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針指す時の終末日  作者: 鳥路
雪季編「死にたがりと50%の可能性」
27/83

1:行き先の確定

「新橋さんが選ばれたのは、十年後の十一月二十日です」


星月さんの声に、私以外の人がざわめき始める


「十年後、ということは」

「・・・僕、ですか?」

「はい。相良雪季さん。貴方が望んだ時間へと・・・時間旅行を始めます」

「そうですか・・・」

「あまり嬉しそうではないですね」


幸雪君の声と同時に、全員の視線が彼に向けられ、雪季君は顔を上げる

雪季君の表情は酷く暗い

星月さんはそれが気になったのか、雪季君の側に移動し彼に問う


「・・・興味もあるのですが、どちらかといえば恐怖の方が勝っているので」

「・・・人の感情は、よくわかりませんね」


私は彼の拘束から解放されたため、安堵を覚えると同時に力が抜けてその場に座り込んでしまう

・・・足に力が入らない

立ち上がろうとしても、足が震えて動かない

命の危機から脱したからだろうか


「夏樹さん、大丈夫か」


雪季君と星月さんが会話を続ける中、幸雪君が私に駆け寄ってくれる


「全然だよ・・・」

「支えるから、肩に手を回してくれるか」

「ありがとう、幸雪君。でも、槍があるし・・・これを杖にして歩くよ」


槍を杖にして立ち上がる

足の震えは止まらないが、ふらつきながらも前へ進む


「・・・生まれたての小鹿」

「・・・言わないでほしかったな」

「ごめん・・・でも、本当に無事でよかった」

「・・・心配させてごめんね」

「謝るな。夏樹さんに非はない」


機械から離れ、出入り口に近い所まで辿り着く

幸雪君は先に進み、近くにあった椅子を持って来てくれる


「座って待っていてくれ」

「・・・ありがとう」

椅子に座っていると、なんとなくだが生きている実感が湧いてくる


「・・・生きてる」

「生きてるよ」


脅されていた気の恐怖心がゆっくりと襲い掛かってくる

ああ、自分でも無理をしていたんだな

死んでいたらどうしようと、心の底から感じてしまう


「夏樹さん」

「・・・あ」

「・・・怖かったな」

「・・・うん」

「もう、大丈夫だ」

「・・・うん」


頭をひたすら撫でられる

・・・なんだか安心するな


「ねえ、幸雪君」

「どうした?水か?」

「・・・冬夜君は?」

「早瀬は・・・・」


幸雪君が指さした先に冬夜君は立っていた

頭を押さえて、星月さんのほうを睨んでいる


「おお、怖いですね・・・「黄昏」たる貴方が、そんなことで折れていいんですか?」


星月さんは楽しそうに冬夜君の周りを歩く


「うるさい・・・」

「仕返しとして推定百回ぶち殺してやりましたが・・・まだ正気を保っていますか」


彼は今、何と言った?

どういうことか全くわからない

それでも、それでも・・・おかしいことぐらいは理解できる


「・・・楽しめたか?」

「・・・つまらないですね。百回程度でそのザマとは」

「・・・は?」

「これが、彼女が命を代償に得た結果と思うと、あの方の行動は意味のない事にしか思えませんね」


星月さんは冬夜君を一瞥し、退屈そうに出入り口の取っ手に触れる


「正太郎、正二、巴衛・・・後は適当にやってください」

「で、でも・・・」

「・・・わかりました」


筧さんの返事を聞いて、星月さんはホールから出ていく


「・・・冬夜君?」

「俺は大丈夫・・・。夏樹、お前は?」

「今はだいぶ落ち着いたよ」

「そうか」


返事を聞くと、冬夜君は動かなくなる

幸雪君が様子を見に行くと、首を振られる


「・・・よく言えば眠っていて、悪く言えば意識を失っている」

「・・・大丈夫じゃないじゃん」


冬夜君の身に何があったかわからないが、なんだか不安な予感がする

そんな中、私の方を誰かが叩いた

横を見ると、朝比奈さんが立っていた


「悠翔が手荒な真似をしてごめんな。言って聞かせるから」


言って聞く相手なのかな・・・と思いつつ、無言で頷いた


「ええっと、あそこで倒れてる早瀬か。あいつは俺が責任もって面倒を見る。正太郎。こいつの部屋は?」

「くじ引きを今作っています」


そう言いつつ筧さんが見せたのは、一枚の紙

それには十二本の線が書かれている


「じゃあ、こいつはここで」


朝比奈さんが適当に選んだ場所に書かれている番号を筧さんが確認する


「・・・十二号室」

「了解。鍵は?」

「後で荷物と共に届けるので、とりあえず今はマスターで開けてください」

「おうよ。おいでカマボコさん!」

『お呼びですか、マスター』


朝比奈さんの声に反応し、今度はホールの出入口が開かれる

そこには特徴的なキャタピラ音と共に現れた蒲鉾みたいな身体をした機械がいた


「・・・なんですか、それ」

「カマボコさん、自己紹介!」

『時空飛行船の医務を担当しているカマボコと申しまっす』


特徴的な語尾と共にカマボコさんは私たちに自己紹介をしてくれた

朝比奈さんみたいなロボットだな


「と、いう訳だ。こいつの診断と治療をするぞ!俺についてきてくれ!」

『イエス、マスター』


カマボコさんの先導で、朝比奈さんは冬夜君を抱えてホールから出ていく


「彼の荷物は、新橋様と探偵さんならわかりますかね?」

「は、はい!」

「お二人には後で協力をお願いします。さて、皆さんも部屋を決めてください」


筧さんは机の上に白い紙を置く


「説明をしますので、耳を傾けていただければ幸いです」


ざわついていたホールは直ぐに静かになる

それを確認した筧さんは、説明を始めていく


「時空飛行船の三階が皆様の客室となります」

「全十六号室。その内、四号室が星月悠翔。五号室が朝比奈巴衛、六号室を私が、十四号室を筧正二が利用させていただいています」


筧さんの言葉をメモしていく


「皆様には、それ以外の客室をくじで決めていただきます」

「・・・誰から、引きますか?」


正二さんの問いに、再び会場がざわめく

そんな中、最初に声を出したのは一葉さんだった


「新橋さんから引くのはどうでしょうか。場所次第では調整もするべきだと思いますし」

「そうですね。新橋様、お願いします」

「では、これで・・・」


紙に書かれた線を一つ、適当に選ぶ

それから各自線を選んでいく

全員が選び終わった後、筧さんは髪を開いて結果を述べる


「・・・新橋様が「二号室」、四季宮様が「三号室」」

星月さんと割と近い部屋か・・・でも、冬夜君と部屋は近いし、間には四季宮さんもいる


今回の件で、予想もつかないような怖い目に遭うことは理解した

気を引き締めていかなきゃ、とんでもない目に遭ってしまうだろう

・・・今回は油断した、で済むのかわからない

けれど、次こそは必ず動きを見極めるぐらいには・・・!


「次に、一葉様が「七号室」、明治の相良様が「八号室」。夜ノ森様が「九号室」、早瀬様が「十二号室」、現代の相良様が「十五号室」です」


幸雪君とは少し離れてしまったけれど、問題ない距離だろう

幸雪君と夜ノ森さんはお隣同士

雪季君はかなり離れた位置になってしまった

・・・ちょっと心配だな

でも、幸雪君が割と近いし・・・大丈夫、だよね?


「部屋の鍵はカードキーとなっています」


正二さんが私たちにカードキーを手渡す

失くさないようにしないと


「業務の都合上、私と朝比奈がマスターキーを持っていますが・・・有事の際以外は使用しないことを誓います」


星月さんがマスターを持っていないことが救いかもしれないと思ったあたり、当然と言えば当然だが・・・星月さんに対して苦手意識が芽生えてしまっていることを感じた


「部屋の中に館内の案内等説明をまとめた資料を置いていますので、確認をお願いします」

「・・・他に質問はございますか?」


誰も質問せず、無言のまま時間が過ぎる


「・・・なさそうですね。それでは、解散としましょうか」


筧さんの合図で、張り詰めていた空気がやっと解ける

やっと終わったというような疲労感が全身に襲いかかってきた


「も、目標時間に辿り着くのは明日になります。本日は色々ありましたが、休息を万全に取って時間旅行に挑んでください!」


最後に正二さんが重要なことを告げる

明日の朝には十年後に辿り着いているようだ

なんだか楽しみだ


「夕食は二階食堂にて準備しておりますので、落ち着いたら食べにいらしてください」


夕食もあるのか・・・

そういえば、何も食べてないし・・・安心したらお腹が空腹を訴えてきた

落ち着いたら食べに行こうかな

各自、ばらばらに移動を始める


「夏樹さん」

「雪季君、お疲れ様。大丈夫だった?」

「それはこっちの台詞です!怪我はしていませんか?」

「うん。怪我はしていないよ。雪季君は?」

「・・・僕は平気です。言い寄られただけなので、危害は加えられていません」


動揺した雪季君を宥めていると、今度は筧さんがやってきた


「新橋様、探偵さん」

「ああ、正太郎か。早瀬の荷物か?」

「はい。この鞄ですか?」

「いえ。それは私の・・・」

「これは、失礼しました。その隣の似たような系統の鞄、ですかね?」


その旅行鞄は私の旅行鞄にとても酷似していた

幸雪君の物では当然ないし、雪季君も隣で首を振っている


ホールを見渡すと、夜ノ森さんと一葉さんはいつの間にかいなくなっている

・・・四季宮さんまでいなくなってる


「それで間違いないと思います」

「わかりました。他に荷物らしいものは・・・」

「後は俺たち自身の荷物だな」

「わかりました。では、部屋に行きましょうか」


部屋へ移動しようと歩き出す

すると、ポケットに入れていた手帳が落ちてしまった

それを後ろにいた雪季君が拾ってくれる


「ありがとう、雪季君」

「いえいえ。ところで夏樹さん、それは・・・?」

「ここに来てからの会話をまとめてるんだ。もしかしたら使えると思って」

「・・・後で見せて貰えますか?」

「もちろん。何か重要な情報があるかもしれないからね」

「ありがとうございます。では、また後で」


雪季君と先の約束をしつつ、私たちは筧さんと幸雪君についていった

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