6:深夜の十二号室
まだ起きていた朝比奈さんに、僕は十二号室の鍵を開けてもらうように頼んだ
よっちゃん・・・冬夜から預かっていたものを返しておきたいとか、適当に理由を付けて僕は十二号室へ足を踏み入れる
「よっちゃん」
眠り続ける彼に声をかける
「・・・カウントが、2202回になっていたんだ」
前回確認した時よりも、200回ほど増えたカウント
それが意味していたのは・・・
「・・・相当、無茶しちゃったんだろうね」
彼の額にかかる前髪を横にやる
同時に、左の額に刻まれた小さな刃物傷を撫でた
幼少期に、彼女を守ってできた傷は深く・・・未だに消えない
彼に根付いた、後悔と復讐心のように
「・・・「観測」の結果、君は時間旅行の間、目覚めることはないみたい」
「どうして、そんな無茶をしたの・・・答えてよ、よっちゃん」
問いかけても返事は帰ってこない
起こそうと思えば起こせるけど、彼に相当の負担を与えてしまうのは避けたい
彼の頬が少しだけ緩んだ
・・・これは「どんなこと」があっても無理やり起こさない方がいいとすぐに悟った
「・・・まずは星月悠翔をどうにかしないと」
彼の思惑はわかる。けど、核心的な部分はわからない
「彼が僕らを試そうとしているのはわかったけれど、何を試しているのかがわからない」
答えがわかる未来があるのはわかる
けど、僕にはその答えがわからない
「・・・「観測」って、使い勝手が非常に悪いと思わない?」
冬夜の髪を結わえる白いリボンを解く
僕みたいに周囲に言われて伸ばした髪ではなく、自分の意志で伸ばした髪がシーツの上で自由になった
「一番年上なのにさあ、二人の為に何にもしてあげられないね」
彼の首元に着けられた黒いリボンも解く
二つで一つのそのリボンは、この場にはいない彼女からの贈り物
「・・・ねえ、よっちゃん」
久々に見た笑顔の寝顔は、夢の中で「彼女」と会えている証拠だ
よっちゃんは彼女の前でしか笑うことはなかった
後にも先にも、よっちゃんの表情を自由に動かせるのは彼女だけなのだ
「彼女は、よっちゃんの照れ顔が好きだって言ってたんだけど・・・」
額にかかっている邪魔な前髪を横に払う
そこの左側に刻まれた傷だけは隠すように前髪を作った
「君の照れ顔なんて、僕には一生をかけても見れそうにないね」
明日は遂に未来に辿り着く
「・・・十年後も、僕と君は生きているのかな」
そんなことは、明日になればわかることだ
そうだ、せっかくだし未来の僕に会いに行ってみよう
それがこの時間に目的が存在しない僕の時間旅行だ




