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針指す時の終末日  作者: 鳥路
雪季編「死にたがりと50%の可能性」
52/83

26:気が付いた違和感

十年後の夏樹さんは僕を抱きかかえた状態で、暗い路地を駆け抜けていました


「・・・こんなの、記憶にないんだけどな」

「記憶にない、とは?」

「十年前、私が時間旅行をした時は十年後の私を追いかけるようなことはしてないんだよね!」


背後からの一閃を避け、別の路地へ曲がる

魔狼の風祷の加護がある限り、夏樹さんの速度は恐ろしく早い状態です


「なんで私あんなに早いのかな・・・雪季君を抱えているとは言え、脚には自信があるんだけど」

「あ、あの・・・参考までに聞かせていただきたいのですが、夏樹さんの五十メートルは何秒台でしたか?」

「え?高校の時の、7秒2が最高だけど・・・」


同じ高校時代でも、一秒ほど差がある・・・?

しかしあの時の夏樹さんが嘘を言っているような雰囲気ではなかったし、何よりも今、この瞬間を追いかけてきている夏樹さんの速さを見れば嘘ではないことは明白だ

だからと言って、目の前にいる十年後の夏樹さんが嘘をついている訳でもなさそうだ


「これは一体、どういうことなのでしょう・・・」

「雪季君、何か気が付いたんだね」

「はい。気が付いたよりも、疑問が大きいですが・・・」

「後で聞くね。今は・・・」


背後からの攻撃を、十年後の夏樹さんは踊るように避けていく


「・・・お爺ちゃんから言われたでしょう?攻撃前に、意識を殺せって。それがそのまま、軌道に現れるから」

「・・・・・・」


彼女の声が聞こえる

けれど、何を言っているのかはわからない

十年後の夏樹さんは一度息を吐いてから、僕を慎重に降ろす

久々に立った気がする感覚を覚えつつ十年後の夏樹さんを見上げた


「雪季君、この先に行けば普通の道に出る」

「え」

「・・・そこに幸雪君がいるんじゃないかな。多分」


背負っていた槍を袋から取り出し、夏樹さんはそれを十年前の夏樹さんに向けました


「どうして、そんなことが・・・」

「歩く癖、かな」

「隠れ家にいて聞こえるものなんですか?」

「意外とね。それと一緒に周囲に何か取り付けている物音も聞こえたから、罠でも仕掛けたんじゃないかな」

「どうして・・・」

「そりゃあ、追われている身だからね。物音には敏感になっちゃったんだよ」

「追われている身・・・?」


そんなことは初めて聞いた

その言葉で、十年後の夏樹さんも言っていなかったことに気が付いたようで、バツが悪そうに顔を俯かせた


「・・・幸雪さんの足音だとわかったのは?」


夏樹さんは何かを懐かしむような声で、答えを教えてくれる


「少しの間だけ一緒に暮らしてたから。足取りの癖ぐらいわかるよ。懐かしいなあって、思ったから」


色々と疑問に思うことはすべて解消されたと思う

納得するしかない


「・・・わかりました。この先、ですね」

「うん。行って。私は十年前の私を足止めするから」

「気を付けてくださいね」

「もちろんだよ」


彼女を背にして、僕は彼女が示してくれた道を小走りで駆けます

まっすぐ、まっすぐ

無理をしないように駆けてしばらくすると、金属音が響き渡り始めた

それが何を意味するのか分からないほど、何も知らない子供ではない

僕は足を速めて、彼女が示した先へと向かいました


そして、道を出た先

そこは十年後の夏樹さんと出会った場所と同じような場所でした

誰かいないかと思って歩いていると、声がします

聞き覚えのある、男性の声です

今朝聞いたばかりのその声は、誰かと話しているようでした

僕はその声の先に早足で進みます


「・・・どうした、岸間さん」

『おい、相良。その近くに新橋はいるか?』

「夏樹さん?どうしてた?」

『新橋、通信機を壊したみたいでな・・・状況が把握できない』

「・・・少し様子を見てこようか」

『ん・・・おい、相良。その目の前にいる子供は?』

「へ?」


通信機の声に指摘され、彼は自分の後ろを振り向きました


「幸雪さん」

「なっ、雪季!?」

『相良雪季がいるのか!?』

「あ、ああ・・・確かに、十年前の雪季が目の間にいる」

『・・・会話させてくれるか?』

「ああ」


幸雪さんは僕の存在に驚きながらも、僕の方に歩いてきます


「・・・積もる話はまた後で。話してほしい相手がいる」

「え・・・あ、はい」


てっきり怒られるかと思いきや、そんなことはなく・・・

僕は幸雪さんから差し出された通信機を耳に着けて、その通信機の先にいる彼の声に耳を傾けました

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