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針指す時の終末日  作者: 鳥路
夏樹編序章「明治からの客人と時間旅行」
19/83

2ー18:冬月書店の杖持ち教師

ショッピングモール内にある「冬月書店」

そこに着くと、その前に雪季君が待っていた


「夏樹さん、幸雪さん・・・・え」


私たちの顔を見て安心したような表情を浮かべた後に表情が凍る


「夏樹、相良。この子か?」

「うん。雪季君、この人は――――――――」

「・・・早瀬冬夜さん。二年前、聖華の生徒会長を務められていた方ですよね?」


紹介する前に雪季君が冬夜君の名前を告げる


「ああ。君は相良雪季君だろう?永海市内では有名な家系だし、聖華の方でもたびたび噂を聞いていた」


二人の通う聖華は幼稚園から大学まで一貫の所謂「お金持ち学校」だ

以前雪季君も言っていたが、高等部は名門進学校で有名だ

大学も相当偏差値が高いとお兄ちゃんから聞いたことがある

二年前だと雪季君は中学一年生、冬夜君は高校三年生だ

随分前のお兄ちゃんの話だと、生徒会は小中高の合同だと言っていたから中学生の雪季君に面識があってもおかしくはないだろう

けれど・・・


「・・・「あれ」は平気か?」

「薬を飲んで落ち着かせています。その辺りは夏樹さんも幸雪さんもご存知です」

「ドナーの件、難航していると寺岡さんから聞いている・・・すまないな」

「・・・五年経った今でも、寺岡さんが続けてくださっているんですね。ありがとうございます」

「彼女の遺言だからな・・・必ず果たす」


二人は初対面ではないようだ

学校が一緒だっただけというだけの関係ではなく、寺岡さんという共通の知り合いがいるようだ

元軍人で、冬夜君が稽古をつけてもらったという寺岡さん

寺岡さんは一体何者なのだろうか

それに「五年前に死んだ彼女」のことも雪季君は知っているようだ

写真を見せたら、教えてもらえるかな?


「あの。本屋さん見て回ります?」

「そうだな。歴史関連の本を見ておきたい。構わないか?」

「もちろんです。夏樹さんも幸雪さんもいいですか?」

「私もそのつもりだったし、大丈夫だよ」

「俺もだ。店の前にどこに何があるか大まかに書かれている図があるようだから、それを見てみよう」


幸雪君の提案で、私たちは店の案内図を見ていく


「歴史関連の本は左上あたりだな・・・」

「学生向けの歴史本とかどうかな?」

「・・・内容次第、だな。ここは分担で探すか。俺は一般向けの方を探してみる。三人はどうする?」

「僕は早瀬さんについていきたいと思います」

「じゃあ、私は学生向けを調べてみるよ。時代の範囲はどれくらいにしておく?」

「相良の明治からでいいと思う。近代史が詳しく書かれているものがいい」

「了解!それじゃ、しばらく別行動だね」

「とりあえず三十分を目途に連絡を取ろう」

「わかった。じゃあ幸雪君、早速行こう!」

「ああ」

「俺たちも行こうか、雪季」

「ええ」


私たちはそれぞれ本を探すため一時的に分かれる


「・・・そういえば、気になっていたんだが」

「なにかな?」

「この本屋の名前、冬月書店なんだなと」

「私にとっては当たり前のことだからスルーしちゃったけど、ここは幸雪君にとっては以前の職場になるんだね」

「ああ。こんなに大きな本屋になったんだな」


冬月書店はショッピングモールに店舗を置く大きな本屋

フロアも広く、ここに来れば大抵の本は買えるとも言われているほどだ

幸司さんから見せて貰った写真から推測するに、かなり小さい本屋さんだったと思う

それが、今はこんなに大きな場所になっているのだから・・・凄いなと思う


「ここが学生向けの歴史本コーナーだね」

「ああ。しかし、夏樹さんが持っていた教科書に書いてあるようなことしか書いていないな。一般向けの方が早かったんじゃないのか?」

「見てみないとわからないよ。一般向けは冬夜君と雪季君に任せて、私たちは学生向けを探そう」

「永海市内関係の過去の出来事はどうする?」

「それ、考えてなかったな・・・ここで本を探し終わった後、別のところを見に行ってみようか」

「そうだな・・・ん、あの人は」


そこで、男性が本を選んでいた


「・・・この本が取っ掛かりやすいでしょうかね」

「江戸時代は範囲が広いし、雑学方面から攻めて行った方が興味を誘えるでしょうか」

「・・・」


彼の左には杖が立てかけてある

本選びに夢中になっているのか、肘がその杖に当たって通路に倒れそうになった

私はそれに気が付いて、杖が倒れないように受け止めに行く


「これは・・・ありがとうございます。おや?」


受け止めた杖を彼に手渡すと、男性は私の顔をじっと見ていた


「・・・どうかされましたか?」

「覚えていますか?四月頃に永海美術館前で一度お会いしたのですが・・・」


あの魔狼伝説の展示を見に行った時かな

そういえば、バス停を下りた先で杖をついた男性にぶつかった・・・あ


「もしかしてあの時、私がぶつかった人ですか?」

「ええ。またお会いしましたね。そちらの少年も」

「俺のことも覚えているんですか?」

「職業柄、人の顔を覚えるのが得意で・・・すいません、なんだか怖いですよね」

「いえ。凄いなって思いました」

「ありがとうございます」


男性は柔らかく微笑む


「これも何かの縁かもしれませんね」

「神社の娘さんが言うのなら、そうかもしれませんね」

「ご存知なんですか?」

「ええ。私は生憎、足を悪くしているので見に行けていないのですが、生徒たちからよく話を聞きます。新橋神社の神楽の舞い手である貴方のことを」

「生徒?もしかして先生だったりしますか?」


「はい。この機会なので自己紹介でもしておきましょう。私は一葉拓実かずはたくみ。永海第三小学校で教師をしています」

「一葉さん。小学校の先生なのですね」

「はい。折角のご縁です。お二人の名前も聞かせていただいても?」

「私は新橋夏樹です。永海高校の一年で、ご存じの通り新橋神社に住んでいます」

「俺は相良幸雪。色々と事情があって新橋神社にお世話になっています」

「新橋さんと相良君ですね。改めて、よろしくお願いします」


男性・・・一葉さんは私たち二人に手を差し伸べる

握手なんてしたのは久々だ

それこそ、小学生以来かもしれない

ふと彼の足元を見ればカゴが置いてあった

その中には、子供向けの学習本が入っている

・・・数点、小説や漫画が入っているがこれも子供たちに話題の本ばかりだ

せっかくだし、一葉さんに本のおすすめを聞いてみようかな

私たちじゃこの中から、これだと言えるようなものを選べる自信はない

そうと決まれば、早速頼んでみよう


「あの、一葉さん」

「はい。なんでしょう」

「一つご意見を聞かせていただきたいことがあるのですが・・・」

「私が答えられる範囲のことなら」

「この中で、近代史関係のおすすめってありますか?」

「勉強熱心なのですね。素晴らしいです」

「あ、ありがとうございます・・・」


勉強に使うつもりじゃないから、何とも気まずい

一葉さんはそんな私の気も知らず、真剣に本を選んでくれる


「そうですね・・・私が読んだ中ではこれとこれですかね」


一葉さんは本棚から二冊の本を取り出す


「こちらは明治・大正・昭和期の流れをダイジェストにしてあるものです。特に重要な部分を取り上げてくれていますし、解説もわかりやすいのでお勧めです。ただ、本当に教科書に出るようなことしか書いてくれていないので、それが欠点ですかね」


流れるように二冊目の解説をしてくれる


「もう一冊は、こちらもダイジェストという部分に変わりはないのですが、途中途中に当時の人々の暮らしや、この時代に開発されたものなどのコラムが載っています。ただ、コラムに力を入れすぎて肝心な事柄については説明が簡略化されてわかりにくいのが欠点です」


一葉さんから本を受け取り、中身を覗いてみる

教科書に出ることに特化した本と教科書に出ないことに特化した本

特に当時の暮らしがわかるというのは大きいかもしれない


「少し読んでみて、どうでしたか?」

「最初の本は確かに解説がわかりやすいです。二冊目は本当に雑学しか書いてなくて面白いですね」

「じゃあ、決まりか?」

「一葉さんがおすすめしてくださった二冊にします」

「そうですか。お力になれて何よりです」

「一葉さん、ありがとうございます」

「いえいえ。それと、もう一点いいですか?」


もう一つ?なんだろうな


「もし、新橋さんと相良君がこの地域で起こった近時の出来事を知りたいというのなら、永海新聞社に行ってみてはどうでしょうか」


あの話を聞かれていたようだ

声も少し大きかったし、しょうがないかもしれないけど


「新聞社?もしかして、以前の新聞をすべて取ってあって閲覧ができるとか?」

「惜しいです、相良君。永海新聞社では、毎年その年一年の永海市で起こった出来事の記事をまとめた本を発行しているんです」

「へえ・・・」

「確か、永海新聞は百周年を迎えていたはずです。地方の、しかも市内だけのローカル新聞なのでここで起きた出来事は事細かにまとめられていましたよ」

「なるほど。参考になります」

「いえいえ」


そこで、私と幸雪君の「A‐LIFE」に通知が入る


「早瀬だ」

「冬夜君からだ」

「・・・・?」

「あ、共通の友達で。今、買い物が終わったから書店前にいると連絡があったんです」

「そうですか。では、早く行ってあげないと。待たせてしまいますよ」

「そうですね。一葉さん、今日はアドバイスありがとうございました」

「新聞社の件、行ってみたいと思います。色々とありがとうございました」

「どういたしまして。頑張ってくださいね」

「はい!」


私たちは一葉さんにお礼を言ってから、本を持ってレジに向かう

その間、一葉さんはずっと手を振ってくれていた


「・・・早瀬冬夜か」

「「黄昏」の少年が帰ってきたということは、回峰もこの町に・・・」

「・・・・」

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