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針指す時の終末日  作者: 鳥路
夏樹編序章「明治からの客人と時間旅行」
21/83

2ー20:6月4日。同居人と観測青年の襲来

六月四日になった


朝七時

朝食はもちろん食べそびれたけど、今日は仕方ない


永海市早瀬町

新橋町の隣にある早瀬町の高台には大きな教会が建っている

それが、かつて冬夜君が住んでいた早瀬教会だ

そこから少し下に降りたところに住宅街が広がっている

マップを見ながら、指定された新築アパートを目指していく

そこの一室に冬夜君は住んでいるらしい


「おはよう夏樹」

「おはよう冬夜君」

「早かったな」

「もちろん!お兄ちゃんにバレないためにはこれぐらいしないとだからね」


目的地に到着し、安堵の息を吐く

そして玄関前で私が来るのを待っていた冬夜君と合流した


「荷物、それだけか?それに・・・その長いのは」

「荷物は圧縮しました!これは念のため。護身用だね!」

「・・・とりあえず入れ」


冬夜君の家に入れてもらう


「適当に置いておいていいから」

「わかった」


私の荷物が入った小さな旅行鞄と幸雪君の荷物が入ったリュックサック

そして、布に包まれた「それ」を玄関先に置く

後は、夕方幸雪君がここに荷物を取りに来ればいいだけだ


「・・・・」

「どうしたの?」

「朝食食べたのか?」

「まだ。今日はコンビニでパン買おうかなって」

「そうだろうと思って、お前の分を用意しているが・・・食べるか?」

「お言葉に甘えていただきます!」

「ん。じゃあそのまま上がってこい」

「お邪魔します!」


靴を脱いで家に上がる

塵一つない廊下を歩いて、リビングへ

そこには既に三人分の朝食が用意されていた

以前言っていた同居人さんの分だろう

会ったことはないが、どんな人なのだろう


「オレンジのランチョンマットが敷いてあるだろう?そこに座っておいてくれ。後は用意するから」

「手伝うことは?」

「後は盛り付けだけだからない」


素早く動く冬夜君の動きを見つつ、私は指定された席に座る

隣の席には薄黄色の、私の前の席には桜色のランチョンマットが敷かれている

机の上にはバターと数種類のジャムが並べられている

ジャムにはラベルがない。どうやら自家製らしい


「今日はパンと、目玉焼きとベーコン、レタスを少々。汁物は野菜春雨スープを用意している・・・足りるか?」

「十分足りるよ。御馳走だよ・・・!」

「飲み物はコーヒーと紅茶。お子様には牛乳もあるが」

「牛乳で」

「お子様・・・」

「いいじゃん!紅茶とか、コーヒーとか味わかんないし!苦いし!」

「まあ、なんかそれがお前らしいよ。ほら、牛乳」

「なんか解せないけど・・・ありがとう」


自分の分のコーヒーを淹れたカップを机に置いて、冬夜君も席に着く


「・・・蛍!早く起きないと遅刻するぞ!」

「え、もうそんな時間なの・・・」


この家に住むもう一人の住民は、居間から延びる階段・・・ロフトの上から降りてくる


「おはよう冬夜兄さん」

「おはよう蛍。昨日も徹夜か?」


聖華学院高等部の制服を着た寝癖だらけの青年は、私に凄く冷たい眼差しを向けてきた

一瞬、背筋が凍った気がした・・・


「ううん。今日になる前には寝たよ。ところで・・・その女は誰?ついに浮気?」

「え、冬夜君はそっちの趣味が・・・」

「そんなわけあるか」

「浮気じゃないんだね。よかった。冬夜兄さんの好みは年上で、生来の白髪と紫の瞳を持つ優しい人だもんね。こんなちんちくりん眼中にないもんね」

「失礼すぎないこの人・・・」


でも、冬夜君の好みとして挙げたのはあの写真の人と同じ特徴だ

・・・この人も知っているのかな


「で、ところでこのちんちくりんは何者なの?浮気相手じゃないってことは、ストーカー?」

「違うって。こいつは新橋夏樹。お前も知っているだろう?冬樹の妹だ」

「ああ・・・かな姉に負けたポンコツ神主の妹」


青年は私のことをジロジロ見る


「頭はポンコツ神主に似てないの?」

「失礼すぎないこの人!?」

「ああ、突然怒り出すところはそっくりだ」


色々と怒りを覚えるワードが飛び出てくるが、今は我慢しよう

文句を言っても適当に受け流されるだけだ


「蛍、人をからかってはいけないだろう」

「・・・ごめんなさい」


冬夜君から注意された瞬間、彼は素直に謝る

・・・冬夜君に逆らえない気持ちはわかるけど、変わり身が異様に早かった

一体何なんだ、この人・・・


「こいつは鹿野上蛍かのうえほたる。訳があって一緒に暮らしている」

「俺は冬夜兄さんのところでお世話になってる鹿野上蛍・・・君と仲良くする気はない。街中で見かけても声をかけないで」

「左様で・・・」


彼は欠伸を一回した後、薄黄色のランチョンマットが敷かれた席に座る

そこに置いてあったカップの中に、冬夜君はコーヒーを注いだ


「初対面の奴に対してかなり気難しいんだ」

「違うし!」

「ぜひとも友達になってやってくれ」

「友達なんてかな姉と冬夜兄さんだけでいいから!」

「こんな調子だが気長に付き合ってやってくれ。本当は話すのが嬉しいんだ」

「別にそんなわけないし。冬夜兄さんの誤解だし!」

「そう言うのを「ツンデレ」って言うんだよね。俺、知ってるよ!」

「ツンデレなんて言わないでくれる!?」

「私じゃないよ!?」


鹿野上さんは私のことを全力で睨みつけるが、先の発言に私は関わっていない


「ばあ」


それはテーブルの下からゆっくり這い出てきた


金色の長髪を揺らしたお化けのようなものが私たちの元へとやってくる


「うわあああああああああああああああああああ!?」

「ぎゃあああああああああああああああああああ!?」


私と鹿野上さんは驚いて反対の壁際まで下がっていく


「・・・叫んで逃げるとかヘタレですね」

「・・・そっちこそ。ビビる姿超ウケるんだけど、ちんちくりん」


互いに嫌味を言う姿に冬夜君は若干呆れつつ、「それ」を手掴みして完全に引っ張り出した


「ばあじゃねえよ。なんでここに居るんだよ、修」

「へへーん。やっと外出許可取れたからね!よっちゃんのところに朝一で遊びに来たよ!」

「四季宮家はお前をよく単独放逐しようと考えたもんだな。頭おかしいんじゃないのか」

「幸司さんからの依頼だって聞いた。事情が事情だし急いだんだけどなかなか縛りが利かなくてね」

「・・・縛りって、その手の事?」

「ん、ああそうだよ。察しがいいね、鹿野上蛍君!」


彼の両手は茶色い布に包まれている

指先まで丁寧に巻かれていれば少しは違っただろう

しかし、それは繭のように巻かれている

これでは手を満足に使うことは叶わないだろう


「俺、手癖が悪いから・・・使えないように術を施されているんだよね」

「・・・修、そろそろ朝食にしたいんだが」

「俺の分はある?」


四季宮さん・・・かな、その人の発言で冬夜君の眉間に皺が刻まれた


「・・・残りがあるからそれで我慢しろ!文句は言うなよ!?」

「やった!ありがとう、よっちゃん!」

「蛍、ランチョンマット敷いてくれ。敷いた後は食べてていいから」

「了解」

「夏樹、先食べてろ。遅刻するぞ」

「う、うん・・・いただきます!」


私は朝食を食べ始める

鹿野上さんも指示通りに動いた後、そのまま朝食を食べ始めた


「・・・ちんちくりん。こいつ、知ってる?」

「新橋です・・・!知りませんよ・・・初対面です」

「悲しいこと言わないでよ、新橋夏樹さん」

「へ!?」


彼からいきなり名前を呼ばれて驚いてしまう


「君の名前は相良幸司から聞いてるー。ここで初めて聞いたのは鹿野上君だけだね!」

「・・・幸司さんから?」


四月のことを思い出す

あれは、私たちが相良家に行った時の話だ


『私の方から修君・・・四季宮の跡取り息子に協力してもらえるように手紙を送ります。彼ならば何か力になれることがあるかもしれません』


「時渡り」の話をしてくれた幸司さんが、確か四季宮の修君に手紙を送ると言っていた

さっき冬夜君は彼の事を「修」と呼んでいたし、四季宮とも言っていた


「貴方が、幸司さんが呼んだ「時の一族」の・・・四季宮修さんですか?」

「如何にも。俺が相良幸司からの呼び出しに応じてやってきた「時の一族」の「四季宮修しきみやしゅう」だよ。主に観測を担っているかな。よろしくね」


腰まである金髪を揺らしながら彼は名乗る


「今日は君に会えると思って、よっちゃんの家で待機してたんだんだよ。なるべく早く会いたかったんだ」

「俺や冬夜兄さんに会う為ならともかく、ちんちくりん・・・新橋に会うなら新橋神社に行った方が手っ取り早くないですか?」

「今日は絶対によっちゃんの家で朝ごはんって見えたからね。よっちゃんの家で待機だよ」


四季宮さんは鹿野上さんの問いに間髪入れずに答える

・・・見えたと言っていたけど、それが時の一族の「観測」の力なのかな


「それとさ・・・よっちゃんって、冬夜兄さんのこと?」

「うん。とうやの「や」って「よる」でしょう?だからよっちゃん」

「よっちゃん・・・」

「よっちゃんにいさん」


「二人して真似するな。ほら、修。朝食」

「やった!さんきゅーママ!」

「お前のようなバカ息子を持った記憶はない。それと髪をくくれ。汚い」

「ええ・・・よっちゃんママがやってよ」

「いい加減にしないと叩くぞ」

「そんなこと言いながら、よっちゃんは髪を結んでくれる!」


四季宮さんの言う通り、文句を言いながら冬夜君は彼の髪を結んでいた


「・・・これでいいか」

「もちのろん!ありがとうね、よっちゃん!」


冬夜君は面倒くさそうに頭を抱え、四季宮さんの隣に座る

軽くお祈りした後、朝食を食べ始める

四季宮さんは、春雨野菜スープのカップを持ちつつ美味しそうに食べている


「え、どういうこと?」

「ちょっと待ってくれ、なぜ誰もツッコまないんだあの光景に」

「ツッコみたいよ!だってくっついてるよあれ!?」


確かにそれは四季宮さんの手に持たれている

正確には繭にくっついている・・・といった感じだ


「どういう原理だそれ!?」

「どういう原理も何も、そういうことだと思うしかない。なんだかんだでこいつも特異な人間なんだ」


諦めきった表情を浮かべて冬夜君は私たち向けに解説してくれる

彼が言うことが間違いないのなら、それは・・・


「・・・特殊能力者の類ってこと?」

「時の一族って皆特殊能力者だよ?」


鹿野上さんの問いに、四季宮さんは当たり前と言わんばかりの解答をする


「・・・ちんちくりん」

「・・・新橋です。なんですか、鹿野上さん」

「頭が追い付かない」

「私もです・・・」


あり得ない光景を当たり前と言われても受け入れることは容易ではない

それから私たちは黙々と朝食を食べ続ける

食べ終わってもまだ、現実を見ることはできなかった

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