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針指す時の終末日  作者: 鳥路
雪季編「死にたがりと50%の可能性」
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0:患者と医者の、夢についてのお話

僕は生まれつき心臓に疾患があった

薬で抑えることはできるけど、移植をしなければ成人は迎えられない

そう先生から告げられた両親は、僕が見ていないところで泣いていた


「どうして、どうしてあの子なの?」とお母さんは泣き

「・・・あの子に親としてできることをしよう」とお父さんはお母さんの背を撫でた


僕も、二人に言わなければならないことがある

・・・丈夫に産まれてこれなくて、ごめんなさい

僕が心臓にこんな病を持っていなければ、お父さんとお母さんが苦しむ事はなかった


「・・・・」


幼少期からずっと入院をしていた

小学校に通った記憶はないから、十二歳までは確実に入院している


同じ境遇の友人は少なからず存在した

同じ病室で、元気になったらやりたいことを語った

男の子だったらサッカー選手になりたいとか、野球選手になりたいとか、宇宙飛行士になりたいとか・・・

女の子だったらお菓子屋さんになりたいとか、お花屋さんになりたいとか、お母さんになりたいとか・・・

色々と友人たちは夢を語ってくれた


それを聞きながらふと気が付いてしまった

自分には夢がないことに、気が付いてしまった

それに悲しさを覚えたわけでも、悔しさを覚えたわけでもない

ああ、僕は夢も何もなく死んでしまう悲しい人間なんだなと感じただけだった


時間が経つにつれて、同じ病室の友人たちはいつの間にいなくなっていた

退院した子も少なからず存在した

けど、戻ってこない子の方が圧倒的に多かった


「やあ、雪季君」

「どうしましたか、二風先生」


主治医の二風先生は、空いた時間で僕とよくお話をしてくれる

短い時間だけれど、休みの日以外は欠かさず来てくれる


「今日の体調はどうだ?」

「今日は普段より調子がいいんですよ。なので、読書をしようかと」

「それがいい。何かをできる体力があるというのは、いいことだ」

「先生のおすすめは何ですか?」

「・・・五反田白先生作、おいしいお肉料理の作り方」


二風先生は料理本を僕に薦める


「なぜ、料理本ですか」

「俺の知り合いが監修しているからだ」


サイン本だぞと言って、裏表紙を見せてくる

そこには「我が親友・二風蒼夜へ!五反田白」とフクロウの絵が描かれている


「百歩譲って先生と作者さんがお知り合いなのはわかりますが・・・料理、ここではできませんよ」

「読むだけでも美味しいとか思わないか?」

「美味しそうだなと思います」

「お母さんに「退院したらこれ作って」とか言えるかもしれないぞ」

「た、確かに・・・」


しかし、料理本の内容はタイトル通り、肉がメインだ

病院で、しかも健康に気を遣ったような食事ばかりで油の多いもの食べたことがない僕にとってはある意味未知の領域だった


「あの、二風先生」

「なんだ?」

「二風先生は昔、夢とかありましたか?」

「ない」


疑問に思ったことを聞いてみると、すぐに返答が返ってくる


「なかったんですか?」

「ああ。実のところ、俺は十七歳まで寝たきりでな」

「冗談ですよね?」

「冗談じゃない。当時の写真もあるが見るか?」

「・・・遠慮しておきます。しかし、二風先生が昔寝たきりだったと言うのは信じます。けど、どんな病気で?」

「身体が動かなくなる難病。名前は知らない」

「そうですか・・・でも、よく治りましたね」

「奇跡が起きたんだ」

「奇跡・・・ですか」


とてもじゃないが、二風先生は信じられないような体験をしているらしい


「ああ。色々、信じられないような体験をさせてもらったよ」

「それで、病気が治ったんですか?」

「ああ。俺の奥さんが必死に願ってくれたんだ。俺に生きてほしいって」


先生からそういう話を聞くのは初めてだ

恋愛事というのは小説の中でしか知らないから少しだけ興味がある


「先生の奥さんが、そう願ったから先生の病気は治ったんですか?」

「ああ。凄いだろう?」

「凄いです。なんだか、物語のような出来事ですね!」

「俺もそう思う。本当に夢のような出来事だったと今でも思うよ」


少し興奮気味に反応を示すと、二風先生は照れて頬を染める


「話は大分逸れてしまったのだが、雪季君には夢があるのか?」

「実は・・・僕には夢らしいものがなくて」

「別にいいんじゃないのか?」

「そう、でしょうか」

「ああ。夢がないから死ぬと言う訳でもない」

「確かに。夢がなくて死ぬのなら、僕はとっくに死んでいます」

「ああ。夢なんて作るものじゃない。勝手に出来上がるものだ。いつか雪季君にも夢ができるときが来る。俺みたいに」

「・・・そうですね。相談に乗っていただき、ありがとうございます二風先生」

「どういたしまして。俺はそろそろ休憩終わるから仕事に戻るよ」

「お仕事頑張ってください」

「ありがとう。また明日な」


先生は急ぎ足で病室を出ていった

また、退屈な時間が始まる

けれど、今日は少しだけ違う


「夢は作るものじゃなくて、勝手にできるもの・・・か」


いつか僕にも「夢」はできるのだろうか

その「いつか」を期待して、僕は日々を生きる


しかし、気が付けば十五歳

未だにドナーは見つからず、成人まで後三年となった

夢は、この家に戻ってきて「友達」ができたことで生まれたものがある


そんな中、時間旅行への招待状が届いた


そこで未来の自分がどうしているのだろうかと疑問を抱いた

・・・十年後の僕はどんな風に生きているのだろうか、と

十年後の僕は

夢を見つけ、それを叶えられているのだろうかと

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