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針指す時の終末日  作者: 鳥路
雪季編「死にたがりと50%の可能性」
55/83

29:神父と二人の夏樹

時は少し戻って、俺が岸間から夏樹たちがいるポイントに向かえと言われた頃


「・・・岸間、偉く苛立っていたな」


あいつの仕事と性格上、表にそれを出すことはないと思っていたのだが・・・

割と、人間臭い部分もあるじゃないかと思いつつ指示された場所へと向かう

そこにいたのは二人の夏樹

永海高校の制服を着た十年前の夏樹と、この時代らしい荒んだ服装の現代の夏樹


「はぁ・・・・久々だからきついな、これ」


押されているのは現代の夏樹のようだ

十年前の夏樹は、別れる前と異なる空気を纏い現代の夏樹を見ていた

無感情の目で、無言で見つめるその光景は異様だとすぐに察した

俺が知る限り、夏樹がこんなことになることは一度もなかった

修の観測の情報にも、一切ない相違点

一体、何が起きている?


「・・・私の癖に、弱い」

「十年も違えば差は大きいと思うんだけどね!」


互いの穂が、同時に相手へと向かう

鈍い金属音が周囲に鳴り響き、その回数は徐々に増えていった

次第に、目で追うのさえ疲れてくるぐらいの速さを纏う

現代の夏樹はその速さについていくことができず、徐々に息を吐く回数が増えるが十年前の夏樹はまだ余裕があるようで息一つ切らさず攻撃を続けていた


「・・・貰った」


現代の夏樹が息を吐いたその瞬間、彼女に少しだけ油断が生まれた

もちろんそれを十年前の夏樹が見逃すわけがなく・・・

穂先が現代の夏樹の首元に向けられた

しかしそれは同時に、現代の夏樹に与えられた逆転のチャンスでもあった


「・・・・」

「・・・・」


現代の夏樹と目があう

軽い戦闘訓練でアイコンタクトでのやり取りを教えたのは、時間旅行終了後

十年前の夏樹が知ることがない情報だ

これなら、十年前の夏樹に勘づかれることなくやり取りができる

・・・しかし、距離が遠いのが難点だ

眼鏡はかけていても、少し見えづらい

しかも眼鏡の状態であの夏樹を止めろって・・・?

まさか、節約生活がここで仇になるとは

今すぐコンタクトに変えたいぐらいだが、そんな余裕はない

とりあえず、今は現代の夏樹と軽く打ち合わせをしよう

十年前の夏樹を止めるためには、手段を選んでられない


「・・・(とうやくん)」

「・・(ああ)」

「・・・(どうしよう、これ)」


意外にも落ち着いているというか、普段の調子で久々な感じも感じさせず彼女と会話する

まだ余裕がある当たり、完全にダメになったわけではなさそうだ

まだ、どうにかなる

変えられる。この状況を


「・・・(ゆだんさせろ)・・・(あとはおれが)」


仕方ない

様子を窺いながら、現代の夏樹が作り出した油断の瞬間に襲撃をかけよう


『早瀬、聞こえるか?』

「ああ」


通信機の電源を再度入れたらしい岸間から連絡が入る


『相良から連絡を貰った。今、十年後の方がやられそうだな』

「ああ」

『少し離れたところにアンテナが見えるな』

「ああ」

『そこを仮にポイントCとする。そこに誘導しろ。そこで十年前の新橋を撃つ』

「撃つって、お前・・・」

『あの狂犬、止めるにしても骨折れるだろ?それに神父様がやったんじゃ、周囲から睨まれるぞ』


世間体というものは時に足を引っ張る

確かに、俺が一般市民を・・・しかも無力ではないが女子供を手にかけたと噂されてしまえば、今後の生活がどうなるかなんて明白だ

十年前の夏樹の犠牲か、これから発生する犠牲か

選ぶとしたら、ただ一つ

そして、念のためもう一つだけ確認したいことがある

だから・・・ある意味好都合だ


「わかった。必ず一発で仕留めろ」

『了解。頼むぜ、神父様』


岸間の通信はそこで途切れる

俺は、足音を殺しながら作戦を開始した


「・・・・・」

「ねえ、私」

「・・・何?」

「一応聞いてみるけどさ、私を殺すことに抵抗はないの?」

「・・・どうかな。言われたのは「捕獲」だし、抵抗しなければ殺さないよ」

「捕獲・・・?誰に言われたの?」

「・・・さあ、誰だったかな」

「すっとぼけるのも上手くなったね。私の癖に」

「・・・私の癖に、おちょくるのが上手くなったね」

「私だから、ね!」


それが現代の夏樹が送った、俺への合図

ぎりぎりまで近づいて、その合図が出るまで息も気配も殺して忍び寄る

俺が今いるのは、十年前の夏樹の真後ろだ

彼女から槍を手放させるために、まずは腕を!


「二人がかりで済まないな!」


十年前の夏樹は俺の存在にすぐに気が付き、現代の夏樹に向けていた槍を咄嗟に俺へと向けて腕に向かって降ろされた俺の拳を避ける

その隙を、現代の夏樹も見逃さない


「ごめんね、私!」

「これぐらいは予想内!」


現代の夏樹が振り下ろした槍を、手で受け止める

手から血が噴き出すが、十年前の夏樹はお構いなしだ

全く、どうやって生きていたらこんな風に育つんだ・・・

しかしこれで、彼女の居場所は岸間が指定したポイントへ動く

申し訳ないが・・・ここで、やるしかない


「じゃあ、これは予想内か?」

「え」

「少し、痛むぞ」


少しどころではないが、必ず延命はさせてやる

だから今は・・・大人しく、眠ってくれ


『伏せとけよ、早瀬!』


岸間の声が耳元に伝わる

その声と共に、夏樹の横腹を狙った一閃が放たれる

硝煙の香りと、銃撃音

そして、鉄の匂い


「なっ・・・!?」


岸間はしっかり、十年前の夏樹の横腹を狙撃した

鮮血が周囲に飛び散り、十年前の夏樹は苦しそうにわき腹を抑えて蹲る


「・・・すまないな」


他に方法がなかったのかわからない

けれど現時点で手っ取り早いのはこの方法だっただけだ

少し汚いがないよりはマシだと思い、巻いていたマフラーを外して彼女の腹に巻いて仮に止血する


『弾は貫通したか?』

「ああ。いい腕だな。敵に回したくない」


十年前の夏樹を抱きかかえて、どうするか考える

妥当な場所は教会だが・・・彼女の処置をできるほどのまともな設備はない


『なあ、早瀬。夏樹さんは・・・』


丁度いいところで相良から連絡が入る

・・・教会で処置をするよりは、飛行船に向かった方が衛生面も問題ないし、何よりも


「・・・朝比奈巴衛がいる」


修の話だと、眠り続けていた三ヶ月の間に俺の面倒を見てくれていたのは彼らしい

そして医療系に関してはカマボコ状のなんか凄い機械があるとか・・・


「相良、飛行船はどこに停泊している」

『え、飛行船?永海山の山頂だが・・・』


唐突な質問に、相良は困惑しつつも答えてくれる

俺の脚なら・・・時間はそこまでかけずに登れるだろう

ついでに道案内で相良も抱えていくか


「そこに向かうぞ。相良、俺がいる場所がわかるな?」

『ああ』

「この建物の真下に来い。そして道案内でついて来い。お前も俺が抱える」

『な、夏樹さんは!?』

「こいつはなんだかんだで丈夫だから米でいいだろう」

『そういう問題じゃないだろう!?怪我人だろう!』

「うるさいな。じゃあ、お前が俺の方で米持ち」

『・・・まだその方がマシだ』


相良の不服そうな声を拾った後、今度は岸間に向けて


「岸間、お前も来い」

『はい?』

「夏樹も、逃げるなよ。お前が岸間と雪季を連れてこい」

「・・・わかった」


現代の夏樹も納得してなさそうな表情をしていたが、話は後だ

十年前の夏樹の顔色は徐々に悪くなっていく

意識はどうやら、すでに飛んでいるようだ

幸いというべきか、むしろ危機的状況なのか・・・

まあ、起きて苦しむよりはマシか

しかし、早く処置をしなければ取り返しのつかないことになるだろう

一刻も早く行動へ移さなければ


「さあ、行こう。相良」

「あ、ああ!」


建物の上から飛び降りて、そこの真下に待機していた相良と合流する

そして相良は予定通り俺の方にしがみついた


「離さないようにな」

「ああ。その代わり。全力で頼む」

「わかっている!」


久々に全力を出す気がする

足に力を込めて地面を蹴り、駆けていく

目的地は永海山山頂

そこにある時空飛行船まで全速力で

必ず間に合わせて見せる

誰もいない街中を全速力で駆け抜け、俺は目的地へと向かっていった

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