27:少年と狙撃手
相良・新橋・神父様の三人がいる地点が一望できる場所にある廃ビル
そこの上層階に、俺は「相棒」を使って三人の様子を確認していた
相良が相良雪季に通信機を渡してくれたのを確認した後、今度は視点を神父様に切り替える
今、あの場でいる人間で動かせるのは神父様しかいない
彼は待機を頼んだ場所で、周囲の音を聞いているようだった
『あ、あの・・・貴方は?』
相良雪季がやっと話し始める
「聞こえているな?」
『え、ええ・・・』
「一つ確認したい。お前は、十年前から来た相良雪季でいいんだな?」
『もちろんです。しかし、十年前だなんて・・・』
「今、俺は十年前の新橋と相良と手を組んでいる。時間旅行に関する話も聞いている。にわかには信じられん話だが、信じなければ話は進まない」
『は、はあ・・・』
「それに、俺は現代において・・・冬月の相談役の家系の生まれである相良雪季は八年前に病死していることを知っている」
『・・・・』
「まあ、今はそんなことはどうでもいい。その話は後で十年前の新橋と相良としろ。二人揃ってお前を追いかけて、裏組織の人間とつるむ羽目になった、十年前のお友達とな」
『・・・わかりました。で、貴方は一体何者なんですか?』
不満げな声を隠しきれていないまま、俺の名を問う
記録によれば・・・十年前だったら、中学生か
まだまだお子様だなと思いつつ、彼の質問に答えることにした
「俺は岸間雅文。この永海を牛耳る組織「ヴェアリアル」の工作員だ。以後よろしく頼む」
『そんな方とよろしくしたくないです』
「そうかそうか」
すぐさま視点を相良と相良雪季・・・ああもう面倒くさいな
視点を幸雪と雪季の方に切り替える
「射界は問題ないな。十分当てられる」
おっと、当てたらだめなんだよな
今回は我儘なお子様に手っ取り早く言う事を聞かせられるように
威嚇射撃、するだけだもんな
風向きも問題ない
風量もほぼなし
自分でも多少大人げないなと思いつつ、照準を合わせて
――――――ゆっくりと、引き金を引いた
弾は俺の思った通りに軌道を描き、遠く離れた雪季の足元に着弾する
通信機からも、着弾した音が響く
『な・・・』
照準器でも確認はしていたが、ちゃんと生きているみたいだ
まあ、生きた心地はしていないだろうけど
『貴方が、これを・・・?』
「ああ。まあ、とにかくだ」
『なぜいきなり狙撃してくるんですか!?』
「お前がすべこべうっせえからだよクソガキ。次は当てるからな」
話している間に、あえて次弾を装填しいつでも撃てることを示していく
自分でも沸点が低いことを自覚しつつ、再び照準器で彼らの様子を覗いた
なぜこんなにもイライラするんだろうか
胸の中を引っ掻き回されているかのような不愉快さは拭えない
こんなの、自分らしくない
『・・・岸間さん』
「幸雪か」
『・・・雪季、凄く動揺していたので変わった』
「・・・雪季に俺たちの事を話しておいてくれるか」
『ええ。構いませんが・・・』
「少し、気分を落ち着かせる。通信、切るから」
『・・・なるべく、急いでください。雪季の話だと二人の夏樹さんが交戦中らしいので』
「わかった。神父様。聞いてたな」
『ああ』
「現在待機しているポイントから、東方向に70メートル先だ。そこに新橋達がいる」
『了解。すぐに向かう』
そうして、全員との通信が切れる
それを確認してから、耳に着けていたそれを投げ捨てた
俺は、狙撃手
いつだって冷静に、動じることなく処理してきたじゃないか
なんで、今日は気分がこんなにも昂るのだろうか
「本当に、訳がわからない」
こう、自分の感情をコントロールできない自分も
なによりも「こいつ」のことが理解できない
『本当に・・・貴方らしくないわね、雅文』
ああ、ここ十年ずっと夢に出てきていた変な女が
遂に現実まで蝕み始めたか




