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針指す時の終末日  作者: 鳥路
拓実編「黄金色の銃弾と強運の怪盗」
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3:正太郎と巴衛

厨房には頭を抱えている筧さんと、それを宥めている朝比奈さんが隠れるように座っていた


「正太郎・・・気持ちはわかるから。落ち着け?水飲むか?」

「正二があそこまで気持ち悪いブラコンに育ってたなんて・・・育て方をどこで間違えたんだ・・・」

「詳しいことを知らない俺ですら、正二が歪んで育ったのは間違いなくお前らの両親が夜逃げしたことが原因だと思ってるぞ?」

「そうだよなぁ・・・」


先ほどの会話をどうやら聞いていたらしい

当然の反応だよね。これ・・・

むしろ喜んでたら怖いよ


「あの、筧さん」

「あ、新橋さん。一葉さんも。食事はお口に合いましたか?」

「はい。とても美味しかったです。ありがとうございました」

「私も、同じような感想になって申し訳ないのですが・・・とても美味しかったです。これ、お一人で?」

「はい。料理はすべて俺が一人で作っています」

「お一人で、大変じゃないですか?」

「正太郎さ、結構こだわり派なんだ。だから、下手に手を出すと怒鳴られる」

「無自覚なのが尚更たち悪いと、よく言われています。あ、食器・・・すみません。本来なら正二が回収するはずだったのですが、わざわざ持ってきて頂いて・・・」

「いえ。お気になさらず・・・ええっと、食器も洗う気で来たのですが」

「やっておきますのでご安心ください」

「でも大変じゃないですか。それぐらい」

「やっておくので、ご安心を」

「・・・で、ではお願いします」

「はい。任されました!」


厨房に立ち入られることすら本当は嫌なのだろう

若干圧のこもった声を発する筧さんは私たちから食器を受け取りご満悦の表情を浮かべる

それから仕事に取りかかり、会話なんて難しい状態を作り上げられた

筧さんは冬夜君と話が合いそうだな、とか考えながら、彼らに会釈して食堂を出ようとするが、それは朝比奈さんに呼び止められたことで阻止された


「おい、新橋。一葉」

「朝比奈さん。どうされました?」

「いやいや。驚いただろうなって思ってさ。正二も正太郎も、我が強くって」

「いえいえ。同じく厨房に立ち入るなと言ってくる知り合いがいますので、こだわりは」

「そういう人が一定数いるとは理解しているのでご安心を。ブラコンの方は、ちょっと・・・」


同意せざる終えない意見に、静かに首を縦に振る

そんな私たちの反応を見て、朝比奈さんは笑うけれど・・・当事者からしたら笑い事ではない

特に、幸雪君


「一部始終を厨房から見てたんだけど、途中から一葉も新橋も関わらないように目逸らしてたな。相良は下手に喋るから誘拐されるんだよ」

「あー・・・」

「しかし、正二さんは官僚、ここでは元でしょうけど、そうだったんですよね?」

「ああ。俺もそう聞いてるよ」

「しかし、官僚にしては妙に身のこなしがいいような気がするんですよね。護身術にしては殺意強めですし・・・何なんです、あれ」

「あ、一葉わかるか?戦争帰りとかそういうのじゃないのに、結構動けるんだよ。あいつ」


確かにあの身のこなし。目で捉えることができなかった

星月さんみたいに戦えそうな印象は一切抱かないのだが・・・結構できる人でびっくりした


「戦争帰り?」

「あ、その表現まずい?俺、昭和時代の出身だからさ。しかも大戦中」

「・・・ほう」

「へえ・・・そんな大変な時代から。こう言っては何ですが、私、朝比奈さんは正二さんと筧さん、星月さんたちと同じ時間から、明治とか大正とかの人かと思っていました」

「厳密には、俺たち四人の中に明治時代からこの旅行に参加してる奴はいないんだ。出身ならいるんだけど」


正太郎や正二みたいに、と彼は付け加えた

ということは、彼らが時間旅行に参加した年代はまちまちなのだろうか

幸雪君と夜ノ森さんが「明治時代出身」・「現代から参加」みたいな感じで


「明治相良の話ぶりから、正太郎と正二が明治時代の生まれだってことはわかるだろう?でも、時間旅行に参加した時間は正太郎が大正時代、正二が昭和初期って差が出てるんだ」


「へぇ・・・じゃあ、筧さんがお兄さんでも、正二さんが年上、だったりとか?」

「本当はそうだった。でも悠翔が「兄が弟の年齢より下とか困惑するから」とか変な理由をつけて、俺にコールドスリープの機械作らせたんだ」

「さらりと言っていい技術じゃないでしょそれ」

「そんな超技術、ボールペンを出すノリで出さないでください・・・」


一葉さんのいうとおり。さらりと言われても困惑する技術だ。一人で作れるの、それ・・・

正直、飛行船といいここの技術は外より数百年ぐらい先に進んでいると思う

きっとそれを成しているのは朝比奈さんで・・・

多分、彼一人がその技術向上に貢献しているのだろう

一体何者なんだ、この人・・・


「まあ、なんていうか。正太郎も怪我の影響で七年間昏睡してたんだ」

「怪我?」

「ああうん。あいつ拾ったの、東京大震災の時でさ。見つけたときには重傷で意識もなかったんだ。おかげで処理はやりやすかったけど。まあ、それがきっかけって言うのも失礼だけどさ、正二の年齢問題を消化しておけば正太郎が目覚めたとき、困惑せずに都合がいいかもって話になったんだ。勿論本人にも了承を取ってから正二を眠らせたんだよ。正太郎との年の差が正常になる六年間な」


その間に、さっき冬夜君を運んでいたかまぼこさんで筧さんを治療していたのだろう

もちろんそれだけではないようだが・・・


「それからは義肢を用意したりで大変だったんだぜ・・・借金まで作って、悠翔に絞られるし大変だった・・・」


だからさらりと言うことかな、それ

借金あるんだこの船・・・返済に付き合わされたりとか、しないよね?


「まあ、返済は悠翔のアイドルパワーで終えてるから安心してくれ、新橋」

「え!?」

「顔に出てたぞー。返済に付き合わされないか心配だって・・・」


顔に出した記憶はないのに、そんなことを言い当てられたので少し驚いてしまう


「ところで、朝比奈さん。筧さんは義肢なのですか?そうは見えませんでした。生身同然に見えましたが・・・」

「一葉の言いたいことはわかるぜ?そう見えるように作ったからな。朝比奈印の超技術ってことで頭の片隅にでも置いておいてくれ」

「朝比奈さんは、義肢を作っている方なんですか?」

「いいや、趣味」

「「趣味」」

「本業は飛行船作りとかの方。欠損した知り合いも正太郎以外いないんだけど、妙に、その・・・義肢作りってワードに惹かれてさ。なんなら機械いじりより義肢を作ってる時間が一番好きだな」


嬉しそうに語る姿は間違いなく本心だろう

何者なのかはわからないけれど、少しだけ朝比奈さんのことを知れた気がする


「不思議な話ですね」

「俺もそう思うな。どうしてなのかは気になるし、知れるものなら知りたいよ」

「じゃあ、朝比奈さんは「なぜ」のルーツを探すために時間旅行に参加をされているのですか?」

「俺個人としてはそうだな。それに加えて捜し物が一つ。それに、俺は時間旅行に参加しないと死んじゃうからさ、生き残るために参加してるって理由の方が強いかも」

「・・・そうですか」


ふと、一葉さんの表情が曇る

何かを確信したような、そんな表情だが・・・私はお構いなしに朝比奈さんに色々と聞いていく


「じゃあ、じゃあ、もし朝比奈さんが時間旅行の時間を選択するならどの時代に行かれますか?」

「それこそ、東京大震災があった時間だな。あの年が俺の生まれ年なんだ」

「朝比奈さんは大正生まれなんですね」

「そうそう。すぐに昭和だけどなー。そこなら、俺の本当の両親と、母さんの形見・・・懐中時計も見つかるかなって。持ち帰りは許されないから、手がかりだけでもと思ってさ」

「もしもその時代にいける日が来たら、手がかり、見つかるといいですね」

「ああ。ありがとう。あ、結構時間取らせたな・・・」


ふと、時計を見ると、話を始めてから一時間近く経過していた

そろそろお開きにした方が良さそうだな。一葉さんも立ちっぱなしはきついだろうし


「お気になさらず。私こそ、色々と根掘り葉掘り聞いてしまって、こういうのも何ですが、失礼ではなかったですか?」

「気にしないでくれ。俺は久々に沢山話せて楽しかったよ。ここ、だらだら話ができそうな奴いないだろ?」

「そうですか?じゃあ、またお話にお付き合い頂ければ。今度は雑談でも」

「ああ。現代のこと教えてくれよ。最近の若い子の話題にはついて行けなくてな」

「朝比奈さんもお若いじゃないですか」

「アラサーだぞ、高校生。それに俺、大正生まれだし。百歳超えてるし」

「大正時代計算は反則でしょ」

「そうか?じゃあ、また頼むわ。それじゃあ俺、仕事に戻るから。またな、新橋。一葉」


先に食堂を出る朝比奈さんを見送った後、隣の一葉さんに声をかける


「すみません、お話付き合わせて」

「いえ。色々と参考になることがあったので、有意義な時間でしたよ。こちらこそ、巻き込んでくれてありがとうございました」


「足、疲れてないですか?」

「大丈夫です。仕事柄、慣れていますので。ところで新橋さん」

「はい」

「この後、お時間ありますか?少しご相談したいことがありまして」

「ええ。私でよければ。私も少し一葉さんに相談したいことがあるんです」


手帳の中のメモのこと、一葉さんに相談しようと思っていたので、ちょうどいい

しかし彼の相談というのは何だろうか

それに、なんで私なんだろう・・・

まあ、いいか。私なりに頑張ればいいだけの話だよね


「それはちょうどいいですね。今から私の部屋に行きましょうか。あまり、聞かれたくないものですから」

「わかりました」


食堂を出て、三階フロアまで無言のまま歩いて行く

それから私は、彼の案内で割り振られた二号室ではなく、一葉さんに割り振られた七号室へと足を踏み入れた

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