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針指す時の終末日  作者: 鳥路
雪季編「死にたがりと50%の可能性」
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23:確保の打ち合わせ

幸雪君と共に居間へ向かうと、そこには机の上に大きな地図を広げて討論している岸間さんと冬夜君がいた

互いに鉛筆を持って考え込んでいる


「・・・邪魔しない方がいいね」

「様子を窺うか」


私たちは居間の端で二人の会話が終わるのを待つことにした


「・・・教会から少し離れたこの位置で十年後の夏樹が見つかった。ということは、この一帯にいる可能性があるんじゃないのか?」

「もう少し狭めていいと思うぜ、神父様。十年前の新橋は追われている立場だ。仮に相良雪季を抱えている状態で逃げるなら、その様子は凄く目立つ」

「じゃあ、これぐらいか?」


冬夜君が地図に円を書き込む

しかし、岸間さんの反応は芳しくない


「もっとだ。新橋の体力がいかほどか知らないが、全盛期は過ぎているはず。高校生の新橋と同じ尺図で語るなよ」

「わかっている。じゃあ、これぐらいでいいか」


冬夜君がもう一度円を書き込む

今度は岸間さんが思っている通りだったのだろう

彼は嬉しそうに笑いながら、冬夜君が描いた円を濃くするために線を鉛筆でなぞった


「ああ。俺もそれぐらいだと思っている」

「この路地を中心に探すべきか」

「ああ。場所は大まかに確定した。後は行動するだけだ。十年前の新橋が起きた時点で動くべきだと思うぜ」

「そうだな。日が暮れた今、逃げるにはもってこいだ」

「相良雪季の回復を待つか、回復しきっていない状態で逃げるかわからないが・・・動かれる前に当たるべきだろうな。な、新橋」


岸間さんが私の方を見る

気づかれていたのか・・・


「起きていたなら声を掛けろよ、二人とも」

「なんだか邪魔をしちゃいけないような気がして」

「気にすんなよ。まあいいや。今すぐ動けるか?」

「問題ないです」

「それなら、早速俺たちが出会った場所に戻るぞ。十年後の新橋に会うためにな」

「わかりました」


そう言って岸間さんは居間の端に置いてある「それ」を取りに行き、私たちに手渡す


「これは・・・?」


イヤホンみたいなものと、線に繋がれた小さな機械を手渡される


「小型通信機だ。十年後の新橋捜索は連携が必要だろうからな。俺がこれでお前らに指示を送る」


付け方を指示してもらい、私と幸雪君、そして冬夜君は小型通信機を耳につける


「常に通信入ってるからな」

「凄いですね」

「A―LIFEに比べたら、ちんけなもんだよ。通信しかできないからな。でもまあ、これが今の俺たちに一番必要なものだ」


岸間さんも小型通信機を着用し、身長ほどのケースを背負う


「そういえばそれ、何が?」

「俺の仕事道具だ。こいつを使って上から指示を出す」


だから俺は、新橋を追いかけることはできないと岸間さんは付け加える

そうなると十年後の私を捕まえるのは、私たち三人でやらなければならない


「標的は仮に相良雪季と共に行動をしているとして、置いていくことはないだろうから抱えてでも逃げると思う。話し合いは絶対に無理だ。隙をつかれて怪我するぞ」

「話を聞くにしても、雪季の件についても十年後の夏樹さんを捕まえるしか道はないんだな」

「そういうこと。体力は未知数だが、少なくとも抱えて逃げる分、体力の消耗は大きいはずだ」

「とりあえず、追う側も役目を決めた方がいいんじゃないのか」


幸雪君の提案に岸間さんは無言で頷く


「そうだな。実際の確保役は神父様が望ましい。相良と新橋じゃ振り払われる可能性があるからな」

「わかった」

「相良は・・・なんとなく体力なさそうだから、俺の指示通りにトラップを張れ。道具は貸そう」

「任せてくれ」

「最後に新橋。お前がこの作戦の肝だ。お前が、十年後の自分を追え。相良のトラップにハマるよう指示する」

「わかりました」

「後、神父様に誓うわ。俺はこの作戦で追い詰めた新橋を、ヴェアリアル関連の事で問い詰めることはない。ただ、アンサクスを狙う理由だけは確認させてもらうけどな」

「わかった。約束が違えたら・・・その時はいいんだよな」

「ああ。煮るなり焼くなり射殺するなり好きにしたらいい」


不穏なことを言いつつ、岸間さんは進みだす

それに私たち三人も続いた

隠れ家という名の綺麗な感じのアパートを出て、真夜中の道を歩きだす

十一月の夜ということもあって凄く寒い

街灯もほとんどないから、街中に点滅する薄い灯りを頼りに歩くしかないのだが、岸間さんはすべてわかっているようでどんどん前に進んでいく


「・・・まさか、神父様を顎で使う日が来るとは思わなかった」

「まさかヴェアリアルと手を組む日が来るとはな」

「ヴぇあ・・・なんだ?」

「ヴェアリアル。俺が所属する裏の組織の名前だ。かっこ悪いだろ」

「意味は何なんだ」

「知らね」


岸間さんの回答に幸雪君は暗い中でもわかるぐらい苦い表情をしていた


「ボスの考えることなんて全然わかんねえもん。指示も「暗黒に染まりし時・・・」とか変な暗号使ってくるし・・・」

「・・・曲者だと思っていたのだが、もしかしてお前らのボスはアホなのか?」

「アホだろな。ああいうのを中二病患者って言うんだぜ。もう五十代で妻子もいるのに勘弁してくれよって感じだ」


今度は冬夜君が頭を抱えて苦い顔をする


「・・・まさかとは思うが、俺を警戒しているのは?」

「早瀬があの家の関係者ってことは知らないみたいだぜ。だから、めちゃくちゃ強いとか言うのも知らないんじゃないのかね」

「・・・むしろそっちで警戒されているのかと思っていたんだが」

「・・・俺は漆黒に魅入られし堕天使。神父とは敵対関係にあってだな・・・とか言ってたし、多分設定的な感じで警戒してると思う」

「・・・重病患者だな」

「だろー?なんで俺もこんなのに拾われたか理解できないし、永海の崩壊を指示したのもボスらしいから本当にここまで成功した理由が全くもってわからない!」


暗い道を岸間さんは笑いながら歩いていく


「・・・永海はそんな変な組織に牛耳られたのかよ」

「・・・弱いねえ」

「・・・中二病患者の本気を見た気がした」


岸間さんの楽しそうな声と対称的に、この荒廃するまで至った根本的な原因の真実を知ってしまった私たち三人の足取りは凄く重い

それでも前に進まないといけないと自分に言い聞かせながら、岸間さんと私が出会った場所へと向かっていった

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