15:否定された未来
プレハブの中に入れてもらうと、そこには作業台が置かれていた
「水も出せないけど、とりあえず、床に座りなよ」
掃除はしてあるからさ、安心してと付け加えて鹿野上さんは作業台に置いてある資料をまとめてくれる
その間、冬夜君は床に座ってどうしたらいいか考えていた
私たち三人は顔を見合わせて、冬夜君と鹿野上さんと逆の位置に並んで座る
「まさか、冬夜兄さん宛に来た手紙の通りになるとはね」
「ああ。でも、あの場所にお前たち三人が来たということは・・・あの手紙を出した人物は夏樹で間違いないだろう」
「・・・ちんちくりんも、二十六歳なんだっけ?今何してるんだろうね」
「知らない。ただ、真っ当な生き方はしてないだろうな」
鹿野上さんの準備が整ったことを確認した冬夜君は、私たちを見る
「あ、あの・・・・!」
二人が話し始める前に口を開いたのは雪季君
「冬夜さんと鹿野上さんの元に僕たちがあの場所に来る旨の手紙が届いたんですよね?」
「そうだけど・・・」
「なんで、夏樹さんが差出人だって言い切れるんですか?」
「・・・お前たちがあの場所から、あの時間に下りてくると知るのは、お前たち三人のしかいないだろう?」
「幸雪さんは亡くなっているから仕方ないとしても、僕はどうなるんですか?」
「・・・ねえ、冬夜兄さん」
「言うしかないだろう・・・未来を変えてでも・・・」
雪季君が真剣に問う中、二人は苦虫を嚙み潰したような表情で彼の言葉を聞く
その表情で、私だけではなく幸雪君も
・・・二人が知る事実を察してしまった
「・・・僕は、生きているんですよね?」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・答えて、ください。どんなに、残酷な事実でも・・・構いませんから」
沈黙は、彼の望む答えではないということも、雪季君も理解してしまった
それでも、言葉にしない限りその現実は彼に突きつけられることはない
「雪季」
「・・・なんでしょうか」
「・・・これから言うことは、酷く残酷な事実だ」
「・・・はい」
「受け入れてくれとは言わない。ただ、それがこの時間軸で起きた現実だ」
冬夜君はゆっくりと息を吐く
「・・・相良雪季。お前はこの時間では八年前に亡くなっている」
正直に告げられた真実は、心の中に重く圧し掛かる
特に、雪季君には・・・
「死因は、言わなくてもわかっているよな?」
「・・・・」
無言のまま、彼は首を縦に振る
「・・・すみません。少し、外の空気を吸ってきても?」
「・・・ああ」
雪季君は重い足取りでプレハブを出ていく
それが心配で、私と幸雪君は彼を追いかけようとするが・・・なぜか扉があかない
さっきまで普通に開いていたのに・・・
「あ、開かない?」
「・・・まさか、雪季!?」
焦る私と幸雪君
「・・・窓もやられてる。この一瞬であいつは何をしたんだよ・・・!」
外から覗かれないようにスモークガラスになっている窓を開けようとしながら鹿野上さんは確かな疑問を出す
「・・・夏樹、幸雪。扉は俺が開ける」
冬夜君は扉の前に立ち、それを勢いよく蹴破ってくれた
扉は紙のように離れた場所に落ちている
「・・・すげえ」
「・・・やばい」
「二人は雪季を追え。最悪、敷地外に出ている可能性もあるから、もしすでに敷地に出ていたらこちらに引き返せ。蛍、お前はここで連絡係として残れ」
「わかった」
「私は先に門の方に向かうよ。幸雪君と冬夜君は敷地内をお願いしてもいい?」
「もちろんだ。急ぐぞ!」
「了解だ!」
私たち三人はプレハブを飛び出し、それぞれ別方向に駆けだす
思い描いた不安は形となる
嫌な予感も予感だけでは済ましてはくれない
荒廃した十年後を舞台とした時間旅行は・・・
今、幕を開ける




