる声ではなく、優しく語りかけるように声を出す

まるで、安心させるかのように


「今日はお開きにしましょう。色々と考えて疲れたでしょう?」

「そうですね。お付き合い頂いてありがとうございます。明日もよろしくお願いします」

「こちらこそ。では、明日、朝食を食べてから二人で行動開始と行きましょうか」

「はい」


そう言って、今日の相談事はお開きになる

明日の予定を決めた後、私は七号室を出る

明日は十五年前の時間

少しでも休んで、しっかり動けるようにしようと考えながら私は二号室へと戻っていった

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