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針指す時の終末日  作者: 鳥路
雪季編「死にたがりと50%の可能性」
30/83

4:家計簿殺しの暴食魔

しばらく待っていると、デザートが運ばれてくる


「ふああああああ!」

「冷たくて美味しい・・・!」


デザートはアイスクリームだった

正二さんの話だと、この船の食事を用意しているのは筧さんだそうだ

このアイスも筧さんの手作りらしい

そして隣の夜ノ森さんのデザートは「わらび餅」

これもまたお手製らしい

あの人は一体何者なんだ・・・


「もにゅもにゅもにゅ」

「美味しそうですね」

「そっちもな・・・そうだ、一口分交換しないか?」

「結構です」

「なぬっ!?」

「冗談です。ごめんなさい。はい、どうぞ。わらび餅の上に載せても?」

「ああ、頼む」


私はスプーンで一口分より少し多めのアイスを掬い、わらび餅の上に載せる


「どうも。アイスの上に載せてもいいか?」

「お願いします」


夜ノ森さんとの交換が成立して、私のアイスの上にきな粉たっぷりのわらび餅が置かれる


「ありがとうございます。美味しそうですね」

「そうだな。ん、このアイスとやら、甘くて冷たくて美味しいな!」

「わらび餅ももにゅもにゅしてますね!美味しいです!」


互いのデザートの感想を言い合う

はしゃぐ私たちを、既にデザートを食べ終わっていた雪季君は退屈そうに見ていた


「・・・いいな」

「どうしたの、雪季君?わらび餅食べたかった?」

「い、いえ・・・そうではなく・・・!」

「無理すんなって。ほら、特別に二つやろう」

「・・・ありがとう、ございます」


雪季君のアイスが入っていたお皿にわらび餅が二つ入れられる

雪季君はそれを無言で口を入れた


「・・・分け合いっこ、羨ましいなと思っただけなのに。なんで夜ノ森さんと分け合いっこしないといけないんですか。もにゅ」


ふと彼に視線を向けると、胸を押さえていた

体調、悪いのかな


「どうしたの、雪季君。大丈夫?」

「い、いえ・・・何でもないんです。あの、夏樹さん。お水を貰ってきてくれませんか?」

「あ、薬?わかった。貰ってくるね」

「・・・お願いします」


私は席を立って、厨房前に立っている正二さんに水を貰えるか確認する

正二さんは直ぐに厨房奥からグラスと水を取ってきてくれた

私はそれを受け取って、元の席に戻る


「どうぞ、雪季君」

「ありがとうございます、夏樹さん」


グラスに水を入れてからそれを雪季君に手渡す

それを受け取った後、雪季君は手のひらにこんもり乗せた錠剤を呑み込む

・・・一回につきこれだけの量を飲まないといけないのか


「・・・ふう」

「大変だね・・・」

「いつものことですから」


雪季君はそういいながら席を立つ

私も食べ終わったし、部屋に戻ろうと食器を下げようとするが正二さんに止められた


「食器類はそのままでいいですよ」

「でも・・・」

「お気になさらず。今日はゆっくり休んでください」

「で、では・・・お言葉に甘えて」

「はい!」


普段、食器を下げているからテーブルの上に置いていくのは凄く罪悪感がある


「・・・夏樹さん、雪季君」

「あ」

「ああ・・・」


部屋に戻ろうとすると、幸雪君がまだ一人でご飯を食べている

彼もまた和食御膳のようで、大量にあるご飯に苦戦していた


「幸雪・・・お前」


夜ノ森さんが声をかける


「・・・昔から食細いもんな、お前」

「わかってるなら手伝ってくれ・・・」

「やなこった。頑張れよー」


半泣きの幸雪君に手を振りながら夜ノ森さんは食堂を出ていく

そして幸雪君の視線は雪季君へ向けられた

雪季君はかなり渋い顔をしている


「・・・頑張ってくださいね!」


雪季君は逃げようとするが、走れないためすぐに幸雪君に腕を掴まれる


「ひぃ!?」

「・・・逃がすかよ?」

「な、夏樹さん」


雪季君はすっかり諦めきった表情で、助けを求めるように私を見る

流石に見捨てるわけにも行かないよね


「・・・しょうがないなあ」


私は大人しく幸雪君の前の椅子に座る

それに倣って、雪季君は私の隣に座った


「・・・どれが食べれない?」

「ご飯以外はもう無理だな・・・」

「じゃあ、後のは貰おうかな。正二さん、お箸ってどこにありますか?」

「え」


隣で雪季君の驚く声がする

正二さんは私の声を聞いて、お箸を片手に駆け寄ってくれる


「どうぞ」

「ありがとうございます。それでは、いただきます!」

「ちょっ・・・夏樹さん。その量入るんですか!?」

「大丈夫だよ?」


幸雪君が食べきれないと言った分をどんどん箸で掴んで口の中に入れていく

やはり、和食御膳が美味しい

テーブルマナーとか気にしなくていい分、味を感じるね!


「・・・」

「美味しいか、夏樹さん」

「美味しいよ、幸雪君!」

「・・・その身体のどこに入っているんですか」

「俺も最初は驚いたよ」


ご飯を一口食べ終えた幸雪君が箸を置いて雪季君を見る


「元々、よく食べるなと思っていたんだ。だが一昨日、槍術をしていると言っていたし、身体をよく動かす分よく食べるのかと結論付けたんだ」

「確かに、運動をされているのなら・・・よく食べられるのでしょうか?」

「昨日、冬樹さんにそれとなく聞いてみたんだ。夏樹さんはよく食べるほうなのか?と。すると、冬樹さんが家計簿をやけくそ気味に投げた」

「・・・冬樹さんが、やけくそ」

「それを覗くと、二つの点がわかった」

「一つは、冬樹さんがかなりの節約上手だということ。問題はもう一つ」

「・・・新橋家の出費は食費が大半だった」

「冬樹さんは成人男性ですし、夏樹さんも育ち盛りですし・・・運動もされているのなら猶更よく食べるほうなのでは?」

「後出しで悪いんだが、冬樹さんは俺と同様にかなりの小食なんだよ」

「・・・はい?」


「問題は・・・家計を圧迫するほどの食欲を持つ夏樹さんだ」

「ぱくぱくぱくぱくぱくぱく・・・はむはむはむはむはむはむ・・・」


雪季君は信じられないものを見るかのように私を見る

私が幸雪君の残りをすべて食べ終わったのは、椅子に座ってから丁度一時間後の事


「・・・夏樹さんの暴食魔」


雪季君は眠たそうな目をこちらに向けて抗議してくる


「ごめんね、お待たせして・・・」

「・・・その身体のどこに貯える場所が存在しているんですか?」

「胃袋に全部収まってるよ。後で食後の運動するから・・・これぐらいすぐに消費されるよ」

「ちなみに、どんな運動を?」

「槍素振り一万回」

「・・・・」


雪季君は無言のまま動かなくなる

幸雪君を見ると、彼も頭を痛そうに抱えていた


「お、お爺ちゃんからの言いつけで、毎日やってたからさ・・・サボると罪悪感が」

「新橋さん。食器、下げてもいいですか?」

「あ、正二さん。ありがとうございます。こちらも美味しかったです」

「いえいえ。それは兄さんに直接伝えてあげてください。喜びますよ」


ここの食事を用意しているのは筧さん・・・と言っていた

後で会えたら感想を伝えようかな


「・・・それと、お夜食ってありますかね?」

「まだ食べるんですか!?」

「ありますよ。兄さんに伝えておきますね。軽く食べられるものがいいですかね?」

「いえ、ガッツリで」

「了解です」


そう言って正二さんは食器を持って厨房へ入っていく


「な、夏樹さん!?食べ過ぎたらお腹が大きくなっちゃいますよ!?」

「だって、お腹空いてたら眠れないし・・・」


雪季君の動揺が目に見えてわかる

そんなに食べるのは意外、だったのかな?


「・・・」

「大丈夫、雪季君?」

「・・・理解が追い付きません」

「そ、そんなに食べてるかな?」

「食べています。めちゃくちゃです!ものすごくです!とってもです!」

「は、はははははは・・・・」

「でも、いっぱい食べることはいいことだと思いますよ」


食器を下げ終えた正二さんがお茶を三人分持って来てくれる


「どうぞ」

「ありがとう、正二」

「いえ。お気になさらず。ゆっくりしていってくださいね」


そういって正二さんは再び厨房の方に戻っていった


「筧さんはああ言ってくださいましたが、本来限度というものがあると思います!」


いつになく雪季君が熱弁している

前のめりになって、どんどん距離が近くなっていく


「一日三食が基本でしょうに!食後の運動でもその量は食後にするようなものではないと思います!」

「ゆ、雪季・・・落ち着けって」

「その食事量を一般的な家庭で毎日続けていたら家計簿真っ赤ですよ!?貴方に毎日満足するほどの食事を与えるとなると富豪であることが絶対条件じゃないですか!?」

「雪季―・・・なんか話が脱線しているぞー・・・」

「わ、私は・・・」


興奮気味の雪季君の肩に手をのせて一定の距離をとる


「そうだね。雪季君の言う通り、限度があるよね」


しかし夜食がないと特訓したところでお腹がすく

しかも今日は自分の弱さを痛感したばかりだ

特訓は疎かにしたくない

・・・今の彼を納得させるには「嘘」が必要だろう


「明日から気を付けるよ」

「身体を壊しては元も子もありませんからね・・・食べすぎは気を付けてください」

「うん。あ、そろそろ部屋に戻ろうか」

「そうですね・・・ん?」


部屋に戻ろうと席から立ち上がる

すると、なんだか雪季君の様子がおかしい

興奮して話していたから、疲れてしまったのかもしれない


「ううん・・・すみません、安心したら凄く眠くて」

「薬の効果かな・・・」

「・・・先程の件、お二人で進めていてもらえますか」

「わかった。でも、倒れたりしたら心配だから部屋まで送るね」

「ありがとうございます・・・・」

「俺はグラスを厨房に持って行ってから合流するよ。夏樹さんは雪季を送ってやってくれ」

「わかった。グラス、お願い」

「ああ」


そこで一度幸雪君と行動を別にする

食堂を出て、階段を下る

その間私は、雪季君が倒れないように支えつつ、彼の部屋までゆっくりと足どりで向かっていった

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