19:仮定の話と裏の動向
「まず、関係性を整理しておこうか」
腰のポーチから今度はボールペンを取り出す
そして、持っていたメモ紙の上に十年前と現代の欄を書き、私たちの名前を書き込んだ
「まずは神父様だ」
「俺か」
岸間さんが最初に指示をしたのは神父・・・冬夜君だ
「現在の神父様は、裏組織に恐れられる存在。安全地帯の管理をしているって感じだよな」
「ああ。後は特筆することはないだろう」
「じゃあ、十年前はどうしていた?」
「十年前は、大学生だな」
「十年前の新橋と相良・・・は二人いるから幸雪と雪季でいいか。その三人と面識は?」
「ある」
「じゃあ、最後に・・・十年前の神父様は時間旅行に参加したのか?」
「ああ・・・参加した。ただ、初日に眠らされ、起きた時には九十日が過ぎていて時間旅行は終了していたが」
「・・・神父様を眠らせる奴って何者だよ・・・まあいいや」
答えてもらった問いを岸間さんは簡潔にメモの中に書き込んでいく
「次に幸雪だな」
「あ、ああ」
「神父様と聞く内容は同じだ。しかし、現在の幸雪は既に他界している。これは神父様が証明してくれるよな?」
「ああ。二年前に、組織への反逆罪で殺された。守ってやれなくて済まないな・・・」
「気にするな。俺が何をしたかわからないけどさ・・・その気持ちだけでありがたいよ」
「次に、十年前の新橋と神父様、雪季は面識があるんだよな?」
「ああ。ちなみに、雪季は俺の弟の曾孫に当たる」
「・・・寝言は寝て言え」
「寝言じゃない」
「最後に、十年前の相良は時間旅行に参加したんだよな。じゃあ次に行くか」
「まさかのスルー!?」
岸間さんは幸雪君と雪季君の関係にツッコミを入れることなく次に進む
二人への問いが終わったということは、次は私の番だ
なんだか緊張するな・・・
「だって俺の予想とは関係ないしな・・・じゃあ、新橋。お前にも聞くぞ」
「どんとこいです!」
「十年後の新橋は、不死薬アンサクスを狙って組織に追われる立場だ。うちの幹部を一人殺している。これは俺だけの証言だし・・・信じられないとも思うが・・・」
「・・・衝撃的だけど信じるしか、ないんですよね」
「ああ。それで進めてくれ。次に、まあ神父様と二人の相良と面識があるかってところだな」
「はい。三人とも確かに」
「最後に、十年前の時間旅行に参加している・・・だな」
岸間さんは私の問いもメモの中に書き込む
しかしその手は最後まで書き終えても止まらない
「じゃあ次に相良雪季の事だ。新橋、幸雪、神父様の順で答えてくれ」
次は雪季君のことのようだ
「全員、相良雪季に対する印象を述べてくれ」
「・・・いい子だよ。私としては、敬語を使われないぐらいに仲良くなりたいけどね」
「そうだな。年下だがしっかりした印象を持っている。しかし、逃げ癖は凄いみたいだが」
私たちが知る雪季君のことを話すと、岸間さんは凄く複雑そうな顔をしている
「・・・まだ、なのか」
「まだ?」
「・・・神父様」
「なんだ?」
岸間さんは冬夜君に声をかける
「時間旅行のルールってあります?」
「ある」
「未来を変えたらどうなる?」
「・・・この夏樹と幸雪は知るだけだ。未来を知る、だけだ。それぐらいなら変えたことにはならないだろう」
「じゃあ、あの事を話しますか」
「お前が何を知っているかまず俺に話せ」
「了解」
二人は私たちと距離をとり、内緒話を始める
岸間さん、時間旅行の事を色々と勘付いているのが恐ろしいなと思う
ルールとか、気にする人いるんだ・・・
存在しますって言われないと、存在しないと思うよ・・・普通
二人が話し込んでいる間、私と幸雪君は放置されたまま
「少し、長くなるのかな」
「まあ、気楽にしておくか」
二人を待っている間、特にやることもない
「そういえば幸雪君」
「なんだろうか」
「私が無断で外に出てから、教会では何があっていたのかな」
「ああ・・・とりあえず、夏樹さんは門番がカラスに襲われたのは知っているな?」
「うん。血だらけだったけど大丈夫だった?」
「ああ。教会には医者がいたから、彼らが処置をしてくれていた」
彼を処置していたのはお医者さんなのか
とにかく、彼は無事なのだろう
安堵の息を吐く
「それから、俺たちは夏樹さんが門の外に出たと聞いたんだ」
「伝言の人からだね」
「ああ。その時の早瀬の形相は相当なものだったが・・・まあ、再会した時の顔だったと思ってくれたらいい」
「な、なるほど・・・」
「伝言を伝えてくれた奴から夏樹さんが「カラスを追っているような感じだった」・・・と聞いたから、俺たちは教会から見える範囲でカラスが集まっている場所を探したんだ」
「で、あの道に辿り着いたってわけだね」
「ああ。俺たちはそんな感じだな」
幸雪君と冬夜君が合流するまでの間、特に何もなかったようだ
「それと、夏樹さんへ鹿野上から一つ伝言をして来るように頼まれている」
「何かな・・・とりあえず、お願い」
「わかった。伝言の内容は・・・」




